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追い越し方法違反の故意と過失。

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だいぶマニアックな質問を頂いたのですが、追い越し方法違反(28条4項)って故意の処罰規定のみで過失の処罰規定がないじゃないですか。

(追越しの方法)
第二十八条
4 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条において「後車」という。)は、反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

故意と過失ってどうやって分けるの?という話。

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追い越し方法の故意と過失

要は「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」についての認識が必要なのか?危険な速度や方法で追い越ししたことの認識が必要なのか?という話になるかと思いますが、ちょっと知らべた限りでは「追い越ししたこと」の認識があれば、「できる限り安全な速度や方法で進行しなかったこと」の認識までは不要かと。

 

理由はこちら。

 

飲酒運転罪にはこのような規定があります。

第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの

故意の成立に「正常な運転ができないおそれがある状態」であることの認識が必要なのか?という話になりますが、以下最高裁判例があります。

所論引用の東京高等裁判所昭和35年8月29日判決(高刑集13巻6号513頁)は、旧道路交通取締法7条2項3号、28条1号の規定する酒酔い運転の罪が成立するた
めには、「酒に酔つているために正常な運転ができない虞があることを行為者において認識していなければならない。」と判示しているが
、これに対して、原判決は、道路交通法65条、117条の2第1号(昭和45年法律第86号による改正前のもの、以下同じ)の規定する酒酔い運転の罪について、同法条にいう「酒酔い」すなわちアルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれのある状態は、「酩酊の程度が客観的評価においてそのように認められれば足り、必ずしも被告人自身がこれを認識するの要はないものと解する」としているのである。そして、右に挙げた旧道路交通取締法の条文と道路交通法の条文とは、規定の内容において同じ趣旨のものであるから、原判決は前記東京高裁の判例に相反する判断をしたものといわなければならない。しかしながら、右の各条文に規定されている酒酔い運転の罪が成立するために必要な故意の内容としては、行為者において、飲酒によりアルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足りるものと解すべきであつて、アルコールの影響により「正常な運転ができないおそれがある状態」に達しているかどうかは、客観的に判断されるべきことがらであり、行為者においてそこまで認識していることは必要でないものといわなければならない。

 

最高裁判所第一小法廷 昭和46年12月23日

飲酒運転罪の成立ってこの最高裁判例以前は争いがあったみたいなんですが、道路交通法違反の故意と過失を分ける上では重要な判例らしい。
要はアルコールを身体に入れたことの認識があれば故意は成立し、「正常な運転ができないおそれがある状態」に達しているかどうかは客観的に判断されるものであって「正常な運転ができないおそれがある状態」に達しているかどうかの認識までは不要。

 

追い越し方法違反(28条4項)って、安全運転義務(70条)の特別規定。
追い越し時安全運転義務と言い換えても構わないと思うけど、同様に「交差点安全進行義務」(36条4項)は70条の交差点での特別規定です。

 

「交差点安全進行義務」(36条4項)も故意の処罰規定のみで過失の処罰規定がありませんが、故意の成立は「交差点であることの認識」のみで足りるとされます。

(交差点における他の車両等との関係等)
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

法36条4項は,交差点に入ろうとし,及び交差点内を通行する車両等の運転者に対し,当該交差点の状況に応じ,交差道路を通行する車両等,反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し,かつ,できる限り安全な速度と方法で進行すべきことを義務付けている。これは,交通上特に危険性の高い場所である交差点(その付近を含む。)における事故防止という見地,目的から,交差点に入ろうとする車両等の運転者に対し,一般道路とは異なる特別の注意義務を規定したものであると解される。このような同項の趣旨に加え,同項が「当該交差点の状況に応じ,」と定めていることからすれば,同項は,交差点に入ろうとし,及び交差点内を通行する車両等の運転者に対し,当該交差点の具体的形状を含む当該交差点の状況を正確に認識・把握した上で,その認識・把握したところの交差点の状況に応じた安全進行を義務付ける趣旨であると解される。
したがって,車両等の運転者が,当該交差点の具体的形状を認識・把握することが客観的に可能であったにもかかわらず,これを誤認したため,交差道路を通行する車両等に気付かず,安全な速度と方法で進行すべき義務を怠ったような場合には,当該交差点の状況に応じた安全進行をしなかったものとして,法36条4項の規定の違反になるものと解すべきであり,交差点の具体的形状の認識に欠けるとして同項の規定の違反にはならないとの解釈を取ることは相当でないというべきである。すなわち,同項の規定の違反となるような行為に該当するためには,交差点を認識した運転者において,当該交差点の具体的形状を認識することが客観的に可能であることを必要とするとはいい得ても,当該交差点の具体的形状を実際に認識していることは必要がないと解するのが相当である。

 

東京地裁  平成28年12月9日

36条4項の故意の成立には交差点であることを認識すれば足りるという解釈なので、28条4項(追い越し方法違反)についても追い越ししていることを認識、つまり追い付いてから進路を変えるという動作があれば足りるという解釈なんだと思いますよ。
「できる限り安全な速度や方法で進行しなかったこと」の認識までは不要で、それは客観的に判断されるもの。

 

進路を変える動作をしているのに追い越ししている認識がないなんてあり得ないでしょうし。

 

一応、判例タイムズ284号の道路交通法特別編に「故意の内容」(広島高裁判事 片岡氏)の論文がありますが、それを見る限りは上で書いたような解釈になるかと思います。

ところで

道路交通法の規定って、

 

「一定の状況」において「特定のプレイを義務付け」or「特定のプレイを禁止」

 

というものがほとんどですが、要は義務が発生する「一定の状況」を認識すれば故意に欠けるところはない。
義務が発生する状況さえ認識すれば、義務を果たすことを求めているのだから。

 

以前、「横断歩道が赤信号でも38条1項の義務がある。しかし通常は信頼の原則で減速接近義務を果たさなくてもよい」などと言っていた人がいましたが、条文を読めばわかるように、減速接近義務は「横断歩道に接近していることを認識」すれば義務が発生する。
信頼の原則は過失犯の注意義務を制限するものなので、彼の理屈は支離滅裂過ぎて話にならない。

 

赤信号の横断歩道でも38条の義務があると捉えたら、横断歩道に接近していることを認識した時点で義務があると解釈するしかないのであって、故意の問題と過失の問題を混同しているのだから。

 

義務の有無で考えろとか言ってたけど、義務の有無で考えてないのは彼のほうなので噛み合うわけもない。
ところで彼、70条は「常に義務がある」と解釈してましたが、

(安全運転の義務)
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

「状況に応じて他人に危害を及ぼさないような速度と方法」

 

「他人」が全くいない状況では70条の義務自体が生じないから違反も成立するわけもない、ということも読み取れないのだろうか。
なお、いわゆる安全運転についていろいろ注意することについては、イチイチ明文化しなくても当たり前だから規定してないし(それは様々な解説書や判例から明らかだと思うが…)、あくまでも道路交通法は刑法だということを理解してないのかと。

 

ちゃんと読めない人がアホを巻き散らかすのが痛々しい。


コメント

  1. tk10 より:

    「交差点であることの認識」

    https://roadbike-navi.xyz/archives/39961/
    こちらの関連で見かけた、「丁字路・T字路は交差点じゃない」と思ってる系の人は自由度が高そうです。
    https://twitter.com/eco20VG/status/1658684548597813254

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      「無知による交差点の不認識」については、違反の成否には関係しません笑。
      T字路は交差点じゃない!という人が存在するとなると、義務教育の敗北を疑うべきです。

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