「自転車が」被害にあった妨害運転の事例について質問を頂いたのですが、妨害運転罪ではなく「危険運転致傷罪(妨害運転)」であれば比較的最近の事例ですがあります。
しかも、自転車が自転車に妨害運転という内容。
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妨害運転危険運転致傷罪
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
自動車運転処罰法2条4号と救護義務違反(道路交通法)で有罪です。
ところで。
冒頭で「自転車が」「自転車に」妨害運転危険運転致傷と書きましたが、この時点で違和感を感じる人がいると思います。
自動車運転処罰法の対象は、自動車と原付であって、自転車が罪に問われることはあり得ない。
第一条 この法律において「自動車」とは、道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第二条第一項第九号に規定する自動車及び同項第十号に規定する原動機付自転車をいう。
明らかに自転車は対象にしていませんが、危険運転致傷罪で有罪です。
なぜでしょうか?
これ、あれなんですよ。
被告人は「電動アシスト自転車」のつもりで購入していますが、最高速度や出力が電動アシスト自転車の基準を大きく越えていた上に、被告人も電動アシスト自転車の範疇を超えていたことを認識していた。
なので当該車両が「原付」だという確定的な認識がなくても、その危険性を認識していたということから原付だと認定。
なので被告人は歩道上にて原付を運転し、被害者に近接して並走し怪我を負わせたということで、危険運転致傷罪(妨害運転)。
こちらの件ですね。
静岡地裁 令和4年8月9日判決。
時速39から44キロで被害者に著しく接近し、衝突させて逃走したという事件です。
電動アシスト自転車の上限オーバー
電動アシスト自転車は時速24キロまでしかアシストされないことが条件ですが、理屈の上では上限オーバーは一般原付扱いになります。
歩道通行できないことはもちろん、免許必須、ヘルメット必須、ナンバープレートや自賠責保険も必須になる。
結局、電動アシスト自転車の上限よりもはるかに超えた速度までアシストされることを認識していたことから原付だと認定した上で危険運転致傷罪にしていますが、若干気になる点。
そもそもの発端は「被害者が道路右側の歩道」を自転車に乗っていて肩がぶつかったことが発端の様子。
詳しくは書いてませんが、おそらく被告人としては「歩道逆走は違反」だと思っていたためなんじゃないかと。
「被害者の通行位置の点は被告人が考えていた独自のルールに被害者が従っていなかったというだけであり」
と書いてあります。
いまだに歩道逆走は違反と考える人がいてビックリしますが、
無意味なトラブルの原因なので、「歩道通行時には逆走という概念がない」ことをきちんと知るべき。
まあ、愛媛県だけは独自の条例があるのでややこしいけど。
話が逸れましたが、電動アシスト自転車の上限を超えている認識があれば、自動車運転処罰法の対象になります。
もちろん道路交通法違反になるのは当然ですが、現場の警察官が検査する能力があるはずもなく、事実上取締りは期待できない。
制度上の不備なんじゃないかな。
ということで、自転車が自転車に妨害運転して怪我を負わせたという判例でしたが、危険運転致傷罪を適用した理由は「違法電動アシスト自転車」、つまりは原付だから。
そして普通の電動アシスト自転車の基準をはるかに超えていることを被告人が認識していた以上、原付だという確定的な認識がなくても原付扱いです。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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