先日の記事について回答編。
ノロノロ自転車を追従する車
時速10キロ程度で進行する自転車に、A車が追い付きました。
センターラインが「はみ出し追い越し禁止(17条5項4号)」なので仕方なく追い越しせずに追従。
自転車とA車が時速10キロ程度で進行中に、B車が追い付きました。
B車からするとなぜA車がノロノロ運転しているのか見えませんが、A車とB車の関係性において、A車には「追い付かれた車両の義務(27条2項)」が生じますか?
A車には「追い付かれた車両の義務(27条2項)」が生じますか?
この状況で義務があると解すると、渋滞のノロノロ時には常に追い付かれた車両の義務があると解することになり不合理です。
とはいえ、「はみ出し追い越し禁止」については、
○先行車両が自転車
○対向車が明らかにいない
この二点を満たすなら、取り締まり対象にしていないようです。
自動車学校でも「基本的には問題ない」というスタンスで教えているみたい。
車両通行帯ではない片側二車線道路
車両通行帯ではない片側二車線道路があります。
遠く離れた交差点の右折レーンが詰まっているらしく、第二車線は渋滞して動きません。
そんな中、おじいさんが第一車線を原付に乗り、時速15キロ程度で進行していました。
そうしたところ、おじいさんの原付の後ろから法定速度で進行する車が追い付きました。
原付には「追い付かれた車両の義務(27条2項)」が生じますか?
立法趣旨から考えて法を厳密に適用するなら義務があると解するほうが適切なんですが、このケースは「遠く離れた交差点の右折レーンが詰まっているらしく、第二車線は渋滞して動きません」という条件付けをしています。
何キロも第二車線が埋まっているわけでもないし、そのまま追従すればいいのでは。
なお、二車線が車両通行帯ではなくても、交差点手前30mは進行方向別通行区分(車両通行帯)になることがほとんどなので、車両通行帯部分では追い付かれた車両の義務はありません(そもそも交差点手前30mは追い越し禁止だけど)。
逆パターン
質問2の逆パターンです。
同じく、車両通行帯がない片側二車線道路。
第一車線が大型ショッピングセンターの駐車場待ちで大渋滞。
第二車線を時速15キロ程度で進行する原付に車が追い付いた場合、原付には27条2項の義務が生じますか?
上の状況で、原付には27条2項の義務が生じますか?
仮に義務が発生すると解釈した場合の「できる限り左側端」とは第二車線の左側端になるのですが、どちらにせよ「第一車線が大型ショッピングセンターの駐車場待ちで大渋滞」という条件付けをしていますし、しばらく走行して待てば第一車線の渋滞は切れますからそのまま追従するしかないでしょう。
27条もそうだし、34条1項の左折前もそうだけど、「できる限り」と置いているのには理由があります。
例えば鋭角の交差点の場合、左側端に寄ると大型車は物理的に曲がれない。
「できる限り」とは、道路や交通の状況等に鑑み支障のない範囲における可能な限度を意味する。
木宮高彦、岩井重一、詳解道路交通法、有斐閣ブックス
「左側端に寄って」と規定すると物理的に曲がれない車両が出るので、あえて「できる限り」としていることに注意。
「左側端に寄って」と「できる限り左側端に寄って」では、後者のほうが右寄りになるケースもあり得る。
第一車線が埋まっている以上、27条でいうところの「できる限り左側端」は第二車線の左側端と解することになりますが、あんまり現実的じゃないのよね。
なので、「明らかではない」というのが答え。
18条1項の「左側に寄って」
ちょっと前にこれが話題になっていました。
片側二車線の道路
←世間一般のイメージ 正しくは→ pic.twitter.com/lmI3ESXERb— 烏山自動車学校 (@KarasuyamaDS) August 11, 2022
車両通行帯がある道路なら、20条1項により「第一通行帯通行義務」があるので、Twitterの説明は正しい。
さて「車両通行帯ではない片側二車線道路の場合」、18条1項により車は第一車線を通行する義務がありますか?
18条1項の解釈は、軽車両は左側端、車や原付は「軽車両が通行する左側端を空けた上で左側に寄ること」。
車両通行帯ではない片側二車線道路の場合、車は第一車線の通行義務がありますか?
※もちろん、右折前や追い越し時は除外して考えます。
18条1頃の「左側寄り通行義務」と、20条1項の「第一通行帯通行義務」はどちらもキープレフトと呼ばれます。
これ、法の趣旨はどちらも同じなので本来は分けて考える問題ではないのですが、法の趣旨は遅い車両が左側に寄って右からの追い越しを促す点にある。
それにより追い越し方向を右側にして円滑性と安全性を担保する趣旨。
もっとも、厳密に述べるならば、「道路の左側」は「道路の左側端」を含むので、「道路の左側端に寄って通行する」ことは、「道路の左側に寄って通行する」こととなる。したがって、当該道路を軽車両が通行していない場合、自動車及び原動機付自転車は、道路の左側端に寄って通行することも差し支えない(もっとも、自動車や原動機付自転車は、軽車両に比べて走行速度も速いので、あまり左側端に寄り過ぎると交通安全上適切とはいえない)。
そもそも「キープレフト」の原則は、道路の中央部分を追越しのために空けておくという考え方によるものであり、道路の幅員が不十分な場合には、自動車等は相対的に左側端に寄ることになるであろうし、幅員が十分であれば、左側端側にそれなりの余裕を持って通行することとなろう。また、現実に軽車両が通行しているときは、自動車等は左側端に寄り難く、相対的に道路の中央寄りの部分を通行することになろう。このように「道路の左側に寄って」とは、あくまでも相対的な概念であり、具体的な場所が道路のどの部分を指すかは、道路の幅員及び交通状況によりある程度幅があるのである。
道路交通法研究会 注解道路交通法【第5版】、立花書房
ただまあ、交通量が多い一般道では第一車線を走行車線、第二車線を追い越し車線と考えることが不合理な面も多いため、車両通行帯ではない複数車線道路については、判例上あまり厳格に考えていないような。
○福岡地裁小倉支部 昭和48年1月19日
第一車線をトラック(被告)が、第二車線を原付(原告)が走行していました。
トラックが第一車線の先行車を追い越すときに、第二車線の原付を見逃して進路変更した際に衝突した事故です。
本件事故現場は道路左側が2車線になっており、そのうち、少なくとも事故直前の時点にあっては、道路中央線から遠い車線、即ち道路左側から数えて1番目の車線(以下便宜「第1車線」という)上を被告のトラックが、道路中央線に近い車線、即ち道路左側から数えて2番目の車線(以下便宜「第2車線」という)の梢第1車線寄りの部分を原告が、いずれも同一方向に、殆ど近接した状態で併進したこと、被告は第1車線上の他車輛を追越すため後方を確認したが、その確認状態が杜撰で不十分であったため原告に気付かず、事故現場直前約13.8mの地点で第2車線に進路変更のための方向指示器を挙げて追越にかかり車体が約半分第2車線に出たところで直進してきた原告に接触したこと、しかし右の第1、第2車線は道路交通法第20条所定の車両通行帯ではないこと、即ち、右両車線の中央を仕切る境界線は道路標識、区画線及び道路標示に関する命令別表第四(区画線の様式)(102)所定の車線境界線であって、道路管理者である建設省において便宜表示した記号にすぎず、之と若干まぎらわしい記号ではあるが、同命令別表第六(道路標示の様式)(109)1(1)所定の、公安委員会が危険防止のため設定表示した車両通行帯境界線ではないこと
(中略)
右認定の事実に基づいて被告主張の原告の過失を考えるに、(中略)原告単車が第二車線を走行したことが違法であるとの点については、前示のとおり、右第二車線が車両通行帯ではない以上、原告が道路交通法第18条所定の道路の左側を走行したことに変りはないのであって同法律違反の所為ではなく、この点の被告の主張も失当である(なお、第二車線は高速道路における追越車線ではないから、追越以外に使っても違法ではない。)。
然し乍ら当裁判所は本件の場合、第二車線走行自体において過失の責任を免れないものと考える。即ち原告の第二車線の走行が仮令道路交通法上適法であるとしても、事故現場は各種車両の交通頻繁な箇所であるから、最高速度時速30キロメートルの原動機付自転車は、同法第18条の立法趣旨を尊重し、軽車両同様できるだけ第一車線上の道路左側端を通行して事故の発生を未然に防止すべきであり、(以下略)
昭和48年1月19日 福岡地裁小倉支部
車両通行帯ではない片側二車線道路について、第二車線を通行することが18条に違反しないとしながらも、立法趣旨から考えて速度が遅い原付は第一車線の左端を走るべき過失を認めています。
○名古屋地裁 平成26年9月8日
この判例は片側二車線道路(法定速度60キロ)の第二車線を通行していた被告車(時速40キロ程度)が先行していて、時速70キロ程度で第二車線を進行してきたオートバイが転倒し衝突した事故。
夜間、左カーブの道路で、オートバイの主張としては「先行する被告車が第一車線から第二車線に車線変更したために転倒した」として損害賠償請求した事件です。
この判例では、そもそも被告車が車線変更した事実はないとし、被告車が通行していた第二車線は車両通行帯ではないし右折を予定していたことを考えると左側寄り通行(18条1項)に反したとも言えないとして、請求棄却。
全過失はオートバイにあるとした判例です。
なお車両は車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて1番目の車両通行帯を通行しなければならない(道路交通法20条)が、本件道路について、車両通行帯(同2条1項7号)が設置されていることを示す証拠はない(車線境界線は、直ちに車両通行帯になるわけではない)し、右折を予定していたことを踏まえると、ただちに左側寄り通行等の規制に反していたともいい難い。
そうすると、被告において第2車線を走行していたこと自体に何らかの過失を見いだすことも困難といえる。
名古屋地裁 平成26年9月8日
右折を予定していたことを理由にしているので18条1項但し書きを適用しているため、あまり参考にはなりませんが、右折先交差点まではまあまあ距離があります。
○岡山地裁 昭和45年4月22日
この判例は片側三車線の道路にてUターンしようとした先行大型車と、第三車線を通行していた原付が衝突した事故。
事故態様はこちら。
被告は時速約30キロメートルで北進中、同道路を反転して引返す気になつたがいわゆるユーターンはむつかしいと思われたので、同交差点南詰から約20メートル手前にある西側に入る路地にいつたん後退したうえあらためて方向転換(いわゆるスイッチターン)しようと考え、同交差点の南方約50メートルの地点から方向指示器により右折の合図をしながら、左側車道のほぼ中央付近を約28メートル直進して前記西側路地入口前付近に達し、右前部バックミラーにより右後方を一応見ただけで後続車両の有無を十分確認することなく、時速約15キロメートルで急にハンドルを右に切り3ないし4メートル前進し車両前部が道路中央線あたりまで進出し、折りから加害車両の右側または右側後方を直進してきていた被害車両の進路に立ちふさがる状態となつたため、被告車両はこれを避けることができずそのまま衝突を見たことを認めることができる。
被告の主張としては、原付が第三通行帯を通行していたことが違反だとしています。
被告の主張の一部。
本件事故は亡被害者の一方的過失により生じたもので、被告は無過失である。
すなわち、本件現場の道路は三つの通行区分帯が設けられていて、被告は加害車両を運転し衝突地点の約27メートル手前から右折の信号を出し、徐行しつつ道路中央に寄りユーターンを始めつつあつたとき、亡被害者運転の被害車両が第三通行帯を高速度で進行して加害車両の後部に衝突したものである。右事実によれば、亡被害者は第一通行帯を進行すべきであるのに第三通行帯を進行したばかりでなく、前方注視を怠り右折の信号を無視し、かつ必要な車間距離をとらないで高速で進行した重大な過失があり、右過失がもつぱら本件事故を生じさせたということができる。若しそうでないとすれば、被害車両に重大なブレーキの故障があつたのにこれを看過して運転した過失があるというほかない。
これに対し裁判所の判断がこちら。
なお被告は亡被害者に重大な過失の存ずる根拠の一つとして、原付自転車に登場していた同人が本件事故現場に設置されていた3本の通行区分帯中左端の第一通行帯を進行すべきであるのに(道交法20条1、3項、同法施行令10条1項2号)右端の第3通行帯を進行した旨主張するが、【証拠略】によれば本件事故現場に設けられている前記2本の白線は岡山県公安委員会が正式の車両通行帯として設置したものではなく、道路管理者たる建設省岡山国道工事事務所が通行車両の便宜を考慮して設けた事実上の車両境界線に過ぎないことが認められるから、両被告の主張はその前提を欠き理由がないものと言うべきである。
岡山地裁 昭和45年4月22日
車両通行帯ではないからという理由だけで、左側寄り通行義務には触れてないのでビミョーですが。
車両通行帯ではない複数車線道路にて、第一車線を走行車線、第二車線を追い越し車線と明確に区別しているような判例は見当たりません。
仮に第二車線を通行していたとしても、違反ではないが過失にはなりうるくらいの扱いとも取れますが、18条1項の趣旨からすれば原則としては第一車線の通行義務があると解するのが適切かと。
18条1項に罰則がない理由は、どこまでが左側端でどこからが左側寄りなのか道路によって明らかではないことが理由になります。
法の趣旨通りに厳格な解釈が馴染まない面もあるので、車が第二車線を通行することがただちに違反とも言えないビミョーな存在です。
答えは
ぶっちゃけた話、一番目の質問以外は明確な答えがないに等しい。
複数車線の追い付かれた車両の義務も、理屈の上では車両通行帯ではない以上は義務が発生する余地がありますが、そもそも追い付かれた車両の義務って取り締まり対象とも思えないため、あんまりいい判例もない。
18条1項についても、複数車線道路の場合「左側寄り」とは何なのか?となりますが、法の趣旨としては「道路中央から軽車両の通行部分を空けて左側に寄ること」。
それが必ずしも第一車線のみと解釈するにも無理があります。
結局何を言いたいかと言いますと、道路の現状と道路交通法を組み合わせて検討したときに、正解がわからない場面が多々あるのです。
判例と道路交通法上は、車線境界線を車両通行帯とみなして20条1項を適用することは否定している。
けどそもそも、18条と20条は立法趣旨自体は同じなので、車両通行帯ではない複数車線道路でも車やオートバイは第一車線の通行義務があると解するほうがいいのかもしれません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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