車道を走るロードバイクにとって、歩道から車道にノールックで降りてくる自転車は脅威そのものです。
一体こういう奴らは何を考えているんだ?というのが本音。
仮にこういうケースで事故った場合、過失割合ってどうなるのさ?という疑問があるのですが、類型としては全く違いますが同じく歩道から車道へノールックで突入した自転車と、車道を走るロードバイクの事故の判例があります。
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ノールック車道突入事件
この事故はちょっと複雑な事情があるので、あまり一般化して考えることは出来ないように思いますが、一つの参考として。
まず、事故の前提から。
・被告(自転車)は歩道を通行していた。
・歩道には配電ボックスがあり、被告の身長よりも高かった。
・現場は6叉路交差点近く(片側2車線の幹線道路)。
・被告自転車は、自転車横断帯よりも12.4m以上手前で歩道から車道に降りて斜め横断を開始した。
イメージとしてはこういう感じです。
6叉路交差点なので、自転車横断帯と自転車横断帯の距離(概ね交差点の長さ)は37.6mあります。
このように長い交差点なので、車道側には信号機が便宜上2つある。
原告自転車(青)が事故現場に近い横断歩道等を通過したときの、車道の灯火は黄色ないし赤だったと推測されますが定かではありません(交差点進入時に赤灯火だった証拠はない)。
歩道の自転車(赤)は、渡ろうとする横断歩道&自転車横断帯の信号機が青だったことから、自転車横断帯よりも12.4m以上手前から斜め横断を開始。
車道の状況を確認せずに車道に降りたため、車道を通行するロードバイク(青)と衝突したという事故です。
歩道通行の自転車は15-20キロ程度、車道通行のロードバイクは一般的な自転車(17キロ程度)よりは速かった可能性があるものの、時速30キロ以上出していた証拠はないということになってます。
理屈の上では、ロードバイクが事故現場に近い横断歩道等を通過するときには、車道は赤灯火だった可能性もあるし、黄色灯火だった可能性もあるというところです。
さてこの事故、車道を通行するロードバイクからするとテロのような状況です。
配電ボックス等で歩道の状況が隠れているとも言えますし。
過失割合はどうだったのかというと、50:50という判示になっています。
争点が多岐に渡るのですが、主に関係する箇所のみ抜粋します。
<被告(歩道自転車)の責任>
自転車は、交差点を通行しようとする場合において、当該交差点又はその付近に自転車横断帯があるときは、当該自転車横断帯を利用しなければならないところ(道路交通法63条の7第1項)、被告は、進路前方に自転車横断帯があったにもかかわらず、これを利用することなく、本件道路を横断しようとしたのであって、被告が当該自転車横断帯を利用しなかったことを正当化することができるような合理的な理由は特に認められない。その上で、被告が本件道路を横断しようとした地点と直近の自転車横断帯又は本件横断歩道との距離に照らし、被告運転の自転車が自転車横断帯又は横断歩道上を通行していたのと同視し得るとまで評価することはできない。
そして、被告は、自転車横断帯を利用することなく本件道路を横断しようとするのならば、自車を歩道から車道に進入させるのに先立ち、少なくとも右方から走行してくる車両の有無、動静を十分に注視、確認した上で、車道に進入させるべきであったところ、対面する歩行者用信号の表示は赤信号であり、歩行者用信号Bの表示が青信号だったことから、右方から車両が走行してくることはないものと軽信して、上記のような注視、確認をすることなく、自車を車道に進入させて本件道路を横断しようとしたことから、原告運転の自転車と衝突するに至った。(中略)
以上によれば、被告は、車道に自車を進入させるに際し、上記の注視、確認義務を怠ったものといわざるを得ない。
東京地裁 平成20年6月5日
<原告(車道通行のロードバイク)の責任>
道路交通法36条4項は、「車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」と規定し、また同法38条1項は、「車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。」と規定している。
自転車は、車両であるから、「道路を横断する歩行者」と同視することはできず、また、被告は、本件横断歩道から約9.35m離れた地点から車道を横断しようとしたのであるから、「横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者等」と同視することもできないのは、原告らが主張する通りである。
しかしながら、被告が横断しようとした地点は、本件横断歩道からさほど離れていたわけではなく、また、歩道との段差がなく、歩道からの車両の進入が予定されていた箇所であったことに加え、原告運転の自転車が本件横断歩道を通過する際、車道信号A1の表示は赤信号であり、歩行者信号Bの表示は青信号であったのであるから、本件横断歩道上のみならず、被告運転の自転車が車道に進入してきた地点からも、本件道路を横断すべく車道に進入してくる歩行者や自転車があることは想定される状況にあったというべきである。そして被告にとってと同様に、原告にとっても、配電ボックス等の存在により、必ずしも見通しがよくなく、上記の箇所から車道への進入者等の存在は十分確認できない状況にあった。
したがって、原告は、自転車を運転して本件横断歩道を通過させるに際し、被告運転の自転車が車道に進入してきた地点から横断しようとする者がいることを予想して、減速して走行するなど、衝突することを回避する措置を講ずるべきだった義務があったところ、原告がこのような回避措置を講じたことは認められないから、本件事故の発生については原告にも一定の落ち度を認めるのが相当である。
東京地裁 平成20年6月5日
これ、事故現場は恐らくここです(もしかしたら一個先の交差点かもしれませんが、ほぼ同様の構造です)。
ロード乗り視点で、6叉路交差点への進入箇所。
交差点が長いので、手前と奥に車道に信号機があります。
交差点の出口付近がここ。
恐らくはこの先の、段差の切れ目のところから歩道自転車が斜め横断を開始したものと思われますが、当時の状況と同じなのかは不明です。(注、もう一個先の交差点の可能性あり)
結局のところ、車道を通行するロードバイクが横断歩道等を通過するときに車道が赤信号(横断歩道等が青信号)だった場合に、自転車横断帯ではないところから横断開始する自転車を予測して減速すべき義務があったとしているわけです。
なお被告の主張のうち、以下の点は否定されています。
被告の主張 | 裁判所の判断 |
原告自転車の横断歩道・自転車横断帯での一時停止義務(38条1項) | ×(横断歩道から約9.35m離れていた地点で横断開始しているから横断歩道等を通行している自転車と同視できない) |
原告自転車は事故現場に近い車道信号機が赤になったのだから、それ以上進行してはいけない、横断歩道等の前で停止すべき義務があった(施行令2条1項) | ×(同項の停止位置は交差点手前であって、交差点に進入している自転車が交差点内に留まる義務はない) |
原告自転車が交差点進入前の時点で赤灯火だった可能性?(施行令2条1項) | ×(証拠がない) |
なかなか厳しい判決
正直なところこれで50:50というのは、車道を通行する自転車にとってはかなり厳しい判断なのですが、要は歩道の状況が配電ボックスなどで見えづらいのであれば、自転車横断帯&横断歩道以外のところから横断する自転車に備えよと言っているのと同じ。
原告側の主張はかなり真っ当で、0:100を主張したものの、50:50となっている判例です。
なお、このロードバイク乗り(原告)ですが、重度の後遺障害(1級)となるような重大事故で、被告側は刑事訴追(といっても少年事件です)されている模様。
このケースでは、車道を通行するロードバイクはさほどスピードが出ていたわけでもないようですが、歩道から車道にノールックで降りてきて横断開始する自転車についても注視しろということです。
このケースでは横断歩道等の信号機が青になった直後ということもあるので、横断歩道等が無い道路においても同様とまでは言えないでしょうけど、民事での注意義務って道交法の刑罰規定よりもはるかに大きくなることがある。
このケースで言うならば、車道を通行するロードバイクに明確な道路交通法違反があったとは言い難いところ。
なおこのケース、ロードバイクがヘルメットを装着していたかどうかは「不明」となってます。
不明であっても、道交法上のヘルメット装着義務はないので、それが過失として評価されることは無いとも判示されています。
ヘルメットって、こういう予想外の事故の時とか、自分自身の操作ミスによる転倒に備えるもの。
なので当サイトでも、ヘルメットは被ったほうがいいよといつも書いている通りです。
ヘルメットは何らかのミスや予想外の事故の時に、怪我の程度を減らせる可能性があるものであって、事故を防ぐものではない。
ここを同一に考える人ってなぜか多いんだよなぁ。
車道を走るロードバイクにとっては、歩道からのノールック攻撃についてはほんと困りますが、こういうのももうちょっと取り締まってくれませんかね。
道交法の義務だけで見たらどっちが悪いかは明白な気もしますが、民事での注意義務というのはこのように大きいのです。
ロード乗りの方は、言語障害や右上下肢の全廃となってますが、これで50:50は正直厳しい。
よくネット上で、車と自転車のトラブル(?)みたいな動画が上がったときに、どっちが悪いだの、自転車には道交法違反が無いだのいろいろ論評が始まるのが常です。
道交法違反が無いことと、民事での過失が無いことは必ずしも一致しない。
このケースでも、ロードバイク側が前方不注視(70条安全運転義務違反)として処罰される可能性はゼロだと思いますが、それでも民事責任ではこのようになることもあるということです。
それを見越して、道路を走るロードバイクには、道交法以上の義務が課されているんですよという話はよく書いていることですが、道交法違反が無いことと、民事の過失はまた別です。
民事の過失は民法709条に基づくものですが、
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
「過失=道交法違反」という法律はどこにも無い。
過失=通常予見できることへの回避義務違反。
まあ、このケースを予測しろというのは酷だとしか思えませんが、道交法だけ守っていればいいという考え方には賛同いたしかねます。
道交法は最低限の基礎。
まあ、自転車は守らない人多すぎて困るんですけど・・・
実際のところ、逆走自転車と衝突しても順走側に過失100%という判例もあります。

これ、逆走違反を主張していないというミスはあるものの、逆走自転車が先に停止して事故回避義務を果たしていたことが評価されている。
車道を通行する以上、歩道側の情勢にも注意する義務はありますが、ノールックで事実上の逆走車道進入する自転車にも注意すべきという判決は、かなり重いなと感じます。


2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
本題から少しずれますが、ヘルメットについて、一つ意見を言わせていただきます。
所謂ロードバイク乗りはノーヘルでロードバイクを乗ってる人を毛嫌いする傾向にあります。
なぜか。
ヘルメットを被ることによる安全意識を持ち合わせていないと判断しているからだと思います。少なくとも私はそうです。
自分の安全性を担保出来ない人は他人の安全など考えていないだろうと推測出来るから。
「事故を防ぐものではない」と仰ってますが、本当にそうでしょうか。
事故を起こす、または、事故に遭うのは、この安全意識の大小に依るところが、大きいのではないかと考えます。
あと、この判例で、原告側は歩行者ではなく車両としています。これについてはその通りですが、ならば、被告側も車両。その被告の車両が、突如歩道から飛び出してきて逆走した、とはならないのですかね。
コメントありがとうございます。
私自身はノーヘルライダーをみてもあまりそのような感覚は持ちませんが、「自分の努力や注意では防げない事故がある」という前提の下、万が一に備えて被ります。
そういう意味では、被らない人との意識の差はあるかもしれませんが、被らない人の意識がどの程度なのかはイマイチ把握していません。
判例についてですが、ちょっと分かりづらい点は明後日に別記事にします。
既に記事は出来上がってますが、被告の責任の判示でも「自車」という文言が出ているように、あくまでも歩行者ではなく車両として評価され、自転車横断帯から外れたところから横断を開始し、かつ、車道に出る際の確認不足が問題視されてます。
判例を読むときに、双方がどのような主張をした結果なのかも大切です。記事では省略しましたが、そこを次回出します。
すみません、記事繰り上げて今日にします。
よかった
馬鹿なノールック自転車に自動車側が負けなくて
ちゃんと読まなかったみたいだけど、双方自転車の判例ですよ。
訴外にいる自動車は勝ちも負けもないけと笑