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結局、自転車に乗ったまま横断歩道を横断することは違反なのか?教則の改正史や判例から見ていく。

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自転車に乗ったまま横断歩道を横断することが違反なのか?という話はいつの時代も尽きない気がしますが、「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)ではこうなってます。

道路を横断しようとするとき、近くに自転車横断帯があれば、その自転車横断帯を通行しなければなりません。また、横断歩道は歩行者の横断のための場所ですので、横断中の歩行者がいないなど歩行者の通行を妨げるおそれのない場合を除き、自転車に乗つたまま通行してはいけません

これの根拠は道路交通法25条の2第1項。

(横断等の禁止)
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない

まあ条文そのまんまですね。
「車両は歩行者の正常な交通(つまりは横断歩道を横断中)を妨害するおそれがあるときは、横断してはならない」と道路交通法に規定されている。

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/img/3-13.pdf

正常な交通を妨害するおそれがないなら乗ったまま横断しても何ら違反ではない。

同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せない

 

平成30年1月18日 福岡高裁

ただまあ、歴史からみると警察庁の方針や教則での内容は若干迷走気味にも思えます。
今回はそんな「教則の改正史」を中心に。

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自転車と横断歩道…乗ったままだと違反?

まずは昭和45年に自転車の歩道通行が一部解禁された後の「交通の方法に関する教則」(昭和47年)から。

昭和47年 教則&判例

まずは昭和47年の「交通の方法に関する教則」から。
昭和45年に一部の歩道で自転車の通行が解禁されたばかりの時代ですが、まだこの時代には自転車横断帯はありません。

横断や転回は、交通量の多いところでは、できるだけ横断歩道を利用し、自転車を押して渡りましょう。横断歩道がないところでは、左右の見とおしのきくところを選んで、車のとぎれたときに渡りましょう。

 

昭和47年 交通の方法に関する教則

「自転車を押して渡りましょう」なので義務的というよりも励行すべき目標みたいな表現になっています。

 

当時の判例はこちら。

 

業務上過失致傷の判例の一節。

ただ自転車については、道路の横断にあたつては、その安全上むしろ横断歩道を利用し、自転車を押して渡るよう指導されているところであり(交通の方法に関する教則・交通ルールブック警察庁交通局監修11頁)

 

東京地裁 昭和47年8月12日

昭和53年 国会議事録&教則

教則の改定は昭和53年。
自転車横断帯が新設されたことに伴い教則を改正。

 

改定された教則はこちら。

道路を横断しようとするとき、近くに自転車横断帯があれば、その自転車横断帯を通行しなければなりません。また、自転車横断帯がないところでも横断歩道があるときは、自転車を押してその横断歩道を渡るようにしましょう。

 

昭和53年 交通の方法に関する教則

これについて、以下の国会答弁があります。

第84回国会 衆議院 地方行政委員会運輸委員会交通安全対策特別委員会連合審査会 第1号 昭和53年4月26日

 

○水平委員 それから、自転車の横断帯の新設によって、自転車は一応乗ったまま横断できますね。ところが、歩行者の横断道では必ず下車をして、自転車を引いて渡らなければならぬという配慮が必要だと思うのですが、この道交法の中にはそうした法的根拠といいますか、法的に明確にされていないですね。そこらあたり、なぜ明確にそういうことをうたわれなかったかということについてお答え願いたいと思います。

 

○杉原政府委員 従来必ずしも徹底をしないきらいがございましたが、基本的には横断歩道で歩行者の妨害になるときには、押して歩行者と同じ立場で歩いてもらうということでございます。今度も、歩道の自転車の通行を法律上認めることにしたわけでございますが、この場合も、歩行者の通行を妨害するときには一時停止をしろ、基本的に徐行を義務づけております。いつでも、どういう状態のもとでもとまれるスピードで走ってくれという形にしておるわけであります。基本的にそういう考え方で対処してまいりたいというふうに思っております。

 

○水平委員 自転車の通行が認められるようになった歩道の上においては、いまおっしゃったような一時停止だとか、徐行の配慮、これはいいのです。私の言うのは、歩行者の横断帯も自転車が渡ることができるでしょう、そうした場合に、一時停止も徐行の配慮も必要でありますが、横断帯という歩行者の保護、安全を図る意味からも、自転車も同時にそれはおりて引いていくべきではないか、そういうことが法的になぜ明確に確認をされておかなかったか、こういうことなんです。

 

○杉原政府委員 一応、いま歩行者がおってそれの通行の妨害になるときには、おりて押して歩いてもらうということになっておりますが、徹底を欠くきらいがございますので、これは教則その他できちっと指導するようにいたしたいと思います。

自転車が横断歩道を乗ったまま横断することは違反ではないが、歩行者妨害になるときは降りて押してもらうことになっていることを確認しつつ、「徹底を欠くきらいがある」として指導をしていく方針を明確にしている。

 

しかし義務的というよりは励行すべき事項のような表現に止めています。
また、「歩行者妨害にならない場合は乗ったままでもよい」ことは教則では明らかにされていない。

道路を横断しようとするとき、近くに自転車横断帯があれば、その自転車横断帯を通行しなければなりません。また、自転車横断帯がないところでも横断歩道があるときは、自転車を押してその横断歩道を渡るようにしましょう。

 

昭和53年 交通の方法に関する教則

この時代の法律、国会答弁、教則での記述をみると法律上は「歩行者妨害にならないなら乗ったままでもよい」だけど、徹底されない現状から一律で「降りて押して渡りましょう」と教育しようとしたことが伺われます。
どうせ徹底されないから一律で降りて渡らせるべきという考え方なのかと思われますが。

昭和54年 警察庁解説

こちらは月刊交通で「小児用の車」について、警察庁が判例解説をしている中での一節。

道路交通法上、車両の横断歩道通行を直接に禁止する規定はない

 

「小児用の車の意義について」(警察庁交通局交通企画課 中澤見山)、月間交通1979年7月(昭和54年)、東京法令出版

実際のところ、クルマや原付が横断歩道を横断したところで、25条の2第1項(歩行者や他の車両の正常な交通を妨害するおそれがあるときは横断してはならない)に抵触しない限りは違反にはならない。
当然車両である自転車についても同じですが、そもそもなぜこのような論文を警察庁が書いたのかというと、東京高裁が以下の判例(民事)を出したからです。

本件事故の発生が、加害者の左方確認を怠った過失に基づくことは明らかである。しかし右認定の被害者の子供用自転車は大人用の自転車に比し小型で速力も遅いとはいえ歩行者より格段に早い速度をもちかつ惰力でも相当の距離を進行するものであるから、その機能からいっても歩行者とは異なる取扱いが相当であり、殊に道路交通の上で歩行者に生ぜしめ得る危険は歩行者が惹き起す危険に比すれば格段に大きく、その運転者は歩行者と同一には論じられないといわねばならない。したがって右認定の被害者の子供用自転車は道路交通法第2条第1項第11号および同条第3項第1号所定の小児用の車には該当せず、軽車輛として取り扱われるべきものであって(運転者の被害者が当時5歳余であり、また右認定の被害者の自転車のような自転車が一般に幼児用自転車と称して販売されているとしても、これらの事実はもとよりこの判断を左右するものではない。)、道路交通法規上その運転者は横断歩道を走行することは認められていないものというべきである。してみると被害者は本件横断歩道に進入することは許されなかったのであり、にもかかわらず、前記認定事実によれば、少くとも加害車が左折の方向指示をしつつ左折を開始しすでに左折の態勢にあったのに、被害者は加害車の動静に注意することなくやや安定を欠いた乗り方で鶴見駅方面の歩道から市場町方面に向かって本件横断歩道に進入したものと認められるのであり、被害者は本件事故発生当時5歳余ではあったが、自転車運転者はその速度や安定性等の点において単なる歩行者とは格段に異なる状態にあるのであるから、少くとも道路を通行するにあたっては事故防止のために通行車輛に対しなお一層注意しなければならないという程度の事理はこれを弁識し得る能力を備えていたものと認めるのが相当である(右認定を覆すに足りる証拠はない。)から、被害者が前記のように加害車に注意することなく本件横断歩道に進入したことは同人の過失であり、右過失もまた本件事故発生の一因をなしたものと認むべきである。

 

東京高裁 昭和52年11月30日

これについて警察庁が「いやいや、我々の法律では車両が横断歩道を横断することを禁止してないよ」として判決に疑問を投げ掛けている

昭和56年 判例

こちらは業務上過失致死罪の判決文の一節。

道路交通法12条1項は横断歩道がある場所での横断歩道による歩行者の横断を、また、同法63条の6は自転車横断帯がある場所での自転車横断帯による自転車の横断義務をそれぞれ定めているので、横断者が右の義務を守り、かつ青色信号に従って横断する限り、接近してくる車両に対し優先権が認められることになるのであるが(道路交通法38条1項)、本件のように附近に自転車横断帯がない場所で自転車に乗ったまま道路横断のために横断歩道を進行することについては、これを容認又は禁止する明文の規定は置かれていないのであるから、本件被害者としては横断歩道を横断するにあたっては自転車から降りてこれを押して歩いて渡るのでない限り、接近する車両に対し道交法上当然に優先権を主張できる立場にはないわけであり、従って、自転車を運転したままの速度で横断歩道を横断していた被害者にも落度があったことは否定できないところであり、被害者としては接近して来る被告車に対して十分な配慮を欠いたうらみがあるといわなければならない。しかしながら自転車に乗って交差点を左折して来た者が自転車を運転したまま青色信号に従って横断歩道を横断することは日常しばしば行われているところであって、この場合が、信号を守り正しい横断の仕方に従って自転車から降りてこれを押して横断歩道上を横断する場合や横断歩道の側端に寄って道路を左から右に横切って自転車を運転したまま通行する場合に比べて、横断歩道に接近する車両にとって特段に横断者の発見に困難を来すわけのものではないのであるから、自動車の運転者としては右のいずれの場合においても、事故の発生を未然に防ぐためには、ひとしく横断者の動静に注意をはらうべきことは当然であるのみならず、自転車の進路についてもどの方向に進行するかはにわかに速断することは許されないのであるから、被告人としては、被害者の自転車が同交差点の左側端に添いその出口に設けられた横断歩道附近まで進行したからといって、そのまま左折進行を続けて◯✕方向に進んでいくものと軽信することなく、同所横断歩道を信号に従い左から右に横断に転ずる場合のあることをも予測して、その動静を注視するとともに、自車の死角の関係からその姿を視認できなくなった場合には右横断歩道の直前で徐行又は一時停止して右自転車の安全を確認すべき注意義務があるものといわなければならない。

 

昭和56年6月10日 東京高裁

自転車が横断歩道を通行することは容認する規定もなければ禁止する規定もないとしている。

平成20年 パブリックコメント

施行令改正時に警察庁が行ったパブリックコメントの回答から。

「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」に対する意見の募集について|e-Govパブリック・コメント
パブリックコメントの「「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」に対する意見の募集について」に関する意見募集の実施についての詳細です。

イ 横断歩道を進行する普通自転車が従うべき信号灯火を定めることについて

 

この項目に対しては、
○ 自転車に乗ったまま横断歩道を通行することはできないはずであり、また、自転車で横断歩道を通行することは大変危険。
といった御意見がありました。

今回の改正は、道路交通法の一部を改正する法律(平成19年法律第90号。以下「改正法」といいます。)により、例外的に歩道を通行することができる普通自転車の範囲を明確化したことに伴い、自転車横断帯が設置されていない交差点において、これらの普通自転車が横断歩道を進行して道路を横断することが見込まれることを踏まえ、横断歩道を通行する普通自転車が従うべき信号を車両用でなく歩行者用灯器とするものです。
道路交通法においては、普通自転車が横断歩道を通行することを禁止する規定はありませんが、横断歩道は歩行者の横断のための場所であることから、交通の方法に関する教則(昭和53年国家公安委員会告示第3号)において、横断歩道の通行について、歩行者の通行を妨げてはならない旨を周知し、歩行者の安全確保を図ることとしています。

 

警察庁パブリックコメント

自転車が横断歩道を乗ったまま横断することは禁止されてないことと、今までは車両用信号だったのを歩行者用信号に変えただけだと説明している。

やはり「普通自転車が横断歩道を通行することを禁止する規定はありません」という立場。

 

これらを踏まえて

要は昭和35年に道路交通法が制定されたときから、車両が横断歩道を横断することを禁止した規定はなく、25条の2第1項(歩行者や他の車両の正常な交通を妨害するおそれがあるときは横断禁止)に抵触しない限りは違反ではないというのが法律上の考え方。

 

しかし自転車が横断歩道を使って横断する際に歩行者妨害が頻繁し徹底されない現状から教則での記述は「押して渡りましょう」(昭和47年~平成20年)。

 

平成20年施行令改正後の教則で、やっと法律に沿った記述になったと見るのが正解かと。

道路を横断しようとするとき、近くに自転車横断帯があれば、その自転車横断帯を通行しなければなりません。また、横断歩道は歩行者の横断のための場所ですので、横断中の歩行者がいないなど歩行者の通行を妨げるおそれのない場合を除き、自転車に乗つたまま通行してはいけません

 

交通の方法に関する教則(最新版)

それ以前は「横断中の歩行者がいないなど歩行者の通行を妨げるおそれのない場合を除き」という表現がなかった上に、「いけません」という断定的ではなかったわけですから。

道路を横断しようとするとき、近くに自転車横断帯があれば、その自転車横断帯を通行しなければなりません。また、自転車横断帯がないところでも横断歩道があるときは、自転車を押してその横断歩道を渡るようにしましょう。

 

昭和53年 交通の方法に関する教則

自転車に対する指導方針がやや迷走していたようにも思えますが、こういう経緯を辿って現在に至ります。

優先権の問題

道路交通法38条1項では横断歩道ー自転車の関係については優先権がないという考えです。

自転車に乗り横断歩道を横断する者は、この規定による保護は受けません。

 

法の規定が、横断歩道等を横断する歩行者等となっており、横断歩道等の中には自転車横断帯が、歩行者等の中には自転車が含まれまれているところから設問のような疑問を持たれたことと思いますが、法38条1項の保護対象は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車であって、横断歩道を横断する自転車や、自転車横断帯を横断する歩行者を保護する趣旨ではありません。ただし、二輪や三輪の自転車を押して歩いているときは別です。
つまり、あくまでも、法の規定(法12条、法63条の6)に従って横断している者だけを対象にした保護規定です。

 

道路交通法ハンドブック、警察庁交通企画課、p2140、ぎょうせい

これは青信号で横断歩道を横断する自転車についても同様ですが(信号の灯火が優先権です関係ないことは明らか)、結局のところ法律って38条のみで成り立つわけもなく安全運転義務(70条)もあるので、実態としては自転車を優先する場面はあるかと。

 

自転車と横断歩道の関係性。道路交通法38条の判例とケーススタディ。
この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。 いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。 横断歩道と自転車の関係をメインにします。 ○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。 ○横断歩道を横断しようとする自転...

 

横断歩道を乗ったまま横断してもいいのか?については、歩行者妨害にならないなら構わないけど、歩行者妨害になるときには「横断禁止」。
車両としての立場で横断することが禁止されても、降りて押して歩くなら歩行者になるので、それらを組み合わせればこうなるだけの話です。

道路を横断しようとするとき、近くに自転車横断帯があれば、その自転車横断帯を通行しなければなりません。また、横断歩道は歩行者の横断のための場所ですので、横断中の歩行者がいないなど歩行者の通行を妨げるおそれのない場合を除き、自転車に乗つたまま通行してはいけません

 

交通の方法に関する教則(最新版)


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