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横断歩道上での事故に、「夜間修正」として歩行者不利に修正するのは真実か?

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読者様から質問を頂いていたのですが、これについてはそもそも「夜間修正」の意味を理解する必要があると思う。

読者様
読者様
横断歩道上で歩行者と車両が衝突した際の基本過失割合は車両が100%となってますが、修正要素として「夜間は歩行者に+5%」となっています。
これの意味がよくわからないのですが、なぜ夜間に歩行者不利に修正するのでしょうか?

確かに、横断歩道上での基本過失割合は車両が100%。
一方、夜間は歩行者に+5%する修正要素があります。

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なぜ?夜間に被害者不利に修正する理由

あくまでも過失についての話になりますが、過失(注意義務違反)とは予見可能な結果を回避しなかったこと。
道路交通法違反も過失になり得ますが、争っているのは違反割合ではなく過失割合です。

 

で、夜間修正する理由。

車両はライトの照射範囲内しか見えないのに対し、横断歩行者からするとライトを視認しやすい。
過失って結果回避義務違反なので、「歩行者を視認しにくい車両側」と「ライトの接近を視認しやすい歩行者側」になり、歩行者側のほうが「結果(事故)」の回避しやすさがあることが夜間修正の理由。

 

で。
夜間修正を設けている理由は書いた通りですが、夜間だから必ず歩行者不利に修正するわけではない。
例えば、横断歩道付近に街灯があり車両側から十分視認できるのであれば、

夜間修正を設けている趣旨からして、歩行者不利に修正する理由がない。
運転者から視認しにくい&歩行者はライトの接近を視認しやすい事情から夜間修正を設けているのだから、横断歩道付近が明るいなら夜間修正は適用しないことになる。

 

一例として東京地裁 平成28年11月1日判決。
この事故は被害者は横断歩行者ではなく横断自転車です。

被告は、本件交差点を直進するにあたり、本件交差点には横断歩道が設けられていたのであるから、適宜速度を調節し、本件横断歩道を横断する歩行者等の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、本件横断歩道上を右方から左方に向かい横断してきた原告車に衝突直前まで気づかず、ブレーキペダルを踏むべきところを誤ってアクセルペダルを踏み込んで原告車に被告車前部を衝突させて原告車もろとも原告を路上に転倒させ、原告に傷害を負わせた。

 

他方、原告にも、交通整理が行われていない交差点に進入する際に、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を進行する車両の進行を妨害しないよう注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失が認められる。
そこで過失相殺について検討すると、原告が横断歩道上を進行していたこと、本件事故の時間帯は夜間であったが、横断歩道については感知式オーバーハングが設置され、横断歩道上がライトで照らされていたこと、被告が衝突時にブレーキペダルではなくアクセルペダルを踏み込んだことなどの本件事故態様や現場の状況に照らし、双方の過失の内容、程度を考慮すれば、原告の過失割合については30%と認めるのが相当である。

 

東京地裁 平成28年11月1日

「横断歩道上がライトで照らされていたこと」とありますが、これの意味は「夜間修正は適用しない」と認定したわけです。
車両対車両なのと、優先道路/非優先道路態様なのでこういうイメージかと。

加害者 被害者
基本過失割合 50 50
横断歩道修正 +5 -5
夜間修正 0 0
踏み間違え +15 -15
70 30

次。
夜間修正は夜間だから必ず修正要素になるとも限らなくて、例えばですよ。

車両が高速度で横断歩道に接近してきたのに「夜間は車両側から歩行者を視認しにくい&歩行者はライトの接近を視認しやすい」というのは論理が破綻してますよね。
そもそも止まる気がないスピード、つまり歩行者を発見しようとする意思すらないのだから、車両側の重過失が歩行者の過失を帳消しにする。

 

一例として神戸地裁 平成19年2月28日判決。

平成15年10月28日午後5時40分ころ、被告は直線道路を時速約60キロメートルで南から北進していたが、信号機の設置されていないT字型交差点において、左方道路の安全確認に注意を奪われ、前方注視を怠ったため、東から西へ道路を歩行横断中のAの発見が遅れ、急制動の措置をとる間もなく、同速度のまま走行し、自車右前部を同人に衝突させ、右前方路上に転倒させた。

(中略)

上記一で認定した事実を前提に過失相殺について判断するに、事故当時、日没後で雨も降っており、街灯はあるものの明るくはなかったという状態からすると、車からは歩行者を発見するのは容易ではないのに対して、歩行者からはライトを点灯している車の発見は容易であり、Aが左右の安全を確認すれば、Y2車に気付いて事故を回避できた可能性は否定できない。

しかし、交通整理の行われていない横断歩道にあっては、車は、横断歩行者がいないことが明らかでない限り、当該横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず、横断中あるいは横断を開始しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、その通行を妨げてはならない。それにもかかわらず、被告は、左方道路の安全確認に注意を奪われ、前方注視を怠った上、減速することなく横断歩道を走行しており、被告側に著しい過失が認められる以上、過失相殺は認められないというべきである。

神戸地裁 平成19年2月28日

「車からは歩行者を発見するのは容易ではないのに対して、歩行者からはライトを点灯している車の発見は容易」というのが夜間修正の根拠ですが、この事例については前方不注視&無限速漠然進行した車両側に重過失がある以上、過失相殺することは認めないとしている。

 

要は「夜間修正」という用語が意味する内容を理解しないと、夜間なら必ず歩行者不利に修正されるのではないかと誤解する。
横断歩道付近が明るいならそもそも関係ないし、加害者の重過失があれば結局は歩行者の過失を帳消しにするわけで。

 

道路交通法38条1項前段(減速接近義務)の趣旨からすると、夜間で視認しにくいならより減速して接近すべきなのであって、そっちが大要素なのは言うまでもないかと…
十分減速していたにもかかわらず視認しにくいことを理由に夜間修正するならまだわかりますが、無減速接近して「や、夜間修正希望!」というのは筋が違うでしょうね。

 

なお、夜間修正しなかった事案を「無修正事件」と呼んでますが、あくまでも私だけの用語であって違う意味に勘違いされるリスクがあることは忘れないで欲しい。

夜間修正する事案

要は上で書いたような「車からは歩行者を発見するのは容易ではないのに対して、歩行者からはライトを点灯している車の発見は容易」という事案であれば夜間修正の対象になりますが、神戸地裁 平成19年2月28日判決のように加害者の重過失が被害者の過失をオーバーライドして結果的に過失相殺しないこともあるので、事案ごとに適用するしないは変わる。

 

例えばこのような事例があります。
被害者は飲酒して自転車に乗り、横断歩道を使って横断している最中に入れ歯を落とした。
被害者は自転車を歩道に置いて、横断歩道上で四つん這いになって20分近く入れ歯を探していたが、横断歩道付近が暗く発見できなかった。

 

加害者は時速50キロで横断歩道に接近したが、前方11.3mの横断歩道上で四つん這いになっている被害者を発見。
急制動したものの衝突した事故です。

 

裁判所は被害者70%と認定。

被告は、湿潤した路上を走行して横断歩道の設けられた三差路にさしかかったのであるから、予め前方を注視した上適宜減速するなどして事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、前方を十分注視せず従前の速度のまま進行を続けた過失により、本件事故を惹起したものと認められる。

前記認定事実によると、被害者である原告も、車両の往来する暗い道路上で格別の注意も払わず、車両運転者が直ちに発見しえないような不自然な姿勢で長時間車道上を徘徊していた過失を犯し、この過失もまた本件事故発生の一因になっていることが認められる。
そして原告の過失とさきに認定した被告の過失の本件事故に対する割合は、原告7、被告3とするのが相当である。

京都地裁 昭和48年1月30日

加害者の過失は減速せずに横断歩道に接近したことなのは言うまでもないですが、「暗い道路上で」とあるように夜間修正要素を適用し、さらに歩行者の重過失を認定して歩行者過失70%としている。
マニアックな判例とも言えますが…

 

で。
民事の過失相殺って他人の過失と自分の過失を比較考量するわけですが、そもそも勘違いしやすいのは、他人の過失は自分の義務を帳消しにするわけじゃないのよね。
歩行者が四つん這いだったから遡って減速接近義務が帳消しになるわけではないし、刑事なんかは過失相殺の概念がないので、そもそも関係ない。

 

過失割合を重視すると、自分の義務(注意義務含む)が軽くなる/帳消しになるかのような錯覚に陥りやすいのですが、過失割合なんて結果論に近いしそんなことより自分の義務(注意義務含む)をきちんと履行することに集中した方がいいのよ。

 

そして夜間修正は「夜間だから」修正するわけではなくて、夜間で暗い場合などに適用するもの。
夜間だから必ず修正されるわけではないので、そもそも夜間修正を設けている理由から知らないと誤解する可能性があるのよね。
それと、過失(注意義務違反)と道路交通法違反を混同する人も多いけど、両者は別問題。

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