今回取り上げるのはこちら。
お笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳が、9月21日にXにあげた動画が猛批判を浴び、炎上した。
「淳さんはXに『集まれ!ヘルメット警察』の一文を添えて、電動キックボードLUUPで渋谷の街を走行する動画をアップ。ご機嫌な曲にあわせて『ループに乗ってる男を ループで見せるだけの動画なんだ ただそれだけ』などとテロップを流していました。
ところが、淳さんはヘルメットを着用しておらず、最後に『安全運転を心がけよう』と自虐的なテロップが流れたことで、コメント欄には『煽ってるの?』などと批判が殺到しました」(芸能担当記者)
淳の動画に対するコメント欄には、
《田村淳さん、あなたの行動には本当に失望しました。公共の場でヘルメットも着用せずに電動キックボードに乗る姿を晒すなんて、その影響力を全く理解していない証拠です》
《免許持ってる人が「努力義務」だから大丈夫って発信してるのが、この件の表面しか見てない感じで浅い。浅い知識で問題定義するの止めて欲しい》
《文脈が不明だが、著名人なら、ヘルメット警察批判(?)より安全啓蒙だろ?逆張りすればいいってもんじゃない)
などの批判的な声が複数あがった。また、淳は個人投資家としてLUUPに出資していることも公表しているため、
《Luupに出資してるのにさすがにこれは悪手すぎない?》
といった声も寄せられた。
多くの批判を受けて、淳は、9月26日にXを更新。元の動画にコメントをつける形で、
《ヘルメットは努力義務。努力義務の意味を履き違えて煽ってしまいました。ごめんなさいできるだけヘルメットを着用しましょう》
と謝罪したものの、あまり賛同は得られていない。
「LUUPに出資してるのに」田村淳、ノーヘルで電動キックボード走行動画に批判殺到「努力義務の意味を履き違えていた」と謝罪(SmartFLASH) - Yahoo!ニュースお笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳が、9月21日にXにあげた動画が猛批判を浴び、炎上した。 「淳さんはXに『集まれ!ヘルメット警察』の一文を添えて、電動キックボードLUUPで渋谷の街
これ、挑発する言動をしたら炎上したという当たり前が話なので特に同情する余地もないのですが、問題は以下。
①挑発する言動を使うことが道義的にどうなのか?
②努力義務を「刑罰がない義務」と勘違いしている人がそれなりにいるのだから、なおさら勘違いの元になる。
③少なくともインターネット上は「LUUPをよく思わない人」がそれなりに多く、正しいか間違っているかは別として批判が集中することは予見可能。
④ましてや社会のムードは「ヘルメットをかぶろう」なので逆張りと捉えられても仕方ない。
そりゃ炎上する。
とはいえ、騒いでいるのはごく一部で、炎上というほどではないようにも見えますが。
ところで、努力義務を「刑罰がない義務」と勘違いしている人は多い。
両者は別です。
刑罰がない義務 | 努力義務 | |
意味 | 一定の行為を義務付けしているが、義務の履行に際し罰則で担保してない | 一定の行為を義務付けしてないが、国民に促すためにあえて明文化 |
一例 | 18条1項 | 63条の11 |
例えば道路交通法18条1項は「軽車両は左側端によって通行しなければならない」としながらも、罰則はない。
18条1項は間違っても努力義務ではなく、義務の履行を罰則で担保してないだけ(なお罰則で担保しなかった理由は注解道路交通法が詳しい)。
もし最高速度遵守義務に罰則がなかったら、わりとメチャクチャになるでしょ。
罰則で違反を抑制したい場合には罰則規定を作るし、罰則ではなく遵法精神に期待してあえて罰則を設けてない義務付け規定もある。
歩行者のルールに直接的な罰則がないのも、罰則で縛ることよりも遵法精神に期待しているから(道路交通取締法時代には罰則があったけど、意味がなかった説もある)。
自転車ヘルメットについてはヘルメットをかぶることを義務付けしてなくて、あくまでも「なるべくつけよう」程度でしかない。
自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。
ヘルメット努力義務化のときも「法で縛りをかけた」みたいな論調が多くてびっくりしたけど、誤った前提で批判することに何の意味があるのやら。
例えばワクチン接種についても努力義務があります。
予防接種法
第九条 定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種(B類疾病のうち当該疾病にかかった場合の病状の程度を考慮して厚生労働大臣が定めるもの(第二十四条第六号及び第二十八条において「特定B類疾病」という。)に係るものを除く。次項及び次条において同じ。)の対象者は、これらの予防接種を受けるよう努めなければならない。
これについて厚生労働省のサイトではこのような説明がある。
今回の予防接種は感染症の緊急のまん延予防の観点から実施するものであり、国民の皆様にも接種にご協力をいただきたいという趣旨で、「接種を受けるよう努めなければならない」という、予防接種法第9条の規定が適用されています。この規定のことは、いわゆる「努力義務」と呼ばれていますが、義務とは異なります。接種は強制ではなく、最終的には、あくまでも、ご本人が納得した上で接種をご判断いただくことになります。
今回のワクチン接種の「努力義務」とは何ですか。|Q&A|新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省「接種を受けるよう努めなければならない」という予防接種法の規定のことで、義務とは異なります。感染症の緊急のまん延予防の観点から、皆様に接種にご協力をいただきたいという趣旨から、このような規定があります。
「義務付けしてないけど、国としてはやってほしい、しかし本人の判断を尊重する」というのが努力義務。
予防接触法9条1項及び2項は、予防接触を受ける努力義務を定めた訓示規定にすぎず、直接の法的義務、法的効果を発生させるものではなく、仮にこれらの規定に従わなかったとしても法的不利益が課されるものではないから、原告らの権利又は法律関係に現実的な不利益又は危険が存在するとはいえない。
東京地裁 令和4年8月2日
道路交通法26条の2第1項にも罰則はないけど、努力義務ではない。
第二十六条の二
車両は、みだりにその進路を変更してはならない。
努力義務を「刑罰がない義務」と勘違いする人って心配になる。
(国民の責務)
第六条 国民は、歯科口腔保健に関する正しい知識を持ち、生涯にわたって日常生活において自ら歯科疾患の予防に向けた取組を行うとともに、定期的に歯科に係る検診(健康診査及び健康診断を含む。第八条において同じ。)を受け、及び必要に応じて歯科保健指導を受けることにより、歯科口腔保健に努めるものとする。
(国民の責務)
第二条の四 国民は、廃棄物の排出を抑制し、再生品の使用等により廃棄物の再生利用を図り、廃棄物を分別して排出し、その生じた廃棄物をなるべく自ら処分すること等により、廃棄物の減量その他その適正な処理に関し国及び地方公共団体の施策に協力しなければならない。
(国民の努力)
第五条 国民は、第二条の基本理念にのっとり、相互扶助と連帯の精神に基づいて、被災者への支援その他の助け合いに努めるものとする。
まあ、挑発する文言を使ったなら炎上するのは当たり前だし、少なくともインターネット上は電動キックボードに嫌悪を示す人がそれなりにいる(リアル社会では「興味がない」という人のほうが多い気がしますが…)。
法的に正しいことと、世論が違うなんてことはしょっちゅうありますが、少なくとも私自身は炎上に乗っかり間違った法律解説をするようなみっともないことはしたくないなあ…
わりといるのよ。
「自転車ヘルメットは罰則がない義務」と勘違いしている人。
ヘルメットをかぶるのは良いことですが、間違った解説をするようなみっともないことはしたくないなあと、改めて思った。
それはそれ、これはこれと分けて考えられない人がいるのも不思議ですが、田村氏の立場を考えたら悪手。
そもそも、自転車ヘルメット努力義務化のときも「ヘルメット警察が現れるだろう」みたいにいう人もいましたが、少なくともヘルメット警察なる暇人は聞いたことがない。
ちなみにヘルメットですが、あくまでも自分の意思で考えましょう。
意思決定に必要な情報はいくらでもありますが、それらをどう捉えるかは自己責任なのよね。
間違った情報も多々ありますが…
まあ、電動キックボード絡みは間違った前提で批判する人もいるけど、正しく批判すればいいのに…と思う。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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