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飲酒運転と危険運転致死傷罪。なぜ飲酒運転は無くならないのか?

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飲酒運転の罰則や取り締まりが強化されても、いまだ飲酒運転をする人は絶えないわけですが、

堺市中区で昨年12月、町内会の歳末パトロール中に男性4人が飲酒運転の車にはねられ、うち2人が死亡した事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)に問われた被告(49)に対し、大阪地裁堺支部は29日、懲役10年(求刑・懲役12年)の判決を言い渡した。荒木未佳裁判長は「運転の危険性は相当高かった」と述べた。

 

歳末巡回中の男性4人死傷、被告に危険運転致死傷で懲役10年の判決…大阪地裁堺支部
【読売新聞】 堺市中区で昨年12月、町内会の歳末パトロール中に男性4人が飲酒運転の車にはねられ、うち2人が死亡した事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)に問われた建築業猪木康之被告(49)に対し、大阪地裁堺支部は29

今回はアルコールの影響による危険運転致死傷罪の話。

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アルコールの影響による危険運転致死傷罪

アルコールの影響による危険運転致死傷罪は、自動車運転処罰法2条1号。
単純に飲酒運転をして事故を起こしたから危険運転致死傷罪が成立するわけではなくて、アルコールの影響により「正常な運転が困難な状態」で運転し、事故を起こした場合になります。

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

さて、冒頭の事件。
事故現場は片側一車線、車線幅3.1m、路側帯幅が50~60センチ。
被告人は飲酒をし、被告人に有利に推計しても呼気1リットル当たり0.363ミリグラムから0.994ミリグラムとされています(免停基準は0.25mg以上)。
路側帯(わずかにはみ出た者もあり)を歩く8名中4名に時速64キロで衝突した事件です。

 

あくまでもアルコールの影響により「正常な運転が困難な状態」で運転することが必要なのですが、弁護側は過失運転致死傷にとどまるべきと主張。

⑵ 被告人の運転開始前の挙動
ア 被告人が、本件事故の直前、カラオケスナックから駐車場に向けて歩く様子の一部を撮影した防犯カメラ映像(甲30)によれば、被告人は、歩行中、左右に蛇行する動きをすることがあったと認められる。
このような被告人の動きは、道路の形状に従った歩行とは認め難く、本件当日午後7時半頃、駐車場から居酒屋へ向かって歩く被告人には、蛇行する様子はないこと(甲31)と比較しても、ふらついていたと評価するのが相当であり、その原因は、飲酒の影響と考えるのが最も自然である。

イ 弁護人は、別の防犯カメラの映像(弁8)では、被告人はふらついていない上、カラオケスナックの経営者Gは、被告人は、同スナックを退店する際、寝込んだり、ろれつが回らなかったりする様子はなく、通常どおり会計をし、店外の急な階段をつまづくことなく下りたなどと証言したことを指摘し、被告人の行動に、飲酒の影響が現れていたことは証明されていない旨を主張する。
しかし、酒に酔った者が、歩行中に常にふらついているとは限らず、酔いの程度によっては、ある場面ではふらつき、他の場面では正常な様子で歩行するということも十分にあり得る。また、飲酒が身体に与える影響には個人差があるから、上記Gが、一見して明らかな被告人の酔いの症状を認めなかったことは、必ずしも被告人の言動や判断力等に飲酒の影響がなかったことを意味しない。弁護人が指摘する各事情は、被告人が、本件当時、合理的な言動が全くできない程度まで泥酔するに至っていなかったことを示すものではあるが、飲酒の影響を受けていたこと自体に疑問を生じさせる事情ではなく、この点を考慮しても、被告人は、飲酒の影響によりふらつくことがあったという上記評価が揺らぐことはない。

⑶ 事故現場及び事故態様
ア 上記2⑵のとおり本件道路は、車線幅が広いとはいい難いものの、少なくとも普通乗用自動車が路側帯にはみ出さずに走行するには十分な幅があり、車線が複雑に湾曲しているようなこともない直線道路であった。
また、本件事故当日の被害者らの服装には、明るい色調のものも相当含まれており
、本件事故時と類似の条件下で行った検証の際、被告人は、後方約66.99メートルの地点において、進路前方を歩く歩行者を視認できたことも認められる(甲2、25)。
そうすると、被告人が、本件事故現場において、被害者らの隊列を事前に発見し、同人らを避けて走行することは容易な状況であったと認められる。
被告人は、そのような状況下において、規制速度を20キロメートル以上上回る時速約64キロメートルで被告人車を走行させ、急制動や急転把を含む一切の回避措置をとることなく、路側帯付近を歩行中の被害者らに同車を衝突させており、衝突まで被害者らの隊列に気付いていなかったと推認されることも含め、通常ではあり得ない態様の事故を引き起こしたといえる。加えて、被告人が、運転開始からわずか約2分で本件事故を起こし、これにより被告人車が大きく破損し、相当な衝撃を受けたと考えられるにもかかわらず、そのまま走り去るなど、車両運転者として不合理な行動を続けたことをも考慮すると、被告人は、本件事故当時、注意力及び判断力等が相当程度減退していたといわざるを得ず、その原因となる事情についても、やはり飲酒の影響以外には考えがたい。

 

大阪地裁堺支部  令和5年9月29日

飲酒量、歩行状態、はみ出さずに走行できる車線幅、容易に被害者を発見可能な状況などを総合的にみて飲酒の影響以外には考えがたいと結論しています。

 

「アルコールの影響による正常な運転が困難な状態」とは、最高裁判例で解釈が示されてます。

刑法208条の2第1項前段の「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは,アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいうと解されるが,アルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態も,これに当たるというべきである。

 

最高裁判所第三小法廷  平成23年10月31日

※反対意見もついてますが。

 

飲酒して事故を起こせば必ず危険運転致死傷罪になるわけではなくて、例えばちょっと前に話題になった「ひき逃げ無罪事件」も、危険運転致死ではなく過失運転致死でした。

 

「ひき逃げ無罪」、東京高裁はなぜ飲酒運転発覚回避でコンビニに行ったのに無罪にしたのか?
ちょっと前に、横断歩道を横断中の歩行者をはねた後、被害者の捜索よりも自身の飲酒運転発覚を回避するためにブレスケアを購入するためコンビニに向かった被告人に対して無罪(道路交通法違反、救護義務違反)とした件が報道されましたが東京高裁はなぜ救護義...

 

なお危険運転致死傷は故意犯ですが、正常な運転が困難な状態を認識している必要はなく、それは客観的に判断するもの。
理由は道路交通法違反(酒酔い運転)での解釈にあわせているからだと思われます。
道路交通法違反の酒酔い運転についても「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう」と書いてありますが、被告人の認識として「正常な運転ができないおそれ」だと認識する必要はなく、それは客観的に判断されるもの。

酒酔い運転の罪が成立するために必要な故意の内容としては、行為者において、飲酒によりアルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足りるものと解すべきであつて、アルコールの影響により「正常な運転ができないおそれがある状態」に達しているかどうかは、客観的に判断されるべきことがらであり、行為者においてそこまで認識していることは必要でないものといわなければならない。

 

最高裁判所第一小法廷 昭和46年12月23日

アルコール危険運転致死傷の場合、単に飲酒運転で事故を起こしたから危険運転致死傷になるわけではないので、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態だったことを検察が立証する必要がありますが、2名死亡、2名怪我で懲役10年。
被害者の方々は夜警のために8名で歩いていて事故に巻き込まれたのですが…ひどい話ですよね。

 

ところで。

飲酒運転は無くせるか?

これだけいろいろ言われる時代でも飲酒運転する人はいるわけで、車両にアルコール検知器を標準装備してエンジンと同期させるくらいじゃないとムリかと。
その意味では特定小型原付が導入される時に、先駆けて飲酒検知器を標準装備していれば良かったのに…と思ってしまいます。

 

あとから追加するよりも、最初に標準装備した方がラクなので。
本当にもったいないというか、特定小型原付から先に導入して他のモビリティにも波及するくらいがちょうどよかったと思うのですが。

 

なお、アルコール危険運転致死傷罪は同乗者にも幇助が成立します。

刑法62条1項の従犯とは,他人の犯罪に加功する意思をもって,有形,無形の方法によりこれを幇助し,他人の犯罪を容易ならしむるものである(最高裁昭和24年(れ)第1506号同年10月1日第二小法廷判決・刑集3巻10号1629頁参照)ところ,前記1のとおりのCと被告人両名との関係,Cが被告人両名に本件車両発進につき了解を求めるに至った経緯及び状況,これに対する被告人両名の応答態度等に照らせば,Cが本件車両を運転するについては,先輩であり,同乗している被告人両名の意向を確認し,了解を得られたことが重要な契機となっている一方,被告人両名は,Cがアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら,本件車両発進に了解を与え,そのCの運転を制止することなくそのまま本件車両に同乗してこれを黙認し続けたと認められるのであるから,上記の被告人両名の了解とこれに続く黙認という行為が,Cの運転の意思をより強固なものにすることにより,Cの危険運転致死傷罪を容易にしたことは明らかであって,被告人両名に危険運転致死傷幇助罪が成立するというべきである。

 

最高裁判所第三小法廷 平成25年4月15日

取り締まりで根絶するのは限界がある。
ガンガン飲んでから運転して事故を起こす人や、被害者が見つからないからとコンビニに向かい飲酒運転を隠すためにブレスケアを買う人。

 

飲酒して運転する人が普通にいて、事故を起こして初めて発覚する程度に「未捕獲の飲酒運転」はいるわけで、車体に紐付けしたアルコール検知器を標準化する方向に向かうべきなのかと。

 

無免許運転にしても、IC免許証を差し込まないとエンジンが掛からないような仕組みは構築できそうな話ですが…

 

ちなみに冒頭の件。
報道レベルになるとずいぶんこざっぱりまとめられてしまいます。
この事件については報道内容に誤りがあるわけでもなく判決の要点は押さえた報道になってますが、意味不明なところを切り抜いた報道になることがしばしばあるので、報道を見てもイマイチわからないものが多い。

 

例えばこんな報道。

おととし11月、札幌市豊平区の道道で、当時8歳の男の子が乗用車にはねられ、重傷を負った事故…乗用車を運転していた70代の女性は、無罪判決を受けました。

(中略)

18日の判決で札幌地裁は、事故当時、男の子が暗い色の服を着ていたことなどから「自転車の進入を予測できたとしても、衝突を回避することは不可能、または極めて困難だった」とし、禁錮1年の求刑に対し、無罪を言い渡しました。

 

Yahoo!ニュース
Yahoo!ニュースは、新聞・通信社が配信するニュースのほか、映像、雑誌や個人の書き手が執筆する記事など多種多様なニュースを掲載しています。

「暗い色の服を着ていたことなど」が無罪の理由みたいな報道になってますが、

優先道路を進行していた加害者が、15m間隔で進行していた対向車10台とすれ違った後に、いわゆる直後横断の形で横断した自転車と衝突した事故。

 

「暗い色の服を着ていたこと」も確かに1要因にはなってますが、そこはメインではないのでは?という話になるわけで。

 

みんな雑過ぎないか。
ちょっと前にこんな報道がありました。おととし11月、札幌市豊平区の道道で、当時8歳の男の子が乗用車にはねられ、重傷を負った事故…乗用車を運転していた70代の女性は、無罪判決を受けました。(中略)18日の判決で札幌地裁は、事故当時、男の子が暗...

 

報道を見てもなんの話なのかわからないことが多いので、気になる方は判決文を見ましょう。


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