人の形をした信号機について質問を頂きました。
1、青信号の際に「右折」が書いてありません。横断歩道を横断して反対側に行き、歩道に上がらず車道を右を曲がって車道を進行することは禁止なのでしょうか?
2、赤信号の際に、青信号で可能な「左折」が禁止されていません。赤信号でも左折は可能なのでしょうか?
これ以前も書いたような気がします。
Contents
人の形をした信号機と自転車
青点滅は割愛。
信号の種類 | 信号の意味 |
人の形の記号を有する青色の灯火 | 二 普通自転車(法第六十三条の三に規定する普通自転車をいう。以下この条及び第二十六条第三号において同じ。)は、横断歩道において直進をし、又は左折することができること。 |
人の形の記号を有する赤色の灯火 | 二 横断歩道を進行しようとする普通自転車は、道路の横断を始めてはならないこと。 |
まず、「横断」の定義から。
「横断」とは、道路の反対側の側端または道路上の特定の地点に到達することを目的として、道路の進行方向に対し、直角またはこれに近い角度をもって、その道路の全部または一部を横切ることをいい、必ずしも道路の反対側の側端に到達することを必要としない。
木宮高彦, 岩井重一、詳解道路交通法、1977、有斐閣ブックス
先に赤信号の意味から。
これが可能なのか?という話だと思いますが、
「横断」は禁止なんですよ。
一部でも道路(車道)を横切るなら横断ですし。
なのでより正解にいうと、「左折を伴う横断」といえる。
後述しますが、道路外に出入するための左折には必ず横断を伴います。
次。
こういう意味かと思いますが、これは「横断」なので何ら問題ありません。
これを理解するには、現行25条の2第1項の改正歴史から振り返らないとよくわかんないと思います。
というよりも、様々な規定との整合性を取らないと理解できないことにやっと最近気がつきました笑。
25条の2第1項と横断
現行25条の2第1項はこれ。
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。
5つのプレイを規制しています。
②道路外の施設若しくは場所に出入するための右折
③横断
④転回
⑤後退
横断とは「道路の進行方向に対し、直角またはこれに近い角度をもって、その道路の全部または一部を横切ること」。
後退以外は全て横断の要素を含みます。
25条の2第1項って昭和35年時点ではこういう規定(当時は25条)。
第二十五条 車両は、歩行者又は 他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、横断し、転回し、又は後退してはならない。
「道路外へ出入するための右左折」が規定されていませんが、道路外への右左折は「横断」なんですよ。
この時代はまだ、道路外への右左折は「横断」に含めていて、しかも現行25条に相当する規定(左折するときはできる限り左側端に寄って…)がない。
しかも「できる限り左側端(道路中央)に寄って…」というルールもない。
この時代、「右左折」とは交差点のみで使うものとされていました。
けど左寄りから道路外に右折されるとろくなことがないため、昭和39年に「横断の方法」を新設。
この改正で規定されたのは「右横断の方法」のみで、「左横断の方法」は規定されていません。
右横断の方法には軽車両が除外されています。
第三節中第二十五条を第二十五条の二とし、同条の前に次の一条を加える。
(横断の方法)
第二十五条 車両(軽車両及びトロリーバスを除く。)は、右に横断するときは、あらかじめその前からできる限り道路の中央に寄り、かつ、徐行しなければならない。
2 右に横断しようとする車両(軽車両及びトロリーバスを除く。)が、前項の規定により、道路の中央に寄ろうとして手又は方向指示器による合図をしたときは、その後方にある車両は、当該合図をした車両(軽車両及びトロリーバスを除く。)の進行を妨げてはならない。
この時代は「道路外への右左折」ではなく、「左横断、右横断」と呼んでました。
昭和46年改正時に「左横断、右横断」を「道路外への右左折」と改め、さらに「道路外への左折方法」を新たに規定。
第二十五条の見出しを「(道路外に出る場合の方法)」に改め、同条第二項中「右に横断」を「道路外に出るため左折又は右折を」に改め、「(軽車両及びトロリーバスを除く。)」を削り、「前項」を「前 二項」に、「道路の中央」を「それぞれ道路の左側端、中央又は右側端」に、「したときは」を「した場合においては」に改め、「車両は」の下に「、その速度又は方向を急に変更しなければならないこととなる場合を除き」を加え、「進行」を「進路の変更」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項中「右に横断する」を「道路外に出るため右折する」に改め、「道路の中央」の下に「(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路の右側端)」を加え、同項を同条第二項とし、同条に第一項として次の一項を加え、同 条の付記中「第一項については」を「第一項及び第二項については」に、「第二項」を「第三項」に改める。
車両は、道路外に出るため左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、徐行しなければならない。
第二十五条の二第一項中「あるときは」の下に「、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし」を加え、
このような経緯で今の25条と25条の2になっています。
昭和46年改正の警察庁の資料でも、右左折という言葉は交差点以外でも使うことにしたとあります。
(ただし、軽車両の右折は除く)
で、「道路外へ出入するための左折」は必ず「横断」を含むので、赤信号の意味に「横断禁止」を入れればこれが規制できるわけ。
そして軽車両については「道路外へ出るための右折方法」が25条で規定されていないため、軽車両が道路外へ出入するために右折するというのは、全て25条の2第1項でいう「横断」で制御されてます。
なので下記も自転車にとっては「横断」になる。
もちろん赤信号では「横断禁止」なので、これはダメ。
「横断」というワードだけで道路外へ出入するための右左折を含むし、そもそも軽車両については道路交通法上「道路外に出入するための右折」という表現を用いていない。
<道路外への出るための右左折の変遷>
クルマ | 軽車両 | |||
道路外に出るための左折 | 道路外に出るための右折 | 道路外に出るための左折 | 道路外に出るための右折 | |
昭和35年 | 横断 | 横断 | 横断 | 横断 |
昭和39年 | (左)横断 | 右横断 | (左)横断 | 横断 |
昭和46年 | 道路外へ出るための左折 | 道路外に出るための右折 | 道路外へ出るための左折 | 横断 |
※39年時点では「左横断の方法」の規定はないが、便宜的に左横断と呼ばれていた。
「道路外に出入するための右左折」には必ず「横断」を含むから、赤信号で「横断禁止」にすれば自転車については横断歩道上でのプレイを封じることができる。
軽車両は「道路外へ出るための右折」から除外(25条2項)されているので、青信号の意味に「右折」を含ませるのは不適切。
軽車両が「道路外に出るために右折」することは、道路交通法上は昭和35年以来一貫して「横断」なので。
おそらくこういう意味で「人の形をした信号機」の意味を考案したものと思いますが、分かりにくいことだけは間違いないです。
私も以前は違う意味に捉えていたので。
・「道路外に出入するために右左折」するには、必ず横断の要素を含んでいる
・軽車両については「道路外に出るための右折」(25条2項)から除外されており、昭和35年以来一貫して「横断」と呼ばれている
これらを全て考えないと、意味がわからないです。
ポイントになるのは、昭和46年改正時に道路外に出入する横断を「右左折」と変えたものの、軽車両については右折ではなく横断のまま。
標識令の「車両横断禁止」から「道路外に出入するための左折」の意味が排除されているのも、そういう流れからなんだと思います。
種類 | 表示する意味 |
車両横断禁止 | 交通法第二十五条の二第二項の道路標識により、車両の横断(道路外の施設又は場所に出入するための左折を伴う横断を除く。以下この項において同じ。)を禁止すること。 |
「道路外に出入するための右左折」は元々「横断」であり、横断からさらに分けて規定したもの。
車両横断禁止の標識は、道路外から道路外に出る「全横断」と、道路外に出入するための「右横断」を規制していた標識なので、いまだに「車両横断禁止」としている。
そういう時代に出来た名残というだけでしょう。
右折を伴う横断を規制する理由もないし。
横断直後に交差点なら、「交差点進入禁止」でカバーできるだけだし、左折先が交差点ならどうするんだという疑問も解決できる。
道路交通法って既に出来上がっている現行法だけをみてもイマイチ理解しにくいと思ってまして、改正歴史から振り返らないとよくわかんないものがそれなりにあります。
代表例は「追いつかれた車両の義務」とか、「38条2項」とか、「38条1項」とか。
追いつかれた車両の義務と軽車両が除外された理由なんかも、歴史から見ていくとやっと整合性が取れますが、現行規定だけみてもなんだかよくわからない。
人の形をした信号機の意味についても、青信号で「左折」を入れないと「道路外に出入するための左折」の意味がなくなるし、軽車両にとっての「道路外に出入するための右折」は「横断」でしかないのだから「右折」を入れなくても問題ない。
赤信号は全て「横断禁止」で「道路外への右左折」も含め制御できる。
たぶん赤信号に「左折禁止」を入れると、「右折は禁止されてないジャマイカ!」みたいなアホが現れて面倒なんじゃないですかね笑
けど紛らわしいし、青信号の意味に「左折」を入れなくてもいいんじゃないかとすら思いますが…
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
道交法施行令第二条で青色の灯火に二段階右折の原付と軽車両の直進には二段階右折の方向転換までが含まれるとなってるので軽車両に含まれる自転車の直進も自然とそう言う意味になると思います
コメントありがとうございます。
確かに、そっちからも導けますね。
自転車の通行についてこの記事を読み疑問に思ったことなのですが
もし仮に南北方向の自転車歩道通行可の道で西側の歩道を自転車でみなみ方向へと走行している状況で、信号のある交差点で東西方向の歩道のない道を東側に向かいたいとして、この場合自転車は東西方向の道へと出る際も横断を行うことになることから二段階左折を行わなければならないということになるのでしょうか。
恐れ入りますが「二段階左折」の意味がよくわかりません。
お話からすると、道路右側にある歩道を南下して交差点に達したわけなので、歩道の中で左方向(東向き)に向きを変え、横断歩道もしくは車道の信号に従って東方向に「横断」すればよいので、二段階左折という意味がよくわからないです。
歩道の中で左方向に進行方向を変え歩行者信号に従い東方向に横断する場合は歩道から車道へと出るにあたり東西方向の道路を横断して車道に出ることから、歩道から車道に出た後車道の信号に従い東方向に横断する場合は歩道から東方向の車道に出る際に東西方向の道路を横断して車道に出ることになることから、どちらにしても交差点を二段階で曲がることになるのではと思い、これを差して「二段階左折」と書かせていただきました。
そのような場合には南北方向の信号に従うことなく東西方向の信号にのみ従い東方向に進行してよろしいのか、それとも東西方向の車道に出る際に東西方向の道路を横断することになるため南北方向の信号にも従わなければならないのかどちらか、というのか不明で質問させていただいた次第です。
これは解釈上、なかなかややこしいのですが、交差点の範囲はこちらになります。
ようは南北道路を東向きに横断する行為をどうみるかの問題にもなりますが、「横断歩道を横断」でもあるし、一方では「交差点を東向きに進行」とも取れることになります。
平成20年道路交通法施行令改正以前は、横断歩道を横断する自転車が従うべき信号は「車道」になっていたことからみても、両者の概念は重なるものと捉えることができますが、東向きに横断したまま東西道路に進行することは何ら問題がないので、南北方向の信号に従うことなくそのまま進行して構いません。
結局、自転車が歩道通行を可能にしたことから、純粋に道路交通法を当てはめようとすると「どちらにも取りうる解釈」が存在することになり、ちょっとややこしいのです。
先日書いたこちらにしても、
https://roadbike-navi.xyz/archives/39751/
純粋に道路交通法の概念で考えても、両方の解釈を取りうる余地がある上、民事の過失を考える上ではまた違った価値観が働くのが事実。
なので、ご質問の件については、信号の意味(施行令2条)としての概念だと考えた方が整理しやすいかもしれません。
さらにいうと、横断歩道以外の場所で歩道から車道に降りる行為は信号に規制されないという問題もあるのですが、信号の意味に「左折」を入れたから分かりにくいのかと思っています。