車列間横断の事故なのかと思われますが…
事故があったのは三条市西裏館の県道8号の信号や横断歩道のない交差点です。
警察によりますと10日午後5時半頃、三条市本町に住む会社役員の男性(40代)が運転する普通乗用車が直進中、道路を歩いて横断していた三条市西裏館に住む無職の女性(80代)と衝突。
女性は意識不明の重体で長岡市内の病院へ運ばれましたが、その後、死亡が確認されました。死因は脳挫傷と骨盤骨折によるものだということです。事故の後、車を運転していた男性が自ら「交通事故を起こしました」と警察に通報し、男性は「当時、県道8号は渋滞していて、対向車の渋滞の間から女性が交差点を渡ろうとした」と話しているということです。
「渋滞の間から女性が…」80代の女性が車にはねられ死亡 新潟・三条市(BSN新潟放送) - Yahoo!ニュース新潟県三条市の県道で10日、80代の女性が車にはねられる事故がありました。女性は搬送先の病院で死亡が確認されました。 事故があったのは三条市西裏館の県道8号の信号や横断歩道のない交差点です。 警察
こういう事故の場合、注意義務がどうなるのか考えてみます。
事故現場は?
こちらの報道によると県道8号、三条市西裏館二丁目、信号も横断歩道もない交差点とあります。
この条件に当てはまる交差点は二ヶ所。
①
②
これ、①、②ともにこの交差点はちょっと要注意でして、交差点内のセンターラインが消えているようにも見える。
②はセンターラインっぽいのがあるようにも見えなくはないですが、センターラインなのかな?
そして交差点内のセンターラインが消えている場合には優先道路に該当しなくなります。
第三十六条
2 優先道路(道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路をいう。以下同じ。)
優先道路に該当しなくなると、車両は徐行義務を負うことになります。
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
なので優先道路がないとしたら車両は徐行義務があるし、優先道路であれば徐行義務がない。
「左右の見とおし」とは、左右どちらかだけの見通しが効かないだけで徐行義務を負います。
この見とおしは、もとより左右いずれか一方がきかないもので足りる。
名古屋高裁 昭和44年2月6日
方向についてはわからないのであくまでもイメージ図。
徐行義務があるかないかでだいぶ話が変わってしまいます。
なお、車列間横断は「直前直後横断」になるため禁止されているのと(13条1項)、「横断歩道がない交差点の歩行者優先」(38条の2)については直前横断の場合は適用しない(東京高裁 平成27年8月6日判決参照)。
ただし交差点安全進行義務(36条4項)はあります。
交差点安全進行義務については制限速度内で前方左右を注視していたなら基本的には問題にはなりませんが、交差点内のセンターラインが「ある」のか「無い」のかで車両側の注意義務が大きく変わる点に注意。
左右の見通しが悪い交差点で徐行義務(42条1号)を課す理由は、横断歩行者の安全も考慮した結果だとされています。
交差点の見とおしのきかない場合には、歩行者の安全も考慮しなければならないことは、原判決も説示するとおりであり
最高裁判所第三小法廷 昭和43年7月16日
優先道路性が争われた事例
車両対車両の事例ですが、優先道路性が争われた判例があります。
この判例はちょっとだけセンターラインが消えている事例ですが、「明確かつ容易に視認することが認められる」として優先道路であると認定。
◯東京高裁 昭和56年2月9日(刑事)
(証拠略)によれば、東西道路は日野市の管理する市道で、その中央の区画線は日野市において設置したものであること、右区画線の現状は5mの間隔で長さ5mの破線(白線)が続いて本件交差点に至つているが、同交差点の東側から入口をこえて標示されている破線の一部が、当該箇所に道路工事があつたため消されたままとなつていて3.55mの長さしかなく、この破線とその西隣りに接する破線との間隔は6.39mであることが認められる。したがつて、本件交差点内の右破線の長さは5mより短かいのであるから、瑕疵があるといわざるをえない。
しかし、(証拠略)をあわせ考察すると、本件交差点の東側入口および西側入口にある各破線はそれぞれ入口から1.8mずつ交差点の中にまで及んでおり、かつ、南北道路の停止線上に一時停止した車両等から右破線の存在を明確かつ容易に視認することが認められるのであるから、右の程度の瑕疵をもつて中央線としての道路標示を無効ならしめる程重大なものとは解されない。それゆえ、東西道路を優先道路と認定した原判決に誤りはない。
東京高裁 昭和56年2月9日
次は民事判例(車両対車両)ですが、センターラインがほとんど消失していたとして優先道路性を否定。
◯さいたま地裁 平成30年11月26日(民事)
本件道路には中央線が設置されているものの、本件事故現場付近における本件道路では中央線がほぼ消失しており、中央線を確認することが困難な状況になっているものといわざるを得ないから、過失割合を定めるにおいて、本件道路を中央線が設置された優先道路として扱うことは相当ではない。
さいたま地裁 平成30年11月26日
車列間横断の過失割合
車列間横断は直前直後横断になるわけですが、基本的には歩行者:クルマ=20:80から「直前直後横断」として歩行者過失+10%、高齢者修正として-5%あたりが相場。
ただし、非優先道路扱いでクルマが徐行義務を負うケースだとクルマ側に加算されると思います。
車両間横断については車両側の無過失を認めた判例もあるにはあるのですが(最高裁判所第一小法廷 昭和45年1月22日判決)、こういうタイプの事故は様々な要素によって左右されるので、車列間横断だから無過失になるわけではありません。
クルマの速度や前方左右を注視していたか、徐行義務があるのかないのか、歩行者側が注意をしたかなど様々な要素に左右されます。
例えばこちらのように死角から横断した事例では歩行者過失を75%にしてますが、
車列間横断した事例を集めても過失割合はバラバラ。
下記は全て「歩行者横断禁止」&「車列間横断」の事例です(報道の事例は横断禁止ではないので事例が異なる点に注意)。
歩行者 | 車両 | |
大阪地裁S45.4.28 | 100 | 0 |
交通の激しい所、鉄柵あり、車列間横断、付近(40m)に横断歩道あり | 回避可能性なし、前方注視していた | |
大阪地裁 H12.9.6 | 50 | 50 |
車列間横断、付近(約7m)に横断歩道 | 第三車線を進行し赤信号に向け減速中。前方不注視。 | |
東京高裁 H9.9.6
(一審東京地裁H8.11.27) |
40 | 60 |
車列間横断、付近(40m)に横断歩道 | ||
東京地裁 R2.10.29 | 40 | 60 |
車列間横断、高齢者 |
渋滞車列間横断については車両側の注意のみでは防げないものもあるので歩行者側にも注意が必要になりますが、優先道路か否かは徐行義務の有無に関係します。
優先道路ではないと判断された場合には徐行義務があり、徐行義務を果たしていれば防げたと判断されるケースがあるので要注意です。
交差点内のセンターラインがかなり消えているように見える点がちょっと気になります。
そもそも信号交差点(横断歩道あり)もさほど遠くないようにも見えますが、「横断歩道の付近」と言えるかはビミョーなのでそこは考慮しません。
車両の努力で回避可能な事故なのか、そうではないのかまでは報道から読み取れませんが、車列間横断はかなり厳しくなるかと。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
記事に「周辺に街灯はなく」とあり、①の交差点は防火水そうの上に街灯があるので、②の交差点ではないでしょうか。「車列間横断は直前直後横断になる」とのことですが、渋滞してたら歩行者はずっと横断できないということになりますか?
コメントありがとうございます。
②ですかね。
Googleマップで見えるラインのほかに消えかけのセンターラインがあるように見えるのでちょっと気になります。
渋滞停止が続いた場合は横断できません。
ただまあ、現実的にはセンターラインを越える前に停止して確認すれば事故にはなりにくいので、車列間横断するなら歩行者側も注意するしかないんですけどね。