なんだか不思議な記事が配信されてます。
自転車を追い越すために「黄色のセンターライン」をはみ出すのは合法! では原付を追い越すのはアリ、ナシ?
誰だよこれを書いたのは…
自転車を追い越すために「黄色のセンターライン」をはみ出すのは違法!なんでこうなるメディアの報道!
記事によると、道路交通法30条で「軽車両を除く」とあることから、黄色のセンターラインを越えて自転車を追い越しするのは合法だとしてます。
第三十条 車両は、道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、他の車両(軽車両を除く。)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。
違う、違うんです。
30条は「追い越し禁止」。
種類 | 番号 | 標識 | 意味 |
追越し禁止 | 314の2
508の2 |
交通法第三十条の道路標識により、車両の追越しを禁止すること。 |
黄色のセンターラインは30条の規制内容ではありません。
では黄色のセンターラインはなんなのか?
種類 | 番号 | 標識 | 意味 |
追越しのための右側部分はみ出し通行禁止 | 102 | 黄色 | 交通法第十七条第五項第四号の道路標示により、車両が追越しのため右側部分にはみ出して通行することを禁止すること。 |
黄色のセンターラインは17条5項4号の道路標示。
第十七条
5 車両は、次の各号に掲げる場合においては、前項の規定にかかわらず、道路の中央から右の部分(以下「右側部分」という。)にその全部又は一部をはみ出して通行することができる。この場合において、車両は、第一号に掲げる場合を除き、そのはみ出し方ができるだけ少なくなるようにしなければならない。
四 当該道路の左側部分の幅員が六メートルに満たない道路において、他の車両を追い越そうとするとき(当該道路の右側部分を見とおすことができ、かつ、反対の方向からの交通を妨げるおそれがない場合に限るものとし、道路標識等により追越しのため右側部分にはみ出して通行することが禁止されている場合を除く。)。
「軽車両を除く」とは書いてないため、自転車を追い越すためにセンターラインを越えるのは違反になります。
なお、警察庁の公式見解はこちら。
警察庁丁規発第4号 令和4年1月28日
警察庁交通局交通規制課長追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制は、「「交通規制基準」の改正について(通達)」(令和3年11月30日付け警察庁丙規発第27号)の別添第12のとおり、見通しのきかないカーブ等の道路構造上危険な区間のほか、交通量が多く、追越しのための右側部分はみ出し通行による交通事故が多発し、又は多発することが予想される区間等で実施することとされている。
当該規制の実施区間においては、車両は自転車を追い越す場合であっても道路の右側部分へはみ出すことが禁止されることから、自転車の車道通行が多い区間において当該規制を実施した場合には、右側部分へのはみ出しを避けるため自転車との接触事故が発生するおそれがあるほか、自転車を追い越すための右側部分へのはみ出し通行による交通事故の発生も懸念される。
このため、自転車の車道通行が多い区間において当該規制が実施されている場合には、道路交通状況に見合った必要な規制区間となっているか改めて点検を行い、自転車の追越しのための距離を確保できる場合には当該区間において規制の解除を検討すること。また、追越しに必要な距離を確保できない道路の区間が連続している場合には、歩道の幅員に応じて自歩可規制を行うことや、道路管理者に対し、追越しのための車道の拡幅を働き掛けるなど、実態に即した見直しを検討すること。https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20220128.pdf
東京地方検察庁交通部の解説書はこちら。
問 法17条4項4号の「はみ出し禁止」は、軽車両を追越す場合にも適用されるのか。
答 適用されます。
法17条4項4号の「はみ出し禁止」は、追越し時における対向車との衝突事故を防止するために、道路の右側部分にはみ出すことを禁止したものです。したがって前車の種類に関係なく適用されます。
これに対して法30条の「追越し禁止」は、追越し行為に伴う危険を防止するため、追越しのための進路変更または前車の側方通過を禁止したものですから、前車が小さく、遅いもので、見とおしにさほど影響を与えない場合には、特に禁止する必要がありません。このことから法30条は前車が軽車両の場合、これを追越し禁止の対象から除外しています(前同質疑回答集9ページ)。
東京地方検察庁交通部研究会、最新道路交通法事典、東京法令出版、1974
※改正前なので項数が違う点に注意
ただし、以前も書いたように、パトカーもガンガン越えていきます笑。
これ、見通しがよくて対向車が明らかにいないなど危険がなければ、たぶん取り締まり対象にしてない模様。
ですが警察に聞くと違反だと明言される。
判例上は、こうなります。
論旨は、要するに、原判示第一事実について、被告人車は低速の先行車両が先に行くように指示して道を譲つてくれたため同車を追越すため道路右側部分に進出して進行したものであつて、その進出部分も僅かであり、何ら危険を伴うものではなく、かつ、巷間多く見られる通行方法に従つたものであるから、可罰的違法性がないのに、原判決が道路交通法17条3項に違反するとして同法119条1項2号の2を適用し、被告人を処断したことは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。
しかしながら、道路交通法17条3項、4項3号は、右側通行によつて具体的に交通の危険又は妨害が生じたか否かを問うことなく、所定の事由が存在する場合に限り右側通行を許容し、その他の場合の右側通行はこれを禁止し、もつて道路交通の安全と秩序を全体として確保しようとする趣旨の規定であると解されるから、右の禁止に違反する行為は、そのことだけで法の予定する違法性を具備するものというべきである。また、同法17条4項4号は、左側部分の幅員が6メートルに満たない道路において、他の車両を追越そうとする場合について、反対の方向からの交通を妨げるおそれがないなどの一定の要件のもとに特に右側部分の通行を許容しているけれども、同時に、道路標識等により追越しのため右側部分にはみ出して通行することが禁止されている本件のような道路については、右の通行は一律にこれを禁止する旨を明文で定めているのであるから、交通を妨げるおそれがないという理由で右側通行の違法性がないとの所論は、法に明示された趣旨に反するものというほかはない。したがつて、被告人車の追越しのための右側通行は違法というべきであるから、原判決が被告人の行為を同法17条3項違反とし、同法119条1項2号の2を適用して処断したことは、正当であつて、所論のような法令解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。
大阪高裁 昭和53年6月20日
※当時の17条4項は現行の17条5項とほぼ同じなので、判決文中の17条4項4号の除外事由というのは、現行法の17条5項4号のことを指す。
道路交通法と標識令は対応しているので、「30条の道路標識等」はなんなのかを調べないと間違いやすいのかも。
メディアは豪快に間違ってますが…
実態に合わない規制
ちょうど他の記事を書いているところでタイムリーな記事を配信されてました。
これ、ルールを厳格に解釈するならば自転車を追い越しするために黄色のセンターラインを越えたら違反なので、安全に追い越しできないときは後続車はひたすら追従するしかなくなる。
実態に合わない規制だと思ってます。
自転車としても、無理に至近距離で追い越しされるよりも、センターラインを越えて追い越しして頂いたほうがはるかに嬉しいわけだし。
なお、自転車の追い越し時には一定の側方間隔を空けなければなりません。
一定の側方間隔というのは、先行自転車の挙動や年齢、道路の見通しなどにより変わります。
実態としては取り締まりしてないみたいですが、実態に合うように改正した方がいいような気もする。
わざと自転車がブロックする事例すら聞きますし、それでいて自転車には「追い付かれた車両の義務」が課されてないし、18条1項には罰則がないので。
自転車の立場としては、ガンガンセンターラインを越えて安全側方間隔を保ち追い越しして頂いたほうがはるかに嬉しいです笑。
けど、理屈の上では違反切符を切れるわけなので、実態に合わないのでは。
私なんかは後続車が詰まるのが好きじゃないので、路側帯に入り先に行かせたりしますが、わざとブロックするマンが現れると悲劇としか。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
GJです。元記事は消されましたね。訂正ではなく全消しというのがなんとも呆れますが。
訂正で済むレベルの間違いではないので仕方がないでしょうが。
私も元記事を見かけ、はてブでコメントだけ残し、モヤモヤしつつ原著者にメールでも送ろうかと思ってたら記事が消えていて、検索したらこのブログにたどり着き、おそらくこれを読んで消したのでしょうね(笑)原著者が法学部出身なのも呆れますが。さて17条に関しては期待可能性で処理、黙認されているのではないでしょうか。
あるいは可罰的違法性、いずれにしても私はルールを明確化すべきではないと思います。日本の特殊な道路事情を鑑みて曖昧に処理せざるを得ない、それが最適解だと思ってます。
コメントありがとうございます。
あれ?消されたのですね。
実は教習所の関係者の方からも聞いたのですが、教習所レベルでも「自転車ならイエロー越えOK」と教えていることはあるようです。
たぶん加罰的な違法性はないとの判断なのかなと思いますが、裁判所はバッサリ切り捨ててますし、警察が裁量で黙認しているのが実情と思われます。
コメント早いですね(笑)突然元記事が消えてて炎上かと検索かけてみたらこちらの記事にたどり着いた次第です。同じテーマで検索すると教習所教官らしき人が「合法」と言い切ってる記事が見つかりますね、同じ30条解釈間違い。やれやれ。ちょうど数週間前に烏山自動車学校のTwitterで「片側二車線の道路←世間一般のイメージ 正しくは→」というプチバズった記事を見かけ、これまた突っ込みどころだらけで、車道と車両通行帯と車線境界線が区別ついてない間違いではないが一般道で車両通行帯が設定されツイートされたシチュエーションはありえない(一般道は違いますよねとのコメントに対して一般道も同じですキリッの返信があり)そこ丁寧に説明しなさいよと教習所にメールしたのですがガン無視されており、教習所でこのレベルかよとまぁそんなもんだろなとモヤモヤしてたところこのMOTOR-Fanの記事を見かけ、どこから突っ込んでやろうか、でも無駄だろなと諦めてたところこの顛末(全消し)なので楽しくなった次第です(性格悪いw)、話戻りますが、17条自転車追越時の黄色はみ出しに関しては逐条解説を見ても期待可能性がぼんやりとしか書かれてないんですよね。17条に軽車両を除くを追記法改正でルール明確化した場合の副作用を考えると(安全予見のはみ出し要件もまた厳格にならざるを得ないので現実的には都市部では追い越しが不可能になる)、現場警察官の裁量で非常識な運転手を選択的に処罰するのが現実的ではないでしょうか
コメントありがとうございます。
烏山自動車学校のTwitterも、ツッコミ入れるか悩みました笑。
ただまあ、車両通行帯ではない片側二車線道路の場合、18条1項を厳密に解釈すれば第一車線の通行義務があると言えなくはないので、あれはいろいろ難しいところです。
民事の判例では、車両通行帯ではない片側二車線道路の第二車線を通行していたことについて、「違反とは言えないが過失」としているものもあります。
期待可能性と道路交通法については、判例タイムズ1973/01/25発売号 (臨時増刊284号)に何ページか割いて書いてありますが、あまり真剣に読んでいませんでした。
ちょっと確認してみます。
最近古い解説書をみるのにハマってまして、立法当時や改正時にどのような考えから改正されたのかまで見ていくほうがタメになると思ってます。
判例は自転車だったんですか?車だったんですか?
素人の僕には何度読んでも自転車、軽車両なら良いという法律にしか読み取れないです…
①次の場合はみ出して追い越しできる
⑴6メートル以下のとき
⑵見通しが良く対向車を邪魔しない時
⑶追い越しを禁止する場所でないとき
※追い越しを禁止する場所について
「道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、他の車両(軽車両を除く。)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。」
判例で⑵が無視されてるのもよくわかんないですけど、条件を順番に見ていけば軽車両は「追い越しを禁止する場所」に含まれないと思います。
管理人さんは
>「軽車両を除く」とは書いてないため、自転車を追い越すためにセンターラインを越えるのは違反になります。
とおっしゃってますが、「追い越しを禁止する場所」の条件に軽車両を除くと書いてあります。
であるならば、追い越しを禁止する場所でない場合、とは当然軽車両は含めまないと読み取れます。
そこらへんが僕にはわかりません…
コメントありがとうございます。
何から引っ張ってきた資料なのかわかりませんが、黄色のセンターラインは「追い越し禁止」なのではなく、「追越しのための右側部分はみ出し通行禁止」(標識令 規制標識314、交通法17条5項4号)です。
自転車を「追い越しすること自体は」禁止されていませんが、黄色いラインを越えて「はみ出しての追い越し」については、先行車の種類を問わず禁止されています。
17条5項4号の要件と30条の要件を混同しているようですが、道路交通法の条文でご確認ください。
17条5項4号には「軽車両を除く」という除外要件がないため、こうなります。
この判例の全文はどこで見られますか?
こういう時って全文が見れるリンクや画像を張ってその後に一部の切り出しをしてくれないと根拠として弱いかと。
コメントありがとうございます。
判決年月日と裁判所名がわかれば判例検索サイトや判例雑誌等で各自調べるのが通常ですし、そのために判決年月日と裁判所名を書いているのですが、全ての判決文がインターネット上にあるとでもお考えなのでしょうか?
本当に重要な情報は、インターネット上にはないことは常識的だと思いますし。
図書館で調べることができる場合もありますし、「リンクや画像を張ってその後に一部の切り出しをしてくれないと根拠として弱い」というのは、いくらなんでも世間知らずな気がします。
何のために裁判所名と判決年月日を書いているのか、理解されるよう願います。