こういう事故は本当におそろしい。
兵庫県の加古川市の県道の交差点で、21日午前8時すぎ、2台の車が衝突し、自転車に乗った18歳の男子高校生が巻き込まれた事故で、警察は車を運転していた69歳の男を逮捕しました。男子高校生は病院に搬送されましたが、意識不明の重体です。
過失運転致傷の疑いで逮捕されたのは、加古川市に住むアルバイトの男(69)で、20日午前8時20分すぎ、加古川市加古川町の信号のない交差点で、女性(42)が運転する軽自動車に衝突して横転させ、自転車に乗っていた高校3年生の男子生徒(18)を巻き込み、2人にケガをさせた疑いがもたれています。
「交差点内で車同士の事故です。自転車の高校生が巻き添えになっています」との通報を受け、警察と消防が駆けつけ、男子生徒は病院に搬送されましたが、意識不明の重体です。また、軽自動車を運転していた女性も病院の診察を受けましたが、命に別状はないということです。
警察によりますと、男が交差点に進入した方向には、一時停止の表示があったということで、調べに対し「弁解することはありません」と容疑を認めているということです。
【速報】「自転車の高校生が巻き添えに」車同士の衝突事故に巻き込まれ生徒重体 車運転していた男逮捕(読売テレビ) - Yahoo!ニュース兵庫県の加古川市の県道の交差点で、21日午前8時すぎ、2台の車が衝突し、自転車に乗った18歳の男子高校生が巻き込まれた事故で、警察は車を運転していた69歳の男を逮捕しました。男子高校生は病院に搬送
さてこの事故。
交差点内にはセンターラインがないのは明らか(優先道路がない)なので、こうなる。
男性のクルマ | 女性のクルマ | |
義務 | 一時停止&交差道路の進行妨害禁止 | 徐行 |
法令 | 43条 | 42条1号 |
そして被害者はこの両者とは無関係な「たまたま通行していた自転車」になる。
問題は一時停止せずに交差点に進入した男性にありますが、実はこれ女性側も過失運転致傷罪に問われる可能性があって、徐行して安全確認していれば衝突していなかったと判断される場合には過失運転致傷罪が成立しうる。
(一時停止しなかった男性が過失運転致傷罪に問われるのは当然として)
なので女性側が罪に問われるかについては、
②徐行していても衝突の回避は不可能だったか?
このあたりが問題になる。
似たような事故として、札幌地裁 令和5年10月31日判決がある。
事案の概要。
高さ2.4mの植え込みがある交差点で見通しが悪い。
A車は自身が進行している道路を優先道路と思い込み、時速30キロで進行。
B車は交差道路に一時停止があると思い込み、時速30キロで進行。
※交差道路に一時停止があるとしても、優先道路ではない限り徐行義務は免除されない。
双方が徐行義務を怠った結果、衝突。
衝突後に歩道に逸走させ歩行者をはねた事案です。
被告人Aは、令和4年9月21日午前9時10分頃、普通貨物自動車(以下「被告人A車両」という。)を運転し、札幌市a区bc条d丁目e番先の交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)を石狩市f方面から国道g号方面に向かい直進しようとしていたもの、被告人B(以下「被告人B」と表記する。)は、前記日時頃、普通乗用自動車(以下「被告人B車両」という。)を運転し、本件交差点をh方面からi方面に向かい直進しようとしていたものであるが、
1 被告人Aは、本件交差点の進路右側手前角に植え込みが設置されており、本件交差点は右方道路の見通しが困難であったのであるから、本件交差点の手前
で徐行し、右方道路から進行してくる車両の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、自己が優先道路を進行していると思い込み、本件交差点の手前で徐行せず、右方道路から進行してくる車両の有無及びその安全を確認しないまま時速約30キロメートルで進行した過失2 被告人Bは、本件交差点の進路左側手前角に植え込みが設置されており、本件交差点は左方道路の見通しが困難であったのであるから、本件交差点の手前
で徐行し、左方道路から進行してくる車両の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、自己の進路上に一時停止の標識が設置されていなかったことから交差道路に一時停止の標識が設置されていると思い込み、本件交差点の手前で徐行せず、左方道路から進行してくる車両の有無及びその安全を確認しないまま時速約30キロメートルで進行した過失の競合により、被告人Aにおいて、右方道路から進行してきた被告人B車両を右前方約6.7メートルの地点に認め、左転把の措置を講じたが間に合わず、被告人Bにおいて、左方道路から進行してきた被告人A車両を左前方約8.6メートルの地点に認め、急制動及び右転把の措置を講じたが間に合わず、被告人A車両右前部と被告人B車両左前部を衝突させ、その衝撃により、被告人A車両を進路左前方に逸走させ、さらに、被告人A車両が停止することなく本件交差点の東側歩道上に乗り上げるなどし、折からその歩道上をi方面からh方面に向かい歩行中のC(当時78歳)に同車両前部を衝突させてCを路上に転倒させた上、同車両でCをれき過し、よって、Cに多発外傷の傷害を負わせ、同日午前9時53分頃、札幌市a区j条k丁目所在のD病院において、Cを前記傷害により死亡させた。
この事件については両者ともに「歩道にいた歩行者を過失により死亡させた」として有罪。
なおこの事故態様においては、
最終的には赤車両の操作ミスが死亡に至らしめたわけで、青車両的には「予見可能性がない」と主張。
しかし裁判所はそもそも論点が違うことを指摘。
(1)実行行為とおよそ関係のない事情によって発生した結果により被告人を処罰することを回避するという因果関係の機能に照らすと、被告人Bの過失行為と被害者の死亡との因果関係の成否は、被害者の死亡という結果が被告人Bの過失行為に内在する危険が実現したことにより生じたといえるかという観点から検討するべきであり、かつ、それで足りるというべきである。被告人Bの弁護人は、被告人Bとの関係で因果関係が成立するためには、被告人Bが被害者の死亡の具体的な経過を予見できた可能性が必要である旨主張するが、上記に述べた因果関係の機能に照らすと、過失行為に内在する危険が実現して結果が発生したといえるにもかかわらず、行為者に具体的な経過の予見可能性がないことを理由に因果関係を否定するのは、処罰範囲を不当に狭くするもので妥当でなく、採用できない。
(2)被害者が死亡した経過によれば、被害者が死亡した直接の原因は、被告人A車両が停止することなく歩道上に乗り上げ、歩道上にいた被害者と衝突し、被害者をれき過したことにあり、被告人Aが適切にハンドル・ブレーキを操作していれば、被害者との衝突やれき過を回避できた可能性がある。しかし、被告人A車両を進路左前方に逸走させ、適切にハンドル・ブレーキ操作をしなければ直ちに被害者と衝突するという状況を生じさせたのは、被告人両名の過失により、本件交差点で被告人両名の車両が衝突したからにほかならない。そうすると、被害者が死亡したのは、被告人両名の過失行為に内在する危険、すなわち、本件交差点の交差道路から走行する車両と衝突し、衝突した車両が逸走して周囲の歩道上にいた歩行者に衝突するという危険が実現したものというべきであるから、被告人Bの過失行為と被害者の死亡との間には因果関係が認められる。
被告人Bの弁護人は、①被告人B車両と被告人A車両の衝突箇所や衝突直前の被告人Aのハンドル操作等に照らせば、被告人A車両が被告人B車両と衝突した後に進路左前方に進行したのは、被告人Aのハンドル操作のみが原因である、②被告人Aは被害者を発見したにもかかわらず、被害者に向かって進行しており、被害者の死亡には異常な経過が介在しているなどという。しかし、①については、被告人Aがハンドルを左に切ったのは、被告人B車両との衝突を回避するためであったから、被告人A車両が進路左前方に進行した原因の一つが被告人Aのハンドル操作にあるとしても、被告人Bの過失行為と被害者の死亡との間に因果関係が認められるとの結論に影響はない(なお、前記ドライブレコーダーの映像によれば、被告人A車両は被告人B車両と衝突した直後に進路を左前方(東方向)に向けており、判示のとおり、その衝撃により被告人A車両を進路左前方に逸走させたと認められる。)。
また、②についても、被告人A車両のハンドル操作の誤りを指摘するものにすぎず、被告人A車両が被告人B車両と衝突したことにより、被告人A車両が適切にハンドル・ブレーキ操作をしなければ直ちに被害者と衝突するという状況を生じさせたとの認定を左右するものではない。
札幌地裁 令和5年10月31日
A、Bともに有罪です。
両被告人の過失行為に内在する危険が実現して結果が発生したといえるか?という観点で過失と死亡の因果関係を捉えています。
冒頭の事故は、過失の大小でいうなら一時停止しなかった男性車にあると考えられますが、女性が罪に問われるかについては徐行していたか?徐行していたら回避可能だったか?(ここでいう回避可能性は、男性車との衝突の話で自転車との衝突ではない)がポイント。
結局のところ、最終的に何が起きたかではなくそれぞれの立場においてやるべきことをしましょうとしか言えませんよね…
巻き込まれた自転車はお気の毒ですが、女性車も完全なる被害者と言えるかについては徐行していたかがポイント。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント