いやはや、凄まじいな…
映像が荒くて加害車両が停止線を越えたタイミングの信号灯火は不明ですが、信号無視or横断歩行者妨害のどちらかになるだけなので、どのみち違反かと。
ところで。
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信号無視はかなり多い
信号無視で検挙された件数がどれくらいあるかご存じでしょうか?
令和5年の信号無視の青切符(クルマ、原付、特定小型原付)は428,565件です。
信号無視だけで1日あたり1174件の検挙。
自転車の信号無視も相変わらず多いし、
母親は尾根幹を南から北へ、信号が青になって左右を見てから横断を開始
ロードバイクはそこへ信号無視で進入して歩行者であった母親に激突
救急車要請してくれた信号待ちの車の運転手や、横で渡ろうとしてた人、当該のロードバイクに乗ってた人含めて当日にその場で警察が聴取して確認済み
— Kentaro Neko (@kentaro_neko) July 15, 2024
どの立場だろうと信号は守れとしか言いようがないのよ。
クルマだろうと、自転車だろうと、特定小型原付だろうと歩行者だろうと。
わりとバグっているよな…
信号無視って加害者にも被害者にもなりうるのだから。
信頼の原則
昭和40年代に最高裁が信頼の原則を認めて以降、「特別な事情がない限りは」信号無視する車両や歩行者を予見する注意義務はないことになっています(あくまでも刑事責任ですが)。
本件の事実関係においては、交差点において、青信号により発進した被告人の車が、赤信号を無視して突入してきた相手方の車と衝突した事案である疑いが濃厚であるところ、原判決は、このような場合においても、被告人としては信号を無視して交差点に進入してくる車両がありうることを予想して左右を注視すべき注意義務があるものとして、被告人の過失を認定したことになるが、自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、そのような交通法規無視の車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務がないものと解すべきことは、いわゆる信頼の原則に関する当小法廷の昭和40年(あ)第1752号同41年12月20日判決(刑集20巻10号1212頁)が判示しているとおりである。そして、原判決は、他に何ら特別な事情にあたる事実を認定していないにかかわらず、被告人に右の注意義務があることを前提として被告人の過失を認めているのであるから、原判決には、法令の解釈の誤り、審理不尽または重大な事実誤認の疑いがあり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
最高裁判所第三小法廷 昭和43年12月24日
信頼の原則って絶対的に「信号無視する車両や歩行者を予見する注意義務はない」と言い切っているわけではなくて、あくまでも「特別な事情がない限り」という条件付き。
昨年、検察官が「被害オートバイの信号無視」を見落として右折車ドライバーを起訴した事件がありましたよね。
これって被害者の信号無視が発覚した後も検察官が起訴取消にしなかったことから非難を浴びてましたが、検察官は「特別な事情」の立証に失敗。
被告人は無罪で確定してます。
⑴ 上記のとおり、被告人は、本件交差点内で一時停止の上、右折待ちをしていた際、対面信号機が赤色表示に変わり、対向車線の第2車両通行帯及び第3車両通行帯の各走行車両が減速するのを確認して、もはや本件交差点内に赤色信号に従わないで進入してくる車両はないと判断して右折を開始した。その当時、本件交差点の信号機は、3秒間全て赤色表示となる、いわゆるクリアランス時間内であり、被告人車両は、対向直進車両の進行を妨害しないよう、その動静を注視すべき一方、その後青色表示となる交差道路の交通を妨害しないために、速やかに右折を完了して本件交差点外に出るべき状況にあった。
このような状況において、被告人が、対面信号機が赤色表示に変わり、対向車線の、被告人車両に近い中央寄りの2つの車両通行帯を走行する車両2台が減速して停止しようとする状況を確認したのであれば、別の対向車両が赤色信号に従わずに本件交差点内に進入しようとするのを現認するなど、相手方が交通上適切な行動をとることを期待できないことを認識し、あるいは認識すべきであったときのような特別の事情のない限り、もはや赤色信号に従わないで本件交差点内に進入してくる対向車両はないと信頼することは許されるというべきである。そして、被告人は、本件事故の直前まで、普通自動二輪車であるB車両を認識していなかった上、道路の状況等から、B車両が、赤色信号に従って停止のため減速する先行車両を追い越して本件交差点内に進入しようとする状況を認識すべきであったともいえないから、上記特別の事情も認められず、検察官主張の注意義務はないというべきである。
⑵ これに対し、検察官は、被告人が右折を開始した時点で、少なくとも対向車線の第2車両通行帯を走行する車両(B車両の先行車両)は停止しておらず、そのために同車両の左側方(被告人車両から見て右側方)の見通しが困難であったから、同車両の左側方から、停止線手前で安全に停止しきれないと判断して本件交差点を通過しようとする対向直進車両があることを予見すべきであったとして、被告人は、第2車両通行帯の走行車両の前面で一時停止するなどして、同車両の左側方を確認する注意義務を負っていたと主張する。
しかしながら、被告人において、対向車線の第2車両通行帯を走行する車両の左側方の見通しが困難であったからといって、道路の状況等から見て、その付近に赤色信号を無視し、停止しようとする先行車両を追い越して本件交差点内に進入してくる車両が存在することを具体的に予測すべき根拠は見当たらないのであって、後続車両を含めもはや本件交差点内に赤色信号に従わないで進入してくる車両はないと信頼してよい状況に変わりない。検察官の主張は、信頼の原則の適用を否定すべき特別の事情に当たらない。
福岡地裁 令和5年10月27日
こんな雑な主張で「と、特別な事情です!」と主張するのもどうかと思うけど、わりと信号無視事案って非対称性も目立つ。
どういうことかというと、冒頭の報道。
ヤフコメでは「歩行者も信号無視する車両がないか確認すべき」みたいな意見が出る。

一方、福岡地裁判決のような事故については、「右折車も信号無視する車両がないか確認してから右折しろよ」という意見はまず出ない。
これってある意味では非対称性なんだろうなと思うけど、加害者側には「信号無視する車両や歩行者を予見する注意義務はない」という判断に賛同し、被害者側には「信号無視する車両がないか確認してから横断すべき」という。
わりとどっちやねん的な話に繋がるけど、シンプルにいえばどの立場でも信号は守れとしか言いようがないのよね。
どの立場でも
シンプルにいえばどの立場でも信号は守れとしか言いようがないけど、これだけ信号無視の検挙数がある日本では、もはや信頼の原則が適用できないのではないかと心配になる。
他人を傷つけないために、信号は守りましょう。
なお、歩行者の信号無視でオートバイが死亡した事故もあるので、結局「どの立場であっても」としか言えない。
あと、仮に信号無視ではなかったとしてもこれと同じで、

横断歩道が青になった以上、一時停止義務(38条1項)を免れない。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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