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右折車の確認義務と、その方法。

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こちらで解説した件についてご意見を頂きました。

甲府市で「著しい高速度の直進車」と「右折車」が衝突する事故。
こういうのを見るといろいろ思うことがありますが、これを刑事責任という観点で考えてみようと思う。過失運転致傷罪過失運転致傷罪は自動車運転処罰法5条にある。(過失運転致死傷)第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年...

読者様
読者様
確かに言われてみると、運転レベル向上委員会の計算では直進車は過失運転致傷罪が成立せず、右折車のみが過失運転致傷罪に問われることになりますね。なぜ運転レベル向上委員会が「直進車のみが刑事責任を負う」と解説するのか不思議です。

今回気になったのは行政処分のほうです。
右折車のみが過失運転致傷罪に問われる場合でも、行政処分の点数は直進車のほうが高いことになるのは盲点でした。

死亡事故なら付加点数が上がるため逆転しますが、今回の報道内容からみて、直進車に刑事/行政処分上の「速度超過と事故発生に因果関係がない」と判断された場合でも直進車のほうが点数が高くなる。

 

◯直進車の違反と事故発生に因果関係がない場合

直進車 右折車
速度超過(50キロ以上) 12
交差点安全進行 2
付加点数(30日以上3ヶ月未満、専ら) 9
12 11

それだけ速度超過が重大な違反だと考えている証拠なのよね。

 

ところで、運転レベル向上委員会の試算結果をベースにした場合、事故の刑事責任は右折車のみになると考えられますが、

右折車は直進車の進行妨害をしてはならず(道路交通法37条)、制限速度から20キロ程度超過した車両があることを予見して注意する義務がある(信頼の原則)。

 

右折車が右折開始時点で50m程度の距離だったならば、信頼の原則でいう「+20キロ」を考慮して直進車の速度を時速80キロとすると、直進車は2.25秒で到達する。

当然、安全に右折を完了できる距離ではない。
直進車が「明らかに遅いこと」を認識していたならこの距離で右折しても違反にはならないけど、直進車の速度が不明であれば右折を差し控える距離といえる。

 

では120mだったならば?

直進車が時速80キロだったとすると、5.4秒で到達する。
普通ならこの距離を確認しておけば安全に右折を完了できる距離と言えるかと。

 

とはいえ今回の事故の問題点は、対向右折車により死角ができる点。

死角があるなら右折車の注意義務は加重される。
死角を消除しながら対向直進車と十分な距離があることを確認してから右折開始する義務があり、広島高裁/高松地裁のように「一時停止と微発進を繰り返しながら死角を消除する注意義務があった」と判断される可能性もある。

 

高松地裁の事例は路外への右折ですが、

交差点右折にしても注意義務は同じなのでして。

大型貨物自動車の左側には2輪車等の通行可能な余地があって、この通行余地の見通しが困難であったから、一時停止及び微発進を繰り返すなどして通行余地を直進してくる車両の有無及びその安全を確認して右折進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、(中略)漠然時速約10キロで右折進行した過失

 

高松地裁 令和3年2月22日

で。
世論として「著しい速度超過が悪いヨ」となる気持ちもわかるんだけど、少なくとも運転レベル向上委員会の試算結果によれば、直進車は過失運転致傷罪が成立せず、右折車は過失運転致傷罪が成立する。
しかし直進車に過失運転致傷罪が成立しなくても法定最高速度遵守義務違反罪(道路交通法違反)を適用すれば済むし、行政処分上の点数は直進車のほうが高くなることすらありうる。

 

「50キロ以上の速度超過」と「加療3月未満の人身事故」はほぼ同等の点数になるとも言えるけど、「事故の原因」と「違反の成立」は必ずしも一致するわけではないし、行政処分上はむしろ著しい速度超過のほうが悪だと捉えているわけ。
民事過失割合/行政処分の点数計算/刑事責任はそれぞれ別個の問題になりますが、

 

あそこの人はあまりにも法律を知らなすぎるのもどうかと思う。
そういうところをみても、先に誰を叩くか決めているようにしか見えないのよね。

 

なにせ、分析内容と結論が真逆になっているのだから。

 

で。
「一時停止と微発進を繰り返しながら死角を消除する注意義務」が認定された判例は過去いくつか挙げてますが、

歩道を通行する自転車と、路外に出るために左折するクルマ。
このような事故は悲しいところですが、県道を走っていた車がこちらの駐車場に入ろうと左折したところ走ってきた自転車と衝突したということです要は歩道通行自転車と、路外に出るために左折したクルマが歩道上で衝突した事故になります。一時停止歩道を横切る...

教習所で多段階停止を教えるのは、こういう判例の積み上げなんだと考えられる。
死角をいかに消除しながら安全確認するかがポイントになるので、その意味では「一時停止と微発進を繰り返しながら死角を消除すべき注意義務違反」が認定された判例を探してみると面白いかも。

 

なお以前取り上げた政府がまとめた判例集によると、以下が参考になる。

 

・Y-27 神戸地判平成15年2月21日(停止車両の前面の見通しのきく位置で一時停止するか,又は最徐行しながら小刻み発進するなどして,対向直進車両の有無及び進路の安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠った)
・Y-28 京都地判平成24年4月18日(裁判所は、対向車線の第2通行帯に停車している渋滞車両のため,見通し可能地点より手前から第1通行帯を十分に見通すことはできないと認められるのであるから,被告人が見通し可能地点において一時停止等をしていないことは,第1通行帯を進行する車両の有無を確認しなかったことを示すというべきであり,注意義務を怠ったものと認められるとして、過失を肯定)

https://www.road-to-the-l4.go.jp/activity/courtcases/pdf/courtcases02.pdf

https://www.road-to-the-l4.go.jp/activity/courtcases/pdf/courtcases01.pdf

しかし、制限速度内で回避可能性がないという試算結果を出しながら、過失運転致傷罪が成立するという結論に導くのは、法律を理解してないと言わざるを得ない。
過失運転致傷罪の要件は「予見可能性と回避可能性」であり、道路交通法違反があれば成立するわけではない。
道路交通法違反は別に裁けば済む話。
けどあそこの人は「道路交通法違反があれば過失がある」なので、こういう事案は説明できなくなるのよね。

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