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警音器の使用制限違反と、吹鳴義務の話。

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以前何回も取り上げてますが、道路交通法54条2項で「危険を防止するためやむを得ない場合」以外は警音器の使用を禁止している一方、「危険を防止するためやむを得ない場合」なのに警音器を使わなかったことを過失として業務上過失致死傷罪で有罪にしている判例もまあまあ見かけます。

 

車が自転車を追い越すときに、クラクション(警音器)を鳴らすのは違反なのか?
先日書いた記事で紹介した判例。 自動車運転者が自転車を追い越す場合には、自動車運転者は、まず、先行する自転車の右側を通過しうる十分の余裕があるかどうかを確かめるとともに、あらかじめ警笛を吹鳴するなどして、その自転車乗りに警告を与え、道路の左...

 

警音器と「危険を防止するためやむを得ない場合」。
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「危険を防止するためやむを得ない場合」に該当するかどうかは事例ごとに判断するしかありませんが、例えばこんな判例があります。

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警音器吹鳴義務違反があったか?

判例は名古屋高裁金沢支部 昭和41年1月25日。
事故の概要から。

・前方見通しが良好で交通の極めて頻繁な主要道路
・道路幅員は3.8m、被告人車は時速35~40キロで進行
住宅の出入口から被害者が犬に追われて飛び出してきた(直前飛び出し)

これについて、一審は被告人が警音器吹鳴及び減速除行をなすべき業務上の注意義務を怠り警音器も鳴らさず漫然35~40キロで進行した結果本件事故を惹起したものと認定して有罪にしています。

 

しかし名古屋高裁金沢支部は破棄。

本件事故発生場所は、道路交通法第54条第1項各号所定の警音器を吹鳴すべき場所に該当しない。そして、同条第2項によれば、車輛等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合に該らない限り、法令の規定により吹鳴を義務づけられている場合を除き警音器を鳴らしてはならないこととされている。本件事故発生場所は、道幅が狭く、出入口内への見通しがきかず、右出入口から不用意に路上へ走り出るような者があれば通行し来つた自動車に衝突する危険があることは認められるから、安全確保の点だけを考えれば、警音器を鳴らすに越したことはない。しかしながら、前掲道路交通法第54条第2項の趣旨は、前記のとおり法令所定の場合を除き危険防止のため已むを得ない場合という厳格な制限の下に始めて警音器の吹鳴を許しているのであつて、単に安全確保上効果があるというだけでみだりに吹鳴することを禁じているのであつて、単に安全確保上効果があるというだけでみだりに吹鳴することを禁じているのであり、本件事故発生場所は、狭隘な道路に面して人家の屋敷への出入口があり屋敷内への見通しが悪いとはいつても、前記認定のとおり人の出入りはむしろ稀に属し、その点で、人の交通が多くそれだけ事故発生の危険性の高い交叉点及び曲り角等とは趣を異にするし、前庭から出入口を通つて路上に出ようとする者にとつては、外方への透視及び騒音、震動等により、道路上を接近し来る自動車の存在は警音器の警笛をまたなくとも容易に察知し得るところで、当人の僅かの注意でたやすく危険を避け得られる筈であり、しかも、自動車の交通頻繁な同所で、通る自動車がすべて必ず警音器を鳴らしたとすれば、それにより得られる事故防止の安全性の増加の利益に比し警音器の騒音の煩しさも無視できぬものとなろう。
以上の諸事情を考えれば、本件事故発生場所を通行する自動車運転者にとつて、路上もしくは出入口付近に人の姿を認めその挙動態度により危険を感じた場合でない限り、警音器の吹鳴が危険防止のため已むを得ないものということはできず、警音器吹鳴の注意義務はないものと解するのが正当である

 

名古屋高裁金沢支部 昭和41年1月25日

まあ、当たり前の説示ですが住宅の出入口の見通しが悪いとしても、なんら具体的危険がない状況でクラクションを鳴らさなかったことを過失として有罪にするのはさすがに無理がある。

 

次の判例。
山形地裁酒田支部 昭和42年4月28日。

 

事故の概要から。

・被告人は時速30~40キロで幅員6.6mの道路を進行中、対向車(大型ダンプカー)を発見。
・大型ダンプカーとすれ違いしようとしたときに、大型ダンプカーの後ろからオートバイが追い越しに掛かってきたため、被告人車とオートバイが衝突。
・ダンプカーの後ろから追い越ししてきたオートバイを発見時、被告人車との距離は13m。

これについて、「両側に家屋が立ちならんでいて見とおしがきかないのであるから、右ダンプカーの後方車との不測の事故をさけるため、直ちに警音器を鳴らすなどした上、減速徐行して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り漫然そのままの速度で進行を続けすれ違いにかかつた過失」として業務上過失致死罪に問われたものです。

 

こちらも無罪。

およそ自動車運転者は互いに相手が法規を遵守して適法相当な運転行為に出るであろうこと、云いかえれば無暴な操縦行為には出ないであろうことを期待し、又これを前提として運転しているものというべきであるから、本件のような場合、即ち、S字型カーブで道路両側には人家が立ち並んでいることから見とおしが悪く、しかも巾員が6.6mの狭い道路上で、対向のダンプカーとすれ違いをしようとする場合、その対向ダンプの背後からこれを追い越そうとして自己の進路にいきなり進出してくる無暴な車があるであろうことは、運転者の常識に照して一般に予測できないことである。運転者に対して、すれ違いをする車のうしろに後続車の存することの予測を求めることはできても、その後続車が本件のような道路状況下において、先行車を追い越そうとしていきなり自己の進路に入つてくるであろうことまで予測させて、これとの不測の事故をさけるため、予めこれに対処しうる態勢をしておくことを求めるが如きは、現在の道路状況交通常識(相手もまた車の運転者である)に照して、余りに酷なことである。従つて、本件の道路状況の下で、すれ違い車の後方車が先行車を追い越そうとしていきなり自己の進路に入つてくることを予測して、これに備えて、又これとの不測の事故をさけるため、予め減速徐行すべき義務はないものと思料する。対向してきたダンプカーとのすれ違いをするに当つて必要な注意義務を尽せば足りる。又本件現場は道路交通法第54条第1項所定の場所にあたらないから、特に危険がさし迫つた状況にない限り、同条第2項の法意に照して、警音器を吹鳴することは無用のことであつて、少なくともすれ違い車の後方車との不測の事故をさけるため、予め警音器を吹鳴すべき義務はない

 

山形地裁酒田支部 昭和42年4月28日

まあ、どちらの判例も「具体的危険」がない状況なのに予備的吹鳴を要求した検察官の主張を一蹴しています。

むやみやたらに鳴らすものではない

警音器吹鳴義務違反を認めた判例はいくつかありますが、

判例 状況
東京高裁 昭和55年6月12日 左右に50センチ幅で動揺する自転車を追い抜きする場合に警音器吹鳴義務があったとして有罪
高松高裁 昭和42年12月22日 傘をさし登坂する不安定な自転車を追い越しする際に警音器吹鳴義務があったとして有罪
東京高裁 昭和42年2月14日 クルマがバックする際に警音器吹鳴義務があったとして有罪
岡山地裁津山支部 昭和46年6月23日 交差道路を進行して幹線道路に向かって進行する自転車を見かけた以上、ノールックで幹線道路に進入する可能性があるから警音器吹鳴義務があったとして有罪
大阪高裁 昭和48年10月30日 中央分離帯の切れ目から被告人車の方向を向いて横断しようとしていた老人が、被告人車の前方約2.8mの地点で横断し衝突。被害者を発見時点で警音器吹鳴義務があったとして有罪
東京高裁 昭和39年3月18日 時速40キロで進行中、対面歩行してくる8歳(下を向いて歩行)を発見。被告人車の約4.6m手前で横断。警音器吹鳴義務があったとして有罪

これらって、あくまでも事例次第なのですが、業務上過失致死傷罪、つまりは事故が発生したから警音器吹鳴義務違反の過失を認定されているわけで、例えば追い越しを控えてしばらく様子を見ることでも事故回避は可能だったかもしれない。

 

鳴らさなくても済むような運転が最善でしょうし、自転車にしてもカジュアルにベルを鳴らすもんじゃないですが、冒頭で挙げた2つの判例って警察、検察は「なぜ鳴らさなかった!」と発狂して起訴する。
じゃあカジュアルに鳴らしていいの?カジュアルに鳴らしたら違反じゃないの?と疑問しか沸きませんが、警音器使用制限違反をあまり認定しない理由はなんとなく理解できるかと思います。
境目が曖昧なので。

 

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コメント

  1. いんちょ より:

    「危険を防止」の危険は「自車に対する危険に限る」とどこかで読んで信じてましたが間違いみたいですね

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      危険とはあらゆる危険を意味すると思います。

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