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相手が信号無視の場合に、自賠法による無過失の証明ができるか?

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読者様から質問を頂いていたのですが、こちら。

100:0で解決したようですが、仮に信号無視車側が怪我をしたときに、撮影車側が自賠法3条でいう「無過失の証明」をできるか?という話。

 

「100:0で解決した」という点からしても自賠法3条でいう無過失にあたると考えられますが、

 

読者様の質問は「撮影車は徐行低速なんだから、右方を注視していれば回避できたのではないか?その意味で無過失とは言えないのではないか?」。

 

これって事故を結果論で捉える人(起きた結果から逆算して考える人)が陥りやすい罠なんだけど、このような信号交差点で撮影車が左折しようとする際の注意義務ってなんですか?という話なのよ。

 

大要素は「後続2輪車の巻き込み防止のために左後方を注視する」、「左折先横断歩道を横断し、又は横断しようとする歩行者や自転車の有無を確認(つまり左前方と左後方の確認義務)」ですよね。
右方道路を確認する義務がないわけではない
右方道路は赤信号なのだから、右方から進入する車両や歩行者が信号を遵守することを信頼してよく、チラ見程度の確認義務はあるものの、それ以上に右方道路を注視するなんて不可能なのよ。

 

だってさ、左後方と左前方を注視しながら右方道路を注視するなんて人間には不可能なのでして。
そうすると「後続2輪車」と「左折先横断歩道の通行者」という「青信号で通行しようとする合法通行者」を注視すべきなのは当たり前で、「右方道路から信号無視して進入しようとする違法通行者」に対する注意よりも優先すべき注視対象になるのは当然なのよね。

 

なのでこの場合、右方道路を注視する義務はなく、仮に右方道路を注視していたら避け得たとしても、注視してなかったことを不注意とは評価できない。
なので少なくともこの動画については、自賠法3条でいう無過失の証明になるかと。

 

例えばなんだけど、この信号無視車の前に何台も信号無視して通過する様子が映っていたとかなら、右方道路を注視する義務があると解釈する余地はあるでしょう。
何台も信号無視車がいたら警戒するのは当たり前ですが、そういう状況でもない。

 

交差点安全進行義務(36条4項)にしてもなぜか読み間違える人が多い。

(交差点における他の車両等との関係等)
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

前段に「交差道路を通行する車両等に特に注意」とありますが、この規定は信号交差点だろうと、相手が信号無視だろうと適用されます。

◯前段

車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意しなければならない。

◯後段

車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

「交差点の状況に応じ」とありますが、相手が赤信号であれば「特別な事情がない限り」信号無視する車両を予見する義務はない(最高裁判所第三小法廷 昭和43年12月24日)。
交差点安全進行義務もその前提での話なので、チラ見程度で信号無視車両との衝突を回避できる関係にあったなら別ですが、この動画からはそのような事情もない。

同法36条4項の規定は、同項で規定している「特に注意」しなければならない対象とされている車両等と横断歩行者とに対する関係でのみ「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」ことを定めているに過ぎないと解釈すべきものではなく、以上の車両等や横断歩行者以外の交通関与者すなわち先行右折車や本件での被害車のような先行直進車に対する関係においても、交差点に入ろうとする車両は「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」ということを規定していると解すべきものである。けだし、同法36条4項は、昭和46年法律第98号道路交通法の一部を改正する法律により新設されたものであるが、同項の文言、同項制定の経緯(交差点及びその付近における交通事故が年々増え一向に減少の傾向を示していなかつたという当時の社会的情勢を背景とし同法70条から独立させる形で制定されたという経緯)、道路交通法における関連諸規定との関係をも加えて考察すると、同項は、交通上特に危険性の高い場所である交差点(その付近を含む。)における事故防止という見地、目的から、交差点を通行する車両等に対し、一般道路とは異なる特別の注意義務を規定したものであつて、同項は、交通整理の有無、優先道路か否か、道路の幅員の広狭、直進、右折、左折等の如何にかかわらず、(該行為が道路交通法上具体的義務を規定した各条に該当しその適用により右行為の可罰性が評価し尽くされる場合を除き)交差点における車両等のすべてに適用されるものと解され、この意味で、同項は交差点における車両等の一般的注意義務を規定したものということができ、かかる趣旨に照らすと、同項は、交差点における事故防止という見地から、右車両等の運転者に対し、同項に定めるすべての義務の遵守を要求していると解するのが相当であつて、その一つに違反するときは、同項違反の罪(故意犯に限る。)が成立するのであり、また、同項後段は、一見甚だ抽象的ではあるけれども、前説示の同項制定の経緯、目的などに照らすと、広く車両又は歩行者の通行状況などを含む当該交差点のさまざまな状況に応じて、できる限り車両又は歩行者との事故に結び付くおそれのない速度と方法により進行することを義務づけたものと解するのが相当であり、同項前段がその対象を限定しているからといつて、交差点のさまざまな状況に対応して具体化する同項後段の義務が同項前段で規定する対象との関係でのみ課せられていると結論することは狭きに失し相当でない。補足すると、同項前段は、交差点におけるさまざまな状況のうち、運転者に(その進路前方に出てくる可能性が強いため)特に注意を要求する必要がある(すなわち、事故に結び付き易い)という見地から対象を限定したものであるところ、本件交差点のように信号機による交通整理(横断歩行者もこれに従わなければならないことはいうまでもない。)が行われている交差点で、かつ、南北道路が北方から南方へ向けての一方通行道路であるときには、同交差点を西方から東方に向け右信号機の青信号に従いつつ直進通過する(又は、しようとする)車両の運転者が同法36条4項の「特に注意」しなければならない対象は(信号無視の歩行者及び車両並びに一方通行規制違反の対向右折車を除く限り。なお、かかる交通法規違反者ないし違反車両に対しても法が「特に注意」しなければならないと命じているとは到底考えられない。)全くないことになるし、一方、本件交差点を含むすべての交差点において、先行右折車が交差点出口の横断歩行者や対向直進車をやり過ごすべく交差点内で一時停止を余儀なくされているため右の先行右折車やこれに続く先行右折車又は先行直進車が交差点内で立往生しているという光景は日常随所に見受けられる現象で、かかる車両の安全を確保するためにも、これらの車両に対する関係で「できる限り安全な速度と方法で」、後続右折車や後続直進車が(交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ)進行しなければならないとするのでなければ同法36条4項の規定の新設の趣旨が没却されてしまうことになる道理である。したがつて同項は、前段で

A 車両等は交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意しなければならない(この場合には、これらの車両等及び横断歩行者に対する関係で、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないことになるのは理の当然で、あえて明文を設けるまでもない。)という規定を掲げ、後段で、

B 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ(すべての交通関与者に対する関係で)、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないという規定を掲げ、

以上の2個の規定を一個の文章で設定しているものと解するのが相当であり、被告人の原判示第2の所為は、この後者の規定の違反となるような行為に当たるというべきである。補足すると、被告人が被告人車の進路前方(本件交差点内における)被害車を認めながらその動静に注意を払わずこれを同交差点内で進行中の車両であると即断し、その後もその動静確認をすることなく約50キロメートル毎時の速さで交差点に進入しようとしたのであるから、この行為すなわち同項(後段)違反の基礎となる行為については、その故意に欠けるところはない。次に、道路交通法36条4項と同法70条との関係についてみると、右70条が道路を通行する車両等の一般的注意義務についての規定であるのに対し、同項は交通上危険性の高い場所である交差点を通行するに際しての車両等の特別の注意義務を規定したものであるから、両者はいわゆる法条競合の関係にあり、同項違反の罪が成立するときは、同時に70条違反の罪の構成要件に該当していても、同罪の成立はないものと解するのが相当であつて、このことは所論が指摘するとおりである。

 

名古屋高裁 昭和59年10月31日

信号無視の歩行者及び車両並びに一方通行規制違反の対向右折車を除く限り。なお、かかる交通法規違反者ないし違反車両に対しても法が「特に注意」しなければならないと命じているとは到底考えられない、としてますが、そりゃそうだよなと。

 

ところで最近、自賠法3条の「無過失の証明」を勘違いした解説動画をみかけますが、「民事100:0と自賠責保険の無過失証明は別」みたいな意味不明な話をみかける。
ほぼ何を言ってるかわからないけど、正しくは「人損と物損は根拠法が違うため、物損無過失でも人損が有責になることはありうる」。
極論すれば物損が「0:100」で過失無しになっても、人損は「100:0」になることがあるという話なのよね(どちらも民事なのは言うまでもない)。

 

なお、自賠責保険の適用可否については、撮影車が無過失の証明をする必要はない。
ドラレコ映像と警察の実況見分調書から、機構が判断するだけのこと。

 

ところで、事故を結果から逆算して考えるのは間違いの原因になる。
右方道路を注視していたら避け得たとしても、右方道路を注視して後続2輪車を巻き込んだなら本末転倒なのよ。
何に対する注視が優先するかの問題で、左後方と右方を同時に注視するなんて人間には不可能。
けど事故を結果から逆算して考える人は、不可能を強いていることに気づかなくなる。

 

交差点安全進行義務にしても「相手が信号無視の場合は除外とは書いてありません」などととんちんかんなことを語る人もいるけど、そりゃ相手が信号無視なら一律除外にする規定じゃない。
信号無視する車両があることを予見する注意義務がない前提で、目に見える範囲で衝突を回避するように努める規定なのだから。

コメント

  1. 元MTB乗り より:

    この事故のように赤信号なら信頼してもいいとは思うけど、路外から右折なり、左折なりするのに大して右方向を確認せずに進入してくるのは止めて欲しいですね。何回急ブレーキかけたかわからん。

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      それはきちんと確認しないとだめです。。。

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