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スリップ事故により死亡した「同乗者」に過失が認められるか?

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冬の事故では路面凍結や積雪による「スリップ事故」が増えますが、スリップした結果、ガードレールに衝突したり対向車と衝突した場合、基本的には「スリップさせた運転者」の過失になる。

 

つまり「スリップさせた運転者」が同乗者に対し賠償責任を負いますが、同乗者に過失があるという主張は認められるのでしょうか?

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スリップ事故と同乗者の過失

判例は神戸地裁 平成4年12月18日。
事故の概要です。

Aは、平成2年12月20日午前7時25分頃、鳥取県東伯郡三朝町大字木地山224番地の二付近路上(以下「本件道路」という)において、被告が運転していた普通乗用自動車(以下「被告車両」という)の後部左座席に同乗していたところ、被告車両がスリツプして道路左脇の壁に衝突し、横転した結果、死亡した

神戸地裁 平成4年12月18日

運転者に過失があるのは明らかなので被告(運転者)も自らに過失があることは認めている。
しかし、同乗者にも過失があるとして過失相殺を希望している。

 

◯被告の主張

被告は、前記肩書住所地に居住する者であつて雪道に対する知識を持ち合わせておらず、また、本件事故の前日に本件事故現場付近を通過した際にも、運転上格別の支障がなかつたところ、地元に居住していた路面の状態について詳しい知識を有するはずのAは、本件事故の発生に先立ち、出発前及び車内において、被告に対し、スリップ事故を起こさないようにするために、路面の状態やタイヤ装備、運転方法について何らの注意を与えなかつたのであるから、好意同乗者として過失があるというべきであり、相応の過失相殺を免れないものである。

死亡した同乗者Aは現場に精通し路面状況を知っていたのだから、それに応じた注意を与えるべきだったと主張。
わりと無理筋な気もしますが、原告は以下の反論を展開。

 

◯原告の反論

好意同乗を理由に損害額を減額すべき場合というのは、被害者が事故発生の原因作出に積極的に加担したことが明白な場合など、社会通念上、損害を加害者に全部負担させるのが著しく不公平な場合に限定されるべきであり、本件事故のように、生徒の親が教師に対し日頃の生徒に対する教育指導の感謝の意味で運転を買つて出たような場合については、被害者において同乗に積極的であつたとはいえないし、また、阪神地方に居住する被告であつても、冬期において路面凍結によるスリツプ事故が多いことは自動車運転手として当然の常識に属する事柄であり、さらに、本件事故前に、被告と同様に本件道路の路面が凍結していたことを知らなかつたAについて、被告に対しスリツプに注意するよう特別に事前に注意しなければならない義務があつたということはできないから、Aに過失があつたとして過失相殺をすることは相当でない。

「被害者が事故発生の原因作出に積極的に加担したことが明白な場合など、社会通念上、損害を加害者に全部負担させるのが著しく不公平な場合に限定されるべき」とし、同乗者遺族は過失相殺すべきではないと主張。

 

これを裁判所がどう判断したか。

二  被告の過失相殺の主張の当否について

1  本件事故の場合のように、加害者の運転する車両に同乗していて交通事故に遭つた被害者の右加害者に対する損害賠償請求において、単に好意(無償)同乗をしていたというだけで被害者の被つた損害の全額について減額するのは相当ではなく、同乗していた被害者において、事故発生の危険が増大するような状況をみずから積極的に現出させたり、あるいは事故発生の危険が高いような事情が存在することを知りながらこれを容認して同乗したりしたような場合など、事故発生について非難されるべき事情が存在する場合に限つて、このような事情を被害者の過失とみて、相応の過失相殺を行うのが相当であると解するべきである。

2  そこで、これを本件についてみるに、前記認定の事実関係によると、本件事故は、被告が冬期において山に向かう道路の路面が凍結しているかもしれないことを看過して、制限速度を25キロメートルも上回る時速75キロメートルの高速度で進行した結果、凍結した道路上で被告車両をスリツプさせ、しかもあわてて急制動措置を採つたために、被告車両を立て直すことなくそのままスリツプさせるというような運転操作を行つたことによつて発生したものであり、被告による道路状況を無視した高速度運転が原因であつたというほかないのである。

また、被告は、前記肩書住所地に居住する者ではあるが、前記認定のとおり、自動車運転免許取得後20数年を経ており、昭和62年以降、子供の通う高校の関係で月平均2回程度は自動車により倉吉市との間を往復していた上、冬期において高地の道路を走行するときには、スノータイヤやタイヤにチエーンを装着していない以上、道路凍結の可能性を考えて速度を十分に調整しながら安全に走行する必要のあることは自動車を運転する者として常識に属する事柄というべきであり、この点について、同乗者の一人であるAから指摘を受けなくとも、みずから当然に右のような運転をすべきであつたというべきである。そして、Aをはじめとする同乗者において、本件事故現場の手前付近に前記認定のような道路脇に残雪があり路面が凍結していた事情を知つていたことを窺わせるような証拠は存在しないのである。

以上によると、本件事故においては、Aは、同乗者として、前記のような被告の道路状況の判断を無視した高速度運転による事故発生の危険をみずから積極的に増大させたり、あるいはそのような事故発生の危険が高いような事情が存在していたことを知りながらこれを容認して同乗したものとは認めることはできないというべきであるから、Aに非難すべき落度があつたとして、過失相殺を行うのは相当でないと解すべきである。

神戸地裁 平成4年12月18日

これは当然の判断。
要はスリップさせたことに対し積極的に加担した場合には同乗者にも過失はあるが、この事例についてはそのような事情もない。
ただし慰謝料の算定については考慮の対象とする。

3  もつとも、Aが同乗するに至つたのは、被告及びX、Y両教諭とともに懇親ゴルフをするために出掛けるためであつて、被告とともに共通の目的を有していたこと、また、A自身、出発に当たり被告車両一台で出掛けることを申し出ていたこと、さらに、出発後本件事故発生前までの間、Aは、車内において、被告の高速度運転について格別の話をしなかつたことは前記認定のとおりであるところ、本件事故によつて死亡したAの慰謝料の算定に当たつては、公平の観点から、これらの事情を無視することはできないものであり、これを慰謝料の減額事由としてしん酌するのが相当である。

賠償額には治療費、葬儀費用、遺失利益、慰謝料などがありますが、過失相殺だとそれら全額に対しパーセンテージに応じた減額が掛かる。
裁判所はこれらのうち慰謝料については減額すべき事情があるとしている。

 

まあ、裁判の形式上加害者と被害者が争ってますが、裁判で認められた額は被告が入っている任意保険(対人賠償責任保険)から支払われるだけなので、厳密には被告にはあまり関係ない気もしますが。

そもそもの話

この事故は指定最高速度50キロの道路を時速75キロで通行して起きているわけで、指定最高速度を遵守していたら事故は起きてない可能性すらある。
ましてや残雪があるならより速度を落とすのは当然としか言いようがないんですよね。
被害者の過失を主張した理由はわかりませんが、裁判ってどこか虚しい気がするのは私だけですかね…

 

たまに無理筋な主張を繰り返している判例をみかけますが、同乗者の過失については基本的にこういうことになる。

単に好意(無償)同乗をしていたというだけで被害者の被つた損害の全額について減額するのは相当ではなく、同乗していた被害者において、事故発生の危険が増大するような状況をみずから積極的に現出させたり、あるいは事故発生の危険が高いような事情が存在することを知りながらこれを容認して同乗したりしたような場合など、事故発生について非難されるべき事情が存在する場合に限つて、このような事情を被害者の過失とみて、相応の過失相殺を行うのが相当であると解するべき

同乗者に過失が認められる事情としては、例えば無免許運転だと知りながら同乗したとかそういうケース。

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