読者様から質問を頂いたのですが、そもそもこの方については直接この方に質問した方がいいのではないかと思いますが…
この動画で解説されている点数計算に疑問があり質問させてください。
危険運転致死の場合に、危険運転致死の基礎点数に「専ら運転者の不注意20点」が加算されるのでしょうか。
危険運転致死罪は不注意ではなく故意なので、不注意の場合における付加点数を上乗せするのが不自然だと思う。
危険運転致死の場合になぜ救護義務違反が加算されないかも教えてください。
そもそもなんですが、点数計算がメチャクチャです。
事案は酒気帯び運転で事故を起こした上、ひき逃げをしたもの。
とりあえず酒気帯び運転を「呼気1リットル中のアルコール濃度0.25ミリグラム以上」と仮定し25点として計算しますが、以下が正解。
過失運転致死(専ら不注意) | 過失運転致死(専ら以外) | 危険運転致死 | |
酒気帯び運転(0.25以上) | 25 | 25 | – |
専ら不注意 | 20 | – | – |
専ら以外 | – | 13 | – |
危険運転致死 | – | – | 62 |
救護義務違反 | 35 | 35 | 35 |
合計 | 80 | 73 | 97 |
まず危険運転致死のほうから。
そもそも、危険運転致死の点数が高く設定されている理由は、過失犯における付加点数相当を内包しているからなのであって、危険運転致死の点数62点にさらに付加点数がつくわけではありません。
さらにいえば危険運転致死は事故発生についての話で、救護義務違反は事故を起こした後の話なのでそれぞれ点数がつく。
酒気帯び運転分は危険運転致死に内包されるはず。
次に過失運転致死の場合。
また、要は施行令でいうこれ。
「同時に」とは時間的同一性もそうですが、内容的な同一性も含む。
酒気帯び運転と安全運転義務違反は「同時に」になり、点数が高い酒気帯び運転のみがつく。
一例としてこのような事例があります。
本件は,中型自動車運転免許を受けていた原告が,呼気1ℓ につき0.25㎎以上のアルコールを保有する状態で普通乗用自動車を運転するとともに(以下「本件違反行為1」という。),信号機の表示する信号に従わずに普通乗用自動車を運転したこと(以下「本件違反行為2」といい,本件違反行為1と併せて「本件各違反行為」という。)を理由として,大阪府公安委員会から,平成28年9月7日付けで,運転免許(以下「免許」という。)を取り消し,免許を受けることができない期間を同日から2年間と指定する旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことについて,本件処分の理由とされた本件違反行為1は成立しないなどと主張して,本件処分の取消しを求める事案である。
(中略)
イ 大阪府公安委員会は,原告について,違反行為に付する累積点数が25点(酒気帯び運転(0.25以上)による基礎点数25点及び信号無視による基礎点数2点のうち,最も高い点数である25点(令別表第二の備考の一の1))となり,前歴がないことから,法103条1項5号及び令38条5項1号イに該当するとともに,法103条7項及び令38条6項2号ニに該当するとして,平成28年9月7日付けで,原告に対し,免許を取り消し,免許を受けることができない期間を同日から2年間と指定する処分(本件処分)を行った。(甲1)
大阪地裁 平成29年12月20日
酒気帯び運転で信号無視した事案ですが、酒気帯び運転と信号無視は施行令でいう「同時に」になり、点数計算上は酒気帯び運転のみがつく。
なので過失運転致死とした場合、酒気帯び運転+付加点数+救護義務違反になる。
ただまあ、読者様の意見「危険運転致死罪は不注意ではなく故意なので、不注意の場合における付加点数を上乗せするのが不自然」については確かに言われてみればそうですね。
故意なのか過失(不注意)なのか意味がわからなくなる。
ちなみに施行令では酒気帯び運転+速度超過の場合に特別な点数を採用している。
例えば酒気帯び運転単独だと13点、速度超過(25~30キロ)単独は3点のところ、酒気帯び運転+速度超過(25~30キロ)だと15点になる。
これって本来13+3=16点のところ、割引で15点になる…という話ではなく、要はこの特別規定がないと「同時に」の関係から点数が高い酒気帯び運転の13点のみになる可能性が高く、行為の悪質性と整合しないからわざわざ特別規定を置いているのだと理解してましたが、
このあたりの立法趣旨を真剣に調べたことがないので、正確な理由は知りません。
酒気帯び運転+速度超過は悪の二乗みたいな話で他人が死傷するリスクが高いのに、酒気帯び運転単独分しか点数がつかないとなると不合理なんじゃないですかね。
点数制度に基づく行政処分の本質は、要許可行為である免許をコントロールするためにあるわけで、悪の二乗みたいな話はきっちり処分できる仕組みにしたのかと。
たぶんですが
点数制度に基づく行政処分の本質は、運転免許をコントロールするためにあると書きましたが、現実には「○十年無免許の男を逮捕」みたいな報道が出る。
○十年は捕獲されずに生きてきたのが現実なんですよね…
ちなみに以前取り上げたこちら。

原付の無免許運転罪に問われてますが、なぜこの人が罰金刑ではなく実刑なのかというと、無免許運転罪として捕獲されたのは3回目な上、執行猶予中だから。
激しく争っている理由も、実刑回避目的でしょう。
要は「形式上は」免許がなく運転できないけど、「物理的には」運転出来ちゃうのよね。
そして刑罰や行政処分が必ずしも本人に反省を促しているわけではない現実もあり、ICカードを車体に入れないとエンジンが掛からないような「物理的な仕組み」も必要な気がする。
動画をみた限り、どういう足し算をしたのか意味不明ですが、酒気帯び運転(0.25以上)の過失致死と酒の危険運転では過失運転と危険運転の点数はかなり近くなりうる。
要はどちらも悪質ですが、要件上で差が出るだけだからなのかもしれません。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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