ここまで何度も、一般道の場合は車両通行帯は限られた場所にしかないよという話を書いているのですが、警察庁が車両通行帯を設ける場所の基準を一応出しています。
この中で、【必ず】車両通行帯にせよとしている個所がいくつかあります。
いくつかの警察署などで聞いてますが、【必ず】と書いてあるところ以外には、一般道では車両通行帯なんて無いそうです。
https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20170424.pdf
Contents
車両通行帯が持つ意味
車両通行帯は規制標示(109)なので、道交法4条の規定によって公安委員会が設置することになっています。
道交法2条1項7号⇒標識令別表第5で【規制標示】とありますが、規制標示は公安委員会が設置することになっている(道交法4条)。
そんでもって道交法2条2項⇒標識令7条により、車線境界線を車両通行帯とみなす規定も無いので、車両通行帯は公安委員会しか作れないことで確定します。
あくまでも交通規制の標示になるわけで、警察庁は内部通達として、車両通行帯を設置する場所の基準を作っています。
しかし、「車線境界線」及び「車道外側線」を表示する区画線(「車道外側線」を表示するものにあっては「路側帯」を表示する道路標示にみなされる場合を除く。)は、「車両通行帯」を表示する道路標示としての効果を持たせる必要がある場合には、公安委員会による「車両通行帯」設置の意思決定が必要である。
https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20170424.pdf
公安委員会は、次の交通規制を行うときは、道路管理者の意見を聴かなければならない。ただし、カ~チの交通規制を行う場合において、緊急を要するためやむを得ないと認められるときは、この限りでない。この場合は、事後において速やかに当該交通規制に関する事項を通知しなければならない。
ア 車線境界線(法第2条第1項第3号)
イ 路側帯(法第2条第1項第3号の4)
ウ 横断歩道(法第2条第1項第4号)
エ 自転車横断帯(法第2条第1項第4号の2)
オ 車両通行帯(法第2条第1項第7号)
https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20170424.pdf
車線境界線と車両通行帯を分けているのは明らかですね。
車両通行帯は法2条1項3号とありますが、この規定は【車道の定義】です。
つまり、車両通行帯と車線境界線で区切った道路は別物です。
以下、公安委員会が車両通行帯を設けるように書いている部分。
1 車線境界線が設置されている道路であっても、車両通行帯を設定するに当たっては、公安委員会の意思決定を得ること。
2 次のいずれかの道路に該当する場合は、必ず、車両通行帯の意思決定を得ること。
(1) 車両通行区分、特定の種類の車両の通行区分、牽引自動車の高速自動車国道通行区分、専用通行帯、路線バス等優先通行帯又は牽引自動車の自動車専用道路第一通行帯通行指定区間の規制を実施している道路の区間
(2) 進行方向別通行区分又は原付の右折方法(小回り)の規制を実施している交差点、及び片側3車線以上の交通整理の行われている交差点の手前
(3) 進路変更禁止の規制を実施している道路の区間
3 車両通行帯を設定すると、車両の通行方法(法20条)、原付の右折方法(法34条)及び交差点における優先関係(法36条)等についての規定が適用されることを考慮すること。https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20170424.pdf
1で、車線境界線と車両通行帯は違うものと明記しています。
2では該当する場合、【必ず】車両通行帯を設けるようにとなっています。
具体的に書くと、標識と標示はこれですね(高速道路を省く)。
道路標識 | 道路標示 | 意味 | |
車両通行区分 | 交通法第二十条第二項の道路標示により、車両通行帯の設けられた道路において、同条第一項に規定する通行の区分と異なる通行の区分を指定すること。 | ||
特定の種類の車両の通行区分 | 交通法第二十条第二項の道路標識により、車両通行帯の設けられた道路において、車両の種類を特定して同条第一項に規定する通行の区分と異なる通行の区分を指定すること。 | ||
専用通行帯 | 交通法第二十条第二項の道路標示により、車両通行帯の設けられた道路において、特定の車両が通行しなければならない車両通行帯(以下この項において「専用通行帯」という。)を指定し、かつ、他の車両(当該特定の車両が普通自転車である場合にあつては軽車両を除き、当該特定の車両が普通自転車以外の車両である場合にあつては小型特殊自動車、原動機付自転車及び軽車両を除く。)が通行しなければならない車両通行帯として専用通行帯以外の車両通行帯を指定すること。 | ||
路線バス等優先通行帯 | 交通法第二十条の二第一項の道路標識により、路線バス等の優先通行帯であることを表示すること。 | ||
進行方向別通行区分 | 交通法第三十五条第一項の道路標識により、車両通行帯の設けられた道路において、車両(軽車両及び右折につき原動機付自転車が交通法第三十四条第五項本文の規定によることとされる交差点において左折又は右折をする原動機付自転車を除く。以下この項において同じ。)が交差点で進行する方向に関する通行の区分を指定すること。 | ||
原動機付自転車の右折方法 | 交通法第三十四条第五項本文の道路標識により、交通整理の行われている交差点における原動機付自転車の右折につき交差点の側端に沿つて通行すべきことを指定すること。 | ||
交通法第三十四条第五項ただし書の道路標識により、交通整理の行われている交差点における原動機付自転車の右折につきあらかじめ道路の中央又は右側端に寄るべきことを指定すること。 | |||
進路変更禁止 | 交通法第二十六条の二第三項の道路標示により、車両通行帯を通行している車両の進路の変更を禁止すること。 |
これらの場合、必ず車両通行帯だと考えていいです。
まあ、公安委員会が決定し忘れて問題になったケースもあると言えばありますがw
実態としての車両通行帯
高速道路とか自動車専用道を除いた一般道の場合、上で挙げたケース以外で車両通行帯になっている事例はないと思っていいそうです。
例えばこちら、国道16号ですが、片側3車線区間になっています(場所は神奈川県相模原市上鶴間付近)。
もしここが車両通行帯であれば、最も右の車線は追い越し車線なので、ずっと通行すると違反になります。
けど、一般道の場合は交差点が多く、先の交差点で右折したい車両は、安全性と効率を考えれば第3車線を通行しますよね。
全て車両通行帯にすると不合理なので、交差点手前の進行方向別通行区分のところだけを車両通行帯にすれば、それで十分。
先の交差点で右折したい車両でも、ギリギリまで第1車線か第2車線にいなければならないというのも不合理なので、交差点手前だけが車両通行帯、それ以外は車線境界線。
こういう運用のようです。
いくつかの警察署で聞いたのですが、例えば以前聞いた大阪府内でも、一般道(高速道路以外)では交差点手前や専用通行帯以外では車両通行帯になっているケースは聞いたことも無いとのこと。
管轄の相模原南警察署管内では、このように複数車線道路であっても、交差点以外で車両通行帯になっている事例はないそうです。
これ、どの警察署で聞いても同じ回答というか、一般道で全線が車両通行帯なんて聞いたことないと言います。
警視庁管内(東京都)も同じようですし、ほかの都道府県でも同じようです。
車両通行帯は規制したい場合に設置するわけで、一般道で全線を車両通行帯規制したら走りづらくね?とも言われます。
第2車線が追越し専用になってしまうわけで、右折したくても早めに第2車線にいると違反になりかねないし。
誰に何の得があるんだ?という話。
一般道の場合、車、オートバイ、原付、軽車両と混合通行になっているわけで、純粋な車両通行帯を道路全域に適用すると非常に運転しづらい。
なので交差点手前など規制を掛けたいポイントのみで車両通行帯を設定するのが一般的。
なので以下のケース以外で、車両通行帯になっているケース自体が存在しないと考えていいようです。
1 車線境界線が設置されている道路であっても、車両通行帯を設定するに当たっては、公安委員会の意思決定を得ること。
2 次のいずれかの道路に該当する場合は、必ず、車両通行帯の意思決定を得ること。
(1) 車両通行区分、特定の種類の車両の通行区分、専用通行帯、路線バス等優先通行帯の規制を実施している道路の区間
(2) 進行方向別通行区分又は原付の右折方法(小回り)の規制を実施している交差点、及び片側3車線以上の交通整理の行われている交差点の手前
(3) 進路変更禁止の規制を実施している道路の区間
3 車両通行帯を設定すると、車両の通行方法(法20条)、原付の右折方法(法34条)及び交差点における優先関係(法36条)等についての規定が適用されることを考慮すること。
https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20170424.pdf
※高速道路に該当するものは削除しました。
交通規制に関わる部署の人に聞くと、自転車専用通行帯だけを意識していればそれでいいとも言われました。
実態として、一般道にはほぼ車両通行帯は存在していませんので。
車線境界線と見分けがつかない問題
よく、車線境界線(102)と車両通行帯(109)は見分けがつかない以上、車両通行帯とみなしても構わないとするネット記事があります。
これ、車に関しては実はその通りです。
車両通行帯の場合、第1通行帯の通行義務があって、第2通行帯は追越し車線になる。
車線境界線で車両通行帯ではない場合、車も18条1項に従って左寄り通行義務がある(罰則は無し)。
車の場合、車幅の関係から同一車線上の追い抜きは不可能。
結局のところ、車の場合は車両通行帯だろうと車線境界線だろうと事実上は変わらないんですね。
ところが自転車の場合は、変わる。
車両通行帯であれば、第1通行帯の中ならどこでもよい。
車両通行帯ではなく車線境界線の場合、左側端通行義務(18条1項)がある(罰則は無し)。
つまりこういうこと。
車 | 自転車 | |
車両通行帯の場合 | 第1通行帯通行義務 | 第1通行帯通行義務 |
車線境界線 | 左寄り通行義務(第1車線) | 左側端通行義務 |
車の場合、車両通行帯だろうと車線境界線だろうと、実質的には変わらない。
けど自転車の場合は左側端なのか、第一通行帯の中なのかで変わる。
なので自転車は分けて考えないと違反になる。
これについてですが、自転車は高速道路を走ることが出来ないので高速道路をまず除外。
その上で、一般道では全線が車両通行帯になっていること自体が実務上考えられず、交差点手前の進行方向別通行区分だったり、自転車などの専用通行帯、バス優先通行帯など以外では車両通行帯になっていることは無いとみなして構わないので、見分けがつかないから車両通行帯と考えること自体が間違いだそうです。
※普通自転車専用通行帯
存在しないに等しいもの(車両通行帯)と捉えることは間違いで、普通に左側端通行しかできないと考えるほうが合理的。
無いに等しいものなのに、見分けがつかないことは理由にならない。
道路交通法上、一般道で車両通行帯は交差点手前か、専用通行帯くらいに限定されます。
公安委員会の車両通行帯のリストは以前も少し書きましたが、
福井県報 平成31年 (号外1)
そもそも取り締まる側の警察官が、こんなリストを全て頭に叩き込んで理解しているわけがないんだよね笑。
車両通行帯は交通規制であり、規制に反したら取り締まり対象になるわけだけど、現場の警察官が膨大なリストを暗記しているとでも?
だから、「上乗せ規制」が掛かっている、「進行方向別通行区分」とか、「進路変更禁止」とか「専用通行帯など」にしか車両通行帯がない。
警察官が全リストを頭に叩き込んで取り締まりなんて不可能だから、誰でも見分けがつく場所くらいにしか車両通行帯がないんだよね。
車両通行帯に関する判例
車両通行帯についての判例
まずは車両通行帯(20条、2条1項7号)に関する判例から。
さいたま簡易裁判所は,平成23年4月21日,「被告人は,平成20年11月18日午後4時35分頃,埼玉県三郷市栄1丁目386番地2東京外環自動車道内回り31.7キロポスト付近道路において,普通乗用自動車(軽四)を運転して,法定の車両通行帯以外の車両通行帯を通行した。」旨の事実を認定した上,道路交通法120条1項3号,20条1項本文,4条1項,同法施行令1条の2,刑法66条,71条,68条4号,18条,刑訴法348条を適用して,被告人を罰金6000円に処する旨の略式命令を発付し,同略式命令は,平成23年5月7日確定した。
しかしながら,一件記録によると,本件道路は,埼玉県公安委員会による車両通行帯とすることの意思決定がされておらず,道路交通法20条1項の「車両通行帯の設けられた道路」に該当しない。したがって,被告人が法定の車両通行帯以外の車両通行帯を通行したとはいえず,前記略式命令の認定事実は,罪とならなかったものといわなければならない。
そうすると,原略式命令は,法令に違反し,かつ,被告人のため不利益であることが明らかである。最高裁判所第二小法廷 平成27年6月8日
この判例は最高裁が下したものですが、公安委員会の指定がないものは20条1項の車両通行帯に該当しないことを判示しています。
なお被告は亡Aに重大な過失の存ずる根拠の一つとして、原付自転車に登場していた同人が本件事故現場に設置されていた3本の通行区分帯中左端の第一通行帯を進行すべきであるのに(道交法20条1、3項、同法施行令10条1項2号)右端の第3通行帯を進行した旨主張するが、【証拠略】によれば本件事故現場に設けられている前記2本の白線は岡山県公安委員会が正式の車両通行帯として設置したものではなく、道路管理者たる建設省岡山国道工事事務所が通行車両の便宜を考慮して設けた事実上の車両境界線に過ぎないことが認められるから、両被告の主張はその前提を欠き理由がないものと言うべきである。
岡山地裁 昭和45年4月22日
この判例でも、車線境界線と車両通行帯は異なるものであると判示してます。
なお車両は車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて1番目の車両通行帯を通行しなければならない(道路交通法20条)が、本件道路について、車両通行帯(同2条1項7号)が設置されていることを示す証拠はない(車線境界線は、直ちに車両通行帯になるわけではない)し、右折を予定していたことを踏まえると、ただちに左側寄り通行等の規制に反していたともいい難い。
そうすると、被告において第2車線を走行していたこと自体に何らかの過失を見いだすことも困難といえる。名古屋地裁 平成26年9月8日
次はちょっとわかりづらいですが、車両通行帯が有効かどうかが争われた判例です。
(原告の主張)
ア 本件5車線区間には車両通行帯は設けられておらず、また、本件車線が左折通行帯である旨の道路標識も設置されていないから、原告の本件直進進行は、何ら道交法に違反するものではない。イ 規制標示である道路標示の「車両通行帯(109)」は、色彩が白色で、破線(線部の長さは3~10m、線部と線部の長さはその1.0~2.0倍)とされている(標識令8条から10条まで、同別表5、同別表6)。
しかるに、本件5車線区間における車線の境界線は、黄色であって白色ではないし、その手前の4車線である区間における車線の境界線は、白色破線ではあるけれども、長さが上記規定と異なるから、いずれも車両通行帯境界線ではない。したがって、本件5車線区間には車両通行帯は設けられていない。
ウ 進行方向別通行区分の指定には、道交法4条、道交法施行令1条の2、標識令4条2項1号により、公安委員会が設置する規制標識である道路標識及び規制標示のいずれもが必要である。規制標示は、道路が未舗装の場合や雪で見えない場合など道路状況によって省略できる場合もあるが、規制標識は省略することができない。
しかるに、本件車線が左折通行帯である旨の規制標示は設置されていないから、本件車線に関する進行方向別通行区分の規定は、有効に行われていない。
当裁判所の判断
(1)証拠及び弁論の全趣旨によれば、東京都公安委員会は、昭和45年12月18日、本件5車線区間について進行方向別通行区分及び進路変更禁止の規制をする旨の決定を行い、これに基づき、本件5車線区間に車両通行帯を設け、本件車両通行帯には、左折通行帯である旨の規制標示「進行方向別通行区分(110)」を設置していたものと認められる。
(2)これに対し、原告は、前記記載のとおり主張する。
しかしながら、、前記(1)のとおり、本件5車線区間については、進行方向別通行区分の指定と併せて進路変更の禁止の規制が行われていることが認められるのであり、道交法26条の2第3項、標識令別表第6によれば、「進路変更禁止(102の2)」は、車両通行帯が設けられていることを前提にして行われる規制であり、ある車両通行帯境界線で区画された両側の車両通行帯の一方から他方への進路の変更を両方向とも禁止する場合には、当該車両通行帯境界線を黄色とすることとされていることが認められるのであり、その限りにおいて、車両通行帯を設ける場合における車両通行帯境界線を白色の実線又は破線とする旨の「車両通行帯(109)」の特則を定めたものであることが明らかである。
したがって、本件5車線区間における車両通行帯境界線が黄色実線であることをもって、本件5車線区間に車両通行帯が設置されていないとする原告の主張は、採用することができない。
なお、本件5車線区間の手前の4車線である区間における車線の境界線についての原告の主張は、本件5車線区間とは異なる区間に関するものであって、本件5車線区間に車両通行帯が設置されている旨の判断を左右するものとは認められない。(3)ア また、原告は前記第2の3(1)ウ記載のとおり主張する。
そこで検討するに、道交法35条1項は、進行方向別通行区分の指定は道路標識等によってすることを定めているところ、道交法においては道路標識等とは、道路標識又は道路標示を意味すると定められているのであるから(2条1項4号)、道路標識又は道路標示(規制標識又は規制標示)のいずれかを設置すれば、道交法35条1項所定の要件を満たすものと解される。
そして、本件車両通行帯に左折通行帯である旨の規制標示「進行方向別通行区分(110)」が設置されていたことは前記(1)で認定した通りであるから、本件車両通行帯を左折通行帯とする進行方向別通行区分の指定は、適法であり、有効に行われているものと認められる。
平成23年7月19日 東京地裁
18条1項の判例
次は18条1項(キープレフト)の判例。
第二車線を通行していた原付に、第1車線を通行していた大型車が進路変更して衝突。
本件事故現場は道路左側が2車線になっており、そのうち、少なくとも事故直前の時点にあっては、道路中央線から遠い車線、即ち道路左側から数えて1番目の車線(以下便宜「第1車線」という)上を被告のトラックが、道路中央線に近い車線、即ち道路左側から数えて2番目の車線(以下便宜「第2車線」という)の梢第1車線寄りの部分を原告が、いずれも同一方向に、殆ど近接した状態で併進したこと、被告は第1車線上の他車輛を追越すため後方を確認したが、その確認状態が杜撰で不十分であったため原告に気付かず、事故現場直前約13.8mの地点で第2車線に進路変更のための方向指示器を挙げて追越にかかり車体が約半分第2車線に出たところで直進してきた原告に接触したこと、しかし右の第1、第2車線は道路交通法第20条所定の車両通行帯ではないこと、即ち、右両車線の中央を仕切る境界線は道路標識、区画線及び道路標示に関する命令別表第四(区画線の様式)(102)所定の車線境界線であって、道路管理者である建設省において便宜表示した記号にすぎず、之と若干まぎらわしい記号ではあるが、同命令別表第六(道路標示の様式)(109)1(1)所定の、公安委員会が危険防止のため設定表示した車両通行帯境界線ではないこと
(中略)
各種車両の交通頻繁な箇所では、最高速度時速30キロメートルの原動機付自転車は、同法18条の立法趣旨を尊重し、軽車両同様できるだけ第一車線上の道路左側端を通行して事故の発生を未然に防止すべきである。
福岡地裁小倉支部 昭和48年1月19日
この判例では、【軽車両同様】とした上で、第一車線の左側端を走る必要があるとしています。
具体的には軽車両が道路の左側部分に寄つて通行するために必要とされる道路の部分を除いた道路の部分の左はしに寄つてということであり、また前記法条の軽車両の観念上の通行区分である「道路の左側端に寄つて」とは路肩部分を除いた道路の部分の左はしに寄つてという意味であると解するを相当とする。
静岡地裁浜松支部 昭和43年3月18日
軽車両は路肩を除いた左側端に【寄って】通行するとしています。
原告車両から見て衝突位置の左側に、車線の半分以上である少なくとも1.5m以上のスペースを残して直進進行してきたものであるから、左側寄り通行義務(道路交通法18条1項)に違反した過失もあるというべきであり、このことが本件事故発生の一原因になっていることは否定し難い。
東京地裁 平成19年1月21日
この判例は、オートバイの通行位置が違反だったか(過失になるのか)のものですが、左側に1.5m空けているオートバイの通行位置を18条1項に違反すると認定しています。
オートバイは【左側に寄って】、自転車は【左側端に寄って】なので、この事例では自転車はさらに左に寄っていないと違反だと言えそうです。
ただし交差点での事故なのと、全ての道路で当てはまるわけでもありません。
次は軽車両のキープレフトの判例。
右の争いなき事実によると、被告が、民法第709条以下の規定により、原告等主張の本件交通事故によって生じた損害を賠償すべき義務を負うことが明らかである。之に対し同被告は、被害者にも過失があると抗争するので検討するに、事故に遭遇した屋台の尾部に反射鏡を備え付けていなかったことは、原告等と同被告との間に争いがないが、<証拠略>によると、事故当時、屋台後部の左側の柱に点灯したカーバイトランプを吊してあったことを認めることが出来る。
ところで、道路交通法第52条によれば、本件の屋台の如き軽車両は、夜間道路にあるときは政令で定めるところにより、同政令の定める光度を有する前照燈、尾燈若しくは反射器、反射性テープ等を備え付けねばならないとされているが、たとえ、反射鏡の設備がなくても、カーバイトランプを点灯すれば、通常、後方数十メートルの距離より之を確認し得ると考えられるので、原告に、右の義務に違反した過失を認めることが出来ないものと解する。
次に、原告が、左側端通行義務に違反したか否かについて検討するに、事故に遭遇した屋台が、歩道から中央寄りに1メートルの個所を通行していたことは、原告等と同被告との間に争いがなく、<証拠略>によると、事故現場は、両側に幅員3メートルの歩道が設置され、車道の幅員が15メートルで、その中央にセンターラインの標識がある直線状の道路上であり、原告は、右屋台の前後の中央線が、歩道から中央寄りに略々2メートルの個所を進行していたところ、その後部に同被告運転の乗用車の前部中央附近が追突したものであること、及び<証拠略>によると、原告は、事故に遭遇する直前、絶えず交通事故の不安を感じ乍ら通行していたことを夫々認めることが出来る。
而して、道路交通法第18条は、本件の屋台の如き軽車両に、道路の左側端を通行すべきことを義務づけているのであるが、右の事実によると、若し、原告が、右義務を忠実に守り、出来得る限り車道の左側端を通行するように心掛けて居れば、或いは被害が一段と軽度であったろうと推認するのを相当とするから、被害者側にも斟酌すべき過失があると言わねばならない。そしてその過失割合は、被告の過失が、脇見運転即ち前方不注視と言う、自動車運転者にとり最も基本的な注意義務に違反した重大な過失であるのに対比し、被害者側の過失は、道路の左側端通行義務違反で、然も、更に左側に寄って通行すべきことを要求し得るのは、せいぜい50センチメートル以内に止まると解されるから、同被告の過失に対して極めて軽度と言うべく、従って、前者の過失割合を9割、後者の過失割合を1割と認定するのが妥当であると考える。
横浜地裁横須賀支部 昭和47年1月31日
なお、この判例ではこのような原告の主張があります。
歩道から道路中央寄りに1メートルの個所を通行していたことも同被告主張の通りであるが、これ以上左端に寄る時は、L字溝内に片車輪を落下させ、屋台の通行が不可能になる。従って、充分に道路左側端を通行していたものである。
原告の主張に対して、裁判官の判断は「もっと寄れる」です。
警察庁資料の意味
警察庁の【自転車に係る主な交通ルール】という資料があるのですが、ここに以下のような記載があります。
2 自転車の通行場所
(1)車道通行の原則
自転車は、歩道と車道の区別のある道路では、車道を通行しなければいけません(ただし、自転車道があれば、自転車道を
通行しなければいけません。また、著しく歩行者の通行を妨げることとなる場合等を除き、路側帯を通行することができます。)。
道路では左側を通行しなければならず、特に、車両通行帯のない道路では、道路の左側端を通行しなければいけません。
また、車両通行帯のある道路では、原則として一番左側の車両通行帯を通行しなければいけません。
ほとんどの人は理解していると思いますが、こちらの方がいまだに理解できないようですので。
車両通行帯は公安委員会が設置して初めて車両通行帯となるので、複数車線とイコールではありません。
この方、いまだに複数車線であれば常に車両通行帯だと勘違いしているようなのですが(正直ヤバいレベル)、上で挙げた判例をみれば誰でも理解できると思います。
法律を読めばわかるはずですが、念のため判例より重要な部分を抜粋しておきます。
本件道路は,埼玉県公安委員会による車両通行帯とすることの意思決定がされておらず,道路交通法20条1項の「車両通行帯の設けられた道路」に該当しない。
平成27年6月8日 最高裁
2本の白線は岡山県公安委員会が正式の車両通行帯として設置したものではなく、道路管理者たる建設省岡山国道工事事務所が通行車両の便宜を考慮して設けた事実上の車両境界線に過ぎない
岡山地裁 昭和45年4月22日
車線境界線は、直ちに車両通行帯になるわけではない
名古屋地裁 平成26年9月8日
警察庁の資料によると、車両通行帯がない道路では左側端、車両通行帯がある道路では第一通行帯となっています。
複数車線あっても車両通行帯ではない。
例えばここ。
片側2車線でも車両通行帯が無いので、左側端に寄って通行する義務がある。
同じ道路でももうちょっと進むと、イエローラインで規制され、進行方向別通行区分がある場所がありますが、ここは車両通行帯なので第一通行帯の中を通行する義務がある(ただし左折する前にできる限り左側端に寄せる場合には、ラインオーバーでも違反ではない)。
ちなみに警察の資料にある車両通行帯っていうのは、自転車関係で使われるときは基本的に自転車専用通行帯を意味しているそうです。
事実上、一般道には交差点手前や専用通行帯以外には車両通行帯なんてないですから。
車両通行帯とは何か?という定義を理解していないので珍論に走るだけのこと。
説明が付かないのではなくて、きちんと読めていないだけのこと。
この方、どうでもいいところは突っかかってくるわりには、判例も読めない理解できないみたいですし、法律も理解できないらしい。
なお、歩道がある道路では車道外側線の外側(外側線から歩道の縁石)も車道です(大阪高裁 平成3年11月7日、上告棄却 最高裁判所第三小法廷 平成5年10月12日)。
車道外側線は区間線なので道路交通法上は何ら規制効力はない。
車道外側線から歩道までが広い道路について、軽車両の通行位置は車道外側線の外側だとしている判例があります。
車両は、歩道と車道の区別のある道路においては車道を通行すべきとされている(同法17条1項)ところ、路側帯は、歩行者の通行の用に共し、または車道の効用を保つため、歩道の設けられていない道路または道路の歩道の設けられていない側の路端寄りに設けられた帯状の道路の部分で道路標示によって区画されたものをいう(同法2条1項3号の4)から、歩道の設けられた本件道路には路側帯は存在せず、本件道路の歩道付近に設けられた白線は単なる車道外側線にとどまる。
したがって、被告は、本件道路から路外に左折進行するにあたっては、本件道路の外側線の歩道寄りにさらに約1.5mの余地があることを踏まえれば、外側線を越えてさらに歩道寄りまで車両を寄せた後に左折すべきだったといえ、この点の過失が認められるほか、左後方の確認を怠った過失があることは明らかである。(中略)
原動機付自転車は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、道路の左側に寄って走行するものとされているが、軽車両にあっては道路の左側端に寄って道路を通行しなければならない(同法18条)とされているから、原動機付自転車は、軽車両が通行することに必要とされる道路の左側端を除いた上で、道路の左側部分の左端を通行することになる。
本件道路においては、車道外側線から歩道までの間に約1.5mの余地があるが、その左端に設置された側溝を含めた幅に過ぎないことを考慮すると、本件道路の左側端から軽車両が通行する余地を除いた場合、原動機付自転車が走行する余地が車道外側線の歩道寄りになお残されるかどうかについては疑問が残る。もちろん、かかる規定は道路交通法20条における車両通行帯とは異なるから、原動機付自転車が本来軽車両の走行する部分を走行したとしても直ちに通行方法違反とはならないが、本件事故態様が、原告車両において車道外側線の歩道寄りを走行していた結果、減速した被告車両に追いつく形となって生じた事故であることを踏まえると、この点について、原告の過失を考慮せざるを得ない。
名古屋地裁 平成26年8月28日
より正確にいうと、18条1項を考える際には路肩のエプロン部や側溝など走行上の危険を除いて左側端に寄ることなので、車道外側線は何ら関係ない。
車道外側線の外側がすぐにエプロン部なら自転車がエプロン部を通行するのは危険だし、車道外側線から歩道までが広い場合には自転車は必然的に車道外側線の外側になる。
ロードバイクの通行位置
たぶんこれが一番端的に示している判例だと思います。
各種車両の交通頻繁な箇所では、最高速度時速30キロメートルの原動機付自転車は、本条の立法趣旨を尊重し、軽車両同様できるだけ第一車線上の道路左側端を通行して事故の発生を未然に防止すべきである。
判例を見ていると、車両通行帯のケースでは第一通行帯と表現してますが、車線境界線の複数車線道路では【第一車線】と書いていることが多い。
軽車両同様とあるように、第一車線の左側端を走るようにとしています。
実態として車両通行帯は、専用通行帯か、交差点手前くらいしかないのが実情。
なのでなんだかんだ、ロードバイクって事実上は左側端しか走れないと思っていい。
車線境界線と車両通行帯の見分けがつかないから、という屁理屈についても、
見分けがつかないからOKではなくて、そもそも専用通行帯か交差点手前くらいにしか存在しないため、見分ける必要性が無い。
きちんと調べないとこの問題は分かりづらいかと思いますが、これが現実です。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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