こちらの件。

「モペットは特定小型原付ではなく一般原付」という指摘を複数頂いたのですが、おっしゃる通りモペットは特定小型原付ではなく一般原付です。
たぶん勘違いされたのかなと思ったのですが、「モペットが道路交通法上、逆走可能か?」の話ではなくて、「危険運転致死傷罪が規定する通行禁止道路の要件を満たすか?」の話。
◯先に結論
そのため、特定小型原付(処罰法では自動車)の逆走が許されている道路における事故に、処罰法2条8号(通行禁止道路危険運転致死傷罪)は適用できないでしょという話であって、被告人車両が特定小型原付だという話ではない。
これは危険運転致死傷罪の構成要件の問題でして、
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
政令で定める通行禁止道路はこちら。
施行令
第二条 法第二条第八号の政令で定める道路又はその部分は、次に掲げるものとする。
二 道路交通法第八条第一項の道路標識等により自動車の通行につき一定の方向にするものが禁止されている道路又はその部分(当該道路標識等により一定の条件に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているものを除く。)
※処罰法でいう「自動車」には原付を含む。
特定自動車に限定して一方通行規制している道路については、処罰法でいう「通行禁止道路」に該当しなくなる。
たとえば川口暴走事故は時速100キロ超で4輪車が一方通行を逆走しましたが、
当該道路の一方通行規制は「2輪を除く」になっていた。
つまり2輪のオートバイや原付の逆向き進行は可能な道路なので、処罰法でいう通行禁止道路には該当しなくなり、4輪車が逆走した場合でも危険運転致死傷罪(通行禁止道路)は適用できないことになる。
この場合に道路交通法上、4輪車の逆向き進行が禁止されているのは当然ですが、処罰法でいう通行禁止道路態様を適用できないという事態が起きる。
処罰法でいう通行禁止道路とは、全ての自動車(原付含む)が逆向き進行不可な道路のみを指すんですね。
処罰法でいう通行禁止道路は道路の属性の話であって、被告人車両が逆走禁止されていたかの話ではない。
つまりこの標識がある場合、

4輪車の逆走が禁止されているのは当然だし、一般原付の逆走も禁止されているのは当然ですが、仮に4輪車が逆走しても処罰法でいう通行禁止道路危険運転致死傷罪(2条8号)は適用できない。
なぜこういう規定なのかは立法趣旨に理由がある。
この罪で追加する運転行為としましては,これまでの議論にございましたが,一方通行道路,高速道路の中央から右側の部分,いわゆる逆走をするというものでございますが,あるいは商店街ですとか歩行者天国等の自動車の通行が禁止されている道路というような,通行禁止道路を進行し,かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する,こういう行為を規定してございます。法定刑については,この「一」の罪といいますのは,従来の危険運転致死傷罪に追加をするものでございますので,危険運転致死傷罪と同じということにしてございます。
まず,「通行禁止道路」というものにつきましては,自動車の通行が禁止され,ほかの通行者としては,自動車が来ないはずであるという前提で通行している道路に限定することにしております。具体的には,道路交通法上の通行禁止の規制のうち,それを更に限定しまして,禁止に反して通行した場合の危険性ですとか悪質性に応じて,所要の手続を経る政令を定めるということで考えておるものでございます。
あわせて,資料22-2というものを御覧いただければと思います。資料22-2には,この関係の政令で定めるものを対象とするものと,そこには定めない,つまり対象としないものと分けてございます。「通行禁止」といいますのが,道路標識等によるものというのと,法令の規定によるものとございますので,まず,大きく二つに分けまして,その道路標識等による通行禁止のうち対象とするもの,そして対象としないものを,そちらに標識等と一緒にお示しし,法令の規定によるものにつきましても,対象とするものというのと対象としないものというのをお示ししているところでございます。
この「一」の罪というのは,他の危険運転行為の場合と同様に,故意に一定の危険な運転行為を行った結果,人を死傷させたものを,その行為の実質的な危険性に照らして,暴行により人を死傷させたものに準じて処罰しようというものでございますので,当然のことながら,この通行禁止道路を進行したことの認識は必要であると考えております。この認識といいますのは,道路標識等によって具体的な規制内容を認識している場合はもちろんでございますが,例えば,道路の幅員や対向車からの合図などによって,通行禁止道路であるということを認識した場合も含まれて,それで足りると考えているところでございます。
これまでの御議論におきましては,例えば一方通行道路でありましても,時刻ですとか道路状況等によっては,ほかの人とか車の通行がおよそないという場合もあるではないかということを理由としまして,危険性の要件として,ほかの人や車との関係について言及する御指摘もございました。しかしながら,この事務局試案におきましては,考え方としましては,まずこの「一」の罪というものが適用になる場面といいますのは,実際に人の死傷の結果が生じているということが前提でございまして,そもそもほかの通行者がおよそ存しないという場面ではないのではないかと考えられること,従前からある赤色信号を殊更無視という危険運転行為の類型につきましても,同じように時刻や道路状況等によっては,ほかの人や車が通行をおよそしない場合もあるのではないかということは言えるわけでございますが,赤色信号を殊更無視の類型につきましてそのような限定する要件は付されていないということを踏まえまして,この事務局試案におきます「一」の罪につきましても,ほかの人や車との関係というものの要件は付しておりません。
「一」の罪に関する説明は以上でございます。○上冨幹事 御説明いたします。
22-2を御覧いただきながらお聞きいただければと思いますが,ここでは,例えば車両通行止めの道路,あるいは自転車・歩行者専用道路といったものについては対象にすることを考えておりますが,他方,ここに例として挙げておりますものとしては,大型自動車等通行止め道路,あるいは二輪の通行止め道路,指定方向外通行禁止といったものを対象としないこととするのが適当ではないかとお示ししております。
このように分けた理由でございますが,ここで,通行禁止道路として対象にする道路というのは,私どもの考えでは,この禁止に違反して自動車で走行することの危険性,悪質性が類型的に高いと思われるものを選んだつもりでございます。具体的に申し上げますと,他の通行者,例えば歩行者から見たときに,自動車が来ないはずであるという前提で通行していて,禁止に違反して自動車が仮に通行してきた場合には,これを回避するための措置をとることが,通常は困難ではないかという意味で,類型的に危険性,悪質性が高いと思われるものを選定したつもりでございます。
例えば,選定しないものの例として,大型自動車等通行止め道路というものがありますが,こういった規制の場合には,大型自動車でない自動車というのは,当然,進入してくることが前提となっておりまして,例えば歩行者の立場であっても,大型であるかはどうかはともかく,自動車が通行していることは前提としている道路であると言えるのではないかと思っております。
この点は,二輪の自動車や原動機付自転車通行止め道路の場合も同様でございますし,また,指定方向外進行禁止の場合は,例えば交差点のところに指定方向外進行禁止の規制がなされていたとしても,その方向からの進入でないところからの進入が必ずしも禁止されているわけではなくて,そういった意味で,先ほど申し上げたような危険性が必ずしも同等にあるとは言えないのではないかという意味で限定させていただいたものでございます。○山下委員 何点かあるんですけれども,続けてよろしいですか。
今回,政令で定めるものを通行禁止道路と定義するんですが,この政令で定める際に,この今回の資料22-2にありますけれども,道路交通法が引用されているんですが,その政令の中で道路交通法を引用することになるのか。そうだとすると,政令の中に道路交通法が改正されて変わった場合には,当然,その政令の内容も変わることになる。そういう意味で,これは危険運転致死傷罪の危険運転の認識というところに関わる問題ですけれども,そもそも政令にしたことによって曖昧になる上に,その政令が道路交通法を引用してしまうと,道路交通法が変わると政令の中身も変わるということで,前提となる通行禁止道路の概念に対する認識について非常に認定が難しくなるし,行為者としても,何が通行禁止道路かということについて,政令が変わり,かつまたその先の道路交通法が変わることなどによって,しょっちゅう変動するということであると,何が通行禁止道路なのかということに関しての認識が非常に難しくなるように思うんですけれども,その辺の技術的な問題ですね。
これを特別法にするということで回避しようとしているように見えますけれども,特別法にしたからといって,それでいいということが言えるのかどうか。これまで危険運転致死傷罪という刑法にあった罪を,たまたま特別法にしたからといって,政令を引用して故意の認識を曖昧にしていいというわけではないと思いますので,その辺の技術的な問題についてどのようにお考えなのか,お聞きしたいと思います。
○上冨幹事 まず,通行禁止道路の範囲を政令で規定するということについてでございますが,まず,ここで私どもが,今,お示ししております通行禁止道路というものは,既に道路交通法におきまして,まず通行が禁止されている道路であることが前提でございまして,その中から更に本罪の対象となるものを政令で限定しているという構造になっております。
したがって,運転者,通行者の立場からすれば,広くそもそも通行してはいけないという規範があって,その規範は当然知った上で道路交通をしているということが前提でございますので,その中から更に政令で限定するとしたとしても,政令に委任されている範囲は元々明確でございますし,そのことによって故意の対象が曖昧になる,あるいは行為者にとって不利益な扱いになるということにはならないのではないかと考えております。 https://www.moj.go.jp/content/000108873.txt
結局のところ、この標識がある場合、

一般原付の逆走が道路交通法上禁止されているのは当然ですが、処罰法でいう通行禁止道路には当たらないので危険運転致死傷罪(通行禁止道路)は適用できないことになる。
そういう話です。
危険運転致死傷罪は悪質かつ危険な運転態様の一部のみを類型化したものですが、通行禁止道路態様(2条8号)を「全ての自動車(原付含む)が一方通行規制されている道路」に限定しているのは理由がある。
全ての自動車が一方通行規制されている道路では、他の通行者(歩行者や車両)は「自動車が逆走してくることはないはずだ」と期待して安心している。
その期待を裏切るような悪質かつ危険な運転態様を処罰するために要件を限定している。
逆にいえば一部の自動車(原付含む)が逆走可能な道路では、「自動車が逆走してくることはないはずだ」という期待が働かない道路なのだから、危険運転致死傷罪の適用からは除外されている。
なので前回記事に書いたのは、被告人が運転していたのが一般原付か特定小型原付かの話ではなくて、当該道路が危険運転致死傷罪の「通行禁止道路」に該当するかの話。
さらにいうと、そもそも「交通取締車両」など一部のパトカーなどは一方通行規制から除外されている(都道府県公安委員会規則、道路交通法4条2項)。
そうするとそもそも処罰法2条8号でいう通行禁止道路という概念が成り立つ道路が存在しないのではないか?と思う人もいるかもしれない。
しかし、一部のパトカーなどが一方通行規制から除外されているのは補助標識の効力ではなく公安委員会規則によるものだから、
補助標識によって一部の車両に限定されているもののみが除外なんだと理解できる。
「当該道路標識等により」とわざわざ付けている理由はそういうことなんだろうなとわかりますが、
日本の一方通行規制の大半は「自転車を除く」と言われており、特定小型原付もこれに含まれるのだから、現実的には通行禁止道路(処罰法2条8号)を適用可能な道路はほとんど存在しないのではないか?という話になってしまう。
このバグに気付いてないのではないか?ということを以前から疑問視して、特定小型原付を「自転車を除く」の範疇に含めた理由を考えると、自転車同等の他害性だと捉えたからですよね?
そうすると処罰法でいう通行禁止道路から「自転車を除く」の場合を除外することが本当に正しいのか?と疑問を持つわけでして。
このあたりの解釈や改正経緯についてご意見があればお待ちしてます。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント
前も書きましたが、そもそも都道府県公安委員会規則での除外はどういう扱いなんでしょう?法令の規定によるものとするのか、それも条件による除外であって、対象を限定してるものではないという考えなでしょうか?
それも含めて補助標識は考慮せずという考えなのかもしれませんね
あくまで標識本体での意味だけで考えるという感じでしょうか
そうすると川口の暴走事故も危険運転致傷で起訴できるように思えるのですが
コメントありがとうございます。
一方通行規制の除外には「条文除外」と「補助標識除外」の二種類があり、通行禁止道路の定義で「当該道路標識等により」としていることから、後者のみが処罰法の通行禁止道路から除外されるのではないかと思います。