先日書いたように、改正道路交通法が全会一致で可決されました。
自転車に乗る立場からすると新設された18条3項、4項が本当に機能するのか?と疑問に感じますが、このような事例があったようなので新設18条3項、4項から検討してみます。
そもそも1回目の追い越しの時点でかなり悪意のある抜き方。
自転車が車道を走る事が許せないんだろうね。この先の交差点で直進通行帯が渋滞していて左折通行帯はガラ空きだったから私はそこから直進したんだけど、たぶんそれで「抜き返された」のがよほど癪だったんだろうね。でもそれが法規なんよ。 pic.twitter.com/jRnwzuvtnI
— g (@rtl1_) April 16, 2024
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至近距離の追い抜き
新設18条3項は、自転車を追い抜きする際に「十分な間隔がない場合」には「間隔に応じた安全な速度」を義務付けしている。
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
4 前項に規定する場合においては、当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない。
「十分な間隔」や「間隔に応じた安全な速度」については、条文上は具体的な数値はありません。
おそらく今後「交通の方法に関する教則」で目安を示すのではないかと考えられますが、今のところ報道によると「十分な間隔」とは1~1.5m、「間隔に応じた安全な速度」とは自転車のスピードが20キロと想定した場合、+5~10キロとされている。
追い抜きに関する規定は、「自動車が自転車の右側を通過する場合、十分な間隔がない時、自動車は間隔に応じた安全な速度で進行する」よう義務づける。同じ状況で自転車には「できる限り道路の左側端に寄って通行する」義務を課す。
「十分な間隔」や「安全な速度」の具体的数値は法令では規定せず、今後検討して目安を定めて示す。間隔は1~1・5メートルが基本になるという。速度については、自転車は通常時速20キロくらいで走ることが多く、追い抜く車はそれを5~10キロ上回る速度が目安になるという。
自転車追い抜き時、車に罰則付き義務 ながら運転禁止 道交法改正へ:朝日新聞デジタル警察庁は21日、道路交通法の改正原案をまとめた。車が自転車を追い抜く際、「間隔に応じた安全な速度」で進行する義務を車の運転者に罰則付きで課す新たな規定を盛り込む。自転車の交通違反に、青切符を受けて反…
さて。
この動画の場合、「十分な間隔(1~1.5m)」がないのは明白なので、「間隔に応じた安全な速度(+5~10キロ?)」と言えるのかが問題になります。
どう捉えますか?
あくまでも感情論を抜きにした法律論の話として。
そりゃ、この間隔で「+5~10キロ」はイヤですよ。
それを歓迎する自転車乗りはまずいないでしょう。
けど、この速度差が直ちに18条3項に違反している…のかかなり怪しくなり、警察的にも何もお咎め無しになるのは目に見えている。
追い抜き車両が明らかな高速度じゃないと警察が動かないことは容易に予見可能なわけで、ザル法化するリスクが高い。
なお、自転車が新設18条4項に違反しているとはみなせません。
左側端によって通行している以上は無関係。
新設18条4項の「できる限り」の意味を真逆に捉えている人が多いのも気になりますが、「できる限り」とは「できない場合」を除外する意味です。
「できる限り」としないと、左側端が荒れていたり路上駐停車車両がいた場合に進行できなくなるので、「できる限り…しなければならない」として左側端に寄れない場合を除外しています。
ザル法化する懸念
例えば、業務上過失致死傷罪の注意義務としては、以下のような判例があります。
よく言われる1~1.5mという根拠でもある。
原判決は、被告人が原付の右側を追い抜くに当り、同原付の前方及び同車の動静に十分注意し、かつ、その右側に間隔をとり進路の安全を確認しながら進行して、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り同人の右側に近接して漠然進行した過失があると認定しているが、被告人は前記の如く原付の右側に、1mないし1.5mの間隔をとって道路センターライン寄りを直進して原付を追い抜こうとしたものであって、まず、この場合の追い抜きの方法としては正常なもので、特にこれを非難すべき筋合は認められない。
東京高裁 昭和45年3月5日
被告人に注意義務懈怠の事実があるか否かについて考えるに、一般に先行する自転車等を追い抜く場合(追越を含む。以下同じ。)、自転車の構造上の不安定をも考慮に入れ、これと接触のないよう安全な速度と方法によって追い抜くべき注意義務のあることはもとよりであるが、右の安全な速度と方法の内容は、道路の巾員、先行車及び追抜車の速度、先行車の避譲の有無及び程度、対向車及び駐停車両の存否等具体的状況によって決すべく、一義的に確定すべきでないところ、前記認定の被告人車の場合のように左側端から1mないし1.2m程度右側のところを進行中、道路左側端から0.8m程度右側を進行中の先行自転車を発見し、これを時速45キロ程度で追い抜くに際しては、先行車の右側方をあまりに至近距離で追い抜けば、自転車の僅かな動揺により或いは追抜車両の接近や風圧等が先行自転車の運転者に与える心理的動揺により、先行自転車が追抜車両の進路を侵す結果に至る危険が予見されるから、右結果を回避するため、先行車と充分な間隔を保持して追い抜くべき注意義務が課せられることが当然であって、本件においても右の注意義務を遵守し、被害車両と充分な間隔(その内容は当審の差戻判決に表示されたように約1m以上の側方間隔を指称すると解すべきである。)を保持して追い抜くかぎり本件衝突の結果は回避しえたと認められる以上、被告人が右注意義務を負うことになんら疑問はない。
仙台高裁秋田支部 昭和46年6月1日
結局、これらは事故が起きた際に注意義務違反として問題にされるけど、道路交通法の具体的義務で規制しているわけではないので、事故未発生の事案については問題にされてこなかったのが今までの現実。
それを改正18条3項で規制しようとするのだと思うけど、具体性がない上によほどの速度差がない限り、警察が動くことは期待できないので、ザル法化するのは目に見えているとしか。
要は「十分な間隔」を取れるのに取らなかった場合や、「十分な間隔」を取れないのに無理な追い抜きをした場合に対する具体的な規制がない。
なので側方間隔を義務付けしなかった時点でビミョーなのよね。
至近距離&速度差が大きい場合のみが違反の対象になりますが、失敗感しかない。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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