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右折車は、対向直進車の速度超過を「どれくらいまで」予見する注意義務があるのか?

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こちらの続きになります。

苫小牧の白バイ事故、さらに被告人質問が延長に。
昨年、何度か取り上げた「時速118キロ直進オートバイ」と右折車の事故の件。 見えてきた事故態様はこのようなイメージみたいですが、 過失運転致死罪に問われた被告人の公判は、被告人質問が延長戦に突入したそうな。 被告人に過失はあるか? 道路交通...

道路交通法37条では右折車は直進車の進行妨害禁止になっています。
その一方、信頼の原則という概念があります。

行為者は、他者が適切な行動に出ることを信頼して行動してよく、他者の予想外の不適切な行動によって生じた法益侵害については、その行為者は過失責任を問われないとする法理。

著しい速度超過車があることを予見して運転しろというのはムリがあるので、著しく速度超過した直進車と右折車が事故を起こした際に、右折車ドライバーは過失責任を問われない。
ただし信頼の原則は「特別な事情がある場合には適用しない」というルールでもあるので、信頼の原則が適用されるかはケースバイケース。

 

実際の判例から見ていきます。
全て右直事故の右折車ドライバーが被告人。
右折車が高速度進入する直進車を予見する注意義務があるのか?という観点からいくつかピックアップしました。

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信頼の原則を適用し無罪にした判例

富山地裁 昭和47年5月2日

事故の態様から。

対向直進車の速度 100キロは下らない
被告人の行動 できる限り道路中央に寄らないまま、時速20キロで徐行せずに右折
判決 無罪

道路交通法37条1項は車両等が交差点で右折する場合(以下右折車という)において直進しようとする車両等(以下直進車という)の進行を妨げてはならない旨定めているが、右規定は、いかなる場合においても直進車が右折車に優先する趣旨ではなく、右折車がそのまま進行を続けて適法に進行する直進車の進路上に進出すれば、その進行を妨げる虞れがある場合、つまり、直進車が制限速度内またはこれに近い速度で進行していることを前提としているものであり、直進車が違法、無謀な運転をする結果右のような虞れが生ずる場合をも含む趣旨ではないものと解すべきである。けだし、直進車が制限速度をはるかに越えた速度で進行するような場合に迄右折車をして右直進車の進行を妨げてはならぬものとすれば、右折し終る迄に物理的に交差点に達し得る直進車がある限り、右折車はいつ迄も右折進行することができず、かくては、交通渋滞を招く反面、暴走車の跳梁を許す結果となり、到底安全円滑な道路交通を維持することにはならないからである。
従つて、右折車としては、直進車が制限速度内またはそれに近い速度で進行することを前提に、直進車と衝突する危険のある範囲内の前方の状況を確認し、かつ、その範囲内に進行する直進車の避譲をすれば、足りるのであつて、これ以上に制限速度をはるかに越える速度で進行する車両等のあることを現認している場合は格別、これに気付かない場合に迄そのことを予想して見とおしのきく限り前方の状況を確認し、かつ、全ての直進車を避譲しなければならぬ業務上の注意義務はない。

(中略)

被告人は本件交差点の中心から若干離れた内側を前記のとおり20キロメートルの速度で進行したことが認められる。
なるほど、被告人が本件交差点において道交法34条2項の定める所に従いその中心の直近を徐行して進行すればあるいは衝突は避けられたかも知れない。
しかし、前記のとおり避譲義務がない状態で右折進行した後においては、特段の事情がない限り、直進車が交通法規を守つて進行することを信頼して運転すれば足り、右信頼のとおり適法な運転がなされる限り衝突等の事故発生の危険が生じ得ないのであるから、制限速度をはるかに越えた高速で交差点を突破しようとする直進車のあること迄を予想し、それとの衝突を避けるために同方向の安全を確認し、交差点の直近の内側等を徐行する等の措置を講ずべき刑法上の注意義務はない。

富山地裁  昭和47年5月2日

最高裁判所第二小法廷 昭和47年4月7日

事故の態様です。

対向直進車との距離 右折車から見て約71m前方
右折車の行動 漫然右折を開始して約2m進行し、自車前部を中央線より約1m斜め右前方の対向車線上に進出させた
判決 破棄差戻し

 ところで、車両が、幅員約10.1mの車道を進行して交差点に進入し、幅員約17mの交差道路へ右折のため一時停止している場合、対向直進車との距離がなお70m以上もあるときは、対向車が異常な高速を出している等の特別な事情がないかぎり、右折車の運転者は、対向車の運転者が交差点進入にあたり前方を注視し法規に従つて速度を調節する等正常な運転をすることを期待しうるのであり、そうであるとすれば、右折車が対向車の到達前に右折し終わることは通常容易なことと認められるから、仮に被告人が同様の判断をもつて右折を開始したとしても、これをただちに軽率な行為として非難し、対向車との安全確認を怠つたものと断定することはできないものといわなければならない。

最高裁判所第二小法廷 昭和47年4月7日

 

信頼の原則を否定し有罪にした判例

神戸地裁 平成19年1月16日

事故の態様から。

対向直進車の速度 70~85キロ(制限速度50キロ)
被告人の行動 時速10キロで右折
判決 有罪

本件道路の制限速度は時速50キロメートルであるから,本件事故当時の本件二輪車の速度は制限速度を時速20キロメートルから35キロメートル程度は超過していた可能性があることになるが,本件においては,直進車である本件二輪車が右折車である被告人運転車両に優先すること,当時は交通量が比較的閑散な夜間であったことなどからすれば,本件二輪車にこの程度の速度超過があったからといって,信頼の原則が適用され,被告人に本件二輪車がそのような速度で進行してくることを予見する義務がないということにはならないというべきであって,本件二輪車の速度超過は,同車の運転者の落ち度として考慮すべきものにとどまるというべきである。

神戸地裁 平成19年1月16日

仙台高裁 平成5年2月5日

事故の態様です。

対向直進車の速度 時速70ないし80キロ(制限速度40キロ)
被告人の行動 時速15ないし18キロで右折
判決 有罪

司法警察員作成の前記実況見分調書及び平成4年2月10日付け捜査報告書によれば、本件事故現場付近の国道は、最高速度が時速40キロメートルと指定されているものの、本件事故は前記のとおり午後10時8分ころに発生したものであり、この夜間の時間帯は、交通量が閑散としており制限速度を遵守せず、時速60ないし70キロメートルで進行する車両も稀でなく、時速70キロメートルを超過している例も認められる。被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書によれば、被告人は本件事故現場を日頃頻繁に通行しており、このような交通事情については知つていたものと推認される。

 

4  本件において、前述のとおりA車は時速70ないし80キロメートルで進行してきたものであり、被告人が当初〈3〉地点で〈ア〉地点にいたA車を認めた時点で直ちに右の高速走行まで予測すべきであつたと断定するのは躊躇されるとしても、右折車の運転者たる被告人としては、対向直進車であるA車の動静を注視すると共にA車の接近にもかかわらずなお安全に右折できるか否かを確認すべきであり(本件当時は夜間で、二輪車の対向直進車の速度の確認は昼間に比べてより困難であるから、一層その必要性があるといえる。)、しかるときは、A車が右のような高速走行をして更に接近することも当然認識し得るに至ると考えられるから、A車が通過するまで進行を一時差し控えて事故の発生を回避すべきであり、これを要するに被告人には〈3〉地点で〈ア〉地点のA車を認めた際その動静に注視し、一時停止して同車の通過を待つなどA車の進路を妨害しないようにして右折進行すべき業務上の注意義務が課せられていたといわざるを得ない。なお、この場合、右のように高速走行車とはいえ優先通行権のあるA車の接近する状況下にあつては、いわゆる信頼の原則を認めて右折車の運転者たる被告人にA車の動静注視等の注意義務を免除するのは相当でない。しかるに、関係証拠によれば、被告人は、A車に対する十分な動静注視を怠り、A車が二輪車か四輪車かの識別もせず(被告人の原審及び当審公判廷における各供述参照)、その速度の確認も十分しないままA車の到達前に右折を完了することができると安易に思い込み、そのまま右折・進行したため本件事故に至つたことが明らかであるから、被告人にはA車に対する注視を怠つた過失があるというべきである。

 

仙台高裁 平成5年2月5日

時速118キロは予見可能か?

時速118キロというと法定最高速度から58キロオーバーになりますが、確かに仙台高裁判決のように30~40キロの速度超過を予見して注意する義務を認めたものもあります。
ただし仙台高裁判決の場合、「この交差点で速度超過車が多いことを知っていた」という点も信頼の原則を適用しなかった理由。
神戸地裁判決は20~35キロの速度超過車を予見して注意する義務を認めていますが、さすがに60キロ超過を予見して注意する義務を認めた判例なんてないと思う。

 

この裁判はなかなか不思議で、一度不起訴になってから検察審査会が「不起訴不当」としている点。
通常なら不起訴のまま終わる案件を起訴してますが、ちょっと謎が多い。

 

ちなみにですが、刑事事件って「被害者と加害者、どっちが悪いか?」を争っているわけではありません。
加害者が被害者にケガをさせたり死亡させたことについて、過失によりケガや死亡に至ったか?を問うもの。

 

過失とは予見可能性と回避可能性の問題なので、仮に右折車ドライバーが有罪になったとしても直進車の速度が合法だったことにはならない(別問題)。
逆に、直進車が違反だったから右折車が必ず無罪になるわけでもない(別問題)。

 

裁判所が60キロ近い速度超過を予見する注意義務を認めるとは思わないですが、右折車が道路交通法に反する右折方法をしたのは事実。
具体的には「交差点の中心内側」を通行せずに謎の小回り(というよりも逆走?)した点と、右折時徐行義務違反ですね。

それ自体が直接的に致死に至った過失とは言えないと思うけど、おかしな右折方法をしたことから「そもそも直進車に注意を払ってなかったのでは?」「直進車を認識しながら先に強引な右折をしたのでは?」と疑われることにも繋がります。

 

適法に右折していたなら疑われて起訴されることもなかったのかもしれませんね。
けど、検察が起訴不起訴を決める基準が本当にわからなくなりました。
確実に有罪に持ち込めるとは言い難い内容ですし。

 

札幌地検って昨年、ドラレコを過信した起訴をしたとかで非難されてましたが、

みんな雑過ぎないか。
ちょっと前にこんな報道がありました。 おととし11月、札幌市豊平区の道道で、当時8歳の男の子が乗用車にはねられ、重傷を負った事故…乗用車を運転していた70代の女性は、無罪判決を受けました。 (中略) 18日の判決で札幌地裁は、事故当時、男の...

今回の右直事故の主張内容もなんか変だし、いろいろ疑問です。
というのもこれ。

 

被告人質問は6日で終了する予定でしたが、被告人が「影を確認した」という位置などについて、検察が用意した証拠の図面には記載されていないなど、不明な点も多いとされ、次回、29日も続けて行われることになりました。

白バイ警官死亡事故、初の被告人質問は異例の“延長”へ…120キロで直進と右折で衝突、トラック運転手「遠くに自転車やバイクのような“影”が見えただけ。あの距離なら曲がれると思った」(HBCニュース北海道) - Yahoo!ニュース
2021年9月、北海道苫小牧市の交差点で、白バイと衝突し、警察官を死亡させた罪に問われている大型トラックの運転手の裁判…6日午後、初めての被告人質問が行われ、この日で終了の見通しでしたが、不明な点

検察側に立証責任があるのに、具体的状況が示されておらず、被告人質問の内容しかない。
白バイの速度は判明していて争いがなく、被告人の右折方法も判明していて争いがない。
しかし被告人がどのタイミングで「影」を確認したのかすら特定されていないし(交差点の何メートル前?)、○秒というのも被告人の感覚的なものと思われる。

 

単純に超高速度進入した白バイだから信頼の原則というわけにもいかなそうな一方、検察側が具体的に立証できてないようなフシもあるのでややこしいですね。

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