読者様から質問を頂きました。
先日、インスタを見ていて、渋滞にハマっている白バイが、その左側からすり抜けて行った原付バイク(自動二輪車?)に対して、すぐサイレンを鳴らして「おい!すり抜けするな!」と追いかけて行った動画がありました。
そのコメント欄を見ると、すり抜けは18条1項の違反だとする内容と、車両制限令では路肩通行は二輪車は禁止されていないので、特に問題ないとするコメントがありました。
執務資料では、車両通行帯の無い道路では左側端が軽車両、その軽車両が通行する部分を除いた左側部分の左寄りを自動車(自動二輪車)が通行するとする「観念上の通行帯」のようなものが存在するとあります。
自動二輪車の左側すり抜けが違法かどうかは散々擦られた内容ではありますが、世間一般では全く決着が付いていない問題だと感じました。警察の見解も(人によって?)分かれているようです。自分的には、執務資料のとおり、走行が危険な路肩部分を除いた左側端部分を軽車両が通行し、その軽車両が通行する部分を除いた左側部分を自動車(自動二輪車)が通行するものだと認識しており、罰則の有無にかかわらず「違反である」と考えています。
車両制限令9条については、「自動二輪車を除く」という文言は明文化されておらず、交通規制基準?のようなもので運用上の解釈と認識しています。実務上はどのようになっているのでしょうか。18条では違反として適用できない?ので、速度が速かったら安全運転義務とか、前に出たら追越し違反や割り込みで検挙するという感じでしょうか。
違反か、違反ではないか?と聞かれた場合、はっきりと18条1項の違反である!と答えて良いのでしょうか。それとも他の理由で、違反とは言えないのでしょうか。
確かに18条1項の解釈はこうなる。

問題なのは、「左側寄り通行」としているクルマやオートバイが、「左側端寄り」を通行すると違反なのか?
これ、執務資料以外は「左側には左側端を含む」としているのよね。
宮崎注解、逐条道路交通法、詳解道路交通法、判例タイムズ284号、最新道路交通法事典(東京地検交通部)などには「左側には左側端を含む」と書いてある。
もっとも、厳密に述べるならば、「道路の左側」は「道路の左側端」を含むので、「道路の左側端に寄って通行する」ことは、「道路の左側に寄って通行する」こととなる。したがって、当該道路を軽車両が通行していない場合、自動車及び原動機付自転車は、道路の左側端に寄って通行することも差し支えない(もっとも、自動車や原動機付自転車は、軽車両に比べて走行速度も速いので、あまり左側端に寄り過ぎると交通安全上適切とはいえない)。
そもそも「キープレフト」の原則は、道路の中央部分を追越しのために空けておくという考え方によるものであり、道路の幅員が不十分な場合には、自動車等は相対的に左側端に寄ることになるであろうし、幅員が十分であれば、左側端側にそれなりの余裕を持って通行することとなろう。また、現実に軽車両が通行しているときは、自動車等は左側端に寄り難く、相対的に道路の中央寄りの部分を通行することになろう。このように「道路の左側に寄って」とは、あくまでも相対的な概念であり、具体的な場所が道路のどの部分を指すかは、道路の幅員及び交通状況によりある程度幅があるのである。
宮崎清文、注解道路交通法、立花書房
同条1項の「道路の左側に寄って」とは、軽車両の通行分を考慮し、軽車両が道路の左側端に寄って通行するために必要とされる部分を除いた部分の左側に寄ってという意味であり、「道路の左側端に寄って」とは、道路の路肩部分を除いた部分の左端に寄ってという意味である(宮崎注解)。このように自動車及び原動機付自転車と軽車両とで若干異なる通行区分をしたのは、速度その他通行の態様が著しく異なる両者がまったく同じ部分を通行すると、交通の安全と円滑が害われるおそれがあるためである。もっとも軽車両がまったく通行していない場合に自動車または原動機付自転車が道路の左側端まで寄って通行することまで禁止したものではないだろう(同旨、法総研・道交法87頁)。
ところで、キープレフトの原則の本来の趣旨は、通常走行の場合はできるだけ道路の左側端を通行させ、追い越しの場合は道路の中央寄りを通行させることにより種々の速度で通行する車両のうち、低速のものを道路の左側端寄りに、高速のものを道路の中央寄りに分ち、もって交通の安全と円滑を図ることにあるとされている(なお、法27条2項参照)。右のような趣旨ならひに我が国の道路および交通の現状にかんがみると、18条1項の規定をあまり厳格に解釈することは妥当ではなかろう。
判例タイムズ284号(昭和48年1月25日) 大阪高裁判事 青木暢茂
このように解さないと不都合が生じるのは40条2項(緊急車両の優先)。
第四十条
2 前項以外の場所において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄つて、これに進路を譲らなければならない。
追いつかれた車両の義務は「できる限り道路の左側端に寄って」なのに、緊急車両の優先は「道路の左側に寄って」。
もし「左側」に「左側端」を含まないとしたら、緊急車両を優先するために左側端に寄ったら違反なのか?という話になり不都合。
ところで、18条1項の前身にあたる旧19条(昭和35~39年)は、クルマは「キープセンター」でした。
第十九条 当該道路の左側部分の幅員が三メートルをこえる道路においては、自動車(自動二輪車及び軽自動車を除く。)及びトロリーバスは当該道路の中央寄り又は左側部分の中央を、自動二輪車、転自動車及び原動機付自転車は当該道路の左側部分の中央を、軽車両は当該道路の左側端寄りを、それぞれ通行しなければならない。ただし、追越しをするとき、第二十七条若しくは第四十条第二項の規定により一時進路を譲るとき、第三十四条第一項、第二項若しくは第三項の規定により道路の左側若しくは中央に寄るとき、又は第四十条第一項の規定により道路の左側に寄るときは、この限りでない。
これを昭和39年改正で「左側寄り」に改正している。
これの理由は「ジュネーブ条約の加入」。
ジュネーブ条約上はキープレフトなのでそれに合わせる必要がある。
当時の国会議事録をみると、わりとこれの改正で揉めてまして。
クルマの通行位置をまとめてみました。
| 通行区分(旧19、現18①) | 追いつかれた車両の義務(27) | 緊急車両の優先(40②) | |
| 昭和35~39 | 道路の中央寄り又は左側部分の中央 | 道路の左側に寄って | 道路の左側に寄って |
| 昭和39~ | 道路の左側寄り | できる限り道路の左側端に寄って | – |
実は追いつかれた車両の義務は、昭和39年以前は「道路の左側に寄って」。
通行区分がキープセンターから「左側寄り」になり、「できる限り左側端に寄って」に改正されましたが、なぜか緊急車両の優先は改正されなかった。
個人的にはここが間違いなんじゃないかと思うのですが、どちらにせよ「左側寄りには左側端寄りを含む」という解釈じゃないと整合性が取れないのよね。
ちなみに左折前については、昭和46年以前は「できる限り左側に寄って」であり「できる限り左側端に寄って」になったのは昭和46年。
これの理由は、歩道がないなどの理由から左側端に寄りすぎると歩行者の妨害になることも理由だったらしい。
さて。
どちらにせよ18条1項には罰則がない。
罰則がない理由はこちら。
第1項の規定の違反行為については、罰則が設けられていない。これは、この規定による通行区分は、道路一般についての車両の通行区分の基本的な原則を定めたものであり、また、道路の状況によっては、道路の左側端又は左側といってもそれらの部分がはっきりしない場合もあるので、罰則をもって強制することは必ずしも適当ではないと考えられるからである。(従前の通行区分の基本的原則を定めた旧第19条の規定についても、ほぼ同様の理由により、同じく罰則が設けられていなかった。)。
宮崎清文、注解道路交通法、立花書房、1966
大阪高裁判事の青木氏も「右のような趣旨ならひに我が国の道路および交通の現状にかんがみると、18条1項の規定をあまり厳格に解釈することは妥当ではなかろう」としてますが、国会答弁もそうなっている。
○川村委員 わかりました。
それから次に、この前委員から質疑があっておりましたが、十八条の規定であります。このキープレフトの問題はこれは原則でありまして、日本の道路の中にはこれを実施する道路はそうたくさんはない、こういうように裏から解釈しておいてよろしゅうございますか。
国会会議録検索システム
○高橋(幹)政府委員 いわゆる交通混雑しております市街地の部面と、それから交通混雑していなくてもいわゆる道路の幅員等の状況で必ずしもこの原則が守られないといいますか、この原則どおりできないところの道路がわりあいに多いのではなかろうか、こういうふうに解釈していただいてけっこうです。
国会会議録検索システム
18条1項が条文通りに機能するには、おそらく道路片側の幅員が5mはないとムリなのよ。
現実的には左側端寄りと左側寄りは重なる。

つまり机上の空論みたいな規定であり、厳密に両者を分けたいなら通行帯を設置すればよい。
先ほど御説明いたしましたキープ・レフトの原則は、これを徹底いたしますと、自動車であろうが、いま御指摘の原動機付自転車であろうが、すべて道路の左側を走るということに相なりますが、ただいま御指摘ありましたように、わが国におきましては、非常なたくさんの種類の車が走る混合交通といったような実態がございますので、キープ・レフトの原則をとるといたしましても、一応軽車両とそれ以外の車両、つまり自動車と分けて、軽車両は道路の一番左端を通る、それ以外の車両は、左端に寄ったところを通るという区分を考えております。御承知のように、通行帯と申しまして筋を引きました場合には、そういう軽車両用の通行帯を引く場合もございます。その場合には、軽車両は定められた通行帯を通る、それ以外の自動車はほかの通行帯を通る、かように相なっております。
国会会議録検索システム
なので「左側寄り」には「左側端寄り」を含むと解するしかないかと。
けど本当に謎なのは、なぜ昭和39年に緊急車両の優先を「道路の左側端に寄って」に改正しなかったのかという点。
これの理由に何らかのヒントがありそうですが、普通に考えて「追いついた一般車両」より「緊急車両」が優先するのは言うまでもない。
追いつかれた車両の義務は「できる限り」としているので、できない事情があれば除外されるのだと理解できますが、
緊急車両の優先には「できる限り」がついてないため、問答無用に左側寄りにならないと違反になる。
ここで両者を区別すれば足りると考えたのだろうか?
けど「できる限り」の解釈を間違えると、これらを全く理解できないのよね。
それこそ改正18条4項も。


ちなみにこれらを整理して理解するのに、かなりの資料を要した。
できる限りとは「できない場合を除外する意味」なんだと気づかないと、緊急車両より追いついた一般車両のほうが強い優先規定であるかのような勘違いに陥る。
そしてそれが社会通念からみてあり得ないことに疑問を持たなくなるのがオチ。
古い解説書のメリットは、立法当時の考え方を反映していて、改正理由も網羅しているところなのよね。
18条の立法趣旨は宮崎注解が最も詳しい。
横井註釈もわりと詳しく書いてありますが、横井氏は18条を左側寄りとしたことに反対していたらしい。
なので冒頭の件については、18条以外の問題で白バイが追跡したのでしょう。
罰則がありませんし。
他条の解釈と改正史も含めて検討していくとこれの解釈も見えてきますが、なぜ自転車が昭和39年改正で追いつかれた車両の義務から除外されたかについても、昭和39年改正を全部見ないとわからないのよね。
左側端寄り通行義務(18条1項)と並進禁止(昭和39年新設)があれば、追いつかれた車両の義務を課す理由がない。
そして令和になり追い抜き車両に義務を課した以上、左側端寄り通行せず追い抜き妨害する自転車に罰則がないのは不均衡だから4項も新設した。
歴史をみて整理するのは条文解釈に役立つ。
むしろ改正史と他条の関係から誰か解説書を書いて欲しい。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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