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そもそも「過失」がなければ過失がつかない。著しい高速度通行車と事故が起きた場合。

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ちょっと前に書いたこちら。

時速120キロ直進車と、交差点右折車が衝突。過失割合はどうなる?
何年か前に大分で、時速194キロで直進するクルマと交差点右折車が衝突する事故がありましたが、一般原則としては右折車が劣後します(道路交通法37条)。 第三十七条 車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しよ...

いろいろ質問を頂いたのですが、たぶん勘違いしているような気がする。

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著しい高速度類型

右折車と直進車の関係だと直進車が優先(37条)。
基本過失割合はこうなります。

直進車 右折車
4輪同士 20 80
直進車がオートバイ 15 85

上で挙げた判例(福岡高裁 令和5年3月16日)では、直進オートバイが時速120キロ超(指定最高速度50キロ)、右折車は対向直進車を2台通過待ちした後に時速10キロで右折。
一審、二審ともに過失割合はこれ。

速度超過直進オートバイ 右折車
100 0

読者様の指摘ですが、「基本過失割合から速度超過や著しい過失を修正しても、直進車が0%にならない」。
そもそもですが、著しい高速度の場合って基本過失割合から足し引きして判断するわけじゃないと思う。
一例としてこのような判例もあります。

 

○浦和地裁 平成2年2月16日判決

原告車は時速90キロ(指定最高速度50キロ)で直進し、被告車は一時停止して確認後に徐行して交差点に進入し右折しようとしたところ衝突。
この事故の過失割合はこちら。

原告車(時速90キロ) 被告車(一時停止後に右折)
100 0

仙波町方向から南田島方向に通ずる川越市道を進行して本件交差点に差しかかり、本件交差点を狭山市方面に右折するため、別紙図面①地点に一時停止し、先ず右方を見たところ、約200m先に普通自動車を認めたのみで、左方には何も認めなかったので、時速約5キロメートルで前進し、別紙図面①と②の中間やや②寄りの地点で更に右方を確認したところ、右方には、第一通行帯約135m先に普通自動車の前照灯の明かりが、第二通行帯約148m先に自動二輪車の前照灯の明かりを認めたものの、相当距離があったので危険を感じなかったのに対し、左方には、約55m先に走行してくる普通自動車を認めたので、別紙図面②の地点で停止の措置をとり、別紙図面③の地点で左前部が中央分離帯の切れ目にかかる状態で停止し、左方からの前記車をやり過ごし、再び自車を発進させようとした矢先、時速約90キロメートルの高速度で走行してきた原告車が右側ドア付近に衝突したものであることが認められる。

原告は、右折車の進行状況について、右折進行するに当たり左右の安全を確認しないで突然右国道に進入したと主張するが、原告の右主張を採りえないことは前記認定のとおりである。

(中略)

原告は、指定速度を40キロメートルも超過する時速約90キロメートルの高速度で、しかも前方不注意のまま漫然と進行するという過失をおかしたため、本件事故を回避できなかったことは前記事実関係から明らかである。

ハ また、(証拠省略)を併せれば、被告は被告車の運行に関し、注意を怠っておらず、被告車には、何らの構造上の欠陥及び機能の障害はなかったことが認められる。

4  結論

そうすると、本件はまことに不幸な出来事であるが、被告には、自動車損害賠償保障法第3条ただし書の免責事由があることになる。

三  むすび

以上の次第で、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。

 

浦和地裁 平成2年2月16日

人身損害は自賠法3条により「無過失の立証」がない限りは賠償責任を負う。
物損は民法709条により、過失が認められたら賠償責任を負う。

 

被告車はきちんと一時停止して、かなり遠くにヘッドライトを認めたので徐行進入したわけで、距離感を見誤ったわけでもないし、無確認で交差点に進入したわけでもない。
そうなると、この事故について被告車の「過失」って何なのよ?となるわけですよ。

 

原告車は指定最高速度から40キロもオーバーして突っ込んできた。
被告車はきちんと安全確認をした。
原告車は著しい高速度で突っ込んだ。
被告車に過失がない以上、過失割合に反映されるのは当たり前かと。

 

著しい高速度の場合、基本過失割合から足し引きして決めているわけじゃないのです。

 

話は戻り福岡高裁の事例。

控訴人は、衝突時の控訴人車の速度は時速100キロメートル程度である旨の陳述及び供述をする。
しかしながら、○県警察が、控訴人車の走行状況を撮影した防犯カメラの記録等を解析して、本件事故直前の控訴人車の速度を時速122ないし179キロメートルと算出していること(上記撮影地点から、控訴人が急制動の措置を講ずるまでの間に、控訴人車が減速したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人自身、警察が120キロメートル以上は出ていたというのであれば、間違いないと思う旨の陳述及び供述ををすることに照らすと、上記速度は120キロメートル以上と認めるのが相当である
車両は交差点に入ろうとするときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないところ(道路交通法36条4項)、控訴人は、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で控訴人車を進行させ、同車を、本件交差点を右折進行してきた被控訴人車の左側面後端に衝突させたのであって、控訴人に過失があるのは明らかである。
これに対し、被控訴人は、被控訴人車を本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させたにすぎない。被控訴人に、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で本件交差点に進入してくる車両等を予見し、運転操作をすべき注意義務があったとするのは困難であるし、加えて、控訴人は、原判決別紙1の①地点から約75.9m手前で、被控訴人車が本件交差点を右折進行してくるのに気付いたというのであり、控訴人が時速50キロメートル程度の速度で走行していた場合、その停止距離(28m)や、被控訴人車の速度を考慮すると、本件事故の発生を回避し得た可能性が高いことに照らすと、本件事故は専ら控訴人の過失によるもので、被控訴人に過失はないというべきである。

福岡高裁 令和5年3月16日

きちんと安全確認してから時速10キロで右折し、しかも安全確認時に距離感を見誤ったわけでもない。
夜間だと相手のスピードなんてわからない部分もあるので、相手の速度感を正確に判断できなかったことを過失とみなすのは無理があるし、著しい高速度類型ってこのように無過失になることは珍しくもないのかと。

たぶんですが

直進車優先(37条)や優先道路通行車優先(36条2項)の解釈の問題かと思うけど、あくまでも適法~+20キロ程度までが優先の範囲で、それ以上だと優先権がないというのが一般的なんじゃないかな。
著しい高速度で直進して優先、という考え方は無い。

直進車の優先権が喪失したら右折車が優先になるわけではないのでご注意を。
それぞれ注意義務を果たしたかの問題。

 

そして法律上、過失がないなら過失にならないのだから、やるべきことをきちんとしていても防ぎようがない事故なら無過失です。
無理難題を押し付けるわけではない。

 

例えばこういう判例もあります。

自転車が歩道を通行中に足を着こうとしたら踏み外して車道に。車道通行車と接触した事故の過失割合は?
歩道といっても単に縁石による段差の場合もあれば、 ガードレールや植栽帯により分離されている歩道もあります。 今回の判例は、歩道通行自転車が車道に倒れてきた事故です。 歩道通行自転車が車道に倒れてきた事故 判例は東京地裁 令和2年6月23日。...

まずは事故の態様から。

・歩道と車道の区別があり、歩道幅員は1.7m(段差のみ)、車道幅員は7.4mでイエローのセンターラインがあり。
・車道の制限速度は40キロ。
歩道を自転車に乗って通行していた自転車(原告)は、上りを終えて右足を地面に着こうとしたところ、踏み外して車道に転倒。
・車道を時速38キロで通行していた普通自動車(被告)の側面に原告が接触衝突。
イメージ図(正確性は保証しません)

両者の距離が13.8mに接近した際に、自転車が右足を僅かに出したのが確認できる(ドラレコ)。

両者の距離が4.3mに迫ったときに、自転車が右に傾いた。

過失割合はこうなります。

原告(自転車) 被告(クルマ)
100 0

被告は、本件事故発生の数秒前に、本件歩道上を走行する原告自転車を認めることができた。しかし、原告自転車は、本件車道と縁石で区画された本件歩道上を走行しており、原告自転車に本件車道への進入等をうかがわせる動きはなかった。したがって、本件車道を制限速度内の時速約38キロで走行していた被告において、原告自転車を認めた時点で、原告自転車の車道側への進入等を予見して速度を落として走行すべき注意義務はなかったといえる。

原告が原告自転車から右足を出して本件車道との段差に足を踏み外したのは、被告車両との衝突の約1.3秒前である。しかし、被告において、原告が僅かに右足を出したのみで本件車道に倒れ込むことまでを予見することは非常に困難であり、その時点で右にハンドルを切るべきであったということはできない。仮に、原告が原告自転車から僅かに右足を出した時点で何らかの危険を予見することができたとしても、同時点で、被告車両は衝突地点まで13.8mの位置を時速38キロで走行しており、その制動距離は、空走時間を平均的な0.75秒、摩擦係数を乾燥アスファルト路面の0.7で計算すると、16.0mである。したがって、被告が直ちに急制動の措置を講じていたとしても、本件事故を回避することは不可能であったというべきである。

被告は、衝突の0.4秒前には原告が明らかに右に傾いた様子を確認することができたと認められる。しかし、運転者が、その危険を理解して方向転換等の措置をとるまでに要する反応時間(運転者が突然出現した危険の性質を理解してから方向転換等の措置をとるまでに時間が経過することは明らかである。)を考慮すると、原告との衝突前にハンドルを右に切ることができたとはいえない。また、被告車両の走行車線は幅員3.7mで、対向車線上には断続的に走行する対向車があったことからすると、被告において左右90度程度の急ハンドルを行うことは非常に危険な行為であったといわざるを得ない。
したがって、被告において、右にハンドルを切ることにより原告との衝突を回避すべきであったとはいえない。

 

東京地裁 令和2年6月23日

クルマからすると、歩道で足を踏み外して車道に転落してくることは予見困難な上、指定最高速度を遵守して通行し、至近距離に迫ってから転倒してきても回避不可能。
クルマに過失がないなら過失がつかないのは法律上当たり前なので、無過失だというなら無過失の立証をすればよい(自賠法3条但し書き)。

 

もちろん「自転車が歩道でフラフラしていた」とか「自転車が転倒した際にクルマと距離があった」なら別です。

 

必ずしも基本過失割合から足し引きして判断するわけではないし、著しい高速度については別判断。
なので、

読者様
読者様
基本過失割合から速度超過や著しい過失を修正しても、直進車が0%にならない
管理人
管理人
そもそも、必ずしも基本過失割合から足し引きして判断するわけではない。

ということ。
過失が認められなくても無過失の立証がなければ人身損害の賠償責任はありますが(自賠法3条)、基本過失割合が全てではないのですよ。
きちんとやるべき注意を払っていても事故が起きることはあるけど、きちんと注意を払っていた人に過失認定するような法律ではない。


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