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「妨げないようにしなければならない」

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まあまあどうでもいい話なので、ひっそりと記事にしておきます。

 

38条1項後段は「一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない」とあります。
この「妨げないようにしなければならない」について説明している判例、たぶんあんまりない。
特に「一時停止した後」については。

 

あんまり参考にはならないけど、一時停止した後についての判例があります。

妨げないようにしなければならない

38条違反について争った判例というと、一番有名なのは福岡高裁 昭和52年9月14日。
私が知る限り、

 

・進路の前方→福岡高裁 昭和52年9月14日
・横断しようとする歩行者→東京高裁 昭和42年10月12日や大阪高裁 昭和54年11月22日など
・前段の義務→東京高裁 昭和42年2月10日、東京高裁 昭和46年5月31日、東京高裁 平成22年5月25日など
このあたりが有名な判例になりますが、一時停止については争いようがない。
「妨げないようにしなければならない」についても争いようがないけど、一応あるにはあります。
判例は行政事件、免許停止処分取消請求事件です。

 

簡単に状況から。
車線数や細部がやや不明なので、なんとなくのイメージで考えてもらえば。
(たぶん片側二車線道路。たぶん。)

 

青信号で右折。
その際、対向車が左折。

一時停止して横断歩行者待ち。
その後、対向左折車が右折車に対してクラクション(双方が鳴らしあった)。

横断中の歩行者を見届けたあとに進行したところ、横断歩道を右から左に横断中の歩行者を発見(距離は5mちょっと、つまりは見逃し)。

横断歩道を塞ぐように停止。
その際、歩行者が当該車両の前に立ち睨み付ける。
状況の細かい点はよくわからないが、歩行者が持っていた傘を投げ出すように倒れた(事故発生)。

これについて38条1項の違反があり加点。
違反がなかったものとして、免停処分を取り消すように求めた裁判です。

 

さて。
38条1項後段の違反があったと認定しています。
この場合、裁判官はどの状況について38条1項後段の違反を認定したのでしょうか?

 

①対向左折車がクラクションを鳴らした状況で違反が成立(歩行者に向けてないクラクションだけど)
②一時停止後に右側の横断歩行者を見逃し発進した時点で違反(距離は5m)
③横断歩道をほぼ塞ぎ、歩行者が睨み付けた時点で違反が成立
④事故発生地点で違反が成立

 

なお、ドライバーの主張は終始一貫「そもそも当たっていない」、黄色車両ドライバー(目撃者)は「当たったか当たってないかでいうと当たったように思うけど、ちょっとオーバーな感じに見えた」。
なお、車のボディに衝突を示す痕跡はありません。

 

この判例は「妨げないようにしなければならない」について書いてありますが、今回は書きません笑。

 

えっ?
どうせ後日書く?
今回は書きませんよ。

 

最近、ちょっとどうかなと思うことがありまして、普段からメールでやり取りしている方から質問を受けた場合のみお答えします。

 

判決年月日?
うーん、じゃあ一文字ごとに伏せ字にしますね。

 

「東◯地◯ 平◯2◯年◯月◯1日」

「妨げないようにしなければならない」と「妨げてはならない」

ちなみにですが、38条1項の「妨げないようにしなければならない」と38条の2にある「妨げてはならない」。
古い解説書を見る限り、意味は同じです。
何せ、71条3号の解説ページを見ると「妨げないように」の解釈は38条参照となってますし。
昭和24年道路交通取締法時代から検討するとなんとなく見えてくるものはありますが、要は具体的妨害がないと違反として成立し得ないわけで、そこに大きな意味があるわけではない。

 

ついでなので、横断歩道の歩行者優先規定の歴史。
なんかグダグダ言ってる奴がいますが、話の流れ上、横断歩行者妨害について調べた内容をまとめておきます。横断歩道を横断する歩行者に対する道路交通法の規定は、なかなか不思議な歴史を辿っています。先にネタバレ。昭和42年道路交通法改正時に説明されて...

 

昭和35年の旧71条3号(現行38条1項)、旧38条(現行38条の2)時代から「妨げないようにする」、「妨げてはならない」と使い分けています。

 

◯旧71条3号(昭和35~38年)

三 歩行者が横断歩道を通行し ているときは、一時停止し、又は徐行してその通行を妨げないようにすること

◯旧71条3号(昭和38~42年)

三 歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつその通行を妨げないようにすること

◯旧38条(昭和35~42年)

(歩行者の保護)
第三十八条 車両等は、交通整理 の行なわれている交差点で左折し、又は右折するときは、信号機の表示する信号又は警察官の手信号等に従つて道路を横断している歩行者の通行を妨げてはならない
2 車両等は、交通整理の行なわ れていない交差点又はその附近において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない

古い解説書を確認しても、「妨げてはならない」と「妨げないようにする」は解釈として同一に捉えている。
なぜ使い分けているのかについて考えると、「妨げないようにしなければならない」の場合には具体的方法として一時停止等を並列的に求めていて(旧71条3号、現行38条1項)、「妨げてはならない」を使う際には具体的方法を何ら指定していない(旧38条1項、現行38条の2)。

 

一時停止等を並列的に課した以上、危険性はだいぶ下がるわけなのであえて「妨げてはならない」にしていないだけの様子。
それ以上の意味はないようなので、「妨げてはならない」と「妨げないようにしなければならない」は解釈としては変わらないと考えていいかと。
実際、注解道路交通法(昭和41年)などを見ると、71条3号の「妨げないようにする」は38条の解釈(妨げてはならない)と同じだと書いてありますし。

 

現行17条2項も38条1項と同様の表現を取ってますが、具体的方法(一時停止)を並列的に求めているか否かの問題だけのようです。

2 前項ただし書の場合において、車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ歩行者の通行を妨げないようにしなければならない

こういうところは立法時の解釈から検討しないと、立法者がどのような意図をもって使い分けたのかは理解しにくい。
実際のところ、上の判例においても・・・おっと、ここからは自分で調べましょう笑。

 

結局のところ、違反として成立する要件がなんなのかの話ですから。
「進行妨害じゃないから」という謎理論についても、調べた範囲では全く関係ない。

 

「進行妨害」と「妨げてはならない」。
だいぶ前からこういう意見を出す人については疑問視してました。「進行妨害」と「妨げてはならない(妨げないようにしなければならない)」は違うのか?という話。進行妨害道路交通法2条1項22号に「進行妨害」という定義ができたのは、昭和46年道路交通...

 

一時停止したけど…

ほかの判例。
こちらは裁判所ホームページにもあります。
ドライバー(原付)は一時停止した後に、横断歩行者との側方間隔が5mあったから進行したと主張するものの、違反事実としては一時停止しなかったとされたものがあります。
まずは事実の認定から。

2 原告は、平成11年9月17日、京都駅付近に所在する旅行関係の会社において旅行代金を支払うため、白色ヘルメットを被り紺色の原告車両(排気量50cc)を運転して京都市内の公道を進行し、同日午前9時4分ころ、本件交差点に東側からさしかかったが、本件交差点の東西方向の道路の信号の表示が赤色であったため、本件交差点の東側停止線の直前の別紙図面①点付近でいったん停車し、右折するため上記信号待ちの車両列の先頭車両となった。このころ、本件交差点付近は晴天であり、本件交差点の東西方向及び南北方向の道路の最高速度はいずれも40キロメートル毎時と指定されていた。
原告は、上記の信号の表示が青色になったのを確認して発進し、右折を開始したが、対向車を確認するため、本件交差点内の中央付近の別紙図面②点付近でいったん減速し、その後再び加速した。原告は、その際、本件歩行者が本件横断歩道を西に向かって横断しているのを確認したが、一時停止することなく、20キロメートル毎時前後の速度で本件横断歩道を通過した(本件右折)。原告車両が本件横断歩道上の同図面③点付近を通過した際には、本件歩行者はその約1.5メートル東方の同図面④点付近を歩行していた。
3 京都府伏見警察署は、同日午前8時半ころから、本件交差点において、通行する車両の交通違反の取締りを実施していた。同署のA巡査部長は、本件交差点の別紙図面⑤点付近に私服姿で立って交通違反を現認する係を担当し、同署のB巡査、D巡査部長及びその他数名の警察官ら(以下「B巡査ら」という。)は、本件横断歩道の北方約50メートル付近にあるγの駐車場の出入口付近の別紙図面⑥点付近で待機して、違反車両を停止させ、取り調べる係等を担当していた。
A巡査部長は、別紙図面⑤点付近において、原告の前記の右折(本件右折)を現認し、法38条1項後段違反としてB巡査らに無線で連絡した。B巡査も同図面⑥点付近において原告の本件右折を現認しており、同所付近で、北進してくる原告車両に停止を求め、前記駐車場内の出入口付近の別紙図面⑦点付近に誘導した。原告は、原告車両を、同図面⑦点付近に、同駐車場の内側に向けて停止させた。
4 B巡査は、上記⑦点付近において、原告に対し、横断歩道を横断している歩行者がいるときに横断歩道の手前で停止せず歩行者の前方を通過するのは法38条1項後段違反になる、本件右折の際に本件歩行者の前を通過した行為については上記違反が成立するという趣旨のことを述べて、身元確認のため、免許証の提示を求めた。原告は、これに対し、自分は十分に安全確認をし、本件歩行者との距離が十分にあったことを確認して本件横断歩道を通過したのであるから、違反はしていないと主張し、免許証の提示を拒んだ。
B巡査らは、さらに原告に対し、違反の事実を認めるかどうかは原告の自由であるが、警察としては原告の法違反として手続を進めるので免許証を提示してもらいたい等と述べて、免許証の提示を強く求め続けたが、原告は、自分は安全確認をしており違反はしていないから免許証を見せる必要はない、ナンバープレートの番号から調べれば分かるだろう等と主張して、免許証の提示を頑強に拒み続けた。このような問答が、約25分間続けられた。
5 そして、原告は、同日午前9時30分ころ、B巡査らに対し、自分は忙しいのでもう行くという趣旨の発言をし、原告車両のハンドルに手をかけ、その場を離れようとするかのような素振りを見せた。そこで、B巡査は、直ちに、原告に対し、法違反の現行犯人として逮捕する旨告知して、両手で原告の右手をつかみ、原告車両のハンドルから手を離させ、他の警察官が原告の左側から原告車両のハンドルを両手で把持した(本件逮捕)。

 

京都地裁 平成13年8月24日

この判例、そもそも「加点処分の取消請求」なので、行政事件訴訟法上の要件を満たさないため「却下」。
ただし、若干気になることを裁判官が述べている。

(二) 原告は、本件右折の際、本件横断歩道の直前付近で一時停止しており、しかも、その時点で、本件歩行者との距離は少なくとも5メートルあることを確認した上で発車し、本件歩行者の進路前方の本件横断歩道を通過したものであると主張する。そして、原告は、その本人尋問においても、同趣旨の供述をし、本件横断歩道の直前で一旦停止した際、すでに、その手前の本件横断歩道を東から西へ女性が2人横断して通過した旨も供述する。
しかし、原告の上記供述によると、原告が本件横断歩道の直前で一時停止した際、本件横断歩道を本件歩行者よりも先に横断した女性2人と本件歩行者との間隔がすでに約5メートルあったことになるところ、前記女性2名は、対面信号が青色に変わった時から本件横断歩道を横断し始めた可能性もあり、上記のような間隔となった具体的状況が不明であるといわざるを得ない。また、原告が主張するような状況であったならば、むしろ、横断歩道の直前であえて一時停止をする理由はなく、そのまま通過するのが通常とも考えられる。

 

京都地裁 平成13年8月24日

一時停止した段階で5m以上あったという原告の主張ですが、もしそのような状況ならそもそも一時停止する必要がないみたいにしてます。
どちらにせよ裁判自体が要件を満たさないため却下ですが。

ということで

特筆すべきような判断があったわけでもないけど、探せば38条に関する判例はあります。

 

けど、「判例じゃないと無意味」と主張する方々については、そもそも裁判を理解してないとしか思えないのよ。

 

結局。
どうでもいい話を一つ。結局のところ横断歩行者妨害については「違反不成立」で解決したわけですが、それに納得行かない人もいらっしゃる。凄い決め付けだなあ、とは思うけど。法律を正しく解釈することなく、違反にならないものを違反にするという法治国家と...

 

仮に裁判になったとしても、「下級審だから無意味」とか、「裁判官がおかしい」とか言い出すのも想像つくし。
「著者に都合がいい判例を集めただけ」などと言う人すらいる以上、だったら判例なんて価値がないんじゃないの?と。

 

ちなみに、おかしな裁判官、おかしな判例なんていくらでもあります。
今年の頭に話題になったコインハイブ事件についても、東京高裁は有罪判決でしたよね。
二審が画期的()な判決を出してしまい最高裁が取り消す事例もあるし。
信号無視の事案なんて、大阪高裁は「警察官が悪い」として裁判を打ちきりにしましたが、最高裁がきちんと正しましたよね。
あれも大阪高裁が画期的な判断したために、今後の交通取締が変わりかねない事案でした。

 

ということで今回はお開き。
ちなみに交通違反は「逃亡や証拠隠滅のおそれ」があれば逮捕されます。
違反事実を争う(否認する)のと、違反事実がないと考え立ち去るのは意味が違うので。

 






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