PVアクセスランキング にほんブログ村
スポンサーリンク

なぜ?「明らかに広い道路の交差点」を通行する場合に徐行義務が免除されない理由。

blog
スポンサーリンク

こちらについて質問を頂きました。

コリジョンコース現象と左右の見通しがきかない交差点での事故の過失割合の話。
ではこちらの件。優先道路(交差点内にセンターライン等)がない場合の同幅員交差点事故ですが、頂いた質問はこちら。管理人さんの解説記事と運転レベル向上委員会の動画の不整合についてお尋ねします。こちらの記事によると左方優先はあまり重視されてないと...
読者様
読者様
徐行義務を課す理由として挙げているもののうち、③がわかりません。

①「横断歩道がない交差点での歩行者優先」を担保するために徐行させている←わかる
②「左方優先」を担保するために徐行させている←わかる
③「広路車優先」を担保するために徐行させている←???

結論からいうと、「広路か狭路かを判断させるために徐行させている」ということかと。

スポンサーリンク

なぜ?「明らかに広い道路」の場合でも徐行義務がある理由

現行規定では「優先道路」(交差点内にセンターラインか車両通行帯)がある場合と信号規制されている交差点以外は、左右の見通しが悪ければ徐行義務がある。

(徐行すべき場所)
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。

しかし昭和46年改正以前の42条は優先道路でも徐行義務がありました。

 (徐行すべき場所)
第四十二条 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの、道路のまがりかど附近、上り坂の頂上附近、勾配の急な下り坂又は公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要があると認めて指定した場所においては、徐行しなければならない。

※この時代の優先道路は標識で示した場合のみ。交差点内にセンターラインか車両通行帯があるかは関係なかった。

 

ところが、最高裁は「優先道路通行車と広路通行車には徐行義務がない」と解釈した。

車両等が道路交通法42条にいう「交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの」に進入しようとする場合において、その進行している道路が同法36条により優先道路の指定を受けているとき、またはその幅員が明らかに広いため、同条により優先通行権の認められているときには、直ちに停止することができるような速度(同法2条20号参照)にまで減速する義務があるとは解し難いが、本件のように幅員約7.6メートルのあまり広くない道路で、これと交差する道路の幅員もほぼ等しいようなときには、これと交差する道路の方に、同法43条による一時停止の標識があっても、同法42条の徐行義務は免除されないものと解すべきである。なんとなれば、優先道路または幅員の明らかに広い道路を進行する場合には、その運転者にも、またこれと交差する道路を進行する車両等の運転者にも、当該交差点における優先通行の順位が明らかになっており、その間に混乱の生ずる余地が少ないが、本件のように、交差する双方の道路の幅員が殆んど等しいような場合には、一時停止の標識が存在しても、その存在しない方の道路を進行する車両等の運転者にとっては、その標識の存在を認識することは、必ずしも可能であるとは限らず、もし、右認識を有する者についてだけ、同法42条の徐行義務を免除することにすれば、当該交差点における交通の規整は一律に行なわれなくなり、かえって無用の混乱を生ずるであろうからである。

 

最高裁判所第三小法廷 昭和43年7月16日

なぜ42条に規定されてない除外規定を最高裁が認めたのかというと、36条で「明らかに広い場合の優先」と「優先道路の場合の優先」を規定している。
42条の条文上、優先道路や明らかに広い道路だろうと徐行義務があると警察庁が考えていたのに、最高裁は42条よりも36条を優先的に適用し、36条の場合は42条の除外規定なんだと解釈した。
(ただし「交差道路の一時停止規制の場合」は、一時停止標識がない側からはわからないとして徐行義務の除外とは認めていない。)

 

当時の判例解説をみると、警察関係者はだいぶショックを受けたらしい。
この判例を受けて、警察庁は昭和46年改正で42条を「優先道路のみ除外」と明記することで「広路車は徐行義務の免除ではない」ことを明確にした

 

昭和46年改正以前の最高裁の判断は、立法で明確化したので無効になった。

 上告趣意は、判例違反をいうが、所論のうち、原判決が昭和42年(あ)第211号同43年7月16日第三小法廷判決・刑集22巻7号813頁に違反するという点については、右判決は昭和46年法律第98号による改正前の道路交通法36条、42条について示された解釈であつて本件の先例とはなり得ないものであり、その余の引用にかかる判例は本件とは事案を異にして適切でなく、いずれも適法な上告理由にあたらない。

 

最高裁判所第二小法廷 昭和52年2月7日

道路交通法四二条によれば、車両等が同条一号にいう「左右の見とおしがきかない交差点」に入ろうとする場合には、当該交差点において交通整理が行われているとき及び優先道路を通行しているときを除き、徐行しなければならないのであつて、右車両等の進行している道路がそれと交差する道路に比して幅員が明らかに広いときであつても、徐行義務は免除されないものと解するのが相当である。

最高裁判所第二小法廷 昭和63年4月28日

ところで最高裁が示した「広路車は徐行義務が免除」について警察庁が法改正してまで「広路車は徐行義務!」とした理由を考えると、「明らかに広い道路」と規定しているわりには広路/狭路の判断はビミョーな上、全ての通行者が一見して判断できるものではない
そして徐行義務を課す理由として最高裁は「歩行者の安全」も理由の一つとして挙げていることを考えると、徐行義務が免除される場合については歩行者にも明確にしたかったんじゃないかと思われる。

 ところで、車両等が道路交通法42条にいう「交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの」に進入しようとする場合において、その進行している道路が同法36条により優先道路の指定を受けているとき、またはその幅員が明らかに広いため、同条により優先通行権の認められているときには、直ちに停止することができるような速度(同法2条20号参照)にまで減速する義務があるとは解し難いが、本件のように幅員約7.6メートルのあまり広くない道路で、これと交差する道路の幅員もほぼ等しいようなときには、これと交差する道路の方に、同法43条による一時停止の標識があつても、同法42条の徐行義務は免除されないものと解すべきである。なんとなれば、優先道路または幅員の明らかに広い道路を進行する場合には、その運転者にも、またこれと交差する道路を進行する車両等の運転者にも、当該交差点における優先通行の順位が明らかになつており、その間に混乱の生ずる余地が少ないが、本件のように、交差する双方の道路の幅員が殆んど等しいような場合には、一時停止の標識が存在しても、その存在しない方の道路を進行する車両等の運転者にとつては、その標識の存在を認識することは、必ずしも可能であるとは限らず、もし、右認識を有する者についてだけ、同法42条の徐行義務を免除することにすれば、当該交差点における交通の規整は一律に行なわれなくなり、かえつて無用の混乱を生ずるであろうからである。また、本件のように、あまり広くない道路で、しかも交差点の見とおしのきかない場合には、歩行者の安全も考慮しなければならないことは、原判決も説示するとおりであり、このことも前記解釈の根拠となり得るであろう。

 

最高裁判所第三小法廷 昭和43年7月16日

道路交通法第35条第36条(昭和39年法律第91号による改正前のもの)が、交差点における互に違つた方向からこれに進入する車両相互間の優先順位を定めたものであるに対し、同法第42条は左右の見とおしのきかない交差点に進入する車両に対し総べての通行者との間の危険防止を目的として制定されたものであり、同法第35条第36条のように歩行者を除いた車両相互間の関係のみを規制したものではないのである。従つて、右法意に照らすと、たとえ、交差する車両に対しては優先する場合であつても、そのために同法第42条の一般徐行義務が解除されるものではなく、又同法第43条も公安委員会が特に必要があると認めて指定する交差点において、車両等に対して一時停止義務を課し(通行人にはその効力は及ばない)、これと交差する道路の車両等に優先通行を認めたに過ぎず、そのために優先車両に対し同法第42条の徐行義務までも解除したものとは解し難い。

 

東京高裁 昭和41年11月22日

「明らかに広い道路」の判断は間違いが起きやすいから、警察庁的には最高裁昭和43年7月16日判決をそのまま受け入れるわけにはいかない。
そこで優先道路の定義を「交差点内にセンターラインか車両通行帯がある場合」と変更した上で「優先道路通行車の場合のみ徐行義務の除外」とした。

 

歩行者は「直前横断禁止」があるとはいえ、その判断は間違いが起きやすい。
交差点内にセンターラインか車両通行帯、つまり「車線」があるなら歩行者が横断する際にも注意しやすくなるのだから、優先道路の定義を変えた上で「広路車は徐行義務がある」としたわけです。

 

結局、最高裁判決を受けて警察庁が改正した理由を考えると、全ての通行者が明確にわかる規制にしたかったものと考えられる。
そして「明らかに広い道路」については「明らかに広いかどうか」を判断させるために徐行義務を課しているのだと思われる。

規制担当者の意図

以前挙げたこちら。

広路通行車は徐行義務が免除されない。
こちらの件。これについてはほとんどの人が理解してないと思うし、この機会に認識を改めたほうがいいと思っているので記事にしたんだけど、①②どちらの方向から交差点に進入しても、左右の見通しが悪い上に優先道路(交差点内にセンターライン又は車両通行帯...

この交差点については交差点内にセンターラインを設けることはできますが、規制担当者があえて設けていない。
理由を考えると、片側二車線の中央分離帯がある横断歩道で減速接近義務のみならず徐行義務を課して、歩行者優先を担保したいんだろうなと。

手前の交差点については中央分離帯があることから歩行者が横断する可能性を考慮する必要がなく、交差点内に車両通行帯とセンターラインを設けて「徐行義務がない」ことにし、メインの交差点については交差点内にセンターラインも車両通行帯も設けないことで「徐行義務がある場所」とし、歩行者優先を担保している。
なのでこの交差点で徐行義務を課す理由は「広路/狭路の判断」ではなく「歩行者優先の担保」なのでしょう。

ちなみに「道路交通法はクルマ優先思考だ」みたいな話をする人がいるんだけど、本当にそうですかね?
クルマ優先思考であれば徐行義務を課す理由は薄いのでして。

 

けど一番の問題は、そもそも徐行義務がある場所だと気付いている人が少ないところ。
どこかのYouTuberにしても1年くらい前までは徐行義務を理解してない解説を繰り返してましたが、

そういう人が多数だから、海外ではハンプで強制減速させている。

 

左右の見通しが悪い交差点での徐行義務については、なぜ徐行義務を課すのか?を知らないと真意を理解できないと思うのよね。

本件のように、あまり広くない道路で、しかも交差点の見とおしのきかない場合には、歩行者の安全も考慮しなければならないことは、原判決も説示するとおりであり、このことも前記解釈の根拠となり得るであろう。

最高裁判所第三小法廷 昭和43年7月16日

広路/狭路の判断はビミョーになりやすいことから、その判断をさせるためにも徐行義務を課したのだと考えられますが、メインになるのは歩行者優先と左方優先の担保だと思う。

コメント

タイトルとURLをコピーしました