電動キックボード問題と併せて、自動配送ロボや原付と自転車の変化するモビリティなど多様なモビリティに関する有識者会議、については以前も書いたと思うのですが、

こういうのってしっかり読まないとおかしなところに批判をしてしまう、という話。
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前提をみる
有識者会議でのまとめにこのような文言が記されています。
歩行領域における最高速度は、6km/hだと歩行速度としても非常に遅いので、10km/h程度がよいのではないか
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/mobility/interim-houkoku-gaiyou.pdf
これはモードによって、原付と自転車が変化する新しいモビリティの話。
メーカー側が求めているのは原付モードと電動アシスト自転車モードの切替えについても認めてほしいということと、歩行領域で用いられるモビリティについても、同様に、車両に切り替えることができるようにしてほしいという話の中で、それが可能だった場合は歩道上での速度をどうすべきなのか?という提案です。
間違っても【6km/hだと歩行速度としても非常に遅い】というところだけを切り取って、時速6キロって歩くスピードとしてはむしろ速くね??なんて考える人がいるのかどうかは不明ですが。
もちろん、そういう意味では無いのはちゃんと読めばわかること。
似たような文言は、搭乗型移動支援ロボの項目にも記されている。
速度については、歩行者もランニング時などに10km/h程度で歩道を通行する場合があることを考えると、10km/hにすることを議論してもよいのではないか
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/mobility/interim-houkoku-gaiyou.pdf
まあ、このあたりで多くの人は理解できるとは思いますが、有識者会議の本文。
この「一定の最高速度」については、歩行者と同様の通行環境を走行することから、歩行者の通行の安全を確保するため、歩行者と同等の速度でなければならないと考えられる。この点、原動機を用いる身体障害者用の車椅子については、歩行者の早歩き程度の速さとして、時速6kmが基準とされてきており、これを「歩道通行車」の基準とするべきであるとの意見があった一方、これまでに実施してきた公道実証実験の結果等を踏まえ、歩行者の小走り程度の速度である時速10kmまで認めることとしてもよいのではなどの意見や、地域の道路環境等に応じて最高速度を時速6kmから引き上げることができるようにしてはどうかといった意見があったところであり、今後、安全性を検証しながら、更なる検討が必要である。
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/mobility/interim-houkoku.pdf
これは搭乗型移動支援ロボの項目で書かれていることですが、一般に歩行者の速度は4キロ程度とされていて(判例アリ)、早歩きが6キロ、小走りが10キロ程度と見ている。
歩行者というカテゴリには普通に歩く人(概ね4キロ)、小走りの人(10キロ程度)、ジョギングしている人(15キロくらい??)など様々な人がいる中で、時速6キロというのは特別速いとは言えない。
なので原付と自転車で変化できるモビリティについても、
歩行領域における最高速度は、6km/hだと歩行速度としても非常に遅いので、10km/h程度がよいのではないか
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/mobility/interim-houkoku-gaiyou.pdf
歩道の中では、歩行者4キロ、早歩き6キロ、小走り10キロ、あとは自転車なんて時速15キロくらいで飛ばしている現実もある。
まあ、自転車なんて時速25キロとか歩道でも出ていそうですが・・・
電動車いすは最高速度が時速6キロですが、道交法上は歩行者ですし。
まあ、【非常に遅い】はやや言い過ぎ感はありますが、メーカー的には何とかゴリ押ししたいのでこういう表現なんでしょう。
報道でも同様になってます。
シニアカーで適用されている“みなし歩行者”の最高速度域を、現在の6km/hから10km/hにアップするという提案もある。この背景にはランニングする速度域がほぼ10km/hで、歩道を走行できるエリアでの自転車も同様の速度域で走行していることがある。これについては警察庁で安全が担保できるかどうかを検討している最中だという。
電動バイクと自転車の切り替え=「モビチェン」を警察庁が認定…グラフィットのeバイク | レスポンス(Response.jp)電動バイクなどを手掛けるglafit(グラフィット)は、同社が製造販売する「ハイブリッドバイクGFR」に、「モビリティ・カテゴリー・チェンジャー」を取り付けることで電動バイクと自転車の切り替えを認める通達が7月1日、警察庁より公表されたこと...
歩道領域を通行する歩行者、みなし歩行者になる電動車いす、ジョギングなど含めて考えれば時速6キロというのが特別速いというわけでもない。
なので【歩行領域における】というところで二つの意味を持っているんだろうなと類推できるのですが、一つは歩行者というカテゴリのなかではいわゆる歩いている人からジョギングしている人までいるという前提。
もう一つの意味は、一点目の前提の下でこのモビリティが歩行領域で出してもいい最高速度という意味。
このあたり、全体の流れを見ておかないと、意味が分からないんでしょうね。
文章って一ヶ所だけ切り取ると全く意味が変わってしまうわけですが、前提条件が付いていることだったり、ほかの記述も総合して考えれば理解できることって多いですよね。
読解力が乏しい人だと、脊髄反射のごとく一ヶ所だけ切り取ってあーだこーだと言いがちですが、【歩行領域における最高速度は】という前提が付いているので、あー、なるほどね、と普通は理解できる。
ジョギングしている人とか、小走りの人も道路交通法上では歩行者ですもんね。
時速6キロ出せる電動車いすも時速6キロですし。
歩行領域における、と前提が付いている意味を理解しないと、6キロなんて歩くスピードとしては速いだろ!とか意味不明な批判に走るのかな。
前提を理解した上で反対意見があるのであれば、例えばこうなる。
歩道の中にいる歩行者というカテゴリには、確かにジョギングしている人なども含まれるが、弱者保護という観点で見ればなるべく遅い歩行者を軸に考えるべきで、時速10キロとなると速い。
電動車いすの基準である時速6キロが目安になると考えるべき。
時速6キロは歩行者としては速いだろ!なんて批判をすれば、

子供とかお年寄りのように歩く速度が遅い人もいるし、遅刻しそうだからと全力疾走している人もいるし、ジョギングしている人もいる中、歩行者という全体像での話です。
前提条件をちゃんと読んでくださいね、という話になる。
上で書いたような一例で反論すれば、じゃあ同じく車両である自転車なんて、時速25キロとかで歩道を走る人もいますがあれはどうなっているんですか?などと議論が深まる。
ちゃんと前提を理解しているかどうかで議論になったり的外れになるけど、こういうのって日常生活とか仕事でもあるある話なのかも。
前提条件をみること
一文だけ切り取って批判する人ってそれなりに多いですが、一文の切り取り方を間違うと意味が変わってしまう。
うちもおかしな批判されたことはありますが、前提条件を無視した引用されてとんでもない批判されたこともありました。
昨日、左折巻き込みの事故について、抱っこひもは違反ではなく合法だ!と主張されていた方がいました。

その方の根拠は、東京都道路交通規則のようですが、
16歳以上の運転者が幼児(6歳未満の者をいう。)1人を子守バンド等で確実に背負つている場合の当該幼児は、ア((イ)及び(ウ)に該当する場合を除く。)及びイの規定の適用については、当該16歳以上の運転者の一部とみなす。
その方が切り取った箇所は、【子守バンド等で】というところだけを切り取って、抱っこひもは合法だ!という主張。
うーん、バカなんじゃないかな。
子守バンド等で、というのは背負う場合の具体例を例示しているだけで、本文は【幼児一人を確実に背負って】なんですよね。
【確実に背負う】という行為に対する例示として子守バンドを挙げている条文なわけで。
おかしなところを切りとると、意味が全く変わってしまう。
けどまあ、こういうのって意味不明な批判をする人のアルアル話なのかも。
以前、謎のコメントが付いたのですが、

これは内部通報者が名誉毀損に問われる場合の違法性阻却事由ですが、なぜか著作権法の違法性阻却事由だと思い込んでいる。
なんでこうなるんだ??と思って調べてみたら、平気でこんな間違ったことを書いている人がネット上にいることに気が付いたのですが、関わるだけ無駄なのでどうでもいい。
自転車事故の判例をみていると、時速30キロとか20キロの自転車に対して、高速度と認定しているものもあります。
こういうのも時速30キロが高速度というところだけを切り取って評価するからおかしくなる。
例えば、時速30キロで、何か他の物を見ていたために前方不注視になって、結果として信号無視してしまい横断歩道の歩行者に衝突し死亡させるという事故があったとします。
この場合、時速30キロが高速度と認定されたりしますが、これは前方不注視という状態において時速30キロが高速度、という意味なのは多くの人が理解できると思う。
おかしな話ですが、仮に信号無視したとしてもきちんと見ていれば時速30キロでも衝突事故を起こさないことも可能なわけですし、そもそも道交法違反を争っているのではなく刑法の過失致死罪の成立について争っているわけだし。
けど分かっていない人だと、時速30キロは高速度という部分だけを切り取って考えてしまい、じゃあロードバイクはどうするんだ?とか、裁判官の感覚がおかしいとか的外れな批判を始める。
危険運転致死罪(車)でも、時速20キロが危険速度と認定されているものがあります。
これもちゃんと前提があって、信号無視して反対車線に飛び出して時速20キロで進行して事故を起こしたという大前提があるわけで。
時速20キロが常に危険速度というわけではなくて、信号無視&反対車線に飛び出してという前提条件での危険速度だと理解できる。
自転車を追い抜くときの側方間隔として、1mは違反ではないとする判例もあるわけですが、

これは見通しがいい道路において、ふらつきもなく先行する自転車がいて、そういう状況下で側方間隔1mがどうだったのか?という判例。
なのでケースバイケースで1mは違反になり得るし、もっと側方間隔が狭くても違反ではない可能性も出てくる。
前提条件をすっ飛ばすと、それ以降も全部間違うという典型例なのかも。
けど前提条件をすっ飛ばして考える人でも、他人には前提条件ガーとか言い出す人もいるので困ったもんだなと・・・
最初から前提条件があるものを、勝手に誤解していただけにも拘らず。
一文だけ切り取って考える人って、前提条件を間違っていることって多いんだよなぁ・・・
まあ、誰しも間違いなんてあるので、しょうがないんでしょうけど。
ところでその原付と自転車の変動するモビリティ。
無意味な批判とか、根拠のない批判はしたくないのですが、これは非常に難しい問題。
というのも、歩道上では事実上、ママチャリが時速20キロ以上とかで普通に走っている現実がある。
本来はそれを何とかすべきなんでしょうけど。
もしこのモビリティが、歩道上でも低速原付モードを認めて欲しいという主張をした場合、電動車いすの6キロを基準にするというのも一つの合理性はある一方、車両である自転車が時速20キロ以上でガンガン走っている現実もあるわけで、歩行者を守るために時速6キロに抑えるべきだ!という理屈が崩壊している。
もちろん、足漕ぎとモーター駆動でもやや意味合いが変わるとはいえ、どちらも人が乗って操作しているというところに着目すれば、差は大きいとも言えない。
けどあえていうならば、そこまで速度アップをしたいなら、車道を走れる存在なんだからどうぞ車道へというだけなんじゃないですかね。
歩道を走らなければならない理由もない。
歩道を走りたいなら自転車モードで人力でどうぞというだけのこと。
どうする気なのかはわかりませんが、どうするんでしょうかね。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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