自転車とクルマの衝突事故があったようですが。
ちょっと気になる点について、「双方の義務」から確認してみます。
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事故現場と双方の義務
事故現場はこちら。
イラスト化してみました。
報道から読み取れる事故態様はこうかと。
自転車には一時停止規制があり、クルマが通行していたのは交差点内にセンターラインがある優先道路(36条2項)。
歩道によりますと、こうなっています。
現場は、片側1車線の見通しの良い道路で、近くに横断歩道がありますが、自転車は横断歩道がない場所を渡っていたということです。
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さて。
横断歩道を横断していなかったとのことですが、自転車は横断歩道を横断する義務はなく、38条1項でも「横断歩道を横断する自転車」は保護の対象外。

ただね、クルマの破損具合をみるに「38条1項の違反」が疑われてしまう案件なんですよ…
理由を説明します。
38条1項前段って、こう。
第三十八条 車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。
※分かりやすくするために自転車横断帯と自転車を省略。
クルマの進行方向から見て横断歩道左側は明らかに死角。
なので、「横断しようとする歩行者が明らかにいない」とは到底言い切れない以上、かなり減速して横断歩道に接近しない限りは「38条1項前段」の義務違反になります。
なお、自転車には一時停止義務があることは当然です。
クルマの義務 | 自転車の義務 |
38条1項前段(減速接近義務) |
43条(一時停止義務) 36条2項(優先道路進行妨害禁止) |
果たして?
たぶんこの判例が分かりやすいけど、

横断歩道の見通しが悪ければ、歩行者の有無に関わらず減速接近しないと38条1項前段の義務違反。
進行道路の制限速度が時速約40キロメートルであることや本件交差点に横断歩道が設置されていることを以前から知っていたものの、交通が閑散であったので気を許し、ぼんやりと遠方を見ており、前方左右を十分に確認しないまま時速約55キロメートルで進行した、というのである。進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者がないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があったことは明らかである。結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない。もちろん、同条項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない。しかし、だからといって、このような自転車に対しておよそその安全を配慮する必要がないということにはならない。
東京高裁 平成22年5月25日

前記2で認定した事実を前提として,被告人の過失の有無を検討する。車両等の運転者は,「横断歩道等に接近する場合には,当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者や自転車がないことが明らかな場合を除き,当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。」(道路交通法38条1項)ところ,前認定のとおり,本件交差点は前記石垣のため見通しも悪かったのであるから,被告人に本件横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない注意義務があったのにこれを怠った判示の過失の認められることは明らかというべきである。
なお,被告人は,被害者が飛び出してきた旨主張するが,被害者が本件交差点の南側道路から一時停止することなく交差点に進入してきた旨の主張であるとすれば,本件事故の直前,一時停止の白線付近で自転車にまたがって止まっている被害者の姿を目撃した旨の信用性の十分な前記証人Cの証言に照らし理由のないものであるし,前認定のとおり,被告人車両が②地点から衝突地点(③地点)までの約13.5メートルを進行する間に被害者は自転車で約1.5メートル進行しているに過ぎないから,被害者の自転車が急な飛び出しといえるような速度で本件交差点に進入したものでないこともまた明らかである。
神戸地裁 平成16年4月16日
要は38条1項前段って、見通しが悪ければ減速接近義務が問答無用で生じる。
最終的に歩行者がいなかったから免除されるものではない。
結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない
東京高裁 平成22年5月25日
なので、クルマが38条1項前段の義務を果たしていたかがまずポイントになり、減速接近義務を果たしていても防げない自転車の突入だった場合以外は刑事責任を負う可能性が出てきます。
減速接近義務を果たしていたら急停止可能な事故だと判断される可能性がある。
もちろん、自転車が一時停止義務違反の可能性と、優先道路の進行妨害(36条2項)が疑わしいとはいえ、クルマが減速接近義務(38条1項前段)を果たしていたかがまずポイントになる。
そして減速接近義務を果たしていたら防げた事故だった場合には刑事責任を問われることになります。
38条1項の法意
38条1項は横断歩道を横断する自転車を対象外にしていますが、
自転車に乗り横断歩道を横断する者は、この規定による保護は受けません。
法の規定が、横断歩道等を横断する歩行者等となっており、横断歩道等の中には自転車横断帯が、歩行者等の中には自転車が含まれまれているところから設問のような疑問を持たれたことと思いますが、法38条1項の保護対象は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車であって、横断歩道を横断する自転車や、自転車横断帯を横断する歩行者を保護する趣旨ではありません。ただし、二輪や三輪の自転車を押して歩いているときは別です。
つまり、あくまでも、法の規定(法12条、法63条の6)に従って横断している者だけを対象にした保護規定です。
道路交通法ハンドブック、警察庁交通企画課、p2140、ぎょうせい
「歩行者に向けた」減速接近義務があり、「横断しようとする歩行者が明らかにいない」と言い切れない場合には減速接近義務を免れない。
これにより、自転車が飛び出してきても事故は回避できる場合があるわけ。
なので、報道にある部分。
現場は、片側1車線の見通しの良い道路で、近くに横断歩道がありますが、自転車は横断歩道がない場所を渡っていたということです。
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どのような意図の報道なのかは知りませんが、この文言をみて咄嗟に感じたのはこれ。
結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない
東京高裁 平成22年5月25日
見通しが悪ければ歩行者が現にいたかいなかったかは関係なく「減速接近義務」があるわけなので、横断歩道からさほど離れていない場所であれば、「38条1項前段の減速接近義務+安全運転義務」の範疇で一定の保護対象になる。
仮に減速接近義務を果たしていて、それでも回避不可能なタイミングで自転車が飛び出してきたというなら別ですが、ポイントになるのは実は「38条1項前段」。
自転車は小学生とのことですが、小学生ってやっぱり飛び出すのですよ。
民事責任は別として、「クルマが悪くない」と言い切るには「減速接近義務を果たしていたか?」になります。
これ、38条1項前段を理解しているかどうかで全く話が変わるので、注意しましょう。
「自分は優先道路だし悪くない!」と言い切るには、「歩行者に向けた減速接近義務」を果たしていたけど防げない場合のみですから。
なお、自転車には一時停止義務があることは当然です。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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