先日のこちら。

運転レベル向上委員会より引用
23:15あたりからは「OKになったのは令和5年から」(文脈から民泊やホテルのことを指しているのは明らか)と解説しているけど、
少なくとも令和元年通達には当該文言があるわけで、明らかなデマだと言える(なお都道府県通達は警察庁通達と同じ内容)。
一方、申請者が同法の適用を受けない者である場合にあっては、次の(ア)から(ウ)までのいずれかの書類を提示させるとともに、免許申請書上の住所に関し、居所地に滞在していることを証明する書類(寄宿先の世帯主やホテルの支配人の証明等)を併せて添付させること。
https://www.pref.shimane.lg.jp/police/06_information_disclosure/kunrei_tsuutatsu/koutsuu/koutsuu.data/menkyo_gaikokumennkyo_toriatukaiyouryou.pdf
こういうことをすると、名誉毀損の問題になりうる。
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
名誉毀損の要件は「公然と事実を摘示し」とありますが、「事実」というのは例えば「昨日の夜にカレーを食べた」みたいなものを指す。
似て非なるものに「評価」がありますが、評価というのは「あいつはバカだ」みたいなものを指します。
ざっくりいえば、事実は客観的に真贋を検証可能なもの、評価はいわば「感想」です。
ところで名誉毀損については、230条の2に免責要件を定めている。
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
下記を立証した場合には名誉毀損の免責になります。
②その目的が専ら公益を図ることにあった
③真実であることの証明
ところで「真実であることの証明」ですが、最高裁は以下判断をしている。
しかし、刑法二三〇条ノ二の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法二一条による正当な言論の保障との調和をはかつたものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法二三〇条ノ二第一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。これと異なり、右のような誤信があつたとしても、およそ事実が真実であることの証明がない以上名誉毀損の罪責を免れることがないとした当裁判所の前記判例(昭和三三年(あ)第二六九八号同三四年五月七日第一小法廷判決、刑集一三巻五号六四一頁)は、これを変更すべきものと認める。したがつて、原判決の前記判断は法令の解釈適用を誤つたものといわなければならない。
最高裁判所大法廷 昭和44年6月25日
いわゆる「真実相当性」がある場合には、名誉毀損罪の故意がないとする。
このケースにおいては「令和5年から認められた」とするには旧通達との差を調べる必要があるのは普通の感覚なら理解できるのだから、「その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるとき」には該当しない。
で。
こういうデマに安易に追従、拡散すると同じく名誉毀損の問題になりうるのでして。
世の中にはこういうデマがあるので、注意してないと安易に追従拡散して大変まずいことになるから、自ら情報を疑って調べる癖がないとヤバいことになりうる。
ただまあ、このチャンネルについては明らかな事実誤認が多く、事実の問題なので「見解の相違」という言い訳は成り立ちませんが、
このチャンネルがおかしな解説を繰り返す理由は、事実確認よりも推測重視だからなんですよね。
ちょっと前になかなか興味深い動画が配信されてまして。
航空機事故を推測・憶測で解説することがどのような影響を及ぼすのかについて語っている。
特に憶測、推測で動画を作成するYouTuberに苦言を呈してますが、この人の言うことはもっともなことでして
【元海上自衛隊幹部が苦言】T-4墜落著書「海上自衛隊潜水艦最強ファイル」ニコ生:元海上自衛隊ユーチューバー。政治・軍事・国際・経済・憲法など話題のニュースをわかりやすくお届けします!サブチャンネル:
事故後に推測で事故を語ってはいけない4つの理由として、
②関係性への配慮
③調査妨害
④社会の混乱
を挙げている。
この中で深刻なのは「正確性の欠如から起きる関係者への被害」を挙げている。
「こうなんだろう」「こうであったはずだ」と推測に推測を重ねた結果、真実とは全く違うことに陥る。
その結果、被害者がバッシングされたり偏見の目でみられるのよね。
もちろん加害者にしても同じで、制限速度内だったのに「速度超過していたのだろう」とかありもしないことが流布される。
例えばこちら。

自転車対歩行者の事故ですが、自転車過失が8割(一審は7割)で和解したことから、自転車がかなりの前方不注視や無謀なスピードだったのではないか?と推測する人が多数。
しかし現実は「時速20キロから減速中」で、警察が行った再現実験では犬のリードは視認困難とする。
散歩中の犬のリード(引き綱)に絡まって転倒した自転車に腕を引っ張られてけがをしたとして、飼い主の女性が、自転車を運転していた男性に約6900万円の損害賠償を求めていた訴訟は1日までに、大阪高裁で和解が成立した。一審の神戸地裁は自転車側に約1570万円の支払いを命じたが、高裁は過失を重く捉え、自転車の男性が解決金2500万円を支払うことで合意した。
(中略)
一審判決は原告、被告の双方に過失を認めたものの、「慎重な運転が求められる場所だった」と自転車側の安全配慮義務違反を大きく捉え、過失割合を原告3、被告7としていた。原告代理人によると、高裁は割合を2対8とする和解案を提示し、双方が受諾した。
一審判決によると、事故は2015年4月、宝塚市の武庫川河川敷遊歩道で発生。犬を連れた女性の近くを男性のロードバイクが通過した際、リードとロードバイクのチェーンが絡まって男性が転倒した。リードを持っていた女性も右腕を引っ張られて、まひが残った。
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一審裁判所の認定がこちら。
本件遊歩道は、公園敷地内の、歩車道の区分がなく、自転車・歩行者の通行区分もない見通しが良好な道路で、交通規制もない。本件遊歩道の路面は平坦なアスファルト舗装で、本件当時は乾燥していた。本件遊歩道は、本件現場の先で、左にカーブしており、カーブ部分の南側には、扇状の階段(以下「本件階段」という。)がある。
本件事故当日、原告は、父母とともに、本件現場付近に車で訪れ、(中略)。各人が一匹ずつリードでつないだ犬を連れていたが、原告が連れていた本件犬が自力で階段を下りなかったため、原告は、本件犬を抱えて本件階段を下りた。原告が、本件階段下の草地で本件犬を下ろしたところ、本件犬は本件階段付近の草を探っていた。本件リードは、リール付きでリードの出し入れをして伸縮できるものであった。なお、原告の父Bは、先に階段を下り、遊歩道を渡って北側の草むらで、自身が連れてきた犬を遊ばせていた。
被告は、ロードバイクである被告車を運転して、本件遊歩道のやや左側を、西から東に向かって、時速約20キロで走行していた。被告は、別紙図面3の①地点で、進行方向の(ア)地点に原告が佇立していること、被告からみて原告の左側の草むらに人(B)と同人が連れた犬がいることを認識したが、この時、原告がリードを把持して本件犬を連れていることは認識していなかった。被告は原告の右側のスペースが広く空いているように見えたため、原告の右側を通過しようと考え、また、進行先で遊歩道が左にカーブしていることから、被告車のペダルを漕ぐのをやめて速度を落として進行し、原告の右側を走行しようとした。被告が、②地点を通過しようとした時、原告が把持していた本件リードと、被告車のチェーン部分等が接触して絡まり、被告車はその場において停止する力を受けた一方、被告の身体は、慣性によって被告車から離れて、前方に進んで芝生の上に倒れ込み、被告車も倒れた。他方、原告は、右腕が引っ張られる形で転倒した。(中略)
実況見分が行われ、本件現場において、自転車走行時及び停止時の本件リードの視認可能性を確認するために、被告車と同等の大きさの自転車を時速20キロないし25キロの速度で走行させて本件リードの視認状況が確認された。
警察官は、本件リードの存在を認識しない前提で、3度にわたり、通常の状態で前方を注視しながら自転車を走行させる実験を実施したが、本件リードを張った状態及び緩ませた状態のいずれにおいても、本件リードを発見することは困難であった。一方、警察官が、本件リードの存在に注意しながら時速約20キロで自転車を走行させた時には、本件リードを約9m手前で視認可能であった。
これが一審裁判所の認定。
この態様なら、優者危険負担の原則を考慮して自転車過失が80%になるのはわりと普通。
ただしこの事故態様と事実認定において、いったいどのくらいの人が事故を回避できたのだろうか?という話になる。
過失割合に関係する部分の判示はこちら。
被告は、被告車を運転して本件遊歩道を走行するにあたり、本件現場付近には歩行者が存在したのであるから、周囲の状況を確認して安全に走行すべき義務があるにもかかわらず、これを怠った過失がある。他方、原告にも、他の自転車等の交通当事者が通行することが合理的に想定される本件現場付近で本件犬の散歩をするにあたり、本件リードを適切に操作し、本件犬との距離を適切に保つなどして、人や自転車等の他の交通当事者の通行を妨害しないようにすべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠った過失がある。そして、本件事故が公園内であって、散歩や遊戯によって歩行者が不規則・予想外な行動をとる可能性が相応にあるような場所であり、自転車で通行する被告に対して比較的慎重に運転すべきことが要求される場所での事故であることからすると、本件リードの視認可能性が極めて低く、原告の本件リードの操作等が適切とは言い難い面があったとの事情等を考慮したとしても、本件事故における原告の過失相殺率は、30%とするのが相当である。
神戸地裁 令和5年7月21日
歩車道の区別がない生活道路を基準とした場合、自転車対歩行者の事故で歩行者過失が20~30%になるのは、わりと歩行者側の重過失に近い概念で捉えていると理解できます。
とはいえ優者危険負担の原則からすると、民事責任は自転車過失80%は妥当でしょう。
民事は平等ではなく公平に責任分配するのだし。
けど、報道から推測するイメージは「どこぞのチャリカスが前方不注視で事故」になる。
これなんかは、判例検索を使えば誰でも調べることができるのだから、推測であーだこーだと語る暇があるなら事実確認するほうが適切なのは言うまでもない。
けど調べる労力を惜しんで推測重視にしたら、真実とは異なる情報を流布することになる。
この事件についても当該チャンネルは取り上げてましたが、推測ばかりで何ら検証してないのよね。
そういう姿勢が今回のようにデマの発信につながってますが、
事故当事者に対する配慮がないから推測を繰り返すのだし、事故当事者が不利益を被る事態が発生することを気にしてないから推測を繰り返す。
そういう積み重ねがデマの発信につながってしまうので、反面教師として捉えるのが吉なのよ。
そもそも、わからないものは「わからない」と評価すれば足りる。
あーだこーだと推測していくうちに、あたかもそれが「根拠があること」だと錯覚に陥ってしまうのもよくある話。
けど、「加害車両のスピードが出ていれば致死率が高いという統計データがある」→「被害者は事故◯時間後に死亡確認された」→「加害車両は速度超過していたのだろう」という恐ろしい解説をする人なので、根本的な思考に問題があると思う。
普通に考えれば、統計データ通りに具体的事例の態様が決まるわけもないのだから「それはそれ、これはこれ」。
推測しまくる人が陥りやすい問題そのものなのよ。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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