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この自転車は「左側端寄り」といえるのか?判例から検討。

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先日取り上げたこちらですが、

この自転車が「左側端寄り通行」(18条1項)と言えるのか、そしてクラクションを使うのは問題ないのか?という疑問がある、らしい。

 

あえて詳細を解説しなかったのですが…類似判例があります。

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自転車は「左側端寄り」と言えるのか?

判例は神戸地裁 令和4年12月20日。
事故態様は、本線に合流する前の「幅員約3.8m」の側道にて起きた事故。

自転車の通行位置は左端から約1.7m。
要は動画の事例とほぼ同様ですね。

 

裁判所は自転車について「左側端寄り通行義務」に違反したと認定。

本件事故の態様は、被告車が、前方にある原告車ないし原告の身体に向かって走行した結果追突等したというものではなく、原告車のハンドルグリップ(右)の端が、被告車の後部側面に接触した結果、原告がバランスを崩して転倒したという態様のものであること、衝突地点の道路幅員は約3.8mと解されるところ、原告車と被告車の接触した地点は、歩道の端から約1.7mの位置にあったことに照らすと、原告は、本件道路を普段から通行しており、また、当時の車両の交通量に照らせば、後方から進行し原告車の側方を通過しようとする自動車があることは予見可能であったというべきであり、原告の走行位置は、左寄りではあるものの左側端とは言い難いことを考慮すれば、原告にも過失があるというべきである。
この点、原告は、原告には、予見可能性、回避可能性がなかったとして、本件事故が、被告の一方的過失によるものである旨主張する。しかし、本件道路が、原告が普段から通行しているものであることに加え、当時の本件道路における車両の通行状況に照らせば、予見可能性がなかったとはいい難いし、被告車左後部側面と原告車のハンドルグリップ右端とが接触したとの前記認定説示に係る事故態様に照らせば、回避可能性が皆無であったとはいえない。また、原告は、道路構造令上、自転車通行帯の幅員が原則として1.5m以上と定められていることを根拠に、自転車が通行すべき範囲を、車道の左端から少なくとも1.5m以上を指す旨主張するが、同令は、自転車通行帯が設けられる場合の規制について定めているものであり、道路の幅員等諸般の事情が整って初めて自転車通行帯が設けられ得ることを考慮すると、自転車通行帯が設けられていない本件道路において、同令の定める幅員をもって「左側端」の範囲を判断するのは相当ではなく、接触地点までの距離が道路幅員の約45%を占めることをも考慮すると、本件道路の左側端を通行していたものとは評価し難い。

神戸地裁 令和4年12月20日

「真ん中から左側にいれば左側端寄りだ!」などと根拠がない話すら飛び交ってますが、他の判例をみてもそのような見解はみたこともないし、根拠がない独自説でしかない。

 

次にクラクションを使うのは問題ないのか?ですが、

車が自転車を追い越すときに、クラクション(警音器)を鳴らすのは違反なのか?
先日書いた記事で紹介した判例。自動車運転者が自転車を追い越す場合には、自動車運転者は、まず、先行する自転車の右側を通過しうる十分の余裕があるかどうかを確かめるとともに、あらかじめ警笛を吹鳴するなどして、その自転車乗りに警告を与え、道路の左側...

「危険を防止するためやむを得ない」についてはわりと緩く解釈されているのが実情で、道義的にはあまり鳴らさないほうがベターですが、左側端寄りとは言い難い位置をノロノロ走る様子に対しクラクションを使うのは違反とまでは言えないでしょう。
なお、50センチ幅で左右に揺れる自転車を追い抜きする際には警音器を使用すべき注意義務があり、「危険を防止するためやむを得ない場合」に該当するとした東京高裁 昭和55年6月12日(刑事)があります。

 

動画の人って同じ場所で何回も同じことを繰り返しているし、他にも左折車の左側に強引に進入してトラブルを起こしたりなど数々のトラブル動画を挙げてまして、要は「クラクション等をトラブルを誘発させるためにほぼ真ん中をノロノロ進行している」。
なので特殊な事案なのよ。
同じことを何回も繰り返してクラクションを受けても改めないのは、学習能力がない人とみなされて過失相殺の対象にもなりますが、過去をみればわざとやっているのは明らか。

しょうもない人がいるから…

改正道路交通法18条4項では追い抜きされる自転車について「できる限り左側端に寄って」通行する義務を課してますが、

なぜこれが必要になるかというと、18条1項(左側端寄り通行義務)には罰則がない。
わざと真ん中をノロノロ走りブロックして楽しむような人が出現した場合、対処できないから18条4項を新設している。

 

「できる限り」の意味を取り違える人が多いけど、「できない場合」を除外する意味で「できる限り」としているのよね。
「左側端に寄って通行しなければならない。ただし道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない」(18条1項)と「できる限り左側端に寄って通行しなければならない」(18条4項)は同じ意味になる。

 

これは警察庁の解説からも明らか。

第213回国会 参議院 内閣委員会 第14号 令和6年5月16日

○酒井庸行君 いわゆる例外という部分で、これもそういう規定があるんでしょうけれども、これもある意味では大変危険な部分もあるのかなというふうに感じます。
またこれはそれぞれの皆さんからもいろんな形で質問はあるというふうに思いますけれども、次にもう一つ、私がちょっとうんっと思ったのは、今回のその法改正の中で、この十八条にあるんですけれども、当該の特定小型原動付自転車等はできる限り道路の左側端に寄って通行しなきゃならないと書いてあるんです。できる限りという表現が、よく、曖昧のような気がするんです。その辺をまたちょっと、御説明をしていただける時間、大臣に質問する時間がなくなっちゃうので短くお願いしたいと思いますけど、その辺をちょっとまずお伺いしたいと思います。

○政府参考人(早川智之君) 自転車の側方を自動車が通過する場合のその義務に関する規定についての御質問でありますが、先ほどお答え申し上げたように、元々自転車は車道の左側端を走行しなければならないというような規定がございます。自動車が側方を通過する際は、自転車は元々車道の左側端、走行しておるんですが、可能であれば、可能な範囲で左側端に走行してくださいということで、本来、もう元々左側端を走行しているのであればそれで十分であるというような規定の趣旨でございます。

そもそも「できる限り」を勘違いする人が多いけど、道路交通法が制定された直後の立法者(警察庁交通企画課 宮崎氏)の説明からも明らかなのよ。

 

これが如実に現れているのは駐停車の規定。

(停車又は駐車の方法)
第四十七条 車両は、人の乗降又は貨物の積卸しのため停車するときはできる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
2 車両は、駐車するときは道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
停車 駐車
できる限り左側端 左側端

駐車は「左側端」、停車は「できる限り左側端」としてますが、なぜそのように規定したかについては当時警察庁で道路交通法を作った宮崎氏が解説してます。

 

停車の説明

なお、「できる限り」としたのは、本来は左側端にぴったり寄るのが望ましいが、道路工事その他障害物のため左側端に寄ることが不可能な場合を考慮したからである。

 

宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)

駐車の説明

本項においては、停車の場合と異なり、「できる限り」という言葉が用いられていない。したがって、車両は、駐車しようとするときには、かならず道路の左側端に寄らなければならぬことになる

 

宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)

「できる限り」とは「道路工事その他障害物のため左側端に寄ることが不可能な場合」を除外する意味だとしている通り。

 

18条でいう左側端寄り通行は、通行に適してないコンクリートブロックを避けて安全に通行できる範囲で「左側端に寄る」と解釈されてますが、

「道路の左側端に寄って」とは、この場合にあっては、路肩部分を除いた道路の左はしに近寄ってという意味である。

宮崎清文、注解道路交通法、立花書房、1981、113頁

そもそもなぜ18条に罰則を設けていないのか?という経緯も含めて解釈すべきもの。

第1項の規定の違反行為については、罰則が設けられていない。これは、この規定による通行区分は、道路一般についての車両の通行区分の基本的な原則を定めたものであり、また、道路の状況によっては、道路の左側端又は左側といってもそれらの部分がはっきりしない場合もあるので、罰則をもって強制することは必ずしも適当ではないと考えられるからである。(従前の通行区分の基本的原則を定めた旧第19条の規定についても、ほぼ同様の理由により、同じく罰則が設けられていなかった。)。

宮崎清文、注解道路交通法、立花書房、1966

同条1項の「道路の左側に寄って」とは、軽車両の通行分を考慮し、軽車両が道路の左側端に寄って通行するために必要とされる部分を除いた部分の左側に寄ってという意味であり、「道路の左側端に寄って」とは、道路の路肩部分を除いた部分の左端に寄ってという意味である(宮崎注解)。このように自動車及び原動機付自転車と軽車両とで若干異なる通行区分をしたのは、速度その他通行の態様が著しく異なる両者がまったく同じ部分を通行すると、交通の安全と円滑が害われるおそれがあるためである。もっとも軽車両がまったく通行していない場合に自動車または原動機付自転車が道路の左側端まで寄って通行することまで禁止したものではないだろう(同旨、法総研・道交法87頁)。

 

ところで、キープレフトの原則の本来の趣旨は、通常走行の場合はできるだけ道路の左側端を通行させ、追い越しの場合は道路の中央寄りを通行させることにより種々の速度で通行する車両のうち、低速のものを道路の左側端寄りに、高速のものを道路の中央寄りに分ち、もって交通の安全と円滑を図ることにあるとされている(なお、法27条2項参照)。右のような趣旨ならひに我が国の道路および交通の現状にかんがみると、18条1項の規定をあまり厳格に解釈することは妥当ではなかろう

 

判例タイムズ284号(昭和48年1月25日) 大阪高裁判事 青木暢茂

大阪高裁判事 青木暢茂氏は「18条1項の規定をあまり厳格に解釈することは妥当ではなかろう」としてますが、要は罰則を設けなかった立法経緯や、道路幅の問題から机上の空論的な側面もあり、

机上の空論に意味があるの…?
こちらについてご意見を頂いたのですが、要はこれですよね。なぜ?と言われましても、この見解は机上の空論で現実にはほとんど存在しないからですよ。18条1項の解釈は軽車両は左側端寄り、クルマは「軽車両の通行部分を除いて左側に寄る」となりますが、こ...

わざと真ん中付近をノロノロ走り妨害するような悪質な事案じゃない限り、問題にする必要もない。
だから改正道路交通法18条4項にて「追い抜きされる場合」に場合に限定して左側端寄り通行義務の罰則を設けたのだし、その場合の「できる限り左側端寄り」とは、通常の左側端寄り通行を果たしているなら十分という趣旨なんだと警察庁が発表している。
ムリに危険をおかしてガチガチに左側端に寄れという意味でもないし、この人のようにわざとやっていることのみが罰則の対象なんだと受け取れますが、

 

この解釈って昭和35年に道路交通法が制定された時や、昭和39年に18条を制定したときの解釈から全部つながっているのよね。
それらを見ないまま条文をみてもわからない。

 

そして動画のケースは、わざと真ん中付近をノロノロ進行している事例&何回も繰り返している明らかな故意性がある事例なので、他のケースとは違うのよ。
何度も同じことを繰り返すから非難されるわけ。

コメント

  1. カモがネギしょってる より:

    路面が悪かったりで、ここで抜かれたら危ないなってときはそれなりに真ん中に寄せますが、それを更に右から強引に抜く危険な車が結構います。

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      それは当然問題ですが、この件とは違うかなと。

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