道路交通法で交差点の一時停止規制がされている場合、「一時停止標識」が必須で停止線は必須要件ではありませんが、
第四十三条 車両等は、交通整理が行なわれていない交差点又はその手前の直近において、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあつては、交差点の直前)で一時停止しなければならない。この場合において、当該車両等は、第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか、交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
たまに一時停止標識がなく、破線の停止線のみがある場合がある。
https://www.police.pref.nagasaki.jp/police/kotsu-anzen/kotsu-kisei/teisisen/
これは指導停止線といい、道路交通法上は一時停止規制がされてない場所になる。
とはいえ長崎県警のホームページをみても、「停止線だけではなく、指導停止線においても停止して安全確認をお願いします」としているわけで、指導停止線のみの場合でも一定の注意義務を課しているといえる。
さて、法定外の指導停止線の場合、それが民事の過失割合に影響するのでしょうか?
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指導停止線と民事の過失
指導停止線が民事の過失としてどう扱われるかというと、
「一時停止規制ほど強くは反映されないけど、過失割合の考慮材料にはなりうる」
一例としてこのように説示した判例がある。
指導停止線は法定外表示の1つにすぎないから、これを一時停止線と同種のものとまで評価するのは相当ではなく、指導停止線設置の趣旨・目的等に照らし、具体的な道路状況を前提とした過失割合の判断に際しての1つの考慮要素にすぎないというべきである。
東京地裁 平成30年12月26日
これは「指導停止線を一時停止規制と同視すべき」という主張に対する説示なのでこのような表現になってますが、場合によっては指導停止線が過失割合に考慮されうる。
まあ、法定外だから安全確認しなくていい理由にはならないのだし、停止したほうが安全なのは言うまでもない。
では実際のところをみていきます。
指導停止線や法定外の「一時停止」の判例
大阪高裁 昭和45年9月17日(刑事)
公安委員会ではなく警察署が注意喚起のために「一時停止」という看板を立てた場合の効力から。
十字路の全方向に一時停止という看板を立てた事例。
本件当時本件交差点の東、西、南、北の各角付近に「危険、一時停止、浪速警察署」と大書した相当大きな立て標示板がそれぞれ設置されていたことが認められるが、右標示板は、公安委員会が正規に設置した法2条15号にいう道路標識ではなく、所轄警察署において危険を防止するため法的根拠なしに設置したもので、それは、同交差点に進入する車両に対し、同所が危険な箇所であることを警告し、その注意を促す程度の意味しか有しないものと解するのが相当であり(もし、右標示板設置によつて、明らかに広い道路である南北道路を進行する車両にも、一時停止すべき法的義務が生ずるものとすれば、なんらそのような権限のない警察署に、法36条の認める優先通行権を否定するような一般的規制措置をとり得ることを認める結果となり、極めて不合理である)
大阪高裁 昭和45年9月17日(刑事)
この判例は刑事事件(業務上過失致死傷)ですが、仮に法定外の一時停止標識に効力があるとすると優先通行権を否定してしまい不合理だとしています。
ただし一種の警告効果はあるのでして、高度な注意義務までは課してないけど、その交差点に対する注意喚起として機能していると言える。
東京地裁 昭和45年4月3日(民事)
町内会が警察署の許可を得て立てた一時停止(法定外)に従わなかったことを過失とするかの判断をしています。
原告は、被告には一時停止義務違反がある旨主張し、本件交差点の加害車の進入口に本件立看板があつたことは前記のとおりであるが、右看板は町会が作成設置したものであり一時停止等の道路標識の様式、設置場所その他道路標識について必要な事項が法令によつて厳格に定められている(道交法9条、43条、同法施行令7条、道路標識、区画線及び道路標示に関する命令2条、3条、4条2項等)趣旨に鑑みれば、仮に町会が右看板を作成設置するについて富坂警察署の許可を得ていたとしても、それに一時停止規制の効果をもたせることはできないというべく――それはせいぜい交差点に進入する車両に対して安全確認の注意をうながすものにすぎないとみるべきである――その他被告が本件交差点に進入するに際して一時停止をすべき義務があることを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は理由がない。
東京地裁 昭和45年4月3日(民事)
東京地裁 平成6年10月18日(民事)
幅員が狭い生活道路で、原告(赤自転車)側には公安委員会が設置したものではないですが「止まれ」と書かれた看板があります。
右検討の結果によれば、本件事故は、原告が交差点の手前で減速して本件交差点に進入し、曲がり切つた後ペダルを踏み込んだ時に原告自転車の前輪が被告自転車の前輪右側に衝突し、その結果、原告が前かがみで被告自転車の前輪を覆うようにして倒れた結果生じたものであると認めるのが相当である。なお、本件事故時の被告の行動は、大袋駅からの道路の右側を減速しながら通行し、原告を発見して直ちにブレーキをかけ、被告自転車が停止した途端に原告自転車と衝突したものであると認めるのが相当である。そして、被告は、本人尋問において「大袋駅方面から道路の左側を自転車で通行し、本件交差点で停止した上で右折して恩間方面に向かう方法をとれば、交差点での停止時に後続の自転車による追突を受けるので、内回りのほうが行い易い」と供述していることから、本件事故時において、歩行者をよけようとして大袋駅からの道路の右側を通行することになつたものの、右側通行を自ら容認して走行したものと推認される。右認定に反する原被告の各供述は前示検討の結果に照らして採用しない。
そうすると、本件事故は、被告が大袋駅からの道路を通行するに当たり、左側を走行すべきところを右側を走行し、本件交差点も右側から進入したことのため、原告自転車との衝突を招来したものであつて、被告の右義務違反による過失責任は免れない。
他方、原告も、直線道路に進入するに当たり、「止まれ」と大きく書かれた看板にもかかわらず、減速をしたのみで本件交差点に進入し、その後、前方の道路事情の確認を不十分のままペダルを踏み込んだものと言わざるを得ず、このような停止義務違反、前方注視義務違反も本件事故の原因となつていることは明らかである。
そして、被告の過失と原告の過失の双方を対比して勘案し、また、前認定の本件交差点付近の自転車や歩行者の通行状況も斟酌すると、被告は明示で主張はしていないが、本件事故で原告の被つた損害については、その75パーセントを過失相殺によつて減ずるのが相当である。
東京地裁 平成6年10月18日
原告(赤、一時不停止) | 被告(青、逆走) |
75 | 25 |
指導停止線の意義
ところで冒頭の平成30年東京地裁判決ですが、事故現場は左右の見通しが効かない交差点です。
裁判所が下した過失割合に「指導停止線分」が強く考慮されているようにはみえませんが、結局のところ左右の見通しが効かない交差点での大要素は「徐行義務+安全確認」なのでして、指導停止線は徐行義務と安全確認を補強するような意味に捉えたほうが分かりやすいかも。
「一時停止規制」をかけると、全ての車両が一時停止するわけではなく、最徐行で済ませる車両は多い。
なにせ令和2年のデータでも一時停止違反の検挙件数は160万件ありますから…
とはいえ、一時停止規制をしないと最徐行すらしない車両が出てくるのでして、指導停止線は「一時停止規制を課すまでの必要性はないけど、せめて最徐行等のほとんど止まった状態で安全確認して欲しい場所」に使っていると考えられる。
まあ、「法定外だから一時停止しなくてよい」という考え方もどうかと思うし、事故を起こしたら無意味なので一般人が運転する上で法定外かどうかはさほど関係ない気もしますが、
道路交通法上の義務以上に法全体は注意義務を課しているのも明らかでして、だから過失(運転)致死傷罪なんかも道路交通法とは関係なく「過失(不注意)」と事故発生に因果関係があれば成立する仕組みなんですよね。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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