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「直進車の赤信号無視」を見落として起訴し無罪の事件、検察官は何を主張したのか?

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ちょっと前になりますが、右直事故について直進オートバイが赤信号無視していたことを見逃したまま右折車ドライバーを起訴し、結局無罪(過失運転致傷、報告義務違反)になった判例がありました。

 

やっぱり無罪…警察と検察のミスが浮き彫りになった「被害者の赤信号無視見落とし事件」。
ちょっと前になりますが、被告人が交差点を右折する際に対向直進バイクが「赤信号無視で」交差点に進入してきて起きた事故。 検察は「被害者の赤信号無視」を見落としたまま起訴していましたが、やはり無罪判決だそうな。 福岡県古賀市で車を運転中、赤信号...

 

検察官は控訴を断念して無罪が確定しただけでなく、福岡県公安委員会が行政処分を取り消すなど異例の措置が話題になってましたが、公安委員会が行政処分を取り消した理由は直前にあった別件の影響と思われます。

 

無罪と運転免許取消は別!というのは、市民感覚からすればズレている。
過失運転致傷罪(自動車運転処罰法)が無罪になったからといっても、行政処分は別というのは市民感覚からすればズレていると思いますが、法律上は「別」になってしまう。 交通事故をめぐる刑事裁判で無罪となったにもかかわらず、運転免許の取り消し処分が変...

 

ところで、「被害者の赤信号無視」が発覚した後も検察官は起訴を取消にせず、有罪の立証を続けたことに対し非難が集まってましたが、理屈の上ではこうなる。

自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、そのような交通法規無視の車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務がない

 

最高裁判所第三小法廷 昭和43年12月24日

逆に言えば「赤信号無視してくる車両を予見すべき特別な事情」を立証すれば、有罪になることもあります。
検察官は何を主張したのか?判決文から確認します。

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検察官は何を主張したのか?

まず、事件の経緯から。
福岡簡裁に略式起訴され罰金30万の略式命令が出たものの、被告人が正式裁判を請求。
福岡簡裁での第4回公判後、福岡地裁に移送。

 

読んだ限りでは、「被害者の赤信号無視」が発覚したのは福岡地裁に移送された後なんだと思いますが、訴因変更後(被害者の赤信号無視が発覚後)の公訴事実、つまり検察官の主張はこちら。

1 被告人は、令和3年10月7日午後7時3分頃、普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転し、福岡県古賀市ab丁目c番d号先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)を信号に従い福津市方面から進行してきて同交差点内で一時停止後、発進し、駅東方面に向かい右折進行するに当たり、対向直進車両がその対面信号の赤色を表示した直後に同交差点を通過し、同対向直進車両の後続車がその停止線手前でいまだ停止しておらず、かつ、同後続車によりその左側方の見とおしが困難であったのであるから、同後続車の前面で再度一時停止するなどして、同後続車の左側方を進行してくる車両の有無及びその安全を確認しながら発進し右折進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、同後続車の前面で一時停止するなどせず、同後続車の左側方を進行してくる車両の有無及びその安全を十分確認しないまま発進し、漫然時速約15ないし20kmで右折進行した過失により、折から同後続車の左側方を対向進行してきたB(当時31歳。)運転の普通自動二輪車(以下「B車両」という。)を直前に至って認め、急制動の措置を講じたが間に合わず、B車両に自車左側面前部を衝突させ、よって、同人に加療約8週間を要する右第3中足骨骨折等の傷害を負わせた(以下「第1事実」という。)
2 被告人は、前記1記載の日時・場所において、前記のとおり、被告人車両を運転中、自車をB運転のB車両に衝突させて自車及びB車両を損壊する交通事故を起こしたのに、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった(以下「第2事実」という。)。

んー、、、。

 

まずは認定された事実から。

⑵ 本件事故(令和3年10月7日午後7時3分頃発生。以下、時刻のみの記載は、同日のことである。)当時、被告人車両は、本件道路を福津市方面から走行して、本件交差点の停止線手前の右折専用レーンに入って、駅東方面に右折しようとし、対面信号機が青色表示のうちに本件交差点内に進入し、対向直進車両の流れが途切れるまでの間、本件交差点内で一時停止して右折待ちをしていた。その後、被告人車両の対面信号機が赤色表示に変わった時点では、本件交差点内を2台の対向直進車両が通行していた。被告人は、対面信号機が赤色表示に変わったことを確認し、上記対向直進車両2台が本件交差点を通過し、後記⑶のとおり、対向車線の第2車両通行帯及び第3車両通行帯を走行する車両2台が減速して停止線手前で停止しかけているのを確認し、もはや本件交差点内に赤色信号に従わないで進入してくる車両はないと判断して、右折のために発進した(甲30、被告人の公判供述)。
⑶ 他方、B車両は、本件道路の対向車線を進行して、本件交差点を直進しようとし、本件交差点の対面信号機が赤色表示に変わった時点で、停止線から約20.7ないし21.1m手前、第1車両通行帯と第2車両通行帯の間の区分線上付近を走行していた。この時、第1車両通行帯ではB車両の左前方、停止線から約18.8m手前の位置を先行車両が走行しており、第2車両通行帯と第3車両通行帯でも、それぞれ先行車両が、B車両の前方、停止線から順に約11.5m、約10.4m手前の位置を走行していた(甲29、Bの証言)。その後も、B車両は同区分線上付近を走行し続け、対面信号機が赤色表示になってから約0.6秒後に第1車両通行帯の先行車両を右側から追い抜き、赤色表示から約1.2秒後までには第2車両通行帯の先行車両を左側から追い抜いて、時速約40ないし43kmで本件交差点内に進入した(甲21)。B車両が停止線を通過したのは、対面信号機が赤色表示になってから約1.6ないし1.8秒が経過した時点であった。なお、第1車両通行帯ないし第3車両通行帯を走行していた3台の先行車両は、いずれも赤色信号に従って本件交差点の手前で減速し、停止した(甲31)。
⑷ B車両が本件交差点の停止線を通過した直後、本件交差点を右折していた被告人車両の左側前方部分と、左にハンドルを切ったB車両の右側部分が衝突する本件事故が発生した。被告人は、B車両を衝突の直前まで視認していなかった。

認定された事実を見る限り、被告人は交差点内で右折待機し、赤信号に変わって2台の直進車を見送り、2台が停止線で停止しようと減速していることを確認してから右折進行している。

 

そして裁判所の判断と、検察官の主張です。

⑴ 上記のとおり、被告人は、本件交差点内で一時停止の上、右折待ちをしていた際、対面信号機が赤色表示に変わり、対向車線の第2車両通行帯及び第3車両通行帯の各走行車両が減速するのを確認して、もはや本件交差点内に赤色信号に従わないで進入してくる車両はないと判断して右折を開始した。その当時、本件交差点の信号機は、3秒間全て赤色表示となる、いわゆるクリアランス時間内であり、被告人車両は、対向直進車両の進行を妨害しないよう、その動静を注視すべき一方、その後青色表示となる交差道路の交通を妨害しないために、速やかに右折を完了して本件交差点外に出るべき状況にあった。
このような状況において、被告人が、対面信号機が赤色表示に変わり、対向車線の、被告人車両に近い中央寄りの2つの車両通行帯を走行する車両2台が減速して停止しようとする状況を確認したのであれば、別の対向車両が赤色信号に従わずに本件交差点内に進入しようとするのを現認するなど、相手方が交通上適切な行動をとることを期待できないことを認識し、あるいは認識すべきであったときのような特別の事情のない限り、もはや赤色信号に従わないで本件交差点内に進入してくる対向車両はないと信頼することは許されるというべきである。そして、被告人は、本件事故の直前まで、普通自動二輪車であるB車両を認識していなかった上、道路の状況等から、B車両が、赤色信号に従って停止のため減速する先行車両を追い越して本件交差点内に進入しようとする状況を認識すべきであったともいえないから、上記特別の事情も認められず、検察官主張の注意義務はないというべきである。
⑵ これに対し、検察官は、被告人が右折を開始した時点で、少なくとも対向車線の第2車両通行帯を走行する車両(B車両の先行車両)は停止しておらず、そのために同車両の左側方(被告人車両から見て右側方)の見通しが困難であったから、同車両の左側方から、停止線手前で安全に停止しきれないと判断して本件交差点を通過しようとする対向直進車両があることを予見すべきであったとして、被告人は、第2車両通行帯の走行車両の前面で一時停止するなどして、同車両の左側方を確認する注意義務を負っていたと主張する。
しかしながら、被告人において、対向車線の第2車両通行帯を走行する車両の左側方の見通しが困難であったからといって、道路の状況等から見て、その付近に赤色信号を無視し、停止しようとする先行車両を追い越して本件交差点内に進入してくる車両が存在することを具体的に予測すべき根拠は見当たらないのであって、後続車両を含めもはや本件交差点内に赤色信号に従わないで進入してくる車両はないと信頼してよい状況に変わりない。検察官の主張は、信頼の原則の適用を否定すべき特別の事情に当たらない。

 

福岡地裁  令和5年10月27日

いやさ、被害者の赤信号無視が発覚した後も有罪立証を継続したからには信頼の原則を否定するスペシャルな主張があったのかと思いきや、なんかそうでもないわけですよ。

 

要は被告人が赤信号を確認し、対向車2台が減速して止まろうとしていたから右折を開始したわけですが、検察官の主張としては「対向車が停止はしてなかったのだから、赤信号で止まりきれずに死角から突破する車両を予見すべき」としてますが、裁判所は否定。

対向車線の第2車両通行帯を走行する車両の左側方の見通しが困難であったからといって、道路の状況等から見て、その付近に赤色信号を無視し、停止しようとする先行車両を追い越して本件交差点内に進入してくる車両が存在することを具体的に予測すべき根拠は見当たらない

要は「信頼の原則を否定する特別な事情」を全く立証出来てないよね?とフル却下している。

 

なお報告義務違反(道路交通法72条1項後段)については、「形式的に報告義務違反の構成要件に当たるとしても、法秩序全体から見て、刑罰をもって臨むほどの可罰的違法性があるとはいえない」としています。

単なるメンツの問題なのか?

「赤信号無視する車両を予見すべき注意義務はない」ことは昭和40年代には最高裁が示してますが、あくまでも「特別な事情がない限り」。
つまり特別な事情がある場合には赤信号無視する車両を予見すべき注意義務違反となります。

 

「特別な事情」って、よくあるパターンだと「この交差点で信号無視が多発していることを知っていた」みたいな話か、前方注視していれば余裕で回避可能だったみたいな話。
つまり、対向直進車が「明らかに止まらないと思われる速度」で進行していたとかの事情が見られたなら別ですが、そもそも被告人からみて被害オートバイは死角にいたわけで、衝突するまで存在すら認識していない。

 

死角から赤信号無視する二輪車がいることを予見すべき注意義務があると主張するのはそもそも無理があるので、やはり起訴取消にすべき事例です。

 

この事例での検察官の主張を見る限りは信頼の原則を否定する特別な事情になりそうな理由が見当たりませんが、この事例について言うなら警察の捜査が不十分なまま書類送検し、検察も不十分な捜査のまま略式起訴したことは明らか。

 

被告人は国家権力の被害者とも言えますが、「特別な事情」を示せないなら「間違いましたごめんなさい」で起訴取消にすべきだったとしか言えません。
もっと他に力を入れるべき事件があるような気がしますが、こういう事件があるとドラレコ需要が高まるのかもしれません。


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