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判例違反とは何か?

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最高裁への上告理由に「判例違反」がありますが、以前取り上げた件とも関係するのでちょっと考えてみようと思う。

 

最高裁への上告理由は刑訴法405条、民訴法318条にありますが、

 

第四百五条 高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。

ここでいう判例違反とはどういうことなのかについて、元最高裁判事の鬼丸氏が語っている。

■最高裁における弁護士の活動で気になった点
⑨ 「判例違反」の判例を広く捉えすぎているケースが多い(最高裁が考える判例というのは,事案の概要がまったく同じである,それなのに,判決の結果が違うという場合にしか判例違反と言わない)。

https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2020_09/p18-23.pdf

事案の概要が全く同じもの以外は判例違反と認めていないのに、事案が異なる判例を引用して判例違反を主張するケースが多いとしている。

 

これは以前指摘したんだけど、判例というのは原則としてその事案についてのみの法律判断でして、似ているけど違う事案にまで当てはまるようには書いていない。
だから判例違反の主張に対し「事案を異にし適切でない」として退ける事件が大量発生する。

 

例えばブレスケアひき逃げ事件にしても検察官の上告理由は判例違反になっていますが、おそらくは「直ちに」の解釈を示した大阪高裁判決か名古屋高裁金沢支部判決あたりを引用したと思われる。

 

しかしどちらも事案の概要は違う。

 

じゃあなぜ「事案を異にし適切な判例ではない」と言われる可能性が高いのに事案が異なる判例を引用するかというと、最高裁は憲法違反と判例違反しか上告理由を認めてないのだから、どちらかを絡めないと議論にすら入らないという問題がある。
実質的には「破棄しなければ著しく正義に反すると認めるとき」(刑訴法411条)として破棄して欲しくても、憲法違反か判例違反を主張しないと不適法な上告扱いされかねないから、事案が違う判例でも引用するしかない。

 

ムリだとわかっていても、「先っぽだけならいいじゃないか」とお願いするダメ親父と変わらない気もする(全然違う)。

 

鬼丸氏のコラムと判例違反の実情を踏まえると、判決文って「原則はその事案についての法律判断のみで、他の事案にまで適用できるようには書いてない」わけですね。

 

ところでこちら。

変な解説。
こちらで取り上げた件。その動画についていろいろ質問を頂いたのですが、要はこれの話ですよね。名古屋高裁判決はこれ。原判示道路は、道路標識等によつて駐車が禁止されているし、原判示自動車の停止位置は、道路交通法44条2号、3号によつても停車及び駐...

道路交通法38条2項について以下説示をしている。

原判示道路は、道路標識等によつて駐車が禁止されているし、原判示自動車の停止位置は、道路交通法44条2号、3号によつても停車及び駐車が禁止されている場所であるから、かかる場所に敢えて駐車するが如きことは通常考えられない事柄であるのみならず、同法38条2項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等」とは、その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべきであるから、本件の場合、被告人の進路前方の横断歩道直前の道路左側寄りに停止していた自動車が、一時停止による場合であると停車或いは駐車による場合であるとにかかわりなく、被告人としては、右停止車両の側方を通過してその前方に出ようとするときは、出る前に一時停止しなければならないのである。つて、右措置をとらないまま横断歩道に進入した被告人に過失があるとした原判決に誤りはない。論旨は理由がない。

名古屋高裁 昭和49年3月26日

同法38条2項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等」とは、その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべき、としたことから、「対向車も含むとした判例だ!」とか「裁判所は対向車を除外するときはきちんと書くんだ!」と語る人がいますが、この事件は「道路左側にいた駐車車両を含むか?」が争点。
弁護人の主張に対するアンサーなのだし、事案が違うのだから、この判例は対向車云々について全く判断していないことになる。

 

○弁護人の主張

所論は、原判示の横断歩道直前に停止していた自動車は、一時停止していたものではなく、「駐車」していたものであるから、本件において、被告人は、道路交通法38条2項にいう「その前方に出る前に一時停止しなければならない」義務を負わないのに、その義務があるとした原判決の認定は失当であると主張する。

駐車を含まないだろ!について「その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべき」なので、そりゃそうですよね。
しかもこの説示は名古屋高裁オリジナルなのではなく、宮崎注解からの引用と考えられる上に、

名古屋高裁判決の説示は、名古屋高裁が言い出しっぺではない。
こちらの続き。38条2項について説示した名古屋高裁判決のこのフレーズは名古屋高裁が言い出しっぺではなく、宮崎清文氏(警察庁)の解説書(条解道路交通法)の可能性が高いと書きましたが、同法38条2項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等」と...

宮崎注解の文言をみると、対向車を含まない前提で書いていることがうかがえます。

 

・事案が違う判例は認められない
・裁判の基本は「その具体的事案に対する法律判断」
・「除外するときはきちんと書く」なんて決まりもしきたりもない
・弁護人が何を主張した結果なのかも理解していない

「除外するときはきちんと書くんです!」と語るYouTuberが、弁護士YouTuberに「弁護士でもない人の独自見解」と一蹴されるのは当たり前なのよね。

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