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「アルコールの影響で正常な運転が困難」と「アルコールの影響で正常な運転が困難になるおそれがある状態」。

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自動車運転処罰法には危険運転致死傷のほか、準危険運転致死傷(3条)がありますが

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態、自動車を運転し、よってそのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は十五年以下の拘禁刑に処する。

前者が酩酊運転(いわゆる酒酔い)、後者が酒気帯び運転と勘違いした解説を見かけるので正しく解説しておこうと思う。

 

この2つの規定には以下の違いがある。

2条1号(危険運転) 3条(準危険運転)
故意要件

アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態

アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態

よって(結果)

そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り

実はこの規定、どちらも「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」であったことが必要になる。
2条でいう「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」を「酩酊運転」と解した場合、3条は「よってそのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り」なのだから酩酊状態に陥ったことが必要になってしまう。

要はこれ、両者を分けるのは認識の差でしかない。
2条(危険運転致死傷)はアルコールの影響で正常な運転が困難なことを未必的にせよ認識が必要で、3条(準危険運転致死傷)はアルコールの影響で正常な運転が困難になる「おそれがある状態」を認識していたかの話。
前者の立証として酩酊状態だったなら立証しやすくはなるだろうけど、酩酊状態ではなくても2条1号は成立しうるし、現にそれを認めた判例もある(さいたま地裁 平成28年9月6日判決)。

 

ところでもっと不思議なのは、(準)危険運転致死傷罪にアルコール発覚免脱が適用されると読み取る人がいること。

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)
第四条 アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の拘禁刑に処する。

条文のタイトルが「過失運転致死傷」とあり、条文が「運転上必要な注意を怠り」とあるように、この規定は過失運転致死傷罪の加重規定。
危険運転致死傷罪には加重されない。

 

そもそも、道路交通法と自動車運転処罰法は必ずしも連動した概念ではなく、道路交通法でいう酒酔い運転→危険運転致死傷罪、酒気帯び運転→準危険運転致死傷罪という概念にはなっていない。

 

論文から引用する。

危険運転致死傷罪は、基本犯、具体的には特定の道路交通法違反の罪の刑を、重い結果を生じさせたことを根拠にヨリ重くするために設けられた規定ではない。そうではなくて、当時「交通関係業過」として対処されていた自動車運転行為による死傷事犯の中には、刑の上限が懲役 5年の業務上過失致死傷罪を適用するだけでは適正な科刑を実現できないような悪質な運転行為の事案があり、それらをヨリ重く罰しようとして作られたものである5)。ベースは業過、加重根拠は行為態様の危険性・悪質性である。

(中略)

さて、すでに見たように、危険運転致死傷罪は、自動車運転行為による死傷事犯のうち、死傷結果についての故意がないからといって(業務上)過失致死傷罪に落とすのは忍びない事案を拾い上げることを目的とするわけだが、その目的は、導入当初の規定(刑法 208 条の 2)によっては、必ずしも十分果たされなかった。周知のとおり、前記平成 19 年改正は、自動二輪車による業務上過失致死傷事犯の危険性・悪質性もまた目に余るものがあったことから、危険運転致死傷罪の対象を「自動車」一般に広げる修正を施した。
それでもなお、危険運転致死傷罪の適用上、被害者の立場から考えれば、かなり取り零しがあると目された。とくに飲酒等影響類型の事案で、客観的には「正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」により人を死傷させたのに、運転者に「正常な運転が困難な状態」である事実の認識がなく、自動車運転過失致死傷罪といわゆる酒酔い運転罪(道路交通法117 条の 2 第 1 号)の併合罪とするしかない場合については、結局単なる過失犯として取り扱われることに対し、幾ら何でも軽すぎるという批判が向けられた 11)。
この問題は、本罪の故意・責任能力、とりわけ飲酒等影響類型のそれが、行為態様が本来的に異常な心身の状況を前提として作られているため、今一つ明確に詰め切れていない面があることにも起因するが、少なくとも、現に「正常な運転が困難な状態」に陥った時点で真実前後不覚に酔いつぶれていたら、その「どうしようもない」行為を罰することは困難である。遡って、かかる状態に陥ることを予見して運転を開始・継続した行為を罰することは可能だが、故意と認めるべき現実的予見の立証もまた難しさを伴いうる。
同様の悩みが、アルコール・薬物以外の影響、具体的にはてんかん等の病気の影響により「正常な運転が困難な状態」に陥った場合についても当てはまる。もちろん、飲酒等影響類型の影響因子は限定列挙であり、そもそも、自ら摂取するアルコール・薬物と、自ら罹患するわけではない病気を、同列に論ずることは不適切である。だが、やはりかかる状態に陥ることを予見して運転を開始・継続した行為に対しては強い当罰感覚が向けられてしかるべきであり、他方でここでも故意と認めるべき現実的予見は存在しがたい。
そこで生まれたのが、いわゆる準危険運転致死傷罪の新設という発想である 12)。外形的には危険運転致死傷の事実が存在するのに、危険運転致死傷罪により捉えることのできなかった事案を、既存の過失犯に落ちてしまう前にもう一回掬う。そのための、いうなれば二層目の網として、「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の認識を要件とする罪が作り出された。要するに、過失的に「正常な運転が困難な状態」に陥った場合のうち、事前にそのおそれを認識し、しかし「大丈夫」と高を括った場合である 13)。

「危険運転致死傷罪およびいわゆる準危険運転致死傷罪について」

古川伸彦(名古屋大学教授)

https://nagoya.repo.nii.ac.jp/record/24777/files/02_Nobuhiko-FURUKAWA.pdf

法2条1号は「アルコールの影響で正常な運転が困難なことの認識」が必要なところ、アルコールの影響で正常な運転が困難だという認識がなく運転を開始し、結果としてアルコールの影響で居眠りに陥った場合には成立しないことになる。
しかしそれを通常の過失犯として処罰することが適切なのかという問題になるわけで、「アルコールの影響で正常な運転が困難になるおそれがある認識」→「正常な運転が困難になった」という態様を適切に処罰する目的で創設されたのが準危険運転致死傷罪。

 

ところが、アルコールの影響で正常な運転が困難になるおそれがあるという認識もなく、アルコールの影響とは言いがたいけど不注意で事故を起こしたならば、準危険運転致死傷罪も成立しないので過失運転致死傷罪として処罰されることになる。
しかしそのような場合でも飲酒運転との併合や、飲酒運転の発覚を逃れようとする者がいて、それは悪質だから過失犯の加重規定として発覚免脱罪を置いているわけ。

 

ところで、危険運転致死傷罪に発覚免脱加重がない理由を考えると、そもそも危険運転致死傷罪にしても準危険運転致死傷罪にしても、その立証に飲酒運転の事実が必要なのだから、あえて発覚免脱加重罪を設けるまでもないんじゃなかろうか。
「アルコールの影響で正常な運転が困難(なおそれ)であることの認識」が立証しなければならないポイントなのだから、発覚免脱もなにもない気がする。

 

危険運転致死傷罪の解釈は正直難しいんだけど、一般人ができることは実は簡単です。
酒を飲まずに、必要な注意を怠ることなく運転すれば、危険運転致死傷はおろか過失運転致死傷も成立しない。

 

こんなシンプルな話でしかないのよね。
裁くにあたり厳格に解釈することは当然ですが、危険運転致死傷、準危険運転致死傷罪は故意犯なのだから、そのような状態で運転しなければ済む話。

 

そしてどこかの人にしても、解説するなら少しは勉強したらどうなのか?と思ってしまう。

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