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「道路交通法違反」と「過失」の違い。

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まあまあどうでもいい話になりますが、「道路交通法違反がないこと」と「過失の有無」って関係がない話になります。

 

これの意味が分かりにくい人もいるようなので実例を挙げます。

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「道路交通法違反」と「過失」の違い

例えばですが、歩行者がながらスマホでゲームしながら歩いてました。

歩行者がながらスマホで歩くことは道路交通法上では禁止されていません
ところが、ながらスマホのまま前をよく見てなかったため、信号待ちしている自転車に衝突して転倒させてしまいました。

「不注意」ですね。

 

さて、過失というのは「結果が発生することが予見可能で回避すべき注意義務があったにもかかわらず、注意を怠り結果を発生させたこと」。
ながらスマホをせずに前を見て歩いていれば衝突することもなければ、自転車を転倒させてしまうこともなかった。

 

なのでこの場合、「ながらスマホで前をよく見てなかったこと」は道路交通法違反ではありませんが、不注意(過失)ですよね。
ながらスマホというプレイ自体は違法ではなくても、ながらスマホにより他人をケガさせたなら過失(不法行為)になる。

 

なのでながらスマホで自転車を転倒させた歩行者は不法行為責任として賠償責任を負うし、刑事責任としても過失傷害罪に問われる可能性が出てきます(ただし過失傷害罪は親告罪)。

もし道路交通法違反=過失だとしたら、謎のアタックを受けて転倒させられた自転車は泣き寝入りすることになり不合理ですよね。

 

車両が起こした事故でも同様で、理屈の上では加害者に道路交通法違反がないとしても、過失があるなら過失運転致死傷罪には問われる。

道路交通取締法が自動車を操縦する者に対し特定の義務を課しその違反に対して罰則を規定したのは行政的に道路交通の安全を確保せんとする趣旨に出たもので刑法211条に規定する業務上の注意義務とは別個の見地に立脚したものであるから道路交通取締法又は同法に基づく命令に違反した事実がないからといって被告人に過失がないとはいえない。

 

東京高裁 昭和32年3月26日

道路交通法の問題と過失運転致死傷罪の注意義務は別問題です。
もし道路交通法違反のみが過失だとしたら、なぎ倒された自転車は泣き寝入りすることになりますが…
もちろんケガをさせるために衝突したわけではないので傷害罪にもなりません。

だからこうなる

例えば、このような判例があります。
福岡高裁宮崎支部 令和2年6月3日判決。

「自転車を押して歩く人」が自転車と衝突した場合の過失割合。
自転車を降りて押して歩く人は歩行者(道路交通法2条3項2号)ですが、自転車を押して歩く人の注意義務という点で、ちょっと珍しい判決があります。 自転車を押して歩く人の自転車と、自転車に乗った人の自転車が衝突した事故です。 自転車を押して歩く人...

事故の概要です。

・原告はマンションの出入口から自転車を押して歩いて歩道に進出。
・歩道を右側から進行してきた被告自転車の後輪スタンド部分と、原告自転車の前輪が衝突。
・原告は衝突のはずみで転倒。

過失割合はこちら。

原告(押して歩く歩行者) 被告(自転車)
30 70

この事故って、自転車を押して歩いていた人(歩行者)には何ら道路交通法違反はありません。
ただしこれ、事故の態様がこうではなくて、

このように、自転車の後輪スタンド付近と歩行者(押している自転車)の前輪が接触している。

押して歩く場合でも路外から歩道に進出する以上、歩道の見通し確認よりも自転車が先行して歩道に進出することになるわけで、歩道の様子を確認してから自転車を進出させる注意義務があったと認定。
しかも接触態様からすれば容易に回避可能ともいえる。

 

自転車を押して路外から歩道に出ることが道路交通法違反になるわけもありませんが、不注意があるなら過失相殺の対象になります。
もちろん、これが障害者とかベビーカーとかなら話は変わるでしょうけど、過失相殺って両者の立場を考慮して決まるので当たり前。

 

以前刑事の事例ですが、このような事故がありましたよね。

やっぱり無罪…警察と検察のミスが浮き彫りになった「被害者の赤信号無視見落とし事件」。
ちょっと前になりますが、被告人が交差点を右折する際に対向直進バイクが「赤信号無視で」交差点に進入してきて起きた事故。 検察は「被害者の赤信号無視」を見落としたまま起訴していましたが、やはり無罪判決だそうな。 福岡県古賀市で車を運転中、赤信号...

直進オートバイと右折車が衝突し、オートバイがケガをした事故。
あろうことか検察官は「直進オートバイの赤信号無視」だったことを十分捜査しないまま起訴。

この事例では右折車ドライバーが過失運転致傷罪に問われたわけですが、右折車が直進オートバイをケガさせたことは事実。
じゃあ右折車を「過失」によってケガをさせたのか?という問題になります。

 

「過失」というのは「予見可能なのに回避しなかったこと」ですが、なんでもかんでも予見可能だと認定したら理不尽になります。
なので「信頼の原則」という概念で、予見可能な範囲を限定する。
赤信号無視する車両については「特別な事情がない限りは」予見すべき注意義務がないという考え方です。

 

信号に従って右折したドライバーに道路交通法違反はありません。
「過失」があると考えられるから起訴を取り消しにしなかったとも言えますが、まあ、この事例はそもそもちゃんと捜査しなかった警察と検察の怠慢。
判決は信頼の原則から「赤信号無視する直進車を予見する注意義務はない」とし、結局無罪。

 

「道路交通法違反」の問題と「過失の有無」は必ずしも一致しないのよ。

違反はないけど過失はある

例えば横断歩行者妨害による事故判例。

交通整理の行なわれていない横断歩道においては、横断歩行者はきわめて強い優先権を有し、いつ横断を開始してもよいと同時に、その横断のしかたに関しても、必ずしも通常の速度でのみ歩行しなければならないものではなく、走る方法で横断することも―それが現在の交通の実態からみて当該歩行者にとり危険なときもあることは別として―別に禁ぜられているところではなく

 

東京高裁 昭和46年5月31日

これは道路交通法の違反になるかならないかの話
歩行者が横断歩道を横断する際には、信号遵守以外に道路交通法上の義務はない。

 

一方、同判決における量刑判断では被害者の「過失」をこのように評価している。

他方本件事故は4歳の幼児が横断歩道上を駆けて走つたことが重要な原因となつて生じたものであつて、その横断方法は本件の具体的状況下にあつてはまことに危険な横断の仕方であつたと考えられること、また幼児の監護者の不注意も看過しえないことを斟酌すると

 

東京高裁 昭和46年5月31日

これは被害者の「過失」の問題ですね。

 

他の事例。
判例は東京高裁 昭和50年12月11日(業務上過失致死罪)。

私有地の通路(道路外)から右折横断した2輪車と、道路を通行していた2輪車が衝突。
右折横断した2輪車が死亡した事故について、直進オートバイが業務上過失致死罪に問われたもの

 

この場合、右折横断した2輪車に25条の2第1項の「違反」(正常な交通を妨害するおそれがあるときは右折禁止)があり、直進オートバイには何ら道路交通法違反はありません
しかし直進オートバイは有罪になる。

しかして、原審で取調べた関係各証拠によれば、被告人は自動二輪車を運転し、新潟市ab番地先県道(幅員7.25mで道路中央部分に白破線のセンターラインが設けられている)上センターラインの左側部分(以下進行車線という)を三菱ガス化学方面より国道7号線方面に向け進行中、進路左側の同番地土建会社甲組正門通路から県道に進入し、対向車線に入るため被告人の進行車線を右斜めに横断中であつた被害者乙運転の原動機付自転車と、右正門前県道上において衝突したことが認められる(被害者の甲組正門通路から県道上への進出が交差点内への進入ではなく単なる横断であることは、右正門から甲家の屋敷内に通ずる幅員約4mの通路が道路交通法2条1項1号にいう道路に当たらない旨原判決が正当に説示したところから明らかである)。したがつてこの場合、原則的には所論のとおり、車両を運転して県道を横断しようとする者は、歩行者または他の車両等の正常な交通を妨害しないようにする安全確認義務を負う(道路交通法25条の2第1項参照)のであつて、県道上を進行する被告人としては、特段の事情がない限り、横断車両が右安全確認義務を遵守することを信頼して自車を運転すれば足り、この義務を怠つてその進行車線を横断しようとする車両のあり得ることまで予想すべき注意義務はないものといえるであろう。

しかしながら、本件においては、原審で取調べた各証拠並びに当審で取調べた検証調書及び証人丙の尋問調書を総合すれば、以下の事実が認められる。すなわち、被告人が自動二輪車を運転して県道上を前示甲組正門付近に差しかかつた際、同正門手前の進行車線左側端に正門の方から普通貨物自動車(パネル車)、大型貨物自動車(8トン車)の順序で2台の車両が相接して駐車していたこと(2台の車両の順序については、もし認定とは逆の順序で駐車していたとすると、実況見分ないし原審及び当審の検証の際における被告人の指示説明どおり、被告人が「2」地点において「A」地点の被害車両を最初に発見することができるためには、大型貨物自動車は極端に道路左側端に寄つて駐車していたとみなければならず、不合理である)、被告人は同正門手前で右駐車車両を認めたが、そのまま進行すればこれに追突することは確実であり、またこれに遮ぎられて同正門前はもとより進行車線前方の道路状況を見とおすことは全く不可能であつたこと、そこで被告人は、漸次、自車の速度を従前の時速約60キロメートルから45ないし50キロメートルに減速するとともに、自車をほぼセンターライン寄りに移行させて自車の進路を変更したうえ、駐車車両の右側方を通過しようとしたところ、大型貨物自動車の右後方(前示「2」地点)において、前方23.3m位の地点(前示「A」地点)に、甲組正門通路から県道に進入し、前示のように、被告人の進行車線を右斜めに横断中であつた被害者乙運転の原動機付自転車を発見し、急拠、ハンドルをやや右に切ると同時に、急制動したが間に合わず、自車を右原動機付自転車に衝突せしめたこと、被告人は自動二輪車等を運転して同所をしばしば進行していたもので、前示駐車車両の前方に甲組正門及び同正門から甲家屋敷内に通ずる通路があり、仕事関係の車両または歩行者が、日頃、同正門を通つて通路から県道に出たり、県道から通路に入つたりしているのを知つていたことが認められる。そして、同正門通路から被告人の進行車線を横断しようとする者にとつても、右のように、同正門右側に相接した2台の駐車車両があると、横断の際は歩行者または他の車両等の正常な交通を妨害しないようにする安全確認義務を負うとはいえ、被告人において駐車車両に遮ぎられて、同正門前はもとより進行車線前方を見とおすことが不可能であつたと同様、横断開始に先き立ち同正門通路のところに車両を停止させた位置から右方の交通の安全を確認することは、駐車車両に遮ぎられて全く困難であつたから、右車両の中には、右方の交通の安全を確認するため、同正門から県道内に横断を開始し、被告人の進行車線上、駐車車両に妨げられずに右方を見とおせる地点まで進出する車両のあり得ることはもちろん、その際、右方の交通の安全を十分確認することなく、漫然、横断を開始し、駐車車両の陰から、突如、対向車線に入ろうとする車両(本件被害車両がその例であることは原審で取調べた各証拠から明らかである)のあり得ることも、現在のわが国の道路交通の実情からいつてあながち否定できないところである。しかも、被告人は同正門から県道に出入する車両等のあり得ることを知つていたというのであるから、これら車両の中には、右で説示した本件被害車両のごとき車両のあり得ることも十分予見可能であつたはずであり、且つ、被告人が、警音器吹鳴義務はともかく、原判示の減速徐行義務を尽しておれば、本件衝突を回避することも十分可能であつたと思われる。したがつて、以上の諸事情のもとでは、駐車車両の側方を通過しようとする被告人において、横断車両が、横断開始に先き立ち、前示安全確認義務を尽すであろうことをあてにしても、右信頼は社会的に相当であるとは認められない。
右諸事情は、前示信頼の原則の採用を否定すべき特段の事情に当たるというべきである。論旨は理由がない。

 

東京高裁  昭和50年12月11日

道路外から横断(右折進入)する車両が25条の2第1項に従うことはもちろんだけど、駐車車両に遮られて視認できないことや、駐車車両の陰から漠然横断する車両は予見可能だとし、道路外から右折進入する車両との関係性で信頼の原則を否定し有罪(業務上過失致死罪、現在の過失運転致死罪)としています。

 

違反はないけど過失にはなり、過失と死亡に因果関係があるということです。
ただまあ、見方によっては若干理不尽とも言えます。
もちろん被害者の違反行為が大要素なので量刑判断では考慮されますが。

 

道路交通法違反が過失になることもあるし(違反=過失)、道路交通法違反があっても事故発生と因果関係がなければ過失にはならないし(違反≠過失)、道路交通法違反がなくても過失があることも。
基本的に別の概念なんですよね、道路交通法の問題と過失は。

道路交通取締法が自動車を操縦する者に対し特定の義務を課しその違反に対して罰則を規定したのは行政的に道路交通の安全を確保せんとする趣旨に出たもので刑法211条に規定する業務上の注意義務とは別個の見地に立脚したものであるから道路交通取締法又は同法に基づく命令に違反した事実がないからといって被告人に過失がないとはいえない。

 

東京高裁 昭和32年3月26日

 

それこそ、民事の過失ならこんな感じです。

信号機のない地点の道路横断に際しては仮りに横断歩道上であれ、或いはその近接したところであれ、歩行者としては十分左右を見て交通の安全を確認することが要求されるのであつて、歩行者優先の原則をたてに漫然横断をすることは許されないのである。

 

東京地裁 昭和42年11月13日

横断歩道であつても信号機の設備のない場合歩行者は左右の交通の安全を確認して横断すべき注意義務(事故を回避するための)があることは多言を要しない。

 

広島高裁 昭和60年2月26日

令和になってからも横断歩道上の事故について歩行者に過失を認定した判例はありますが、この場合の過失とは道路交通法違反の話ではない。
道路交通法は刑罰法規なので指定されたプレイを怠れば刑罰になるわけですが、道路交通法違反ではない過失とはそのプレイ自体が違法なのではなく、プレイの結果事故に至ったときに不法行為責任(民事)や刑事責任になるみたいなイメージでしょうか。

 

これら過失論も含めて法律なんですよね。
プレイ自体が違法なことと、プレイ自体に違法性がなくても結果を発生させた場合に問題になる「過失」では意味が違います。
ながらスマホで歩くことは道路交通法違反にならないけど、ながらスマホが原因で結果を発生させたら刑事責任や民事責任の対象になる「過失」。

 

義務付け刑罰規定(道路交通法)の問題と、過失の問題は必ずしも一致するわけではありませんが、若干疑問なのは歩行者が死角からノールックで横断歩道を横断した際に、オートバイが驚愕転倒しケガしたような場合。

 

歩行者に刑法上の過失責任を問えるのかは疑問ですが、民事責任上は「予見可能」なのだろうか。
道路交通法に基づいて減速接近していればそのような事態にはならない気がしますが、道路交通法の問題と過失の問題がぐちゃぐちゃになったまま話をすればぐちゃぐちゃのまま。
誰に責任が重いかを考えれば自ずと答えは出る気がしますが。

 

逆走自転車と衝突した「順走自転車」が重過失致傷罪で書類送検されたり、逆走自転車と衝突した「順走自転車」が過失傷害罪で略式起訴され有罪で確定したりするのが日本の法律です。

 

逆走自転車と衝突した自転車が安全運転義務違反&重過失致傷!?
以前から逆走自転車問題については何度も書いてますが、逆走自転車との距離があるときには、左端に寄せて停止して待ったほうがいいよと書いてきました。 今回の判例は逆走自転車と順走自転車の衝突です。 順走自転車が犯罪? 判例は東京地裁 令和3年7月...

 


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