以前書いた記事について元ネタとなる「根拠」を質問されたのですが、

要はこの人の主張根拠となる論文はなんなのか?ですよね。
バイクはすり抜けしないよりする方が6倍安全。
追突死亡事故を回避できる。すり抜けに対して嫌悪感を持つ自動車ドライバーは多いが、本当に危ないのは自動車。事故の原因を作っている。
正しい方法で行えばすり抜けはしないより6倍安全。
すり抜けするなとか言う人は自動車のことしか考えてない。 pic.twitter.com/QctgEzb0AW— 鳥 (@tri0142) February 16, 2023
これ、この当時何を調べて書いたのかさっぱり思い出せないのですが、たぶんこの話なのよ。
Contents
「すり抜けは6倍安全」の根拠
この人がポストした画像から検索すると、これがヒットする。
この記事からさらに元ネタを探ると、J.V. Ouelletの研究とカリフォルニア大学バークレー校の論文にあたる。
https://www.ots.ca.gov/wp-content/uploads/sites/67/2019/06/Motorcycle-Lane-Splitting-and-Safety-2015.pdf
https://www.ridetowork.org/wp-content/uploads/2022/03/Lane-splitting-California-freeways-James-Oulet.pdf
ただしどちらの論文も「6倍安全」とは主張していない。
この話ですが、まず前提になるのは、アメリカではカリフォルニア州を除きいわゆる「2輪車のすり抜け」が合法ではないことが出発点。
Lane Splittingと著者は呼んでいますが、日本語に訳すると「車線分割」。
Lane splitting is the practice of passing slower moving traffic by riding a motorcycle in the gap 4 between two parallel lanes of traffic heading in the same direction.
⾞線分割とは、⾞線の隙間にバイクを⾛らせて、ゆっくり⾞を追い越す⾏為である。
https://www.ridetowork.org/wp-content/uploads/2022/03/Lane-splitting-California-freeways-James-Oulet.pdf
要は日本語でいうすり抜けと同義かと。
この件は発信者がソースを明かしてないので主張の根拠となるものがなんなのかはわかりませんが、画像と画像から検索した結果ではこの論文がベースの可能性が高そう。
その上でいいますと、確かにこの論文では以下の結論を導いている。
⾞線分割がバイク事故の発⽣件数にほとんど影響を及ぼさないことは明らかである。
1976〜77年のロサンゼルスでも、それから四半世紀後の1999〜2000年のヨーロッパでも、バイク事故は1%でした。⾞線分離禁⽌を撤廃しても、バイク事故が増加する可能性は低いでしょう。ここではその正当性を⽀持することはできません。実際、これらのデータは、⾞線分割が通常の⾞線位置を維持するよりも安全であることを⽰しています。⾞線分割が通常の⾞線位置で⾛⾏するよりも安全である可能性がある理由は 3 つあります。1.
通常の⾞線位置を維持しても、⾃動⾞による突然の進路侵⼊を排除することはできません。
バイクの運転者は、⾞線内のバイクの位置に関係なく、不注意な⾃動⾞の運転⼿が合図なしに突然⾞線変更する危険にさらされます。通常、⾞線分割が発⽣する交通量の多い状況では、オートバイの運転者はどのリスクを取るかを決定する選択肢があり、どの交通状況が安全か(隣の⾞線に⾞が並んでいる)または危険か(隣の⾞線に⾞が⼊り込むのに⼗分な⼤きさの隙間がある)は明らかです。
通常の⾞線位置にあるバイクは、⾞線を分割しているバイクよりも追突事故に巻き込まれる可能性がはるかに⾼くなります。これは通常、バイクが前の⾞の後ろに近づきすぎることが原因です。
要はすり抜けにより追突リスクを下げるという話にしか見えないのですが、あくまでも正しいすり抜けが安全なのであり速度差が小さいすり抜けのことを指す模様。
そのあたりは論文をみてもらえばいいのですが、かなり気になる点は「この論文は高速道路での話であること」。
高速道路の場合、路外右左折や交差点右左折はないし、歩行者の横断もない。
日本ではノー合図(合図遅れ含む)で路外左折するクルマなんてザラですが、
こういうケースを想定してない高速道路での話を、一般道でも適用することが妥当とは思えませんが…
で。
「この論文ではない、別の根拠がある」という話も予想されますが、要はこういう話をするからには根拠を示すのは言い出しっぺの役目。
原典を明かさないのは、何か都合が悪いのではないかと勘ぐることにも繋がりますが、アレなのよ。
某滅亡したブランドが「カーボンリムにアルミリム用シューで問題ない」とか、GOTAL横山氏が「グリスを抜けば簡単に巡航速度が5キロアップ」とか「安物のスクラップ材」などと言っても、結局根拠は何も示さない。
根拠を示さなければ水掛け論になるのは当たり前なので、議論する気がないのよ。
こうやって根拠を示さない人は。
言い出しっぺが根拠を示すのは当たり前なのね。
なので、そもそも聞く価値がない。
それと、細かい条件をつけずに「すり抜けは安全」と主張する姿勢も感心しませんね。
センセーショナルなことで釣りたいならともかく、こういう話も含むのかと誤認させうる。
bro looked at death and laughed at it 😭😭 pic.twitter.com/h6plMfQqYB
— internet hall of fame (@InternetH0F) November 4, 2024
論文や研究の問題点
例えばJAFが横断歩道の一時停止率を公開してますが、
比較的人口が近い、長野県と新潟県で比較してみます。
長野県 | 新潟県 | |
人口(R4年8月) | 2,007,347 | 2,129,722 |
一時停止率(R5) | 84.4% | 23.2% |
一時停止率(R4) | 82.9% | 25.7% |
人口差は約10万人。
一時停止率についてはJAFの2023年調査から引用しましたが、約3.6倍の差があります。
この結果をもって「長野県の横断歩道は新潟より3.6倍安全だ」とはならない。
現実はこう。
長野県 | 新潟県 | |
人口(R4年8月) | 2,007,347 | 2,129,722 |
一時停止率(R5) | 84.4% | 23.2% |
一時停止率(R4) | 82.9% | 25.7% |
歩行者妨害事故(死亡者) | 246(2) | 204(2) |
なぜこうなるか?を推測すると、JAFの調査方法にある。
調査場所
※センターラインのある片側1車線道路で、原則として、調査場所の前後5m以内に十字路および丁字路交差点がない箇所で、道路幅員が片側2.75m~3.5m、交通量が3~8台/分(目安)とし、制限速度が時速40~60km程度の箇所調査対象
※横断歩行者側の車線を走行する自家用自動車、自家用トラック(白ナンバー)
信号機のない横断歩道での歩行者横断時における車の一時停止状況全国調査(2023年調査結果)「信号機のない横断歩道での歩行者横断時における車の一時停止状況全国調査(2023年調査結果)」についてご案内します。
対向車が渋滞停止していたり、交差点の直近で死角が強いケースは調査対象ではないし、交差点右左折も対象外。
あくまでもJAFの調査対象での数字に過ぎないので、真の一時停止率は別なんでしょう。
これもそう。
https://core.ac.uk/download/pdf/230005104.pdf
自転車の傘さし運転とレインコートの場合で視野に着目した研究ですが、この結果をもって傘さし運転のほうが安全とは言えないのよね。
視野「のみ」に着目した研究なのだから、他の要素を排除している。
冒頭の件にしても、興味深い論文であることは認めますが、そもそも原典を明かさない時点で無意味なのよね。
なぜ明かさないのかは知りませんが、都合よく切り抜きしたり趣旨を変えてしまう人がいるから原典を明示することは大事なのよ。
他人が検証できるように明示するのが当たり前。
GOTAL横山氏にしても、「安物のスクラップ材」とする根拠が何なのかというと
居酒屋で知り合った人に聞いた!
よくこれを書こうと思ったな…とビックリするけど、彼にとっての根拠とはこの程度の話。
聞く価値がない。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
自動車側視点だと死角に入りやすいので気が付かずに右左折、車線変更しそうな人多そうです。
コメントありがとうございます。
それはあるでしょうね。
すり抜けを正当化というか「すり抜けをするべきだ」といった話へ持って行く人に対しては、耳に唾して聞く方がいいと思います。
特に走行中のすり抜けは命要らないとしか思えません。
その上で。
ただ、「すり抜け」をしてでも前に行った方が良い事例があるので、その点だけ補足させてください(もちろん、合法の範囲です)。
それは、「信号待ちで最後尾になった時」です。
と言うのも、二輪車(バイク・自転車含む)は釈迦に説法ですが車から見て距離感がつかみ辛い為、追突される危険性があります。
実際、私の友人が真っ当に最後尾で信号待ちをしていたところ、後ろから来たベンツにオカマ掘られました。
奇跡的に本人無傷でしたが、バイクは見事に2つに畳まれて廃車でした。買ったばかりだったのに。
しかも、相手が無保険だったという。
この話を聞いてから、最後尾になった時はびくびくしながら後ろを確認してます。
そして、雰囲気的に危なそうな車が遠くから近付いてきていたら、退避するようにしています。
コメントありがとうございます。
一般的に自転車が先行車に続いて停止する際には、先行車の車幅と被らない左側端に寄っていると思うので、バイクのように追突リスクは少ないのではないかと。