PVアクセスランキング にほんブログ村
スポンサーリンク

歩行者横断禁止が刑事責任に影響するか?

blog
スポンサーリンク

読者様から質問を頂いたのですが、歩行者横断禁止の道路を横断する歩行者と衝突した事故の場合。

 

たぶん、意味を取り違えている気がする。

スポンサーリンク

柵を乗り越えて横断する歩行者

歩道にガードレールや柵がある場合、柵を乗り越えて横断する歩行者を予見する義務はないとした判例があるとかないとかの話を頂いたのですが、

 

たぶんそれって、以前取り上げたこれですかね。

「歩行者横断禁止」と責任。
読者様から質問を頂いたのですが、「歩行者横断禁止」の規制がある道路で、禁止規制を破って横断する歩行者と事故が起きた場合は過失責任がどうなるの?という話。民事責任でいうなら、「歩行者横断禁止」の場所で歩行者が横断して事故になった場合、歩行者に...

すなわち、前記の二本の分離帯の間を走行する車両の運転者としては、歩行者が南東側歩道から北西側歩道に移る際にはかならず前記二本の横断歩道のうちのどれかを利用するのであつて、これを利用しないで前記のガードレールをまたいで、かつ、歩行者横断禁止を無視して、横断歩道以外の部分で車道を横切るものはないであろうと信頼していればたりるというべきである。従つて本件の場合被告人にはその運転する自動車の進路前方を横切る(または、横切ろうとしている)歩行者の存在を予見すべき義務はない

東京地裁 昭和47年3月18日

ガードレールや柵を乗り越えて横断する歩行者を高度に予見する義務については、「特別な事情がない限り」はないと思いますが、そもそもの話。

管理人
管理人
予見する注意義務がないにしても、結果回避義務は免れないですよ。

この判例ってちょっと問題が大きくて、判例タイムズ284号(昭和48年)の中で東京地裁判事の久米氏が判決に疑問を投げ掛け、「最もショッキングであった判決の1つ」としている。

 

その理由ですが、事故の態様がこちら。

被告人は右自動車を北東方の入谷方面から南西方の上野駅前方面に向かつて走行させていたが、そこは東京都公安委員会がそこを北東方の入谷方面から南西方の上野駅前方面に向かつて通行する車両の最高速度を40キロメートル毎時と定めているところであるのに、被告人はそのときそこで右自動車を約70キロメートル毎時の速さで走行させており、かつ、右自動車の助手席に同乗していたAの購入したスポーツ新聞の競馬予想記事について同人と話をかわしたり、その新聞をのぞきこんだりして右自動車の進路前方を注視しておらず、従つて右自動車の進路前方における横断歩行者の存否を確認していなかつたところ、そのとき被害者が右自動車の進路前方(南西方)を左から右に(南東方から北西方に)横断歩行しようとしており、被告人は以上の前方不注視のためこれに気づくのが遅れ、被告人がこれに気づいたときには右自動車は被害者の手前(北東方)約9メートルの地点を約70キロメートル毎時の速さで走行していたため、どうするいとまもなく、右自動車の車体が被害者の身体に衝突し、そのため同人がはねとばされて路上に転倒し、その結果(略)死亡するに至つたものであり、以上の事実は〈証拠〉によつて明らかである。

前方不注視のまま制限速度を30キロオーバーで進行していた状況です。
検察官が主張したのは速度遵守義務と前方注視義務を果たしていれば避け得たとの内容。

そこは東京都公安委員会がそこを通行する車両の最高速度を40キロメートル毎時と定めているところであり、従つて、かかる場合自動車運転業務従事者としては、右自動車の進路前方を左から右に横断する歩行者があるかも知れないことを予想し、かかる歩行者との衝突を避けるため、右自動車の速さを40キロメートル毎時以下にとどめ、かつ、右自動車の進路前方を注視してかかる歩行者の存否を確認していなければならないという業務上の注意義務があるのに、被告人はこれを怠り、右自動車を約70キロメートル毎時の速さで走行させ、かつ、右自動車の助手席に同乗していた者との会話などに気とられて右自動車の進路前方を注視していなかつたところ、そのとき被害者が右自動車の進路前方を左から右に横断歩行しており、被告人は以上の前方不注視のためこれに気づくのが遅れ、被告人がこれに気づいたときには右自動車は被害者のすぐ手前まで達しており、その結果被告人は前記注意義務違反により右自動車の車体を被害者の身体に衝突させた。

業務上過失致死に問われたもの。
裁判所は無罪にしてますが、以下が判決理由。

検察官は、自動車運転業務従事者としてはかかる場合この衝突を避けるため、右自動車の速さにつき前記の指定最高速度を守り、かつ、右自動車の進路前方を注視して、そこを左から右に横断する歩行者の存否を確認していなければならないと主張するが、以上の歩行者横断禁止区間内で前記の如き二本の分離帯の間を走行している車両の運転者はその車両の進路前方を横切る歩行者があるかも知れないということまで予想していなければならないということはできない(このことは、前記の南東側分離帯が前記のように一部途切れていることやここを通行する車両の最高速度が前記のとおり公安委員会によつて40キロメートル毎時と定められていることによつて影響されない。けだし、分離帯の中断は分離帯の北西側から南東側に移る車両のためにあるものに過ぎず歩行者のためにあるものではないし、また指定最高速度はこの場合車両の進路前方における車両との衝突を防止するためのものに過ぎず歩行者保護のためのものではないからである。)。

 

すなわち、前記の二本の分離帯の間を走行する車両の運転者としては、歩行者が南東側歩道から北西側歩道に移る際にはかならず前記二本の横断歩道のうちのどれかを利用するのであつて、これを利用しないで前記のガードレールをまたいで、かつ、歩行者横断禁止を無視して、横断歩道以外の部分で車道を横切るものはないであろうと信頼していればたりるというべきである。従つて本件の場合被告人にはその運転する自動車の進路前方を横切る(または、横切ろうとしている)歩行者の存在を予見すべき義務はないのであり、従つて、(進路前方の車両に対する関係ではともかく)かかる歩行者に対する関係では前方注視義務も指定最高速度遵守義務もないといわなければならない。そうだとすれば、被告人がもし前方注視をしていたならば被害者の姿を(右転把または制動により回避しうる地点で)現認しえたとしても、またもし被告人が前記の指定最高速度を遵守していたならば前記衝突を回避することができたとしても、そのことは被告人に前記衝突についての過失責任を負わせる根拠とはなりえないものというべきである。

 

東京地裁 昭和47年3月18日

この判例、予見すべき注意義務を否定したのみならず、結果回避義務もフル否定している。
昭和40年代頭に最高裁判所が信頼の原則を認めてから、地裁判例の中には信頼の原則をやり過ぎたと思われる判例がいくつもあって、その1つとみたほうが適切。
なお、信号無視した歩行者に信頼の原則を適用せず、前方注視していれば十分避け得たとする高裁判例はいくつかある上、歩行者横断禁止の道路でも結果回避義務を免れないとした東京高裁 昭和42年5月26日もあるわけで、ちょっと異質なんですね。
この判例は。

 

スポーツ新聞読みながら30キロ速度超過して、歩行者にぶつかって「信頼の原則」というのはだいぶムリがある。
もちろん、速度遵守して前方注視していても回避不可能な事故なら無罪になるのはわかるけど、違いますからね…

 

信頼の原則を適用せず有罪にした東京高裁判決↓。

本件事故は、原判示被害者が、所論のように、道路交通法第13条第2項の規定に違反して、歩行者として横断禁止区域となつている原判示道路を横断しようとし、しかも、横断に際して一たん立止り、2、3歩後退したことにその一因があり、右被害者にもかなり重大な過失があるものと解せられるが、その主たる原因は、被告人が自動車運転者としての基本的な義務である進路前方の注視義務を怠り、漫然時速約50キロの速度で進行した過失により右横断中の歩行者である被害者に全く気付かず、自車前部を同人に衝突させたことにあることが充分認められるのである。従つて、原判決には、所論の如き認定事実と証拠との間のくいちがいは存しない。(右のように、本件事故に関しては、被害者の過失が認められるのであるが、被害者の過失を罪となるべき事実として判示する必要はないものと認められるので、原判決が被害者の過失につき判示しなかつたことをもつて、事実摘示の不備や事実と証拠との間に理由のくいちがいがあるものとすることはできない。右被害者の過失については、量刑事情としてこれを参酌すれば足るのである。)次に、本件事故の場合に、論旨に援用する最高裁判所判例が認めるいわゆる信頼の原則の適用があるかどうかについて考察してみると、自動車運転者としては、他の自動車運転者が交通法規を守ることが期待し、これに信頼して行動すれば足りるといわゆる信頼の原則が右最高裁判所の判例によつて認められたものと解し得るのであるが、この原則を直ちに、そのまま自動車運転者対歩行者の場合にまで拡張し得るかどうかについては、疑問があるものといわなければならない。わが国現下の道路交通事情は、自動車専用道路(道路交通法第2条第7号の2にいう高速通行路)及び歩行者専用道路(跨道橋など)が少なく、大多数の道路は、歩車の区別がある場合でも、歩行者が車道を横断するなどの方法により、自動車その他の車輛と歩行者との通行に共用されており、かかる共用道路における交通の安全のためには、歩行者に比してより大きな交通の危険を発生させる可能性がある自動車運転者に歩行者よりも大きな注意義務が課せられるものと解するのを相当とし、自動車運転者がかかる共用道路における予測可能な歩行者の通行につき前方注視その他の注意義務を尽くさないで事故を発生させたときには、右の原則は、その適用がないものと解すべきである。本件についてみると、本件事故は、歩道と車道との区別はあるが、右に説明した車輛等と歩行者との共用道路において生じ、前記のとおり、被害者たる歩行者に過失があつたにもせよ、被告人には、歩行者の通行を予測し得る車輛等と歩行者との共用道路において自動車運転者としての基本的注意義務である前方注視を怠つたのであるから、前記信頼の原則を適用して被告人に過失がないとすることはとうてい許されないのである。

 

東京高裁 昭和42年5月26日

要はガードレールを越えて横断する歩行者を高度に予見する注意義務はなくても、回避可能なら回避する義務があるというのが今の刑法。

1つの判例にこだわりすぎないほうが

要は東京地裁判決については、当時の裁判官すら「ショッキングな判決」と評した上に、信頼の原則を適用しなかった高裁判例もあるし、現在の常識としても結果回避義務まで免除したわけではない。
あまり1つの判例にこだわると、違う判断がされた類似事案を見逃すから注意した方がいいかと。

 

昭和40年代は信頼の原則についてもいまいち洗練されてないし、信頼の原則から速度遵守義務や前方注視義務まで免責にしたものがあるくらいなので、意味がある判例なのか意味がない判例なのかは見極めないと厳しい。
予見する注意義務がないにしても、結果回避義務まで免除することにはならないのは、その後の判例を見ても明らかかと。

コメント

タイトルとURLをコピーしました