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サイクリングロード事故で無過失を認めなかった理由。

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こちらの記事にご意見を頂きました。

イッヌは無事??
こちらの件ですが、 そもそも犬はケガしなかったのか?と思う人がいる様子。 一審判決によると、「犬の治療費」として原告(歩行者)が請求し、被告(ロードバイク)は犬の治療費について争わずに認められてます。 なのでイッヌはケガしたものと思われます...
読者様
読者様
警察の実験で犬のリードが視認できなかったのだから、自転車に過失を認定するのは不可能を強いているのではないでしょうか?

要はこの件ですよね。

散歩中の犬のリード(引き綱)に絡まって転倒した自転車に腕を引っ張られてけがをしたとして、飼い主の女性が、自転車を運転していた男性に約6900万円の損害賠償を求めていた訴訟は1日までに、大阪高裁で和解が成立した。一審の神戸地裁は自転車側に約1570万円の支払いを命じたが、高裁は過失を重く捉え、自転車の男性が解決金2500万円を支払うことで合意した。

(中略)

一審判決は原告、被告の双方に過失を認めたものの、「慎重な運転が求められる場所だった」と自転車側の安全配慮義務違反を大きく捉え、過失割合を原告3、被告7としていた。原告代理人によると、高裁は割合を2対8とする和解案を提示し、双方が受諾した。

一審判決によると、事故は2015年4月、宝塚市の武庫川河川敷遊歩道で発生。犬を連れた女性の近くを男性のロードバイクが通過した際、リードとロードバイクのチェーンが絡まって男性が転倒した。リードを持っていた女性も右腕を引っ張られて、まひが残った。

【独自】犬のリードに絡まり転倒事故、飼い主と自転車の過失割合は2対8 自転車の男性2500万円支払いで和解(神戸新聞NEXT) - Yahoo!ニュース
散歩中の犬のリード(引き綱)に絡まって転倒した自転車に腕を引っ張られてけがをしたとして、飼い主の女性が、自転車を運転していた男性に約6900万円の損害賠償を求めていた訴訟は1日までに、大阪高裁で和
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過失認定したポイント

一審の認定には確かにこれがある。

実況見分が行われ、本件現場において、自転車走行時及び停止時の本件リードの視認可能性を確認するために、被告車と同等の大きさの自転車を時速20キロないし25キロの速度で走行させて本件リードの視認状況が確認された。
警察官は、本件リードの存在を認識しない前提で、3度にわたり、通常の状態で前方を注視しながら自転車を走行させる実験を実施したが、本件リードを張った状態及び緩ませた状態のいずれにおいても、本件リードを発見することは困難であった。一方、警察官が、本件リードの存在に注意しながら時速約20キロで自転車を走行させた時には、本件リードを約9m手前で視認可能であった。

神戸地裁 令和5年7月21日

確かにここを読むと、自転車は「リードがあることを知っていなければリードを視認できない」ことになる。
ただまあ、そもそも裁判所が認定した過失はここがメインじゃないのですよ。

被告は、被告車を運転して本件遊歩道を走行するにあたり、本件現場付近には歩行者が存在したのであるから、周囲の状況を確認して安全に走行すべき義務があるにもかかわらず、これを怠った過失がある。他方、原告にも、他の自転車等の交通当事者が通行することが合理的に想定される本件現場付近で本件犬の散歩をするにあたり、本件リードを適切に操作し、本件犬との距離を適切に保つなどして、人や自転車等の他の交通当事者の通行を妨害しないようにすべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠った過失がある。そして、本件事故が公園内であって、散歩や遊戯によって歩行者が不規則・予想外な行動をとる可能性が相応にあるような場所であり、自転車で通行する被告に対して比較的慎重に運転すべきことが要求される場所での事故であることからすると、本件リードの視認可能性が極めて低く、原告の本件リードの操作等が適切とは言い難い面があったとの事情等を考慮したとしても、本件事故における原告の過失相殺率は、30%とするのが相当である

神戸地裁 令和5年7月21日

過失認定したポイントはここ。

散歩や遊戯によって歩行者が不規則・予想外な行動をとる可能性が相応にあるような場所であり、自転車で通行する被告に対して比較的慎重に運転すべきことが要求される場所での事故であることからすると

この事故は、時速20キロ程度で自転車を運転していた被告が、前方が左カーブしていることからペダリングを止めて減速中に起きた事故。
警察の実験は被告が走行していた時速20キロをベースに実験してますが、民事裁判所の認定は「もっと慎重に運転すべき場所/状況だった」なのよ。
歩行者が不規則な動きが「予見可能」な場面なんだから、具体的には書いてないけどもっと減速するとか自転車が注意を果たしていれば避け得たという判断。

 

裁判所はリードの視認が極めて困難だったことも認めているし、その上でもっと慎重であるべきだったという話なわけです。

そもそも「対等」な立場にはない

以前も書いたけど、

過失割合なんてそんなもん。「平等」ではなく「公平」が過失相殺。
先日のこれですが、 報道に出てきた弁護士さんは、基本過失割合が自転車30%のところ、イヤホンなどで修正して自転車過失40%としている。 これに対して、 という人はまあまあ多い。 これってある意味ではこの件にも通じるのかなと思ってまして、 こ...

自転車と歩行者は強者と弱者の関係。
民事って平等に過失相殺するわけじゃなくて、公平に過失相殺する仕組みなのよ。

「どっちが悪いか?」の指標ではないのよね。

民法722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題に過ぎない

最高裁判所大法廷 昭和39年6月24日

よく、クルマ対自転車の事故で「どうせクルマが悪くなる」と言われたりするけど、強者対弱者の関係はそもそも平等な立場ではない。
自転車対歩行者も同様。

 

自転車の場合、最近は自転車保険加入義務がある自治体も増えているけど、歩行者に保険加入義務を定めた条例はさすがに無いはず。
自転車に保険加入を義務化して費用の負担を求めているわけですが、強者だから仕方ないのよね。
強者のほうが責任が大きいのが通常で、だからクルマなんかは自賠責保険が義務化されているわけでして。

 

で。
冒頭の事故については大阪高裁の和解勧告により自転車過失80%で決着してますが、こちらで一審の事実認定を取り上げたように、

イッヌは無事??
こちらの件ですが、 そもそも犬はケガしなかったのか?と思う人がいる様子。 一審判決によると、「犬の治療費」として原告(歩行者)が請求し、被告(ロードバイク)は犬の治療費について争わずに認められてます。 なのでイッヌはケガしたものと思われます...

時速20キロから減速していた自転車の走行態様が悪質なのか?と聞かれたら個人的にはノー。
歩行者の横を通過する際には安全側方間隔or徐行というルールがありますが

(左側寄り通行等)
第十八条
2 車両は、前項の規定により歩道と車道の区別のない道路を通行する場合その他の場合において歩行者の側方を通過するときは、これとの間に安全な間隔を保ち、又は徐行しなければならない

歩行者の不意な動きが予見可能なんだから、安全側方間隔+徐行するのがベターだったことになる。
報道だけを見たらどこぞのチャリカスがかっ飛ばしたのかと思うかもしれないけど、時速20キロから減速中の自転車が強い非難の対象とは思わない。
けど、より慎重であるべきだったことも事実だし、過失割合がこうなる理由はあくまでも「公平に」過失相殺するからであって、「平等に」過失相殺するわけじゃないからですね。

 

けど、具体的事例を知ると注意するでしょ。
サイクリングロードを走るロードバイクはまあまあいるけど、歩行者の横をかっ飛ばすロードバイクをみると無知って最強だなぁ…と思ってしまいますが。

 

もし、神戸地裁の事例がいわゆる「かっ飛ばし案件」だったなら自転車過失は80%では済まない気がする。
そもそも、民事の過失相殺は「どっちが悪いか?」なんて単純な話をしてないのだと理解した方がいいと思う。

 

一例↓

ところで、(2)で述べたような、本件マンションのスロープで危険なスケートボード遊びをし、しかも、間近に迫っている加害車両に気付くことなくスロープを滑り降りた亡被害者の落ち度と、(3)で述べた被告の落ち度とを単純に比較するならば、被告の主張するように、亡被害者の落ち度の方がより大きいと言えるだろう
しかし、交通事故における過失割合は、双方の落ち度(帰責性)の程度を比較考量するだけでなく、被害者保護及び危険責任の観点を考慮し、被害者側に生じた損害の衡平な分担を図るという見地から、決定すべきものである。歩行者(人)と車両との衝突事故の場合には、被害者保護及び危険責任の観点を考慮すべき要請がより強く働くものであり、その保有する危険性から、車両の側にその落ち度に比して大きな責任が課されていることになるのはやむを得ない。特に、被害者が思慮分別の十分でない子供の場合には、車両の運転者としては、飛び出し事故のような場合にも、相当程度の責任は免れないものというべきである。

 

平成15年6月26日 東京地裁

過失割合というよりも「責任割合」と呼ぶ方が適切なのかもしれません。
以前歩行者のノールックアタックにあったという人にしても、

サイクリングロードでの対歩行者事故。「自転車は回避不可能」は真実か?
こちらの記事について、コメントを頂いたのですが、 あくまでもコメントに頂いた内容なので解説しますが、ちょっと気になる点が。 状況はサイクリングロードで起きました。私と歩行者の進行方向は同じで私が10M程度手前から歩行者を認識しており、ベルを...

残念ながらこの事故態様で、自転車過失が歩行者過失より小さくなる可能性は皆無。
そもそも、ポイントになるのは「回避不可能」ではなくて「予見可能」なんですよね。
なお、神戸地裁の事例は過失割合も争点ですが、メインの争点は素因減額を認めるか。
報道からは全く読み取れませんが、なぜ示談交渉がまとまらず訴訟になるのかは判決文見ないとわからないのよね。
報道だけを見たら、どこぞのチャリカスが高速でかっ飛ばしたのかと思うかもしれないけど、判決文みたらイメージが変わる。
けど、この事故態様でも自転車過失は80%だと高裁が認定するわけで、より慎重に乗ることと自転車保険は必須なのよね。

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