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マイカー通勤、マイ自転車通勤と使用者責任の話。

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ちょっと興味深い記事がありまして、従業員がマイカー通勤の帰宅中に起こした事故について、会社の使用者責任を認めた前橋地裁高崎支部 平成28年6月1日判決を紹介している。

社員が起こしたマイカー事故で相手が会社に損害賠償を請求!?裁判所が194万円の支払い判決を下した理由|@DIME アットダイム
こんにちは。弁護士の林 孝匡です。宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。「仕事が終わったあとマイカーで帰宅途中に、社員が事故を起こした」この事故、会社に責任が発生することが...

この判例は民法715条による賠償責任を認めたものですが、

(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

通勤中の事故が「その事業の執行について第三者に加えた損害」と言えるのか?が問題になる。
最高裁の判断はこちら。

民法七一五条に規定する「事業ノ執行ニ付キ」というのは、必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのでなく、広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合で足りるものと解すべき

最高裁判所第三小法廷 昭和39年2月4日

ただし勘違いしやすいのは、マイカー通勤中の事故については「原則としては」使用者責任が否定されるのが通説。
例外的事情としてマイカー通勤が業務と密接関係があるか、使用者がマイカー通勤を容認(黙認も含む)していたかなどがあれば使用者責任が認められるとする。

 

現に最高裁 昭和52年9月22日は、出張にマイカーを使って起こした事故について使用者責任を否定する。
理由は

①事故当事者が工事現場への往復に従業員所有の自家用車を利用することを原則として禁止していることを熟知していた
②自家用車を業務で使用したことがない
③鉄道を利用することが可能だったこと

などを挙げ使用者責任を否定(原審 広島高裁松江支部 昭和51年6月30日)。

右事実関係のもとで、被上告人がDに対し同人の本件出張につき自家用車の利用を許容していたことを認めるべき事情のない本件においては、同人らが米子市に向うために自家用車を運転したことをもつて、行為の外形から客観的にみても、被上告人の業務の執行にあたるということはできず、したがつて、右出張からの帰途に惹起された本件事故当時における同人の運転行為もまた被上告人の業務の執行にあたらない旨の原審の判断は、正当というべき

最高裁判所第一小法廷 昭和52年9月22日

ところで、前橋地裁高崎支部 平成28年6月1日判決は山間部にある工場への通勤のためにマイカーを使わざるを得ない(他に代替手段がない)ことが決め手になってますが、

 

わりと不思議なのは、このような事情の下では会社がマイカー通勤する人の任意保険をチェックしたり指導するべきなのでして。
事故を起こした人が任意保険未加入だったことから会社を提訴したほうが回収できると踏んで提訴したと考えられますが、

 

山間部の工場という時点で使用者責任が認められる可能性が高い以上、マイカー通勤者の保険をチェック指導するか、マイカー通勤を禁じる代わりに無料送迎バスを運行するなど講じる必要がある。

 

民事は被害者保護のために様々な請求方法を認めており、自賠法でいう運行供用者責任もそうだし、使用者責任もそう。
とはいえ、任意保険に加入していたならこんなややこしい話にはならないし、残念ながら事故を起こした従業員は会社から白い目で見られるのがオチ。
けどこの状況では会社が任意保険加入をチェック指導すべき立場としか言いようがないのよね。

 

ちなみにですが、このような事情からマイカー通勤も自転車通勤も認めない会社はわりとある。
「認めてないのに従業員が勝手に事故を起こしたんです!」だと使用者責任が否定される可能性が高いのだから、当然とも言える。

 

一方、自転車通勤を容認する会社の場合、使用者責任に備えて自転車保険加入必須にするケースは多い。
絶対に事故を起こさないなんてあり得ないのだから、自らが起こした事故について社会的責任を果たすためにも保険加入は必要なのよね。

次に、被告Y1が加害車を運転していた行為が被告会社の「事業の執行につき」なされたものであるか否かを検討するに、被告Y1が被告会社の従業員であること、被告会社が被告Y1に対し月額5000円の通勤手当を支給していたこと、本件事故が被告Y1の通勤途上の事故であること、以上は当事者間に争いがない。

ところで、通勤は、業務そのものではないが、業務に従事するための前提となる準備行為であるから、業務に密接に関連するものということができる。労働者が通勤時に災害に遭った場合に労務災害とされることがあるのもそのような観点によるものである。

したがって、使用者としては、従業員の通勤状況(通勤の経路や手段等)を把握しておくべきことはもちろん、進んで、従業員の通勤について一定の指導・監督を加えることが必要とされるものというべきである。確かに、通勤については、本来の業務に従事している場合とは異なり、使用者が従業員に対し直接的な支配を及ぼすことが時間的にも場所的にも困難であることは否定できない。しかしながら、通勤手段がせいぜい公共交通機関を利用することによるものであった時代から急速に様変わりして、自家用車による通勤が急増してきている近時にあっては、交通戦争と称される程までに交通事故が多発している社会状況にあることと相俟って、労働者が通勤時に交通事故に巻き込まれ、或いは自ら交通事故を惹起する危険性が高まっているものといわなければならないから、使用者としては、このようなマイカー通勤者に対して、普段から安全運転に努めるよう指導・教育するとともに、万一交通事故を起こしたときに備えて十分な保険契約を締結しているか否かを点検指導するなど、特別な留意をすることが必要である。そして、マイカー通勤者に対して右の程度の指導監督をすべきことを使用者に求めても、決して過大な或いは困難な要求をするものとはいえない。

そうであれば、いまや通勤を本来の業務と区別する実質的な意義は乏しく、むしろ原則として業務の一部を構成するものと捉えるべきが相当である。したがって、マイカー通勤者が通勤途上に交通事故を惹起し、他人に損害を生ぜしめた場合(不法行為)においても、右は「事業の執行につき」なされたものであるとして、使用者は原則として使用者責任を負うものというべきである。

(三) そこで、この点を本件について見るに、本件事故は被告Y1の通勤途上の事故であり、まさに通勤のための自動車運転行為そのものから派生したものである。しかも、被告会社は、被告Y1がマイカー通勤することを前提として同被告に月額5000円の通勤手当を支給していたことからしても、被告会社は被告Y1のマイカー通勤を積極的に容認していたことが認められるのであるから、被告会社は本件事故の結果につき使用者責任を負うものというべきである。

福岡地裁飯塚支部 平成10年8月5日

結局、マイカー通勤を容認するなら十分な保険に加入しているかをチェック指導するべきとしか言えないし、保険が十分ならわざわざ使用者責任を追及する必要もなく、被害者には速やかに賠償される。
社会的な責任を果たすためには賠償保険は必要なのよ。

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