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なぜ?「はみ出し追い越し禁止」で「前車が軽車両の場合」が除外されてない理由。

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読者様から質問を頂きました。

読者様
読者様
記事を見てイエローラインが17条5項4号の道路標示だから軽車両を追い越しする場合でも30条ではなく17条5項4号が適用されることは理解しました。
ではなぜ17条5項4号に「前車が軽車両の場合を除く」と書かなかったのか疑問が残りました。
イエローのセンターラインは自転車を追い越す時にはみ出てもいい?警察庁や裁判所の見解を見てみたよ。
イエローのセンターラインの際に、「法律上は」自転車を追い越すときもはみ出てはいけないことは条文を読めばわかるような気がしますが、なぜか納得しない方々がいたりする。警察庁や裁判所、検察庁などの見解を見て見ましょう。この記事の目的①正しい法律解...

これは歴史を見ないとわからないことでして。

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30条に「軽車両除外」とある理由

確かに30条の場合は、軽車両を追い越しすることは禁止されていない。

(追越しを禁止する場所)
第三十条 車両は、道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、他の車両(軽車両を除く。)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。

30条の標識と17条5項4号の標示は別です。

追い越し禁止 右側はみ出し追い越し禁止
標識等

 

根拠 30条 17条5項4号
追い越し 禁止(ただし軽車両の追い越しは可) 右側にはみ出ししなければ可能

30条は昭和35年からありますが(ビミョーに内容は違うけど軽車両除外は同じ)、17条5項4号は昭和46年に新設。
さて、30条を新設した際に「軽車両を追い越しする場合は除外」とした理由はなぜなのか。
そもそも「追い越しに関するリスク」を考えましょう。

 

追い越しする際は対向車線にはみ出して追い越しすることが多いけど、前車が速ければ速いほど右側通行距離が伸びる。

前車がデカければデカいほど、対向車線の見通しは遮られる。

軽車両を除外した理由については、道路交通法を制定した宮崎氏がこのように説明する。

軽車両は、おおむね小型であり、かつ、原則として道路の左側端を通行すべきこととされているので、このような車両を追い越す場合には、通常、追越しに伴う危険が軽車両以外の車両を追い越す場合に比してはるかに少ないと考えられるからである。

宮崎清文、注解道路交通法、立花書房、1966

とりあえず覚えておきたいのは、「はみ出し追い越し禁止規制」(17条5項4号)より先に30条が制定されているということ。

追い越し禁止規制の運用

そもそも昭和46年改正で「右側はみ出し追い越し禁止」を新設する以前、どういうときに追い越し禁止規制を使っていて、なぜ「はみ出し追い越し禁止」を新設する必要が出たのかがポイント。

 

この理由については以下の解説がある。

もともと車両が追越しをする場合、道路の右側部分にはみ出して行われるもの(甲の態様)と道路の左側部分のみで行われるもの(乙の態様)とがある。

乙の態様の追越しは、甲の態様の追越しに比べて危険度が低いことから昭和46年6月改正以前は、法30条の法定追越し禁止のみで一応十分であると考えられていた。
したがって法30条の規定に基づく公安委員会の追越し規制は、危険度の高い右側部分へのはみ出しによる対向車との衝突を防止することを主たる目的として運用してきた。
特に法17条5項4号の「当該道路の右側部分を見とおすことができ、かつ、反対の方向からの交通を妨げるおそれがない場合に限る。」という右側へのはみ出しの判断を個々の運転者の判断に委ねることが不適当な場合には、あらかじめ法30条の規定に基づく規制として、右側部分へのはみ出し通行することが危険な場所を追越し禁止場所として指定するという運用を行ってきたため、当該禁止場所において、危険度の低い左側部分での追越しをも一律に禁止するという結果になり、実務上においても追越し禁止の標識に「前車が二輪である場合を除く」という補助標識を付置して、実質的には右側部分へのはみ出しのみを禁止する規制が一部府県において行われていた。
右のような矛盾を解消するため昭和46年6月の改正で
○追越しのための右側部分はみ出し通行禁止(法17条5項4号)
○追越し禁止(法30条)
の2つの態様に分けて規定された。

関東管区警察学校教官室 編、「実務に直結した新交通違反措置要領」、立花書房、1987年9月

追い越しには右側通行する「甲の態様」と左側部分で完結する「乙の態様」がある。

そして昭和46年に「はみ出し追い越し禁止」を新設する以前、追い越し禁止規制は主に右側はみ出しを規制する意味で運用していた。
元々右側はみ出し追い越しする場合には、「当該道路の右側部分を見とおすことができ、かつ、反対の方向からの交通を妨げるおそれがない場合に限る」としているけど、運転者がそれを判断することが不適当な道路にて一律右側はみ出し追い越しをさせないために「追い越し禁止」(30条)で規制していた。

 

しかし「追い越し禁止」を使った場合、左側部分で完結する二輪車の追い越しも規制されてしまう。

「甲の態様」を規制したくて30条の標識を立てたら、「乙の態様」まで規制されてしまう。
そこで一部の府県では、「前車が二輪である場合を除く」という補助標識を使いだした。
その結果、本来規制したかった「右側はみ出し追い越し」が容認されてしまう笑。

「前車が二輪である場合を除く」という補助標識を使いだした理由は、道路左側部分で完結する追い越しは規制対象ではないことにしたかった。
しかしその補助標識を使うと、前車がオートバイのときには右側はみ出し追い越しが容認されてしまう。

 

前車が速ければ速いほど右側通行距離が伸びるし、支離滅裂な状態に陥った。
それを解消するために、一律右側はみ出し追い越しをさせないために「右側はみ出し追い越し禁止規制」(17条5項4号)を新設し、あくまでも右側通行させない趣旨だから前車が軽車両だろうと除外しなかったわけでして。

問 法17条4項4号の「はみ出し禁止」は、軽車両を追越す場合にも適用されるのか。

答 適用されます。
法17条4項4号の「はみ出し禁止」は、追越し時における対向車との衝突事故を防止するために、道路の右側部分にはみ出すことを禁止したものです。したがって前車の種類に関係なく適用されます。
これに対して法30条の「追越し禁止」は、追越し行為に伴う危険を防止するため、追越しのための進路変更または前車の側方通過を禁止したものですから、前車が小さく、遅いもので、見とおしにさほど影響を与えない場合には、特に禁止する必要がありません。このことから法30条は前車が軽車両の場合、これを追越し禁止の対象から除外しています(前同質疑回答集9ページ)。

 

東京地方検察庁交通部研究会、最新道路交通法事典、東京法令出版、1974

歴史と運用から起きたバグを解消する意味で「右側はみ出し追い越し禁止規制」を新設したということです。

最大の問題は

右側はみ出し追い越し禁止規制は、要は運転者にリスクを判断させることが不適当な道路に使うもの。
「当該道路の右側部分を見とおすことができ、かつ、反対の方向からの交通を妨げるおそれがない場合に限る」という判断をさせるまでもなく一律規制するのだから、本来は延々と何キロもイエローラインを使うべきではなくて、「ここは絶対ダメ」というポイントに絞って使うべきなのに、警察さんが安易に10キロとか長い距離に使うからおかしくなったのかもしれない。

 

けど「右側はみ出し追い越し禁止規制」の立法趣旨が「右側通行ダメ絶対」の精神なのだから、司法判断はこうなる。

論旨は、要するに、原判示第一事実について、被告人車は低速の先行車両が先に行くように指示して道を譲つてくれたため同車を追越すため道路右側部分に進出して進行したものであつて、その進出部分も僅かであり、何ら危険を伴うものではなく、かつ、巷間多く見られる通行方法に従つたものであるから、可罰的違法性がないのに、原判決が道路交通法17条3項に違反するとして同法119条1項2号の2を適用し、被告人を処断したことは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。

 

しかしながら、道路交通法17条3項、4項3号は、右側通行によつて具体的に交通の危険又は妨害が生じたか否かを問うことなく、所定の事由が存在する場合に限り右側通行を許容し、その他の場合の右側通行はこれを禁止し、もつて道路交通の安全と秩序を全体として確保しようとする趣旨の規定であると解されるから右の禁止に違反する行為は、そのことだけで法の予定する違法性を具備するものというべきである。また、同法17条4項4号は、左側部分の幅員が6メートルに満たない道路において、他の車両を追越そうとする場合について、反対の方向からの交通を妨げるおそれがないなどの一定の要件のもとに特に右側部分の通行を許容しているけれども、同時に、道路標識等により追越しのため右側部分にはみ出して通行することが禁止されている本件のような道路については、右の通行は一律にこれを禁止する旨を明文で定めているのであるから、交通を妨げるおそれがないという理由で右側通行の違法性がないとの所論は、法に明示された趣旨に反するものというほかはない。したがつて、被告人車の追越しのための右側通行は違法というべきであるから、原判決が被告人の行為を同法17条3項違反とし、同法119条1項2号の2を適用して処断したことは、正当であつて、所論のような法令解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。

 

大阪高裁 昭和53年6月20日

なぜこの説示になるかというと、立法経緯にヒントがあるわけでして。

 

道路交通法の規定って何らかの矛盾を解消するために改正を繰り返していたりするのですが、要はその規制が何を目的とするかなんですよね。
わりと興味深いのは、追い越し禁止規制に「前車が二輪の場合を除く」と補助標識をつけた結果

本来規制したかった「右側はみ出し追い越し」が許容されてしまい本末転倒な状態に陥り、かといって補助標識を使わない場合には左側部分で完結する追い越しが規制されてしまい支離滅裂な状態に陥ったところでしょうか。
そういう歴史から両者を分けていて、30条で「前車が軽車両の場合を除く」とする理由は軽車両は遅い上に見通しを妨げるリスクが小さいこと。
つまり30条の標識では軽車両を追い越しする場合に多少右側はみ出し通行することが容認されますが、17条5項4号は「右側通行ダメ絶対!左側通行を守れ」の精神である以上、軽車両を追い越しする場合でも除外しなかったというところでしょうか。

 

ちなみに、やろうと思えば17条5項4号の標識に「前車が軽車両の場合を除く」と補助標識を付けて除外することは不可能ではない気がする。
ただまあ、それをしない理由は歴史にあるのかも。

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