二週間くらい前に、ちょっと古い本を買いました。
自動車による業務上過失(重過失)致死傷事件に関する刑事裁判例集
だいぶ古い本でして昭和60年発行なんですが、交通事故の刑事判例のみを集めたもの。
たまたま見つけたのですが、掲載判例数は358件。
ただし、要旨しか書いてない判例もあります。
法曹会が発行者なのですが、編集したのが最高裁判所。
最高裁が選抜した判例ってどんな感じなのかと思ったのと、ある判例が載ってないか期待して買いました。
当時の定価が2350円とありますが、古本で送料込みで1000円くらい。
重要判例はきちんと押さえてあるし、知らない判例も多々あったのは良かったけど、期待した判例は掲載無し。
まあまあ面白いのは、「信頼の原則を認めなかった判例、右折」みたいに事例ごとにまとめてあるところ。
昭和の判例ってややむちゃくちゃな面もあって、昭和40年代頭に最高裁判所が信頼の原則を認めてから、昭和40年代の判例は信頼の原則が多い。
というよりも、制限速度を30キロオーバーで赤信号無視した自転車と衝突した判例では、30m以上手前で被害自転車の信号無視を見つけていたにもかかわらず、信頼の原則を適用して無罪(大阪高裁)。
「歩行者横断禁止を破った歩行者」対「制限速度をはるかに超過し新聞読みながら運転したクルマ」では、信頼の原則を適用して無罪(東京地裁)。
執務資料に掲載された38条と自転車の判例についても、信頼の原則を適用して無罪。
こちらでも書きましたが、説示内容はやや不適切です。
おそらく執務資料の執筆時にいい判例がなかったからこれにしただけなんじゃないかと思いますが、
どうせなら、こっちを載せるべきでしょう。
横断歩道を横断する自転車に優先権がないことを確認しつつ、「ちゃんと見ていりゃわかるだろドアホ!」とした判例です。
この判例は信頼の原則を否定しています。
信頼しすぎた判例もあるので、執務資料はいくつか判例を差し替えたほうがいいと思う。
こちらの判例についても、警音器吹鳴義務があったか?というやり取りがありますが、
一時停止して数メートル先にいるのだから、窓を開けて声を掛ければ解決する話でしかない。
道路交通法違反ではなく業務上の注意義務違反を争うのだし、検察官の腕が悪いような…
以前挙げた徳島地裁の判例にしても、世間では信頼の原則を認めた判例という扱い。
中身を見ると、約12キロの速度超過を併存過失としないと検察官が主張したため、法定速度で運転した場合に回避可能だったかは一切争われていない。
しまいには「横断歩道が赤信号でも38条の義務がある」と主張して惨敗。
古い本なのですが、道路交通関係の重要判例はきちんと押さえてあるし、実質1000円くらいで買えるので、興味がある人はどうぞ。
本の価値としては1万円分くらいありそうですが、古本なので1000円ちょっとで買えます。
定価が2000円ちょっとですけど笑。
途中カピカピになっていたりするのは、前の持ち主が○○った可能性がありそうです。
ところで
例えばですがこちら。
自転車横断帯すぐ横の横断歩道を青信号で横断した自転車と、左折車の事故です。
二審で差戻しになり、差戻し後の東京地裁で無罪。
無罪ですが、民事の過失割合でいうなら95:5、多少修正されてもクルマの過失は90%は行くでしょう。
無罪と民事無過失は別問題ですから。
人々の行動の目安って、むしろ民事の過失割合なのかなと思ってまして。
他国の過失割合と日本の過失割合の違いは、道路交通法の違いではなく民事法の差。
フランスなんかは、「許し難い過失」しか被害者の過失にしないらしく、許し難い過失の中には信号無視は含まれていないらしい。
日本は民法の規定をそのまま使うので、どうしても細かい過失まで争う結果になる。
このあたりの考え方もまあまあ面白いですが、また今度。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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