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夜間の事故から学ぶ、夜間走行の具体的注意義務。

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夜間に車道にいた歩行者をはねた場合、車両の運転者は過失運転致死傷罪に問われることになりますが(自転車は過失致死傷罪または重過失致死傷罪)、

 

夜間に走行する車両の注意義務については、あまり理解されてない気がする。

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夜間に歩行者をはねた場合

基本的な考え方は、

 

「車道にいる歩行者を視認可能な地点」

 

を実験で割り出します。
視認可能な地点において「制限速度内で急ブレーキを掛けた」ときに、衝突を回避できたと判断されれば有罪、回避不可能と判断されれば無罪。
ただし左右の見通しがきかない交差点や横断歩道などで徐行/減速義務を負っていた場合は、それらを果たしていれば回避可能だったかが判断される。

 

ところで、上に書いた内容は実は不正確です。
というのも今回のテーマは「夜間」。

 

制限速度内であれば速度は問題無し、とは言えない事情がありまして、

「ハイビームとロービームでは視界が違う」

 

ロービームで走行していた車両に「ハイビームにして通行すべきだったのにロービームのまま漠然進行した過失」が認定されることもあれば、「ロービームの照射範囲内で制動できる速度にして進行すべきだったところ、その範囲を越え漠然進行した過失」となることもある。

 

例としてこのような判例があります。

 

自車の前照灯を下向きにして進行する場合、前方30mを超える距離にある障害物を確認できないことを前提として、自車の速度を調節すべき注意義務を負っていたものと解するのが相当である。(中略)スチールラジアルタイヤを装着すれば、運転者が危険を感じてから停止するまで約29mを要するのであるから、運転者が前方注視を厳にし、障害物を約30m前方に発見して直ちに制動の措置を講ずれば、その直前において停止し、これとの衝突を回避することが不可能であるとはいえない。しかしながら、運転者は絶えず前方注視義務を十分に果すことが理想であっても、長い運転時間中に一瞬前方注視を怠ることもありえないとは言えず、あるいは前方注視義務を十分に果していても急制動の措置を講ずることに一瞬の遅れを生ずることもないわけではなく、さらに運転者がその注意義務を果そうとしても外部的事情により義務の履行が困難となることがありうることを考えると、運転者としては、車両の性能と義務の履行につき限界すれすれの条件を設定して行動すべきではなく、若干の余裕を見て不測の事態にも対処できるような状況の下で運転をすべき業務上の注意義務があるといわなければならない(東京高等裁判所昭和42年4月3日判決、東京高裁時報18巻4号1109頁参照)。

東京高裁 昭和51年7月16日

ハイビームorロービームのアホ理論。
道路交通法52条によると、夜間等はライトをつけ、対向車とすれ違うときや他の車両の直後を通行するときなどにはロービームにするように書いてあります。ちょっとこれについて。極端な論とにかくハイビームにすべき、みたいなアホ理論がありますが、判例から...

同注意義務を問題にした判例は必ずしも多いわけではないにしろ(なぜなら、街灯がありフロントライト以外に視認可能な要素があるなら話が変わるから)、ロービームの照射範囲内で制動できる速度に抑えて進行すべき注意義務があるといえる。
要は制限速度が60キロの道路だからといって、60キロ以下であれば速度が問題ないとは言えないことになりますが、

 

道路交通法違反(速度超過罪)と過失運転致死傷罪における注意義務は別問題。
ここを勘違いしていると、速度に問題がなければ問題無しであるかのような勘違いを起こす。

 

例えばこういう事故。

路側帯で高齢女性が軽ワゴン車にはねられ死亡(BBCびわ湖放送) - Yahoo!ニュース
5日夜、滋賀県湖南市の市道で、路側帯にいた高齢女性が軽ワゴン車にはねられ死亡する事故がありました。警察によりますと、5日午後8時ごろ、湖南市石部東の市道で路側帯に立っていた歩行者が軽ワゴン車にはね

夜間の事故ですが、ハイビームだったかロービームだったかはわからない。
ちなみに現場に路側帯が見当たらないのはご愛敬ですかね。

 

①ハイビームにする注意義務があったか?(つまり対向車がいないか?)
②ロービームで進行する際に照射範囲に応じた速度にする注意義務があったか?

見える範囲で制動できるようにする注意義務がないと、車両側からすれば制限速度が高ければ高いほど「見えた時点では既に回避可能性がない」という謎状態に陥る。

 

視野に応じて速度を調整する義務を認定した判例をもう1つ挙げます。

視野に応じた速度調整義務

判例は札幌地裁 令和2年8月24日、運転免許取消処分取消請求事件です。
まずは事案の概要。

⑴ 原告は,平成2年3月28日,普通自動車運転免許を取得し,その後,更新を繰り返し,平成29年4月7日,北海道公安委員会から普通自動車運転免許証(有効期間が平成34年6月1日までのもの)を交付された(甲1)。
⑵ 原告は,平成30年2月21日午前0時48分頃,普通乗用自動車(ナンバー略。ダイハツステーションワゴン。以下「本件車両」という。)を運転し,
北海道虻田郡a町字bc番地付近道路をd町方面からe町方面に向かい,遅くとも時速約30kmの速度で進行し,同f番地先路上(以下「本件事故現場」といい,本件事故現場付近の道路〔道道g線〕を「本件道路」という。)において,本件道路左側を本件車両と同一方向に向かって歩行中のAに本件車両左前部を衝突させてAを前方に跳ね飛ばし,その前方を歩行中のBにAを衝突させてA及びBを転倒させ,Aに外傷性くも膜下出血等の傷害を負わせ,これによりAを死亡させたほか,Bに全治84日間を要する右中指末節骨骨折等の傷害を負わせる交通事故(以下「本件事故」という。)を起こした(甲6,乙3)。
⑶ 北海道公安委員会は,下記の理由により,原告が道路交通法70条の規定に違反したことから同法施行令別表第2の1の表による違反点数が2点となるところ,本件事故が専ら当該行為をした者の不注意によって発生したものである場合以外の人の死亡に係る交通事故であることから,同法施行令別表第2の3の表による違反行為に対する付加点数13点を加えると,累積点数が15点となり,同法施行令38条5項1号イ,別表第3の1の表の第1欄の区分に応じた第6欄(15点から24点まで)に該当したとして,原告に対する意見聴取を経た上で,平成31年4月4日,運転免許取消処分書(甲3。以下「本件処分書」という。)を原告に交付して,同日付けで同法103条1項5号に基づき,運転免許を取り消し,同条7項,同法施行令38条6項2号ホに基づき,運転免許を受けることができない期間を同日から1年間と指定する本件処分をした(乙1)。

激しい吹雪の中で時速約30~40kmで進行し、同方向に進行する歩行者をはねた事故。
これについて安全運転義務違反の不成立を訴え提訴した事件です。

 

札幌地裁は安全運転義務違反が成立するとした。

本件事故当時,遅くとも本件車両が本件事故現場から126.9m手前の地点に差し掛かった時点では,降雪や地吹雪により,視界が更に悪化して前方が見えづらく,視線誘導標識すらも見えないほどの状態となり,本件事故が発生するまで,この状況が回復することはなかった(認定事実⑴ウ)。
したがって,車両の運転者には,そのような前方の見通しの状況に応じて,道路側端を歩行している歩行者と安全にすれ違うために徐行するか,徐行によっても歩行者の安全を確保できない場合には一時停止して視界の回復を待つ義務があったというべきであるところ,原告は,本件車両を一時停止又は直ちに停止することができる速度まで減速させることなく,漫然と,遅くとも時速約30kmの速度で進行させ,本件事故を発生させたのであるから,原告には,進路の安全を十分に確認することなく,道路及び交通の状況に応じて,他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転することを怠ったという安全運転義務違反があったといえる。

激しい吹雪で視界がほとんど効かない状況において時速30キロで進行したことが安全運転義務違反とし、一時停止又は直ちに停止することができる速度まで減速させる義務を負っていたとする。
これは当たり前の話で、夜間だろうと吹雪だろうと、視界が効く範囲内で制動できる速度まで減速して進行すべき注意義務があることになる。

ところで、この札幌地裁判決は安全運転義務違反が成立するとしながらも、運転免許取消処分は違法だとする。
なぜでしょうか?

ここで安全運転義務違反を理由としてされた本件処分の根拠規定である道路交通法70条についてみると,同法は,同法16条以下において車両の交通方法を具体的に定め,車両の運転者をしてかかる定めに従って運転すべき義務を課している。しかしながら,車両,道路等の状況によって,運転者に課される運転義務には様々な形態があり,同法各条が規定する具体的な義務規定のみではまかないきれないことから,同法70条は,それを補う趣旨で設けられた抽象的な規定であるということができ,どのような場合にどのような運転をすべき義務が運転者に生じ,どのような場合に安全運転義務違反となるかを定める具体的基準等は見当たらない。
そうすると,個別具体的な事実関係によっては,同条違反であることが示されるだけでは,処分の名宛人である運転者において,自己にどのような運転をすべき義務が生じており,又は,どのような運転行為が安全運転義務違反とされるのかを認識することが困難な場合もあるところ,そのような場合であるにもかかわらず,処分理由が同条違反であるとのみ示されたとすれば,処分の名宛人に対して不服申立ての便宜が与えられたとはいい難い。また,そのような場合であれば,処分をする行政庁においても,具体的な義務内容とその義務違反に当たる行為を認識しないまま処分に至るおそれがあるともいえ,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制する趣旨に反することにもなる。
以上からすれば,個別具体的な事実関係に照らし,同条違反であることが示されるだけでは,処分の名宛人である運転者において,自己にどのような運転をすべき義務が生じており,又は,どのような運転行為が安全運転義務違反とされるのかを認識することが困難な場合において,処分理由として,同条違反であるとしか示されなかったときは,行政手続法14条1項本文が定める理由の提示としては不足すると解するのが相当である。

 

札幌地裁 令和2年8月24日

「安全運転義務」は何ら具体性がない規定なので、「安全運転義務違反です」と言われても具体的に何をすべきだったのかわからない。
具体的に何を怠っていたかを示さない行政処分は違法だとする。

 

これって行政処分に限らない話でして、「安全運転義務違反です」とか「他人に危害を及ぼすような速度か方法だったんです」という解説をみても、一般人からすれば何をすべきだったのかはさっぱりわからない

 

夜間に起きた事故から学べるとしたら、「視認可能な範囲内で制動できる速度に抑える注意義務の確認」だと思う。
なお東京高裁はその注意義務について、限界ギリギリの速度ではなく余裕を持った速度だと指摘していることに注意。

 

運転者としては、車両の性能と義務の履行につき限界すれすれの条件を設定して行動すべきではなく、若干の余裕を見て不測の事態にも対処できるような状況の下で運転をすべき業務上の注意義務があるといわなければならない(東京高等裁判所昭和42年4月3日判決、東京高裁時報18巻4号1109頁参照)

夜間に法定速度内で通行していて事故を起こしたならば、道路交通法22条には違反しなくても注意義務違反や安全運転義務違反にはなりうる。
視界や状況に応じた速度は大事。

コメント

  1. tk10 より:

    大雨や大雪の時のニュース映像(視聴者投稿など)ってすごいですよね
    「わー!前が全然見えなーい!」と言いながら普段並みのスピードで進んでますから

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      前がみえないのに立ちションしたら、誰かにかかるのと同じですよね笑

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