交通事故を起こしたときには、当たり前のように被害者の損害を賠償しなければなりませんが、賠償額は何千万、何億となることすらあるので通常は保険から支払われます。
クルマや原付は自賠責保険に強制加入義務がありますが、たまに自賠責保険に入ってないというしょーもないヤツがいたりする。
警察によりますと、男性が運転していた車は知人名義のもので、車検が1年以上前に切れていて、自賠責保険にも入っていなかったということです。
宮崎市のスーパー駐車場での0歳死亡事故 はねた男性の車は知人名義で車検切れ・無保険(MRT宮崎放送) - Yahoo!ニュース先月、宮崎市のスーパーの駐車場で、親子2人が車にはねられ、0歳の女の子が死亡した事故についてです。その後の調べで、この車は、運転していた男性の知人名義のもので、1年以上車検が切れていたことが分かり
加害者に財力がない場合、被害者は泣き寝入りするしかないのでしょうか?
Contents
被害者への賠償
被害者への賠償は人身損害と物損があり、このような関係にあります。
人身損害 | 物損 | |
保険 | 自賠責保険 | 任意保険 |
根拠法 | 自賠法 | 民法 |
加害者が自賠責無保険の場合には自賠責保険が使えませんが、国は「政府保障事業」という仕組みを作ってまして、自賠責保険相当額を被害者に支払う仕組みがあります。
自賠責保険は限度額があるので十分な保障とまではなりませんが、最低限の部分は国が「政府保障事業」から被害者に支払い、国が加害者に請求する仕組みです。
また、被害者の家族が任意保険に入っていて、加入している保険に「無保険車傷害特約」がついている場合には家族が加入している保険から支払われる場合もあります。
なので全く補償されないというわけではありません。
ちょっと事案は違いますが、下記のような事例もあります。
加害者がクルマ、被害者が自転車の事故。
クルマの運転者が過失運転致死罪に問われた事件です。
あくまでも刑事事件で認定された事故態様では、時速35キロで通行する大型車の左側から、被害者が自転車で追い抜き。
大型車が幅寄せしたのではないか?ということから過失運転致死罪に問われましたが、幅寄せした事実はないとして無罪。
そしてこの事故、どうも自賠責保険の判定でも被害者過失が100%と判断されているらしく、自賠責保険からも被害者に支払いはありません。
そうなると被害者は一円も受け取れないのか?となりますが、被害者が加入していた保険(たぶん自転車保険?)から支払われているため、十分ではないかもしれませんが被害者遺族は賠償を受け取っています。
記事で取り上げた民事訴訟については被害者が加入していた保険会社が、「被害者に支払った分」を代位取得して加害者に請求した裁判です(ただし遺族も訴訟提起し3つの損害賠償請求訴訟が併合)。
この事件は刑事と民事で全く違う事故態様が認定され、刑事事件では「自転車が」追い抜きしたことになってますが、
民事事件の認定は、一審は「大型車が」自転車を追い抜きした可能性を「否定できない」とし、人身損害部分の賠償責任を認めた一方、「大型車が」自転車を追い抜きしたことの立証がないとして物損部分の賠償責任を否定。
二審は「大型車が」自転車を追い抜きしたと認定。
全く違う事故態様になってますが、刑事事件は合理的な疑いがない程度に検察官が立証する必要があり、民事(人身損害)は自賠法3条により「加害者が」過失がないことを証明した場合には賠償責任を負わない。
つまり加害者が無過失を立証しない限りは賠償責任を負う仕組み。
そして刑事と民事では過失の立証について「深さ」が違うため、このようなことが起こります。
被害者自身が加入していた保険から支払いを受けられることもあるし、「政府保障事業」から自賠責保険相当額の支払いを受けられる仕組みもあるため、一円も受け取れないということは考えにくい。
ただし不十分な額になることが予想されます。
刑事 | 民事(人身損害) | 民事(物損) | |
過失 | 合理的な疑いがない程度に検察官が立証する | 運転者が「過失がないこと」を立証しない限り、賠償責任を負う | 被害者が運転者の過失を立証する |
根拠法 | 刑法、自動車運転処罰法等 | 自賠法3条 | 民法709条等 |
刑事事件の有罪無罪と、民事の人身損害部分、民事の物損部分は過失認定の意味が違うのですが、先ほど挙げた件にしても
こんなイメージ。
訴訟 | 内容 |
刑事 | 検察官が過失を立証できず無罪 |
民事一審 | 「可能性を否定できない」として人身部分の賠償責任を認めた一方(自賠法3条)、「過失の立証がない」として物損部分の賠償責任を否定。 |
民事二審 | 被害者側が主張する事故態様を認め、人身損害、物損ともに賠償責任を認定。 |
問題は「自転車が」加害者の場合
自転車が加害者の事故の場合には、自賠責保険の適用がなく「政府保障事業」も対象外。
加害者が自転車保険に加入していない場合には、泣き寝入りする可能性があります。
特定小型原付は自賠責保険に強制加入義務がありますが、仮に無保険でも政府保障事業の対象なので最低限の部分は国が保障する可能性があります。
自転車のダメなところを法律できちんと整えたのが特定小型原付だと思うけど、あまりのルール無視ばかりでそこに目が行く人は少ない。
無保険が悪なのは当たり前ですが、国が最低限の部分を保障する仕組みがあります。
無保険で既に悪、さらに不注意で事故を起こした悪。
どうしようもない加害者に巻き込まれても、国が最低限の部分は面倒を見てくれる仕組みがあるのですが、いずれは自転車についても強制保険にする予定があるのかはよくわかりません。
少なくともそのような議論が進んでいるようには見えませんが、自転車保険って自宅の火災保険やクルマの保険に付帯していることが多く、実質無料に近い形で自転車保険に加入していたりするので、強制保険にする必要性が薄いのかも。
事故については自分がどれだけ注意していても防げないことがありますが、保険は他人を怪我させたときに自分を守るものになりますし、他人が無保険の場合に自分を守るものにもなりうる。
無保険なんて信じがたい話ですが、ちょっと前にコメントを頂いた方も
「自転車保険に入っていない」と書いてあったのが気になります。
「自分は悪くない、回避不可能だ」と思っても、法律ではそのように判断される可能性は皆無というしかない。
|
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント