ご冥福を。
17日夕方、山梨県笛吹市の市道の交差点で自転車と軽乗用車が衝突する事故があり、自転車に乗っていた小学6年生の男の子が胸などを強く打って死亡しました。
警察は運転手から話を聞くなどして事故の状況を詳しく調べています。警察や消防によりますと、17日午後5時すぎ、笛吹市石和町の市道の交差点で、自転車が左から走ってきた軽乗用車と出会い頭に衝突する事故がありました。
この事故で、自転車に乗っていた近くに住む小学6年生の杉原蒼空さん(12)が、胸などを強く打って病院に運ばれましたが死亡しました。
現場は、JR石和温泉駅から南東におよそ3キロの住宅街の信号機のない交差点で、警察によりますと、自転車の側に一時停止線があったということです。 自転車と軽乗用車が衝突 自転車の小学生が死亡 笛吹|NHK 山梨県のニュース【NHK】17日夕方、山梨県笛吹市の市道の交差点で自転車と軽乗用車が衝突する事故があり、自転車に乗っていた小学6年生の男の子が胸などを強く打って死亡…
ちょっと考えてみましょう。
Contents
「対自転車事故」は理不尽なのか?
自転車の一時停止違反が疑われる案件ですが、要はこのような事故を非一時停止側が避け得るか?という問題になる。
例えばこのような交差点で一時不停止の車両が飛び出してきた場合に、非一時停止側は避けらないだろ!という意見ですね。
これは何回も説明してますが、左右の見とおしがきかない交差点で優先道路でもないので徐行義務がある。
第四十二条
車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
※優先道路とは交差点内にセンターラインがある場合。
なので事故報道については、自転車は一時停止義務、クルマは徐行義務がある。
自転車 | クルマ | |
義務 | 一時停止&交差道路の進行妨害禁止 | 徐行 |
法条 | 43条 | 42条1号 |
ここで問題になるのは、クルマが徐行していたら必ず事故を回避できるのか?という話。
これについては参考になる判例があります。
まずは事故の概略。
被告人は、昭和57年11月1日午後2時ころ、普通乗用自動車(以下被告人車という)を運転し、兵庫県加古川市加古川町寺家町1の155先交差点(以下本件交差点という)を西から東へ進入した際、折柄右方(南方)道路から交差点に向けて進行してきた被害者(当時74年)乗車の足踏自転車(以下被害自転車という)と衝突し、同人が原判示の傷害を負つたこと、本件交差点は、被告人が進行してきた東西に通じる幅員約4.0ないし4.5mの道路と、被害者が進行してきた南北に通じる幅員約4.1ないし5.1mの道路とが交差した場所であるが、同交差点から東への道路が南に寄つているため若干変形した交差点になつていること、交差点の周囲には商店など建物があるため東西、南北の道路とも左右の見通しが困難な交差点であるが、信号機等による交通整理は行われておらず、交差点北東の角にロードミラーが設置されているだけであること
この判例は自転車側に一時停止規制はなく、双方ともに徐行義務あり。
要は被告人の運転に過失があったか?という点で刑事訴追されてますが、検察官は被告人に徐行義務違反があったと主張。
道路交通法上徐行とは車両が直ちに停止することができるような速度で進行することをいうと定義されている(道路交通法2条1項20号)が、具体的に時速何キロメートルをいうかは明らかではないとしても、前記認定の時速5キロメートル程度であれば勿論、時速10キロメートルであつても徐行にあたるものというべく、本件において業務上の注意義務としての徐行としても、時速5キロメートル程度のものであれば、これにあたると解するのが相当である。原判決は本件のような交差点に進入する車両には単なる徐行より一段ときびしい最徐行義務があるかの如き説示をしているのであるが、最徐行とは具体的にいかなる速度をいうのかの点は暫らくこれを措くとしても、前記のように被告人が時速5キロメートル程度の速度で進行していたとするならば、被告人において徐行(最徐行を含めて)の注意義務はつくしているものと認めるのが相当である。
大阪高裁 昭和59年7月27日
被告人は交差点進入に際し、時速5キロ程度の最徐行をして左右の確認をしていたけど、高齢者の自転車と衝突。
時速5キロ程度の最徐行をして左右の確認をして交差点に進入した被告人に過失が認められないとして無罪。
「自転車が一時不停止なら避けられないだろ!」というのは、徐行していなかったならそもそもノーチャンス。
徐行していても避けられなかった事故なら、無罪になる。
やることやってもダメだったなら、そこに過失責任がないのは当たり前。
とはいえ、やることをやらずに事故を起こしたなら過失責任があるのも当然。
わりとシンプルな話なのよね。
相手がどうのこうのの前に、自分がすべきことをやるとしか言いようがない。
「左右の見とおし」
42条1号でいう「左右の見とおしがきかない交差点」とは、左右ともに50m程度必要とされている(高松高裁 昭和37年5月7日)。
その判断は当然、交差点に入る以前(徐行体制に入ることを考慮した位置)。
なので信号がなく、優先道路もない交差点のほとんどは42条1号でいう「左右の見とおしがきかない交差点」に該当する。
要はこの徐行義務は、全ての通行者との衝突を回避するためにあるわけですが、

東京高裁や最高裁の見解として、歩行者には一時停止規制が働かないことから歩行者の安全も考慮して徐行義務を課しているという話。
最高裁判所第三小法廷 昭和43年7月16日や東京高裁 昭和41年12月20日ですね。
一応、この徐行義務は「横断歩道がない交差点の歩行者優先(38条の2)」を担保する規定という見解もありますが、一時停止義務違反って自転車のみならずクルマや原付もかなりあり、令和5年の一時不停止の検挙件数は1,267,094件。
126.7万件もあるのが実情。
他人が一時不停止だろうと、自分の徐行義務を免除しない。
しかし徐行義務を果たしていたのに事故った場合にまで刑事責任を負わせない。
なので結局、それぞれの立場でやることをやる、としか言えないのよね…
なお、民事の過失割合についても、クルマが徐行してないことを前提にした過失割合なので、徐行していても回避できない異常事態なら基本過失割合を適用しないような気がする。
まあ、現実には徐行していたらだいぶ回避可能になるだろうけど。
自転車は一時停止する、非一時停止側は徐行する、としか言えないのよね。
やることやらずに「理不尽だ」と騒いでも意味がないけど、やることやってもダメだったなら法は無理難題な責任を負わせないのよね。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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