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安全運転義務違反の成立と不成立。

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こちらの続きです。

事故ったら「できる限り安全な速度と方法で進行してなかった」として36条4項の違反。
読者様から質問を頂いたのですが、この質問についてはまた別の機会にします。どこの話なのかもあえて今回は触れませんが、あそこの人、事故が起きたら「できる限り安全な速度と方法で進行してなかった」として交差点安全進行義務違反(36条4項)になると説...

安全運転義務違反(交差点安全進行義務違反を含む)について「事故が起きたら安全運転義務違反」と勘違いしている人が多い気がしますが、

管理人
管理人
事故の発生は安全運転義務違反の要件ではありません。

とりあえず安全運転義務違反の成立を否定した事例をみていきます。

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安全運転義務違反を否定

判例は福岡高裁 昭和51年3月26日。
道路交通法違反被告事件です。

 

事故の概要。

被告人が幅員5.7mの道路を時速20キロで進行中に、中古車センター展示場からバックで道路に進入した貨物車と衝突したもの。
一審は過失による安全運転義務違反(70条)として有罪判決。

 

一審が認定したのはこれ。

被告人は、昭和47年(略)ころ、軽四輪乗用自動車を運転し、北九州市小倉北区東清水町二丁目トヨタ中古車センター横の交差点において右折のうえ新生町方面から国道三号線方面に向けて時速約20キロメートルの速度で直進し、右中古センター展示場出入口付近にさしかかつたのであるが、運転中は絶えず進路前方および左右を注視して障害物の早期発見に勤め、進路の安全を確認しつつ進行すべきであるのに、右折時から時速約20キロメートルに加速しつつ漫然と進行したため、右展示場内から後退し同所前の車道において一時停止のうえ方向変換しようとしていたA運転の普通貨物自動車に気付くのが遅れた過失により、同車との衝突を避けるためあわてて右転把して同車の後方を通り抜けようとしたが、及ばず、折から後退して来た前記A運転車両の後部に自車左側面部を接触させ、もつて他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転したものである。

福岡高裁は安全運転義務違反は不成立とする。

同道路は、幅員約5.7m、アスフアルト舗装が施してあり、直線かつ平坦で、極めて見とおしがよく、同展示場の正門は、道路西側の側溝(暗きよとなつていた。)を隔てて設置されており、門の内幅は約5.7mであつたこと、本件当時の昭和47年(略)ころは、右道路から展示場へ、また展示場から右道路への、車両ならびに人の出入は閑散でA車のほかにはなかつたこと、被告人は、右時刻ころ被告人車を運転して、同市同区清水町方面から同区東清水町二丁目の交差点を経由し、同交差点を右折して、前記道路を右展示場入口正門前に向つて進行していたが、当時右展示場前の道路上には、被告人車以外に車両はなく、歩行者も居なかつたこと、そのころ右展示場に来ていたAは、展示場内の事務所前付近にA車を――その前部を奥に向けて――駐車していたが、国道三号線の方へ向つて帰つて行くべく、一旦同車を後退させて展示場の門から直角よりも幾分斜になる状態で道路上に出て、同所でさらに前進、後退をしながら同車の方向変換を行なおうと考え、同車を運転して同事務所の事務員の誘道で後退を始め、同車の後部先端付近が同展示場の門扉のレールの上部付近にさしかかつたところで一時後退を停め、幾許もなく、何人の誘導も受けないで再び後退を始め、その直後ころ被告人が両車の接触地点から約7.8m位手前に被告人車の前部先端が達した位置付近で、左斜前方からA車が急に幾分斜に後退して来たのに気付いたが、急制動しても間に合わないと考えた同人は、急遽右に転把して衝突を避けようとしたが、被告人車の接近に気付くのが遅れたAが、漸やく被告人車に気付いて急制動を始めた時は既に遅く、A車の後部右端付近と被告人車の左側中央付近を接触させる交通事故を発生させるに至つたことを認めることができる。

そこでまず、被告人に道路交通法70条に定める安全運転義務に違反した事実があつたか否かの点から考察するため、接触事故発生直前の諸状況を今少しく精細に観察すると、前叙のごとく、当初後退を始めていたA車が、その後部先端付近を、展示場門扉のレールの上付近に達した状態で一時停車し、若干の時間をおいてAが何人の誘導も受けないで再び同車の後退を始め、道路に対して直角よりも幾分斜の状態で道路上に進み出た直後ころにおける被告人車の位置は、両車の接触した地点から約7.8m位手前付近に被告人車の前面先端が達していたのであり、被告人車が同地点から両車の接触した時点までに進行した距離は、同車の車長が約2.9m、接触を始めた位置は同車の車体の左側中央部付近であつたことに徹し、約9.3mということになる。他方A車の進行状況は、右展示場門扉のレールから接触地点まで4.95m、道路の西側(展示場側)端から接触地点まで約3.75mであり、被告人がA車の後退を始めて発見したのは、同車がその後部を道路上に進出させた直後と推定すると、被告人車の速度が約20キロメートル毎時であつたことと対比して、A車が道路上に後退進出して来た当時の速度は約7キロメートル毎時位の速度であつたと推定されるところであつて、このことは当審証人の供述とよく符合するところである。
しかして、被告人がA車の後退を発見したのは、前叙のごとく同車の後部先端が道路上に進出した直後ころであつて、同車が当初後退を始めた後、同車の後部先端付近が門扉のレールの上付近に達した位置、すなわち同車の車体全部が展示場内に悉く入つている状態で一時停止していた状況をも考慮すると、被告人のA車の発見が特に遅れていたとは断じ難いところであつて、前記の両車の接触事故は、Aが、他人による誘導の補助を受けないで、左後方の確認を十分に行なわないまま再び後退を開始したため、被告人車の接近に気付くのが遅れ、ために適確な急制動の措置がとれず接触事故を起すに至つたもので、その原因は、Aが、A車の方向変換を行なうについて、道路幅が5.7mでは、他の車両の進行の妨げとなるおそれが多分にあるので、他人の誘導を受けないで後退し方向変換を行うには、他の車の車両の進行していない始期を選んで行なうべきであつたのに、被告人車が接近していた時期に後退を始めた後退時期の選定の誤りと、左後方の安全の確認を怠つたため、被告人車の発見が遅れて確実なブレーキ操作を行なわずに約7キロメートル毎時の速度で後退を続けたことによるもので、かかる他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転した安全運転義務違反にあつたことは、も早や否定し得ないところであるが、ひるがえつて、被告人の側をみると、被告人がA車の後退を発見した時点における被告人車の先端の位置は、前叙のごとく両車の接触地点から約7.8mの地点であつたのであるから、これと、約20キロメートル毎時であつた被告人車の速度を基礎にして、空走時間を0.8秒ないし1秒、この時間に被告人車の進行し得る距離は約4.5m位ないし5.6m位、制動に要する距離はアスフアルト路面が乾燥しているときで約2.2m、湿つているときでは約3.8m位を要するので(これらの諸元は、科学警察研究所の発表によるものである。また、本件当時、事故現場付近の路面の乾湿の状況は記録上必ずしも明確ではないが、特に湿つていた状況を窺わせるものはない。)、乾燥した状態にあつたものと想定すると、被告人がA車を発見して確実にブレーキを操作しても、被告人車が停止するまでに6.7m位ないし7.8m位を要することとなるので、路面が乾燥していても被告人車とA車の接触の可能性は避け難いものといわねばならない。しかるときは、被告人が、A車の後退を発見して、急制動するいとまはないと判断して、急きよ右に転把して衝突を避けようとした措置に対し、他人に危害を及ぼすような方法で運転した、との評価を加えることは相当ではない。
さらに、被告人がA車を発見する以前の段階において考察しても、被告人がA車を発見する時点以前における同車の動静は前叙のごとき状況であり、幅員が5.7mで平坦かつ極めて見とおしのよい前記道路の状況および右道路上には被告人車以外に車両の通行はなく、また歩行者の通行もない交通の状況のときに、右道路上において誘導者が誘導を行なうなど、展示場から車両が前進または後進の態勢で右道路上に進出して来ることを予知せしめる特段の事情がない場合は、機能上何等欠陥のない車両であれば、たとい20キロメートル毎時の速度を多少超過して走行したとしても、交通の安全と円滑を害するおそれはなかつたものというべきであるから、かような道路ならびに交通の状況下において、前記のごとき特段の事情がないときに、被告人が機能的に何等の欠陥も認められない被告人車を運転して、約20キロメートル毎時位の速度で右道路の左側寄りを進行しても、他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転したものということはできない。

しかるときは、被告人の前記運転を通じて、これに対し、道路交通法70条所定の、安全運転義務に違反の評価を加えることは、相当とはいい難い。

被告人に安全運転義務違反の事実がない以上、故意または過失の存否をせん索するまでもなく、本件被告事件は、道路交通法119条2項、同条1項9号の過失による安全運転義務違反の罪は勿論のこと、故意犯も成立しないものといわねばならない。

福岡高裁 昭和51年3月26日

ざっくりまとめると、被告人が路外から道路に進入するA車を発見した時点ではすでに回避可能性はないし、他に通行車両や歩行者がいなかったこの状況においては、「展示場から車両が前進または後進の態勢で右道路上に進出して来ることを予知せしめる特段の事情がない場合は」時速20キロで進行したことを「他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転した」とは言えない。

 

勘違いしやすいけど、70条後段の規定。

(安全運転の義務)
第七十条
車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
いろんな人
いろんな人
「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」とあるから事故が起きたら違反!

みたいな話をする人がいるけど、「道路、交通及び当該車両等の状況に応じ」とわざわざ付けているのよ。
事故になったことが違反なのではなく、状況に応じた運転をしなかったことが違反。
回避不可能なことを違反にするわけではない。

 

それこそこれよ。

エラー | ABEMA

優先道路を通行していた被害者からすると、このように暴走する車両を予見すべき注意義務もなく、被害者が加害者の暴走に気づいた時点では回避不可能。
当然被害者に交差点安全進行義務違反がつくわけもない。

 

要は安全運転義務って、事故になったら必ずつくわけじゃないのよね。
回避不可能なのに犯罪扱いになるわけもない。

そもそもの問題

読者様
読者様
時々管理人さんが指摘しているYouTubeについて質問があります。
この動画について。

優先道路を通行していた単車と非優先道路を通行していた車の衝突事故ですが、行政処分の解説で「単車は交差点安全進行義務違反」としながら、非優先道路を通行していた車の付加点数を「専ら運転者の不注意」だと解説しています。
単車に交差点安全進行義務違反があると説明しているのに、車が「専ら運転者の不注意」とするあたりが理解できないのですが(「専ら」なのに相手に違反?)、そのあたりを解説して頂けないでしょうか。

要はこれ、必ず交差点安全進行義務違反がつくわけがないのに、必ず交差点安全進行義務違反がつく前提にしているからその後の説明と食い違いを起こす。
そして刑事/行政/民事の違いを混同したまま解説すれば、食い違いを起こすのは当たり前かと。

なお、優先道路通行車を無過失にした民事判例はいくつかありますが、

優先道路vs非優先道路。優先道路通行車が無過失になることはあるのか?
優先道路通行車と非優先道路通行車が交差点で衝突した場合、基本過失割合はこうなります(ともに4輪車の場合)。優先道路通行車非優先道路通行車1090優先道路を進行する上では見通しが悪い交差点でも徐行義務はなく(42条1号カッコ書き)、通常レベル...

民事の基本過失割合は双方ともに過失がある前提になっていて、例えば以前挙げた交差点安全進行義務違反の行政事件は、

事故ったら「できる限り安全な速度と方法で進行してなかった」として36条4項の違反。
読者様から質問を頂いたのですが、この質問についてはまた別の機会にします。どこの話なのかもあえて今回は触れませんが、あそこの人、事故が起きたら「できる限り安全な速度と方法で進行してなかった」として交差点安全進行義務違反(36条4項)になると説...

優先道路を通行していた原告がわき見してなければ被害者を50m手前で視認可能だったにもかかわらず、わき見して直前まで気がつかなかったもの。
これは優先道路通行車にも過失があるし、民事責任上も優先道路通行車の過失は免れない。

 

よくある事故報道って、報道をみても衝突に至ったタイミングなど詳細はわからない。
「事故ったら安全運転義務違反」なんて運用はしてないので無理難題を課す話ではない。
交差点安全進行義務違反の行政事件のように優先道路通行車にも前方不注視の過失がみられるパターンもそれなりにあるので、それは当然注意しましょうとなる。

路外から道路に進出した貨物車の違反

冒頭の福岡高裁の事例ですが、

路外から道路に進出したA車は25条の2第1項として処理されるかというと、違う。

(横断等の禁止)
第二十五条の二
車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。

なぜ25条の2第1項ではないかというと、25条の2第1項は過失の処罰規定がないため、「歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるとき」だと認識してないと成り立たない。
この場合は安全運転義務違反(70条過失犯)として処理される。

 

まあ、義務の内容は「歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときはバックすんな」であり、25条の2で処理するか70条で処理するかは運転者には関係ないのですが、交通事故統計で安全運転義務違反が多数になるのは、実質的に25条の2第1項の違反でも70条として処理することがあるから。

 

注意して運転するのは当たり前ですが、予見不可能、回避不可能なのに安全運転義務違反になるわけではないのよね。
なので質問の回答ですが、いろいろ混同した説明をするからそうなるとしか。

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