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飲酒運転は無罪、しかし飲酒運転を理由に免許は取消。なぜこうなるか?

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ちょっと前になりますが、飲酒運転罪は無罪になったものの、飲酒運転を理由に免許は取消になった事例がありました。

飲酒運転を巡る刑事裁判で無罪が確定した福岡市の清掃業の男性(43)が、事実誤認の飲酒運転を理由に違法な運転免許取り消し処分を受けたとして、福岡県に処分取り消しと約580万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福岡地裁(林史高裁判長)は29日、請求を棄却した。

免許取り消しの行政処分では、交通事故を巡る刑事裁判で無罪が確定した福岡市の女性が起こした民事訴訟で、福岡高裁が2023年9月、処分は無効と判断した。飲酒運転と交通事故で内容が異なるため、単純に比較はできないが、同種の事案で判断が分かれる形となった。

訴状などによると、男性は20年1月19日未明、福岡県大野城市内で物損事故を起こした乗用車の近くに酒に酔った状態でいた。県警は現場の状況などから運転手は男性と判断し、20年3月に道路交通法違反(酒気帯び運転)容疑で逮捕。男性は「知人と飲酒後、知人が手配した人が自分の車を運転し、帰宅途中だった。運転手は事故後にいなくなった」などと説明し「自分は運転していない」と容疑を否認したが、福岡地検は同違反で起訴し、県公安委員会も20年8月に同じ飲酒運転を理由に運転免許を取り消した。

男性は公判で無罪を主張するとともに、県公安委の処分に不服を申し立てる審査請求をした。

福岡地裁は20年12月の刑事裁判の判決で男性を有罪としたが、21年10月の2審・福岡高裁判決は、現場から車のキーがなくなっていたことなどを根拠に「男性以外の第三者が運転していた可能性が認められる」として逆転無罪を言い渡した。検察側は上告せず、判決は確定した。

飲酒運転無罪の男性の免許取り消し処分 撤回請求を棄却 福岡地裁 | 毎日新聞
飲酒運転を巡る刑事裁判で無罪が確定した福岡市の清掃業の男性(43)が、事実誤認の飲酒運転を理由に違法な運転免許取り消し処分を受けたとして、福岡県に処分取り消しと約580万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福岡地裁(林史高裁判長)は29日、請...

飲酒運転で逮捕され、刑事事件で無罪となったのに、免許取り消し処分が維持されるのはおかしいとして、福岡市の男性が福岡県に処分の取り消しを求めた訴訟の判決が29日、福岡地裁であった。林史高裁判長は、第三者が運転していた可能性を指摘した刑事裁判の判決内容を否定し、「県の処分は適法だ」として男性側の訴えを退けた。

判決によると、男性は2020年1月、事故を起こした車に酒を飲んだ状態で乗っていたとして、道路交通法違反(酒気帯び運転)の疑いで逮捕された。その後、一審・福岡地裁判決で執行猶予付きの有罪判決を受けたが、21年10月の控訴審で福岡高裁は「第三者が運転していた可能性を排除できない」として無罪を言い渡し、その後に確定した。

林裁判長は、第三者の存在をうかがわせる説明をした男性の知人らの証言の信用性が低いことや、防犯カメラに男性以外が車を乗り降りした映像がないことなどを指摘し、「男性が運転行為を行ったものと認められる」と判断した。

逆転無罪後の「免許取り消し」の取り消し請求退ける 福岡地裁:朝日新聞デジタル
飲酒運転で逮捕され、刑事事件で無罪となったのに、免許取り消し処分が維持されるのはおかしいとして、福岡市の男性が福岡県に処分の取り消しを求めた訴訟の判決が29日、福岡地裁であった。林史高裁判長は、第三…

時系列をまとめます。

年月 内容
20年1月19日 物損事故のクルマのすぐ近くに男性がいた
20年3月 道路交通法違反(酒気帯び運転)で逮捕
20年8月(行政処分) 公安委員会が飲酒運転を理由に男性の免許を取消
20年12月(刑事裁判) 福岡地裁が酒気帯び運転罪として有罪判決
21年10月(刑事裁判) 福岡高裁は「男性以外の第三者が運転していた可能性がある」として逆転無罪
24年5月29日(行政裁判) 福岡地裁は飲酒運転を認め、運転免許取消処分は適法と判断

これの刑事判例は解説しましたが、

無罪と無実は別。無罪でも運転免許取消になる理由。
ちょっと前になりますが、酒気帯び運転罪(道路交通法違反)で一審有罪、二審無罪になって確定した方が運転免許取消処分は肯定されたという報道がありましたが、行政事件の判決文はないものの、刑事事件の判決文は普通にあったので見てみました。まあ、無罪で...

行政事件の判決が公開されました。

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刑事事件のあらすじ

刑事事件は一審が飲酒運転罪で有罪、二審は無罪。

 

①午前1時4分頃、白ミニバン(本件車両)が本件コンビニの駐車場に入り、白トレーナーの男性(本件男性)が運転席から降りてエンジンキーを使って施錠。○○方向へ歩いていった。

②午前2時49分頃、本件男性ともう1人の男性がコンビニがある方向に歩いていた。

③午前2時57分頃、本件男性ともう1人の男性が本件コンビニの駐車場に入り、本件男性はエンジンキーを使って運転席に乗車。
もう1人の男性は運転席に接近した後、2時58分にコンビニに入店。
3時3分頃、本件車両は本件コンビニの駐車場から発進。
①~③の間、本件車両のフロントライトの点灯やドアの開閉はなく、本件男性以外に本件車両を乗り降りした人はいない。

④午前3時38分頃、路上で車両のバンパーが何かに衝突したように凹んで停車していた車両の運転席に被告人が乗車していた。
警察官から職務質問を受け、飲酒検知に反発して公務執行妨害で逮捕。

 

要はこの流れで、防犯カメラ上の本件男性が被告人、本件車両が被告人車両だと認定し、一審は「運転していたのは被告人」とし酒気帯び運転罪で有罪。
二審で問題になったのは、「消えたエンジンキー」。
エンジンキーがなぜなくなったのか説明がつかず、あらゆる証拠を検討すると「第三者が運転しエンジンキーを持ち去った可能性」を否定できなくなり、一審の事実認定の一部が崩れてしまうため、被告人が運転していたと認定したことに合理的な疑いが生じる。

 

疑わしきは被告人の利益に、なので刑事事件は無罪で確定しています。
これを踏まえて行政事件(運転免許取消処分取消請求)。

運転免許取消処分はなぜ正当化されたか?

まず、行政処分(運転免許取消処分)の適法性については行政側に立証責任があります。

2 争点⑴(本件処分の適法性)について
⑴ 本件運転行為をした人物についての判断枠組み
認定事実により指摘することができる次の事情によれば、次のとおり、本件運転行為をした人物は、後記④の特段の事情がない限り、原告であると推認することができる。

① 本件車両は、1月19日午前1時04分頃、本件セブンイレブンの駐車場に進入して駐車し、午前3時03分頃、同所から発進した(本件運転行為)。
ところが、上記の間に、原告以外の人物は、本件車両を乗り降りしていない(認定事実⑵ア・ウ)。
② 原告は、本件運転行為の約6分前である午前2時57分頃に、所持していたエンジンキーで開錠の上、運転席側から本件車両に乗り込み、運転席に座った(認定事実⑵イ)。
③ 上記②の際、E は、本件車両のドア越しに原告と会話したところ、本件車両内に原告以外の人物が乗車していることを確認できなかった(認定事実⑵イ)。
④ 以上の事実によれば、1月19日午前3時03分の本件運転行為は、その約6分前にエンジンキーを所持して運転席に座った原告と入れ替わって運転行為を行った者が本件車両内に存在したなどの特段の事情がない限り、原告によるものと推認することができる

福岡地裁  令和6年5月29日

④について特段の事情がない限り、運転していたのは原告だと推認できるとしている。
コンビニ駐車場に駐車して発進するまでの約2時間の間、原告以外にクルマを乗り降りしてないし、発進する際も自らがエンジンキーで開錠して運転席に乗り込んだのだから、その推認は当然かと。
つまり、④について特段の事情があるかないかが問題になる。

イ 本件刑事控訴審判決の判断の要点
本件刑事控訴審判決に係る刑事裁判では、検察官は、H が I に対して本件車両のエンジンキーを渡したことを争わず(甲1・3頁)、原告に対する職務質問が始まった後に何者かに当該エンジンキーが渡る機会があったこと(原告が職務質問開始後に当該エンジンキーを車内や周辺に隠匿し、これを H が発見したこと等)を主張立証した(甲1〔17頁〕、甲24の4)。
これに対し、本件刑事控訴審判決は、①原告が現行犯人逮捕された際に、本件車両のエンジンキーが発見されなかったこと及び②H が I に当該エンジンキーを手渡したことを前提に、H が当該エンジンキーを入手した経緯について、㋐原告が H に直接手渡したこと、㋑原告が本件車両の内外に置いて、それを H が拾得したこと、㋒本件車両の運転者以外の第三者が原告から手渡され又は拾得して、H に手渡したこと、のいずれの可能性を認めることも困難であるとし、その上で、本件車両を運転していた原告以外の人物が本件車両からエンジンキーを持ち出して H に手渡した可能性は、前記①及び②の事実関係を合理的に説明するものであり、他方、本件車両に原告のみが乗車し、原告が運転していたという場合には、前記①及び②の事実関係を説明することは困難であり、原告が本件運転行為をしたという事実を合理的な疑いなく認定することはできないとして、道交法違反(酒気帯び運転)の公訴事実につき原告に無罪を言い渡したものである(前提事実⑶イ、甲1・19~20頁)。

ウ 本件車両のエンジンキーに関する事情について
(ア)特段の事情を基礎付け得る事情について
認定事実によれば、原告は、1月19日午前4時19分、公務執行妨害の現行犯人として逮捕されたが、本件車両のエンジンキーは、その際の警察官らの捜索によっても、本件車両及び原告の身体から発見されず、本件停車場所付近からも発見されなかった(認定事実⑵コ)。
本件刑事控訴審判決は、上記の事実及び前記イの検察官の応訴態度(Hが I に対して本件車両のエンジンキーを渡したことを争わないこと)に加え、㋐H は、1月19日、本件停車場所付近で、第三者から本件車両のエンジンキーを受け取り、同日、原告の自宅に向かい、I にこれを渡した旨を供述し(別紙4⑷〔乙22〕、甲5)、㋑I も、これに沿う供述(別紙4⑽〔乙23〕)をしたことを踏まえ、H の上記供述を排斥し難いとして、前記イのような判断をしたものである。

(イ)現存する本件車両のエンジンキーについて
しかしながら、現存することが確認された本件車両のエンジンキーは、3月2日、春日警察署の警察官により、原告の母のハンドバッグから発見されたものである(別紙4⑺)。本件車両のエンジンキーは、そもそも本件車両の購入時には2つ存在し、また、本件車両は原告だけでなく原告の母が運転することもあったというのであるから(認定事実⑴)、上記のように原告の母のハンドバッグ内にあった本件車両のエンジンキーが本件運転行為の際に使われたものと同一であるとは直ちに認め難い。

(ウ)I の供述の信用性について
I の供述(別紙4⑽)中には、1月19日、H から本件車両のエンジンキーを受け取った旨の供述部分があるが、このエンジンキーがどのような経緯を経て原告の母のハンドバッグ内に入っていたのかについては明確な供述がない(別紙4⑽。このことは、原告の母の供述〔別紙4⑿〕においても同様である。)。I が、当時原告と交際していた関係にあり、原告に有利になるような供述をする動機もあることを併せ考慮すれば、Iの上記供述をもって、そのとおりの事実を直ちに認めることはできないものといわざるを得ない。

(エ)原告の現行犯人逮捕時における本件車両のエンジンキーの不発見について
本件車両のエンジンキーが、原告の現行犯人逮捕の際に、本件車両、原告の身体及び逮捕現場付近から発見できなかったという事情(認定事実⑵コ)は、次の点も考慮すると、本件車両を運転していた第三者がこ
れを H に預けたことを直ちに裏付けるものになるとはいえない。
① 本件停車場所付近には、複数の排水溝があり、また、道路沿いには複数の灌木があったところ(乙53)、春日警察署の警察官らが原告の現行犯人逮捕の際に捜索を行った範囲は、本件証拠上、明らかでない。
そうすると、上記警察官らが上記捜索の際に見落とした可能性もあるというべきであり、冒頭の事情のみをもって、本件車両のエンジンキーが原告の現行犯人逮捕の際に本件停車場所付近に客観的に存在しなかったものと断ずることはできない
② 1月19日午前3時16分頃(本件車両の停止時刻)~午前3時38分頃(B 警部補が原告に声をかけた時刻)の間、本件車両から降車して本件車両に戻らず立ち去った人物は、本件停車場所近辺の防犯カメラの映像上、確認することができない(認定事実⑵エ⑤)。これに対し、原告は、午前3時28分頃に本件車両から降車し、午前3時32分頃に本件車両の運転席側のドアを開けた人物(認定事実⑵エ)は、本件車両を運転していた後輩の可能性があるとした上で、①同人が本件車両に乗り込んだかどうかは、他の通過車両のライトの光によって確認することができず、同人が、運転席側のドアを開けたものの本件車両に乗り込まず、そのまま本件車両から離れた可能性や、②同人が、一旦本件車両に乗り込んだ後、防犯カメラの撮影範囲外となる助手席側から降車した可能性等があると主張するが、証拠(乙11、12、59、60)及び弁論の全趣旨に照らして、原告の上記主張は、採用し難い。また、前記イの本件刑事控訴審判決の判断によれば、本件運転行為をした第三者が、上記の間に、本件車両内から原告1人を残して立ち去ったことになるものの、上記のとおり防犯カメラの映像上そのような人物を確認することができない事実を踏まえると、この点についての合理的な説明は不可能である。
他方、上記の間に本件車両の運転席側から降車した人物は、本件車両の周辺等を動き回るなどしていたのであり(認定事実⑵エ②~④)、この人物が本件車両のエンジンキーを隠匿する機会はあったといえる。
③ また、B 警部補は、午前3時38分、原告に声をかけた後も、他の警察官が臨場する午前3時44分頃までの間、一人で原告に対応しており(認定事実⑵カ~ク)、午前3時40分頃には、原告のスマートフ
ォンで H と通話していた(別紙4⑵)。
このような事実に照らすと、原告が、B 警部補に声をかけられた後に、その目を盗んで、本件停車場所付近にある排水溝にエンジンキーを投棄するなどした可能性もないとはいえない。
④ さらに、原告は、臨場した警察官が7名になった後も、歩道上を右往左往するようにせわしなく動くなどしていた(認定事実⑵ケ)。
そうすると、原告が、追従する警察官らの隙をみて本件車両のエンジンキーを投棄するなどした可能性も否定し難い。

(オ)H の供述の信用性について
H は、本件運転行為の翌日である1月20日に警察官から電話聴取を受けた際には、第三者から本件車両のエンジンキーを預かったという出来事について話しておらず(別紙4⑵)、原告が釈放された後の同月22日以降の事情聴取において、突然、30代の見知らぬ男性からエンジンキーを預かった旨を供述するに至ったものである(別紙4⑷)。
H が、原告の後輩に当たり、深夜にもかかわらず、原告に呼び出されてタクシーで本件停車場所に来たこと等からうかがわれる両者の関係性(認定事実⑵オ、ケ)に照らせば、原告に有利になるような供述を敢え
てした可能性も否定できないところ、前記 のとおり、その裏付けとなり得る I の供述する事実は直ちに認めることができず、また、前記 のとおり、本件車両のエンジンキーが原告の現行犯人逮捕の際に発見されなかったという事情は、H の上記供述を裏付けるものになるとはいえない。
このように、本件全証拠に照らし、特に本件刑事控訴審判決においては、検察官の主張立証との関係で考慮されず、又は十分に考慮されなかった事情(証拠)も含めて検討すれば本件停車場所付近で第三者から本件車両のエンジンキーを受け取ったとする H の前記供述は、直ちに採用することができず、これをもって当該第三者が本件運転行為をした可能性を合理的なものとして認めることは困難である。

要は検察官の主張立証は、エンジンキーを後輩Hが原告の交際相手に渡したことを前提にしているけど、検察官が争わなかった部分も考慮して検討すれば、第三者が運転していた可能性を認めるのは困難としている。

エ 本件運転行為をした第三者の存在の可能性を指摘する原告の供述部分について
(ア)次の事情に照らすと、原告は、本件運転行為を行った人物について、その供述を著しく変遷させており、そのことに合理的な理由がないものといわざるを得ない。
① 原告は、当初(1月19日)は、不明である旨を述べ(別紙4⑴)、その2日後(1月21日)、H であると供述を変え(別紙4⑶)、釈放された直後(1月23日)に(H と話したら H ではないとのことであったので)誰か分からないと述べたが(別紙4⑸)、3月2日には「J」であると再び供述を変え(その根拠として、E から、E が J に対し原告を自宅まで送るよう頼んだ旨を聞いたからとする。別紙4⑻)、刑事事件の第一審公判以降は「顔は見たことがあるけど、ちょっと名前までははっきりとは覚えていないような感じの後輩」であると供述するに至った(別紙4⒀)。
② 原告は、上記①のような供述の変遷について、もともと飲酒の影響で記憶が欠落していた部分を、各供述時点で有する限られた情報に基づいて、推測で供述したからであると主張する。
しかしながら、J に関していえば、E は、3月2日時点で、原告に代わって本件車両を運転する人物はいなかった旨を供述しているのであり(別紙4⑼)、E から J について聞いた旨の原告の供述自体(上記①参照)の真偽も疑わしい。そうすると、このような原告の供述の変遷は、記憶の欠落のみを理由とするものとは考え難い。

(イ)前記⑵アの原告の供述部分は、次のとおり、的確な裏付けを欠くもの又はその供述内容が不合理なものといわざるを得ない。
原告の供述(別紙4⒀)によれば、本件運転行為をした人物は、原告に対し、もめ事の仲裁を相談した本件スナックの経営者から、直接又は第三者を介して、原告を迎えに行くよう依頼された者である。
しかしながら、本件スナックの経営者は、1月19日、原告にもめ事の仲裁を相談したとは述べていない(別紙4⑾)。
仮に、そのような経緯があったとすれば、原告は、本件スナックの経営者や当時本件スナックにいたとされる原告の知人に順次確認をとることによって、当該人物を特定することが可能であるにもかかわらず、現時点に至るまで、当該人物を特定しない
仮に、原告が、1月19日午前1時04分頃、後輩の運転する本件車両で、本件セブンイレブンの駐車場に到着したとすれば、原告は、㋐本件車両の助手席又は後部座席に座っていたのに、助手席側や後部座席のスライドドアではなく、あえて当該後輩と入れ替わる形で運転席側のドアから降車したことになり(認定事実⑵ア)、㋑本件車両に当該後輩が残っているのに、本件車両のドアを施錠し、エンジンキーを持って立ち去ったことになるが、このような原告の行動は、不自然不合理であるといわざるを得ない。
③ 原告は、1月19日午前3時23分頃~午前3時36分頃にかけて、知人らに電話をかけて会話するなどしていたのであり(認定事実⑵オ)、本件車両を降りた当該後輩から、レッカー車を探すために電話をかけてきますと言われたと供述している(別紙4⒀カ)のであるから、B 警部補らに飲酒運転を疑われた際に、まだ近くにいるはずの当該後輩(原告において、当該後輩がそのまま本件車両に戻ってこないと考える根拠は、この時点では乏しい。)の存在について言及してしかるべきであるのに、自分は車を運転しないこと、知り合いに連絡して迎えに来てもらっていること、本件車両を運転していた者がエンジンキーを持って行ったこと等を説明するにとどまったのである(認定事実⑵キ、ク)。
原告の上記言動は、不自然不合理であるといわざるを得ない。
以上の諸点に照らすと、原告の後輩が本件運転行為を行った可能性がある旨の原告の供述部分をもって、当該後輩が本件運転行為をした可能性を合理的なものとして認めることも困難である。

供述の変遷と不自然不合理な点を指摘している。
確かに、後輩が運転してコンビニに駐車したのであれば、原告がわざわざ運転席から降りたのは不自然。
ましてやエンジンキーを抜いて後輩を車内に残しているのも不自然。

以上によれば、原告が本件運転行為をしたという事実を合理的な疑いなく認定することはできないとした本件刑事控訴審判決の判断は、その刑事裁判における検察官の主張立証を前提としたものにとどまり、本件全証拠に照らし、特に検察官の主張立証との関係で考慮されず、又は十分に考慮されなかった事情(証拠)も含めて検討すれば、本件停車場所付近で第三者から本件車両のエンジンキーを受け取ったとする H の前記供述は、直ちに採用することができず、これをもって当該第三者が本件運転行為をした可能性を合理的なものとして認めることは困難である(前記ウ)。また、原告の後輩が本件運転行為を行った可能性がある旨の原告の供述部分をもって、当該後輩が本件運転行為をした可能性を合理的なものとして認めることも困難である(前記エ)。
したがって、原告の指摘する証拠又は事情をもって、前記⑴の(本件運転行為の約6分前にエンジンキーを所持して運転席に座った原告と入れ替わって運転行為を行った者が本件車両内に存在したなどの)特段の事情があるとは認め難い。
そうすると、前記⑴で説示したところにより、原告が本件運転行為を行ったものと認められる。

福岡地裁 令和6年5月29日

検察官が主張立証した範囲では、原告が運転したか合理的な疑いが残るとして無罪になったけど、検察官が主張立証しなかった証拠も含めて検討すれば、冒頭の④について特段の事情もなく、原告が運転していたことを十分推認できるとしている。

 

そもそも、防犯カメラ映像ではコンビニに駐車して発進するまでの間(約2時間)に原告以外が運転席に乗り降りしていないわけだし、コンビニから発進する際も原告が自らエンジンキーを用いて運転席から乗っている。
これだけでも原告が運転していたことを十分推認できるけど、「第三者運転説」を主張したのに供述の変遷が著しいし、ましてや不自然不合理だとして「特段の事情」に当たらないとしています。

刑事事件と行政処分は別

要は刑事事件については「検察官の主張立証を前提にすると」被告人が運転していたか合理的な疑いが残るとして無罪になった。
しかし検察官が主張立証しなかった証拠も含めて検討すれば、原告が運転していたことを十分推認できる。

 

防犯カメラの映像だけでも、原告が運転していたことを認定できるけど、刑事事件の立証と行政事件(民事)の立証は深さも違うのよね。
無罪だったことは、無実だと認定したわけではない。

 

④について特段の事情があるなら話は別ですが、そこまで「第三者運転説」をいうならそいつが誰なのかという問題になるし、そもそも原告の供述も一貫性がないから無意味なのかと。

 

ちなみに報道だと原告は控訴したそうなので、控訴審がどう判断するかは別。
刑事事件で無罪になることは、無実だと認定したわけではないので、刑事事件は飲酒運転罪が無罪、行政処分は飲酒運転を理由に免許取消がありうるわけです。

 

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