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無免許運転罪の故意と、法の不知の関係性。

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こちらの件。

免許が必要と認識せずモペットを運転し書類送検。
いまだにこういう事案は絶えないわけですが、ことし1月、「モペット」などと呼ばれるペダル付きの二輪車に乗って新潟市中央区の市道を無免許で走行したとして、警察は新潟市中央区に住む20代の会社員2人を無免許運転の疑いで書類送検しました。警察により...

無免許運転罪は故意犯の処罰規定しかなく過失による無免許運転は罰則がないけど行政処分は可能だと判例を紹介しました。
ところで、「その車両を運転するのに免許が必要か?」というところの認識が必要なのか?については、故意(刑法38条1項)の問題にも思えるし、法の不知(刑法38条3項)の問題にも思える。

(故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

一つ判例を。
被告人は「普通自動車だ」と言われて中古車を購入したものの、実は大型自動車だったため被告人の免許では運転できない車両だった。
これを無免許運転罪として起訴したものですが、被告人は「錯誤」として故意がないことを主張。

所論は要するに、被告人が運転した本件車両は、中古車で購入したものであるが、前所有者から普通自動車であると告げられ、自動車検査証のナンバーも55の記載にして大型自動車のものではなく、交通取締の警察官さえも大型自動車であることに気付かなかつたものであつて、被告人においては全く普通自動車と信じてこれを運転したものである。したがつて、被告人におけるこの錯誤の事実を看過し、無免許運転にあたるとして道路交通法118条1項1号、64条を適用した原判決は事実を誤認し法令の適用を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、破棄を免れないというにある。

福岡高裁 昭和51年4月28日

これをどう考えるかになりますが、被告人としたら普通自動車と信じていたことに相応の理由があることになる。

所論によれば右自動車を普通自動車と誤信して普通免許で運転したのであるから無免許運転としての違法の認識はなかつたというのである。なるほど、被告人が普通が普通免許を有することは証拠に現われ、他面、本件車両の自動車検査証(謄本)によれば、「自動車の種別欄」に「コガタ」と記載され、「自動車登番号又は車両番号」欄は「フクオカ56な7085」と記入されて普通自動車に与えられる5ナンバー(大型自動車の場合は2ナンバー)となつていることが認められる。しかして、これらの事情及び原審及び当審における被告人の供述から窺われる情況によれば、被告人においては本件自動車を普通自動車と思つて、これを運転したというのも認められないことではない。

しかし、ある車両が道路交通法上の普通自動車か又は大型自動車であるかは、法的評価(あてはめ)の問題であつて、これに関する錯誤があり、そのため違法の認識を欠くに至つたとしても右はいわゆる法律の錯誤というべきであつて、刑法38条3項に明らかなとおり、右錯誤により行為の違法を認識しなかつたとしても故意犯として処罰され得るものであつて、情状により刑の減軽をなすことができるにすぎないものである。
仮に、故意の成立に違法性の意識の可能性が必要だとしても、前掲自動車検査証によれば、本件自動車は定員一四名の乗合自動車であることが認められ、また当審における事実の取調によれば、その型式や諸元又は外形等により一見して普通自動車と異なることが認められるので、被告人において大型自動車たることを認識する可能性がなかつたわけではなく、寧ろ注意していれば大型自動車であつて、普通免許では運転できないことの認識の可能性は十分存したものと認められる。
そうしてみれば、所論の如き錯誤が存したとしても、無免許運転の故意を阻却しないので、これを是認し被告人に対し道路交通法118条1項1号、64条を適用した原判決は正当であつて、所論のように事実を誤認し法令の適用を誤つたものとは認められない。論旨は理由がない。

福岡高裁 昭和51年4月28日

その車両がなんなのか?については法の当てはめの問題だから刑法38条3項(法の不知)の問題になり故意を阻却しないし、仮に故意の成立に違法性の認識が必要としても、一見して普通自動車と違うのだから普通免許で運転できない可能性を認識できたとして有罪。

 

この判例からすると法の不知として故意を阻却しないとも考えられますが、一方では一見して普通自動車ではないことが外見からわかることを理由にしている
現状では電動アシスト自転車とペダル付き一般原付の違いを正確に分別できる人がどんだけいるんだ?という話になるくらい、一般人はわからないケースが多いと思う。
それはさすがに故意がないと評価するのが妥当なのかなと考えます。
逆にクルマを無免許で運転して「免許が必要とは知らなかった」「クルマとは思わなかった」と主張しても、社会一般常識としてクルマを運転するのに免許が必要なのは明らかなのでムリ。
前回記事で取り上げた大阪地裁判決(行政事件)でも無免許運転罪を「嫌疑不十分」と処理しているところをみても、容易に認識できたか?を問題にしている気がする。

 

ところで、現実的には不起訴を連発しているモペットの無免許運転ですが、「免許が必要な車両」だと警察から指摘された以上はそれ以降は故意が成立する。
それでも乗り続けるバカがいるかはわかりませんが、重大事故を起こす前に悔い改めてやめてもらえば十分とも言えるし、前回記事で紹介したように免許取得に関する行政処分は可能。
必ずしも刑罰で対処する必要があるとは思わないけど、ほとんどの人は「法の不知」でカジュアルに乗り回しているくらい法を理解してないのよね。

 

それがいかに恐ろしいことかは言うまでもなく。
ちなみに以前挙げたこちらですが、

故意ではないから処罰できない「車検切れ」。
これの意味を勘違いしている人がわりといるようですが、パトカー2台、車検と自賠責保険切れたまま4000km走行…「故意性なし」で立件せず : 読売新聞オンライン #パトカー #車検— 読売新聞オンライン (@Yomiuri_Online) F...

いろいろ調べた限り、やはり行政処分自体は可能だと思う。
ただし運転した警察官全てに行政処分をしたらその警察署は滅亡しかねない気もするし、行政処分をする必要がある事案なのかはビミョー。

 

ついでに言いますが、過失車検キレの処罰規定がないことを曲解しているYouTuberがいますが、

「4000kmまでなら無車検でいい」みたいに曲解する理由がわからない。
無車検無保険の認識がなければ確かに過失処罰規定がない以上は刑罰がないにしても、その状態で事故を起こしたら笑えない状態になるわけだし、「4000kmまでなら無車検でいいではないのよね。
変な話、パトカーが無車検無保険で事故を起こしたとしたら、賠償するのは国賠法の規定により都道府県になるのだから被害者が泣き寝入りする可能性はない。
しかし一般人が無車検無保険で事故を起こしたらどうなるかはお察しなわけで…

 

「刑罰に問われないこと」は「問題ない」ではないのは明らかなのに、おかしな論調にして誰得なんだろうか?
以前道路交通法37条は過失処罰規定がないのに過失犯として起訴したから公訴棄却(裁判の打ち切り)にした札幌高裁函館支部 昭和38年7月18日判決を紹介してますが、

なぜ?自転車の「対歩行者事故」の大半が安全運転義務違反になる理由。
ちょっと前に読者様から質問を頂いていたのですが、詳しい内情はわからないので「たぶん」として回答します。安全運転義務違反を適用する理由まず、これはその通り。安全運転義務違反は、あくまでも他の具体的規定ではまかないきれない部分を補完する目的で定...

確かに過失犯の処罰規定がない以上は処罰できない。
ただしその後の最高裁判例を考えると、安全運転義務(70条)の過失犯や交差点安全進行義務(36条4項)の故意犯として処罰可能(交差点安全進行義務の故意は、交差点であることの認識なので)。
過失処罰規定の有無はわりとややこしいけど、仮に過失処罰規定がないにしても「違反していい」にはならなくて、単に処罰規定がないだけなのよね。

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