以前、外免切り替えについて「令和5年通達からホテル、民泊等OKになった」とする運転レベル向上委員会の解説はガセネタだと書きましたが、

警察庁は「ホテル、民泊等」の一時滞在について免許取得を認めない方針を固め、パブコメを実施しました。
読者様からの情報提供でようやく「ホテルや民泊等」の意味がみえてきました。
先にまとめ。
・通達改正の理由は、外国人登録法の廃止に伴う措置。
・平成24年改正以前は在留期間が90日以下の短期滞在者は外国人登録法の適用を受け、住所地が記載された外国人登録証を使って外免切り替えの申請ができたが、外国人登録法の廃止により短期滞在者に対する住所地証明が不可能になった。それを是正するためにホテルや民泊等の管理者による滞在証明で足りることにしたと思われる。
「ホテルや民泊等」の住所証明を求める理由

まず前提です。
道路交通法89条1項によると、「住所地を管轄する公安委員会に」免許取得のための申請をすることとしている。
第八十九条 免許を受けようとする者は、その者の住所地(仮免許を受けようとする者で現に第九十八条第二項の規定による届出をした自動車教習所において自動車の運転に関する教習を受けているものにあつては、その者の住所地又は当該自動車教習所の所在地)を管轄する公安委員会に、内閣府令で定める様式の免許申請書(次項の規定による質問票の交付を受けた者にあつては、当該免許申請書及び必要な事項を記載した当該質問票)を提出し、かつ、当該公安委員会の行う運転免許試験を受けなければならない。
ところが住所地がない短期滞在者については、「管轄する公安委員会」が存在しないことになる。
つまり住所地がない短期滞在者はそもそも免許取得の申請が不可能になっているように思える。
一方、道路交通法施行規則では住民基本台帳法の適用を受けない者(短期滞在者)について「旅券等」により申請が可能になっている。
第十七条 法第八十九条第一項の内閣府令で定める様式は、別記様式第十二のとおりとする。
2 前項の様式の免許申請書には、次に掲げる書類及び写真を添付(第三号、第五号又は第九号に掲げるものについては、提示)しなければならない。
三 免許申請者が住民基本台帳法の適用を受けない者である場合にあつては、旅券等
旅券等とは規則5条の4に規定されている。
そうすると法89条1項では住所地が必要、規則17条2項3号では住所地が不要(旅券等で足りる)という矛盾が起きる。
さてこれをどう考えるか。
平成24年施行規則改正以前は、このようになっていた。
| 平成24年以前の施行規則 | 平成24年改正後の施行規則 |
| 免許申請者が住民登録法の適用を受けない者である場合にあつては,外国人登録法(昭和二十七年法律第百二十五号)第五条第一項に規定する登録証明書,旅券,外務省の発行する身分証明書又は権限のある機関が発行する身分を証明する書類(以下「登録証明書等」という。) |
免許申請者が住民基本台帳法の適用を受けない者である場合にあつては、旅券等 ……… 旅券、外務省の発行する身分証明書又は権限のある機関が発行する身分を証明する書類(以下「旅券等」という。) |
差異は「外国人登録法による登録証明書」だけです。
外国人登録法による登録証明書には住所地が必要なので、これがあれば法89条1項に矛盾しないことになる。
在留期間が90日以下の短期滞在者は、外国人登録法の適用を受け(同法1条(目的)、2条(定義)1項参照。)、外国人登録の申請(同法3条(新規登録)1項)をして、「外国人登録法第5条1項に規定する登録証明書」(「氏名」、「国籍」、「在留資格」、「在留期間」等のほかに「居住地の地番」も記載されます(同法5条(登録事項証明書の交付)1項,4条1項)。)の交付を受けることができた。
しかし外国人登録法が廃止されたことにより、短期滞在者は住所地を登録する制度が存在しなくなり、その結果法89条1項でいう「住所地を管轄する公安委員会」が存在しないことになり(なにせ住所地がないので)、今までは可能だった短期滞在者の外免切り替え申請が不可能になった。
それを是正するために、「居所地に滞在していることを証明する書類(寄宿先の世帯主やホテルの支配人の証明等)を併せて添付させること」として、公的な住所地証明ではなく私的な書類であっても可能にしたということかと。
なにせ公的な住所地証明制度が廃止されたのだから、仕方ないわな。
では通達をみていきます。
○平成20年9月19日付け警察庁丙運発第34号
イ 添付書類等
(ア)住民票の写し等(規則第17条第2項第1号及び第2号)
申請者が住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)の適用を受ける者である場合にあっては、同法第12条第1項に規定する住民票の写し(同法第7条第5号に掲げる事項を記載したものに限る。)を添付させるものとし、同法の適用を受けない者である場合にあっては、次の書類のいずれかを提示させること。
a 外国人登録証明書(外国人登録法第5条第1項)
b 旅券(旅券法(昭和26年法律第267号)第2条第1号及び第2号。外国政府又は権限のある国際機関が発行した旅券又は旅券に代わる証明書を含む。)
c 外務省が発行する身分証明書
外務省が発行する身分証明書としては、次のものがある。
(a)外交官身分証明票
(b)領事官身分証明票
(c)身分証明票
(d)国際機関職員身分証明票
d 権限のある機関が発行する身分を証明する書類
権限のある機関が発行する身分を証明する書類としては、次のものがある。
(a)在留資格認定証明書(出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)第7条の2第1項)
(b)仮上陸許可書(同令第13条第2項)
(c)寄港地上陸の許可の証印がなされた旅券(同令第14条第3項)
(d)通過上陸の許可の証印がなされた旅券(同令第15条第4項)
(e)乗員上陸許可書(同令第16条第4項)
(f)緊急上陸許可書(同令第17条第3項)
(g)遭難による上陸許可書(同令第18条第4項)
(h)一時庇護許可書(同令第18条の2第3項)
(i)合衆国軍隊の構成員の身分証明書(地位協定第9条第3項(a))
(j)在外日本公館が発行する国籍証明書及び日本国渡航証明書(外務省設置法(平成11年法律第94号)第4条第11号)https://warp.ndl.go.jp/collections/content/info:ndljp/pid/3508161/www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20080919-01.pdf
○平成24年6月25日付け警察庁丙運発第38号


https://warp.ndl.go.jp/collections/content/info:ndljp/pid/8665744/www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20120625.pdf
現行通達と同じ内容になってますが、平成24年通達の改正趣旨は外国人登録制度の廃止に伴う措置だとする。
要は外国人登録法が廃止されたことから短期滞在者の住所証明に係る公的制度を失った(中長期滞在者は住民票が交付される新制度ができた)。
それを是正するためにホテルや民泊等の管理者による滞在証明であっても認めることにしただけなのかと。
今回の件は読者様調べです。
↓
「国会図書館 インターネット資料収集保存事業」(WARP)により警察庁交通局長「『外国免許関係事務取扱い要領』の改正について」をさかのぼって調査してみたところ,平成20年9月19日付け警察庁丙運発第34号の別添「外国免許関係事務取扱い要領」4頁の「イ 添付書類等」の「(ア)住民票の写し等(規則第17条第2項第1号及び第2号)」には,「申請者が住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)の適用を受ける者である場合にあっては,同法第12条第1項に規定する住民票の写し(同法第7条第5号に掲げる事項を記載したものに限る。)を添付させるものとし,同法の適用を受けない者である場合にあっては,次の書類のいずれかを提示させること。」とあり,「次の書類」として,道路交通法施行規則17条2項2号に掲げる書類が記載されています。これに対して,平成26年5月19日付け警察庁丙運発第26号の別添「外国免許関係事務取扱い要領」4頁及びその次の平成28年9月28日付け警察庁丙運発第21号の別添「外国免許関係事務取扱い要領」4頁には,「申請者が同法の適用を受けない者である場合にあっては,次の(ア)から(ウ)までのいずれかの書類を提示させるとともに,免許申請書上の住所に関し,居所地に滞在していることを証明する書類(寄宿先の世帯主やホテルの支配人の証明等)を併せて添付させること。」とあり,「次の(ア)から(ウ)までのいずれかの書類」として,道路交通法施行規則17条2項3号(平成25年11月13日内閣府令第72号による道路交通法施行規則の改正前は17条2項2号)に掲げる書類が記載されています。なお,平成26年5月19日付け警察庁丙運発第26号によれば,平成24年6月25日付け警察庁丙運発第38号があるということエスが,この平成24年の通知は見つかりませんでした。
平成20年9月19日付け警察庁丙運発第34号
https://warp.ndl.go.jp/collections/content/info:ndljp/pid/3508161/www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20080919-01.pdf平成26年5月19日付け警察庁丙運発第26号
https://warp.ndl.go.jp/collections/content/info:ndljp/pid/10311281/www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20140519.pdf平成28年9月28日付け警察庁丙運発第21号
https://warp.ndl.go.jp/collections/content/info:ndljp/pid/11063990/www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20161209.pdf
平成24年6月25日付け「『外国免許関係事務取扱い要領』の改正について」(同年7月9日から実施)が見つかりました。
https://warp.ndl.go.jp/collections/content/info:ndljp/pid/8665744/www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20120625.pdf同要領には,入管法等改正法(平成21年法律第79号,第77号)の施行(平成24年7月9日)により,外国人登録法が廃止され,中長期在留者及び特別永住者についても住民票が作成されることに伴い,同日付けで改正道路交通法施行規則が施行され,免許申請の際,外国人(注:改正住民基本台帳法の適用を受ける中長期在留者・特別永住者等に限ります。)に対して国籍等を記載した住民票の写しの提出を求めることとされること(改正道路交通法施行規則17条2項1号)から,免許申請書の記載要領,添付書類の種類等について改正を行うこととしたなどと記載されています。そして,平成20年10月1日から実施の同要領にはなかった「,免許申請書上の住所に関し,居所地に滞在していることを証明する書類(寄宿先の世帯主やホテルの支配人の証明等)を併せて添付させること」という記載が追加されています。
改正前の道路交通法施行規則17条2項2号には「免許申請者が住民登録法の適用を受けない者である場合にあつては,外国人登録法(昭和二十七年法律第百二十五号)第五条第一項に規定する登録証明書,旅券,外務省の発行する身分証明書又は権限のある機関が発行する身分を証明する書類(以下「登録証明書等」という。)」とありましたが,これが「免許申請者が住民基本台帳法 の適用を受けない者である場合にあつては,旅券等」と改正されました(なお,「旅券等」とは,「旅券,外務省の発行する身分証明書又は権限のある機関が発行する身分を証明する書類」です(当時の9条の16(申請の手続)第2号)。)。
在留期間が90日以下の短期滞在者は,外国人登録法の適用を受け(同法1条(目的),2条(定義)1項ご参照。),外国人登録の申請(同法3条(新規登録)1項)をして,「外国人登録法第5条1項に規定する登録証明書」(「氏名」,「国籍」,「在留資格」,「在留期間」等のほかに「居住地の地番」も記載されます(同法5条(登録事項証明書の交付)1項,4条1項)。)の交付を受けることができましたが,平成24年7月9日以後は,同登録証明書の交付を受けることができず,改正住民基本台帳による外国人住民に係る住民票写しの交付を受けることができない(同法30条の45(外国人住民に係る住民票の記載事項の特例),39条(適用除外))ことになりました。
平成24年7月9日から実施の同要領における上記の記載の追加は,このことに起因するであろうと推測されます。
ただし若干疑問があるとしたら、平成20年通達では外国人登録証明書や旅券等の「いずれか」としており、外国人登録証明書がない旅券のみの短期滞在者は法89条1項に基づいて申請拒絶していたのか、単に添付書類として求めてないだけで窓口レベルでチェックしていたのかはわかりません。
というのも、平成24年改正にまつわるパブコメ。
新たな在留管理制度の対象外となる「3月以下の在留期間が決定された者」、「短期滞在の在留資格が決定された者」等については住民票が作成されないことから、許可申請等の添付書類である住民票の写しが提出できず、申請ができなくなるのではないか。
といった御意見がありました。3点目について、「3月以下の在留期間が決定された者」、「短期滞在の在留資格が決定された者」等の住民票の写しが取得できない方が許可申請等を行うことは基本的に想定していません。
基本的に想定してないといいつつも、平成24年通達では「ホテルや民泊等」を追加しているし、そもそも平成24年以前もホテルや民泊等を住所地として外国人登録証明を受けることはできたのではないか?という疑問。
基本的に想定してなくても、それを妨げる法律がなければ申請自体は可能なのでして…
疑問が残るのはこの部分ですかね。
パブコメが意図すること
警察庁は「ホテル、民泊等」の一時滞在について免許取得を認めない方針を固め、パブコメを実施しました。
改正条文の新旧対比もないのですが、要は条文改正ではなく実務上の取り扱いの変更と思われる。
平成24年以降、住所地については私的な証明で足りるとしてきたところ、そこに制約をかけることにしたのかと。
今回のパブコメでは例外的な場合を除き、住民票の写しを求めるとしており、

住民登録できない短期滞在者は必然的に申請不可能になります。
現行法において法89条1項により「住所地がないと管轄の公安委員会がない(申請先がない)」ことになる一方、規則17条では「住民基本台帳法の適用を受けない人は旅券等」としているので法と規則が矛盾しているようにも感じてしまうのですが…どこを改正するのかは疑問。
陰謀論の危険性
結局のところ、運転レベル向上委員会が主張する「令和5年からホテルや民泊等が認められた」とか「某政党の働きかけ」という話はデマでしたが、
運転レベル向上委員会より引用
今回の件、平成24年通達には改正理由が明記されており、これを検討すると外国人登録法の廃止に伴う措置なんだと理解できる。
陰謀論の正体は事実を軽視して推測と妄想に走る点にありますが、証拠や根拠をひたすら揃えて事実確認をすることがいかに大事なのか痛感させられた。
少なくとも無関係な人のせいにするようなことは慎むべきである。
ただしこの件を見渡したときに、疑問が残るのは「平成24年以前の短期滞在者の申請」と「平成24年通達の文言追加の意図」。
これについては引き続き調べてみます。
けど、世の中にはきちんと情報を揃えて検討せず、安易に陰謀論を語る人が絶えないのでして、


陰謀論の本質は無知と事実確認不足、妄想なのよね…
どちらも法を理解して事実確認していれば起こり得ない陰謀論ですが、法を理解しないまま事実確認を怠れば妄想しまくる結果に陥ってしまう。
自らへの戒めとして、警察庁通達の変遷と理由を記しておきます。
これらからすると結局、かなり昔からホテルや民泊等の住所を使って外免切り替えすることは可能だったと考えられますが(外国人登録法による登録証明は、ホテル等の住所地でもできた?)、
わりと疑問なのは、ジュネーブ条約加盟国で免許取得している人は、国際免許を取得すれば短期滞在者だろうと日本で運転することはできる。
しかしジュネーブ条約加盟国だから同じルールというわけではない。
本質的には問題にすべき論点が違う気もする。
「誰が黒幕か?」なんてしょーもない発想をするから、黒幕を定めてから黒幕である理由を探そうとするわけでしょ。
「なぜ通達を改正したか?」を考えれば、その理由を探そうとするわけ。
この差は意外と大きい。
陰謀論者の思考回路は理解し難いですが、最初から「黒幕はこの人」という結論ありきだから、その前提を立証する目的のみに情報を取捨選択しちゃうのよね。
ちなみにここまで事実確認をしても、まだわからない部分は残ります。
引き続き調べてみますが…
しかし、デマってこうやって創作されるんだなと実感する。
試験難易度も平成初期から変わってないし、「ホテル、民泊等」についても某政党の働きかけではないんだと理解できますが、火のないところに煙を立たせることはできるのよね…
そこまでして政治的な優劣をつけたがる人の心理は全くわからないし、情報発信者として完全アウトと言わざるを得ない。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。







コメント
陰謀論は、
・結論ありきの妄想
で、
・対立を煽る目的(対立がないところに、対立を作る)
なので、まともなものとは思えません。
しかも、最近は、以前に比べて巧妙さが減ってきて、
こんな雑なのに誰が引っ掛かるの?と思ってたら、
以前より引っ掛かる人も増えて。
単に接する人の母数が増えただけなのか、誇大なウソのほうが信じる人が多いのか、謎です。
コメントありがとうございます。
他人が言ったことの裏取りもせずに信じる心理は全く理解できません。
ほんと、裏取りをしない人が多いですね。
昔のように、図書館に行かないと、全てのことに関して裏取りができない、
なんてことは無くて、
精度70%程度でも、ネットである程度は裏取りできるのに。
まぁ、そんな人は、
「裏取りしました」と言って、元の言説と同類のものを拾ってくる可能性が高いですけど。
コメントありがとうございます。
要はこれ、「この人が黒幕」という前提を立てて、その前提を立証するために根拠を探すから間違えるんだと思います。
通常であれば旧通達との差異を探さないといけないのに、「黒幕はこの人」だと立証することが目的化しているので、差異の確認すら怠るだけなんです。