読者様から質問を頂いたのですが
今回はちょっと思うところがあり当該動画を引用しませんが、時系列からすると過失割合は示談交渉の結果なのでしょう。
事故現場はこちら。
Googleマッブの方向が加害車両(4輪車)の進行方向で、向かって右⇒左に自転車が進行して衝突。
※一方通行は「自転車を除く」がついてます。
なぜ過失割合が9:1なのか?
同幅員とみなすか?明らかに広いとみなすか?
まずですよ。
クルマの進行道路と自転車の進行道路を比較した際に「クルマの進行道路が明らかに広い」とみなすか、同幅員とみなすか?の問題があります。
そもそもどの時点でそれを判断するかになりますが、このような判例があります。
なお、道路交通法三六条二項にいう「道路の幅員が明らかに広いもの」とは、交差点の入口から、交差点の入口で徐行状態になるために必要な制動距離だけ手前の地点において、自動車を運転中の通常の自動車運転者が、その判断により、道路の幅員が客観的にかなり広いと一見して見分けられるものをいうものと解するのが相当である。
最高裁判所第三小法廷 昭和45年11月10日
二審の東京高裁の判断はこれ。
優先通行権につき規定した道路交通法第36条第2項にいう車両等の通行している道路の幅員よりもこれと交差する道路の幅員が明らかに広いものとは、交差点に入ろうとする車両等の運転者が、交差点より少なくとも当該車両等の速度に対する制動距離に相当する距離だけ手前の地点から現認した右各道路の幅員線につき、前記のごとき実測と視覚の誤差を修正して判断した結果、車両等の通行している道路の実測上の幅員線の長さよりもこれと交差する道路の実測上の幅員線の長さが長いことが明らかに認められる場合をいい、かかる場合右交差する道路を通行している車両等に優先通行権が認められる反面、右の判断により、車両等の通行している道路の実測上の幅員線の長さがこれと交差する道路の実測上の幅員の長さより長いことが明らかであつて、後者の幅員より前者の幅員が広いと明らかに認められる場合においては、前者の道路を通行している当該車両等に優先通行権が認められるものと解するのを相当とする
東京高裁 昭和44年3月26日
なお、この場合の「道路」とは歩道を除いた車道を意味します(17条4項、最判S47.1.21)。
とりあえず言えるのは、交差点より数十メートル手前で「交差道路が明らかに狭い(自車道路が明らかに広い)」と言えますか?という話。
同様に自転車の進行道路からみて、交差道路が「明らかに広い」と言えますか?
わりと無理筋かと。
どのみち徐行義務が
この場合、交差点内にセンターラインがないので交差点には優先道路がなく、かつ左右の見通しが効かないので徐行義務が双方にあります。
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
優先道路の定義はこちら。
9:1の計算根拠
これらを踏まえてなぜ9:1になるのか検討します。
おそらくですが、ベースとなる事故態様を「同幅員交差点」とみなし、かつ自転車を「横断歩道通行」と同視しただけなんじゃないかと。
民事責任を検討する上では、横断歩道から2m程度は横断歩道上と同視することが多い。
加害4輪車 | 被害自転車 | |
同幅員交差点 | 80 | 20 |
自転車の横断歩道通行 | +5 | -5 |
計 | 85 | 15 |
残り5%は何を足したのかわかりかねますが、ある種のご祝儀相場的に端数を切り上げただけかもしれません。
これを「広路/狭路車態様」にするとこうなる。
加害4輪車 | 被害自転車 | |
広路/狭路態様 | 70 | 30 |
自転車の横断歩道通行 | +5 | -5 |
計 | 75 | 25 |
変な話、被害者のケガの程度が大きくなければ実質的に自賠責保険分でカバーされちゃうので、自転車過失が10%でも25%でも保険会社的には大差ない可能性もあるし、クルマの破損具合も勘案して無駄に争うよりも早く示談して終わりにしたほうがいい場合もあるのが現実。
おそらく「同幅員交差点」「自転車は横断歩道通行」にご祝儀相場5%をつけて90:10で示談しただけなんじゃないかと。
自転車の右側通行は過失?
ちょっと考えてみましょう。
自転車が「右側通行」した分は自転車の過失なのでは?となりそうですが、この場合は事故発生とは関係ない上に、むしろ加害車両にとっては「左側通行から飛び出し」よりも回避可能性が高まるわけなのよ。
交差点からの距離が同じ位置に自転車がいたとして、左右の見通しが効かない交差点なんだから緑自転車は視認不可能。
赤自転車はまだ視認可能になる上に、発見してから衝突までの距離があるので右側通行分は過失とはならない。
まあ、左側通行でも右側通行でも「飛び出すな」が正解なんですが…「飛び出せ若人よ!」みたいなスローガンを誤解した人が多いのだろうか?
飛び出すのは違う話なのよね。
そもそもの話
「自転車を除く」一方通行の場合、
一時停止標識が片方にしかなく、合法的に逆走する自転車は一時停止規制がないことになります。
要は一時停止規制がなくても法規に従って徐行していれば問題にはならないという判断なのか、わざわざ自転車のためだけに一時停止標識をつける費用をケチったのかは謎ですが、おそらくは両方の理由でしょう。
民事の過失割合って、双方が合意するなら好きに決めていいもの。
本来なら50:50相当だけど加害者100%で合意することもできる。
この事例についても、同幅員交差点なのか明らかに広い道路なのかで争いたいなら争うことはできますが、争うメリット/デメリット、争わずに示談するメリット/デメリットを比較してどうするかの問題になりますが、
本質的には、加害車両/被害自転車ともに「左右の見通しが効かない交差点」である以上、徐行して左右を確認しながら交差点に進入すべきとしか言えないよね。
事故にならなければ過失割合もないのだし。
冒頭の件に戻りますが
そこに何らのご祝儀相場的に5%足しただけなのでは?
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント