痛ましい事故があったようですが…
大阪府枚方市で自転車に乗っていた中学生がダンプカーにはねられ死亡しました。
12日午後5時半ごろ、大阪府枚方市の府道で「ダンプカーと男の子の自転車の事故」と通行人から警察に通報がありました。
警察によりますと、北向きに走行していたダンプカーと西向きに走行していた自転車が接触したということです。
この事故で自転車に乗っていた中学1年の田中智成さん(12)が頭などを強く打ち病院へ搬送されましたが、その後死亡しました。
警察はダンプカーを運転していた建設作業員の山内正敏容疑者(51)を過失運転傷害の疑いで現行犯逮捕しました。
田中さんは事故当時ヘルメットをしていなかったということです。
ドライブレコーダーには、渋滞中の車列を自転車がすりぬけて道路を西に横断しようとしたところ、ダンプカーと接触する様子が残されていたということです。
警察の取り調べに対して、山内容疑者は「ブレーキをかけたが間に合わなかった」と容疑を認めています。
【速報】自転車の12歳中学生がダンプカーにはねられ死亡 ヘルメットは被っておらず 渋滞中の車列すり抜けた際に接触か 大阪・枚方市(MBSニュース) - Yahoo!ニュース大阪府枚方市で自転車に乗っていた中学生がダンプカーにはねられ死亡しました。 12日午後5時半ごろ、大阪府枚方市の府道で「ダンプカーと男の子の自転車の事故」と通行人から警察に通報がありました。
事故現場と思わしき場所はこちら。
このような事故の場合、刑事責任と民事責任はやや考え方が違います。
刑事責任
報道から見える事故態様のイメージ。
この場合、加害者は優先道路(交差点内にセンターライン、36条2項)なので徐行義務がない。
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
一方、被害者は非優先道路から優先道路に進入する以上、優先道路通行車の進行妨害禁止。
第三十六条
2 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、その通行している道路が優先道路(道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路をいう。以下同じ。)である場合を除き、交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
加害者は過失運転致死容疑で逮捕されてますが、基本的には「特別な事情がない限りは」非優先道路から優先道路に無確認進入する車両があることを予見する注意義務がない。
結局、加害者からみて被害者を視認可能になった地点で急ブレーキを掛けた場合に回避可能だと判断されたら有罪になりますが、
視認可能になった地点で既に回避不可能であるなら、通常は不起訴です。
信頼の原則を否定する特別な事情があるなら別ですが、信頼の原則を否定する特別な事情というのは、「この交差点にて普段からノールック横断する歩行者や自転車が多いことを知っていた」みたいなケース。
その場合には信頼の原則が否定され、減速して警戒すべき注意義務があったみたいな判断になることも。
勘違いされやすいのは36条4項のルール。
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
このルールは「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」とあることから、事故ったら違反が成立すると勘違いしやすい。
わざわざ「当該交差点の状況に応じ」とつけているように、状況に応じた安全運転を義務付けているので、
至近距離で既に回避不可能だった場合には違反がつかない。
民事の責任
民事は被害者の救済に重きを置くので、優先道路車/非優先道路自転車の事故基本パターン50:50になるかと。
例えばこのような判例があります。
判例は東京高裁 平成26年12月24日。
優先道路を通行していた路線バス(時速28キロ)と、6歳の子供が乗る自転車が衝突。
対向車線は渋滞のため、路線バスからすると被害者を視認困難。
バス会社は無過失の主張をしてますが、以下の理由から50:50に(一審はバス60%)。
控訴人の主張 | 裁判所の判断 |
42条(見通しが悪い道路の徐行義務)から優先道路が除外されている趣旨からすれば、被害自転車を予見する義務がなく、制限速度内で注意義務を果たしていた | 確かに42条(徐行義務)から優先道路が除外されているが、バス運転者として付近に住宅等があることを知っていた以上、児童等が安易に飛び出してくることを予見可能、交差点内安全進行義務(36条4項)を怠った |
被害者との位置関係から回避可能性がない | 児童等が安易に飛び出してくることを予見し、それに備えた運転をすれば回避可能 |
被害自転車は右側通行(17条4項、18条1項)で減速、停止することもなく著しい過失がある | 原判決に追記し、被害者の「著しい過失」とした |
職業運転手で住宅等が多いことを知っており、児童の飛び出しが予見可能としたことや、対向車両の停止で見えない以上は予見可能性から注意すべきだったとしています。
刑事責任上は「予見不可能/回避不可能」と判断されても、民事責任上は「予見可能/回避可能」と判断されることも珍しくはないけど、国家が刑罰を下す過失認定基準と、被害者への弁済における過失認定基準は違うのでこうなる。
ただし、4輪車同士の事故については、非優先道路通行車を100%にした判例もあります。
判例は名古屋地裁 平成23年8月19日。
渋滞停止車両の隙間から優先道路を横切ろうとしたところ、優先道路を時速約50キロで進行してきた車両と衝突。
なお、優先道路通行車は10キロの速度超過になります。
これについて、過失割合はこのように認定。
優先道路通行車 | 非優先道路通行車 |
0 | 100 |
原告車は、最高速度が時速40キロに制限されているのに、これに違反し、時速50キロ余りで走行していた。また、反対車線が渋滞していることを認識していたために、進路右側の見通しは非常に悪かったが、進行している南北道路に交差する道路が存在すること自体は認識していた上、左側を注意してみれば交差する道路の存在を認識し得る状態にあったのであり、しかも、交差道路があれば、そこから急に飛び出してくる車両等が出てくる可能性があることは認識していた。上記のような道路状況からすれば、原告としては、反対車線の渋滞により右方の交差道路及びそこから本件交差点に進入してくる車両等の発見が難しいのであるから、交差道路から本件交差点に進入してくる車両との衝突を避けるため、交差道路を見落とさないために十分に前方注視して進行すべきであった。また、少なくとも最高速度である時速40キロ以内の速度で走行するべきであった。
しかし、上記認定のとおり、被告車は、別紙見取図②の位置からアクセルを踏んで急いで同③の位置まで進行して、本件事故を発生させたのであるから、被告車は、原告車が本件交差点の直近に迫った時点で、それを見落として突然原告車の前に現れたものということができる。そうであるとすれば、原告が、仮に、②の位置に停車している被告車を認識したとしても、そのような状況で被告車が停止しているのであるから、当然、被告車は、原告車が通過するまで停止し続けてくれるものと考えて、そのまま進行して本件交差点を通過しようとするのが自然な状況であるといえる。そうすると、原告が左方を注視して交差点の発見をすることまではしなかった点は、本件事故の発生には何の影響も与えなかった(交差点を発見しても、原告は、被告車が停止し続けることを当然期待してそのまま進行したものと考えられる。)というべきである。したがって、本件事故の発生につき原告には、過失相殺をされるほどの過失まではなかったと認めるのが相当である。なお、原告車が時速50キロ余りで走行していた点は明らかに道路交通法違反ではあるものの、被告車が突然北行き車線に進入したことからすれば、仮に、原告車が時速40キロで走行していたとしても本件事故の発生を回避することはできなかったと考えられるし、時速40キロであれば原告の受傷がどの程度軽くなったかも明らかではないから、過失相殺をするのは相当ではない。
名古屋地裁 平成23年8月19日
過失相殺を認めていません。
まあ、シンプルにいうと、優先道路を横断する際にきちんと確認して横断しないと事故るリスクが上がるからきちんと確認しようとしか言えないけど、
加害者からみて被害者を視認可能になった地点で、制限速度を遵守していれば回避可能だったか次第で刑事責任は変わります。
やるべきことはちゃんとやろうねとしか言いようがないですが、刑事責任と民事責任は別なのよね。
ドラレコがあるそうなので証拠隠滅の可能性も低い状況で逮捕する必要があるのかは謎ですが…理屈の上では逃亡のおそれがあるなら不当な逮捕とも言えない。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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